第38話 あやしい襲来
ハルピはおバカさんだった。
「カァ? つまり、どういうことっすか?」
『だから、だいぶ薄味だったと何回も言ってるだろ?』
何回目の説明になるのか、そろそろ殺しちゃうよ?
なるべくショックを与えず、俺が恨まれないようにボカしながら話してるのに全然理解してくれない。
頼みのウィキソニアは無言を貫いている――前に余計な事を言わないように釘を刺したからね。
「かかぁっ、シェイド様ったら姉ちゃんの味とかいやらしいっすね。それで姉ちゃんはどこっすか!?」
なんでボカして言ってるのに伝わらないんだよ。
それに、その味の意味じゃないしゲス顔やめろ。
「……魔王様より鬼畜なシェイドちゃん、ハーピー種は空を飛ぶために最低限の知能しかないの。だから、ハルピちゃんにはもっと分かりやすく説明してあげないと分からないのよ。」
誰が鬼畜だよ! なるほど鳥頭って奴か。
『ハルパの魔素は俺が喰った、お姉ちゃん死んでるからこの世にいない、オケ?』
「シェイドちゃん、言い方……」
いや、はっきり言わないと分からないんだろ?
「……かぁ。死んだっす? シェイド様に喰われて……っす?」
『おう! お姉ちゃんの核のおかげで人化できるようになったぞ、影人間だけど……。【人化】――』
影人間の口から声は出せるのか?
「……あっ!! あー、マイクテス、マイクテス! おっ! 話せるな」
大声スキルは声がうるさい、呼吸スキルで音声の調整して話せる影人間に進化できたぜ。
ハルピがゆっくりと俺の言葉を理解しだしたみたいだ、だんだん顔が険しくなってくな。
ちなみに影だから――
「クァーッ。じゃあ、姉ちゃんの敵っすね! 【フェザースラッシュ】――っす!!」
――トカカカッ!
俺の体を通り抜けて地面に羽が突き刺さる……、俺には効かないよ。
「まあ、待てって、お前の姉ちゃんは俺が殺したけど、その代わりラァブは助けただろ? 姉ちゃんはそういう運命なんだよ、逆恨みするなって!」
願いを叶えるために、命を差し出す的な? まあ、どうでもいいんだけど。
「くぁ? 運命っすか? ラァブ様を助けるために姉ちゃんが死んだのは運命なんすか!?」
「でも、殺ったのはシェイドちゃンヂイイイイイィィィィィ!! ……お口チャックするわねぇ」
だいたい、ラァブが俺との関係を間違えてハルパたちに伝えているところも悪いんだ。
「そうだ、運命ってのはそういうもんだろ? お前らが、弱ったラァブをどっかに置いて行けば良かった話だろ? 弱い奴が恩なんか返そうするから死んでしまうんだよ」
感謝の気持ちは言葉で十分、下手に態度や行動で表すと相手につけ入られて酷い目に遭うんだ。
「…………」
ちっ! 何見てんだよ! こういう時に俺を見るソニアの目がムカつくんだよな。
「かぁ、確かに弱い奴が悪いっす……。姉ちゃん……」
お、あと少しで言いくるめられそうだ。
「そうそう、お前らが魔物商に捕まり、ラァブに助けられ、俺を呼びに来た姉ちゃんが死んで、ラァブが生き延びる。全てこの世の決まり、運命なんだよ。恨むならお前や姉ちゃんをこんな目に遭わせたこの世界を恨むんだ」
例えば俺を生み出した世界を恨め、呪え。
「世界を……。クアッ! 世界許さんっす! ってどうしたら敵を討てるっすか!?」
「そうだな、お前は弱いんだから強い奴らを利用しろ。つまり、ラァブやソニアを利用するんだ」
まあ、おバカだから逆に利用されそうだけど、ラァブもソニアもそういう事はしないだろ。
面倒事はラァブたちに任せて、俺はハルピの羽毛ブラの向こう側を確認したい。
「――ねぇ、ソニアちゃん、シェイドちゃんってとりあえず運命のせいにしておけば自分は悪くないって言いたいのかしらぁ?」
「――基本的にマスターの考え方はそうです」
「お前ら、なんか文句あるの?」
「「ないです(わぁ)」」
ソニアもないのか、意外だな。
「私も魔物ですし、マスターの言ってることも一理ありますので……」
そのわりには、顔は納得してない気がするけど嘘じゃないんだろう――複雑な子だね。
「まとめるぞ! ハルピは世界に復讐したい、それをラァブとソニアが手伝う。その代わり、ハルピは俺におっぱいを全部見せる。オケ?」
「すごいわぁ、魔王様より理不尽だわぁ。でも、ハルピちゃんの事はラァブが守るから任せてね?」
さすが姉御肌? のラァブ、後は頼んだぞ。
「私もマスターにハルピさんを手伝うように言われましたので、お世話いたします」
ソニア、わりと冷たい反応だな――まあ、初対面だしこんなもんだよな。
「わ、わかったっす! ラァブ様、ソニア様、よろしくお願いするっす。……お、おっぱいはその……」
何をもぞもぞとしている? 色黒なのに顔を赤らめるのは分かるんだな。
ほう、翼の先端が指っぽく変化して両手でブラを――
「ノンっ! ハルピちゃん、乙女の秘密はなるべく教えないのよ。シェイドちゃんは興味がなくなればきっとハルピちゃんを捨てるわよ!」
「クァっ!? そうなんすか!? 今、置いて行かれるのは困るっす!」
あっ! 翼に戻ってしまった! あと少しだったのに!! くそ、図星つかれた。
「ラァブの言うとおりだけど人聞きが悪い!!」
俺がハルピをぺろんってひん剥くには実体化するしかないが、今は無理だ。
だから、ハルピが恥ずかしがりながらオープン・ザ・おっぱいしてくれるの現状のベストだったのに!!
んー、ハルピを連れて行くのも運命ってか。
「はぁ、これもヨウスフィア様の導きなのかね? それじゃあ、皆で王都に行くかぁ。 むっ!? やばっ! 【影収納・入れ替え】【魔素操作】【影移動】――」
――ピシャッ!! ズゴン! ズゴン! ズゴーン!!
――ポーン 条件が揃いましたので、新たに上位職が解放されました。
『くあっ!? なんすか? なんすか!?』
『ぁん、いきなり中に入れるなんて強引ねぇ』
『聖雷ですね、マスターを狙って落としてきました』
『シャドスペ内で話すと魔素が動く、お前ら静かにしてろ!! ヤバい気配が来てるぞっ!』
なーんか嫌な予感がしたんだよな。
危険察知が仕事してくれたのか、今までとは違うヤバい攻撃だった。
「ひゃ~、穴だらけだ~」
「このバカアンゼリカ! やりすぎだろ!」
「え~、だって我が主に対して~、なれなれしい念波は殺処分?」
空から天使が舞い降りた! バカアンゼリカ……アンゼリカかな? まじ天使!
金髪ロングヘアー、少したれ目のおっとり系、肩出し真っ白ワンピース、背中にはハルピの烏とは違うふかふかの純白な翼、羽ばたいてもないのに宙に浮いてるのは魔法かスキルか。
俺のアンゼリカちゃんに、厳しく注意してる野郎は金髪、イケメン、目つきが鋭くて怖い、服装は白いスーツ? そんな感じ。
――どちらからもヤバい気配、本能も逃げろと言っている。
「ちっ! お前がいきなり聖雷を連発するから跡形も残ってないじゃないか!」
「えへへ、ゼロットごめ~ん。でも、ピュアスライムがいるよ~。【聖雷】――」
――ピシャッ! ズガッ!
ピュアスライムさんたちいいぃぃ!! さらっと蒸発してしまった。
怖い、あの聖雷が落ちる前になんとか近くの木まで移動しておいて良かった。
魔素も最小限にしてるし、天使たちには気づかれていないみたいだ。
「やめろ! なんかヒントがあったかもしれないだろ! ああっ! なんで俺はこんな奴とコンビ組まされてんだよ……」
「ゼロットにはお世話かけます~」
頭を抱える天使野郎と反省する気なしの天使ちゃんの謎コンビか、やっぱり俺を殺りに来たのか!?
ヨウスフィアは俺に干渉しないものだと思っていたけど、そうじゃないのか!?
「ん~? 不快な念を感じる~【聖雷】【聖雷】【聖雷】――」
――ピシャッ! ピシャッ! ピシャッ!
ひい、名前を思うだけでもダメなのかよ!?
「バカっ! アンゼリカ、やめろ! 地形変える気かよ!」
もうぼっこぼこの地面になってるけど……。
「ん~、おかしいなぁ。何かいるんだよ~?」
「いいから行くぞ! だいたい、俺たちの今回の任務は魔王の封印が解かれたかどうかの調査に来ただけだろうが! ほら! 人間たちが近づいて来てるからさっさとゴンドールの墓所を見に行くぞ!!」
「は~い、これだけやれば天に召されてるよね~。それじゃあ、お墓参りだね~」
……はあ、やっと天使野郎と天使ちゃんが南西の方に飛びたっていった。
『天使とかいるんだな……。ソニアなら勝てたかな?』
『天使特効武器でもあれば戦えるとは思いますが、今の私の実力では勝てそうにないです』
俺も天使ちゃんの影に、影糸を付けようとしたけど弾かれたんだよな。
『ラァブを影吹きで射出して触手と粘液まみれにして、ラァブごと呪うか影糸で斬るとかでいけるか?』
『ノンっ! いけないわよぉ! シェイドちゃん、ラァブの犠牲を前提にするの良くないわよぉ』
よく考えたら俺の直接的な攻撃方法って影収納と魔素吸収だけじゃないか?
人間や魔物は魔素吸収で吸えるからいいけど、聖気ってどうなんだ?
聖気は反射してたけど、吸えないのかね? 今度、教会で確かめてみるか。
――ピカピカっ! ピカピカっ!
あ、光った! 一、二、三、四、五、六、七……。
結構、数えたけど音が聞こえない。
――ゴゴォン! ゴロゴロ……。
…………ブレッシェルゾンビーズの魔素が――
――消えた……?




