第3話 あやしい反省会
前回までのあらすじ。
魔影の巣でスライムさんや同族相手に無双して、調子に乗ってダンジョン探索、ゴブリン一匹ボコったら、百倍にやり返されて大ピンチ。
――なんて、余裕かまして振り返っていられるのは全てスライムさんのおかげです。
ま、じ、で! 危なかったー!
影伸縮も魔素吸収も対策されて、核でゴブリン達の隙間を狙って特攻しようかってぐらいに追いつめられたけど、スライムさんに助けられたわ。
まあ、どんな状況だったかというと――
『げぎゃ?』
『ぎゃはっ』
『ぎゃぎゃっ』
ヤバいよ、ヤバいよ!
もう何か手持ちでないの? 【影分裂】、【魔素感知】――
『ぎゃっぎゃっ』
『ぎゃ』
『ぎぎぃ!!』
くそ、笑いたければ笑え! 一か八か、【影分裂】【影分裂】【影分裂】【影分裂】――
細分化される影を四方八方に影伸縮で手当たり次第に広げる!
が、憎きゴブリン達は慌てず松明で調整しながら包囲の輪を縮める。
……あと少し――
――っ! 届いた!! 【影宿り】――
『げぎゃ?』
『ぎゃ?』
『ぎ?』
『ぎー!!』
はああぁぁ、なんとかなった!
アイツらが松明をかざして必死で俺を探してる。
へへん、バーカ、バーカ! 俺はもうそこにはいないよーだ!!
『ぎ?』
うおぅ、奥の方にいたゴブリンがこっちの方に顔を向けてきた。
けど、そこにはスライムさんしかいないのだよ。
暗がりで半透明のスライムさんを気にするゴブリンはそんなにいないだろう。
『ぎぎっ』
よしよし、気のせいかと思ったのか、また足元に注意を戻したな。
いやー、ゴブリンが群れるとこんなに強いとは思わなかった。
自分の力を過信しすぎたな。
どこか……、ゲーム感覚で適当にやってた――しっかり反省せねば。
俺がやったこと――魔素感知でスライムさんを感知、影分裂で増やした影糸を、ゴブリン達に一気に伸ばして、俺が悪あがきをしているように見せかけつつ、本命のスライムさんの影に極細の影糸でなんとかタッチ、すかさず影宿りでスライムさんの影下にインして緊急離脱に成功した。
ゴブリン達が俺の狙いに気づいていたら……影生が終わってたよ!
ぎーぎー、ぎゃーぎゃーと俺を探しているゴブリン達をスライムさんの影から眺めながら修羅場を後にした――スライムさんが通路に出るまでにほとんどのゴブリンが部屋から先に出ていったのはご愛敬。
いやー、いつバレるのか? とか、スライムさんがやられないよね? ゴブリン達が近くを通るたびにドキドキしててすげぇ疲れた。
今は扉付きの部屋――自宅に戻れて一息ついている。
スライムさん? 感謝の気持ちを込めてじゅるじゅるさせてもらいました。
だってお腹空いたから。
ゴブリンの口直し的な。
――さて、あらためて反省しよう。
まず、いつから魔影が強いと錯覚していた? なんつて。
そう、魔影はその辺で魔素を集めるだけの魔物。
攻撃手段は魔素吸収だけの存在。
なのに、俺は自宅の中で家族に無双してたせいで勘違いしてしまった。
それから影宿りのスキルを理解していなかった――プロになれば縛りがなくなるらしい。
そして魔影の弱点は、陽の光だけじゃなかった。
松明の灯りに照らされると俺の影は消えていた。
俺の知ってる影は、光が実体に当たった反対側に生み出される暗い部分のことだ。
もし、松明の灯りで暗い部分を全て無くすことが出来たとしたら? 魔影には実体がない。
もしかしたら影収納が出来なくなって核が飛び出て今日はしていたかもしれない。
だいたい核を破壊されると死んじゃうのに移動手段が核で転がるって……何をやってるんだ俺っ!!
もう一つの移動手段である影宿りは、今のところ行先が宿主依存。
好きなところに行けないどころか、気がついたらここは外? とか間抜けすぎることもあり得るな。
今回の反省点
・影だから真っ向勝負はしない
・モブなんだから調子に乗らない
・ゴブリンにはしばらく近づかない
・スライムさんと呼ぶ(実行済み)
◇◇◇
『ももたろーさん、おだんごください。わんわん』
『今から鬼ヶ島に命懸けの鬼退治に行く。だんごをやるから供をしろ』
『おだんご一つで命をかけさせるなんて、なかなかブラックですね。わんわん』
『何を言っている。ポチなら出来るって私は信じている。私と一緒にコミットしよう! ほーら、だんごをお食べ』
『はぐはぐ、んまーい! ぼく一生フルコミットします! ももたろーさん! わんわん』
あれからずっと自宅警備員だ。
ゴブリン退治? 嫌だよ、怖い、臭い、不味いから三拍子揃った魔物だぞ。
リベンジ? まあ、そのうちやる。
魔素を吸う、以外の攻撃方法が見つかったら……ね。
今は魔素感知で扉の向こうにスライムさんが通りがかったら、じゅるじゅるさせてもらっている。
スライムさん待ちの間、あまりに暇なもんで分裂させた影を壁に投影して影絵やってる。操作:俺、アテレコ:俺。
ちなみに、桃太郎はもやっとした人の形、犬は四つ足の何かの形にしか出来なかった。
まだまだこれからよ。
種 :【魔影】王体
職 能:【スライムシャドウ】――【影分裂】
▽
スキル:【魔素吸収・プロ】
【魔素感知・プロ】
【影宿り】
【影収納】
【影伸縮・プロ】
【魔素回復】
称 号:【理性ある狂気】
【同族喰らい】
【イレギュラー】
【エロ妄想くそ野郎】
【一人遊び上手】
【恩知らず】
【イキったモブ】
【ゴブリンの敵】
影伸縮が【影伸縮・プロ】になった。
複雑な動きや影絵ができること、伸縮のスピードがかなり速くなった。
影宿りはまだまだ先? 職能のスキルはカンスト扱いか?
――称号欄が荒れている。称号って誰がつけてんの?
もしかして本当の俺はまだ死んでなくて、植物状態で入院中、脳の思考部分を最新技術で読み取り映像化、そしてネットに垂れ流されているとか? という視聴者が付けている説――俺の人権なし状態。
いやいや……前の世界の技術はそこまで進んでなかった、ラノベの読みすぎだ。
それにしても、新称号――とっても心当たる……、当たりすぎて辛い……、うん、これからは自分の行動と発言には責任を持つように前向きに検討できたらいいな、でっきるかなぁ。
◇◇◇
さて、新称号のことも含めて心の傷も癒えたし、ダンジョン探索を再開しよう。
坂を上ると出口のある広い部屋、そこからここまで扉はなかった。
よし、坂を下ることにしよう。
お近くにスライムさんはいませんか? 【魔素感知】――
お、ちょうど下り方面に移動しているスライムさんを発見。
失礼します【影宿り】―― ナメクジよりも遅い進み。
だけど、核で転がるリスクを考えるとスライムさんはありだ。
ここ、ダンジョン一階層にいる魔物は、魔影、スライムさん、ゴブリンだけのようだ。
おそらく奥の部屋にゴブリンの巣があるはず。
松明を持ってるぐらいだから、武器や道具があるかもしれない。
ゴブリン達にリベンジするために、ゴブリン達のことをもっと調べるんだ。
先にこちらから手を出した? いや、本能君、これは戦争なんだよ。
移動方法を改善してみる影宿りからの魔素感知&影伸縮で、影宿り解除からの【影宿り】――
スライムさん遅すぎたので違う移動方法を試みた。
だって止まることもあるし、意味なく壁に登ろうとするし、全然先に進んでくれないから。
行きがけは、なるべくじゅるじゅるはしないで影宿り先として残しながら、奥のスライムさんを見つけては宿替えを繰り返す。
途中で、影宿りにスキルが生えた――応用スキル【影渡り】だ。
【影渡り】……【影宿り】したまま別の生物に宿を変更することができる
――地味に助かる、これで影宿りのオンオフをいちいちやらずに先に進める。
これって影宿り・プロとは違うのか――魔素感知と影伸縮の省略は? あ、はい、やります、やればいいんでしょ!
【魔素感知】――通路に点々とスライムさんと魔影達の反応あり。
ゴブリンは……いない。
まだ怖いな、早く何か攻撃方法を増やさねば。
突き当たり、右と左に伸びている。
右の方が下り坂、なんとなく嫌な感じがする。
左手のスライムさんに影渡り、さらに奥のスライムさんに失礼しますよっと。
お、扉なしの部屋がある。【魔素感知】――
……、ゴブリンはいないけど魔素の塊と小さい魔影達がいるな。
魔素溜まりか……、とりあえずすぐに吸うのはやめて、核で部屋の中を転がってみる。
――かちり、部屋に入ってすぐのくぼみに核が引っかかる。
えっ、今、変な音が……。
ふぉんっ! 矢が風を切って飛んできた。
俺の核よりだいぶ上の方に。
一階から罠のあるダンジョン……、それって難易度としてどうなん?
まじで迂闊に核を出せないな、罠にも気をつけないと。
――かちり ふぉんっ! かつん、ぽとっ
俺がくぼみを踏む、罠が作動して矢が飛んできて壁に当たって落ちる。
しばらく様子を見てみると、地面に落ちた矢がずぶずぶと沈んでいく。
俺はリサイクルの瞬間を見た!!
…………。
――かちり ふぉんっ! かつん、ぽとっ 【影収納】――
お、矢を回収できた。矢尻に毒? えげつな。
――かちり ふぉんっ! かつん、ぽとっ 【影収納】、矢って何本までストックしてんのかな?
ちょっと集めてみよう、俺は黙々と矢の回収をはじめた。