第32話 あやしいアクアス村
トンネルを抜けると竜宮城であった。
いやいや、色々とおかしい。
もうトンネルに入ってから十時間以上が経過してて、夕暮れどきに映える張りぼてのお城の手前には立看板で“アクアス村へようこそ”、場末のスナックばりの明滅するホタルイカが安っぽさを演出している……よし、帰ろう。
「んねぇ、シェイドちゃん。 ほらぁ、ルークちゃんを歩かせてぇ、すごい綺麗よね。あぁん、ラァブもこんなお城に住みたいわぁ」
んん? ラァブの目、腐ってんのかな? いや、白濁ブツの視界だし立体的に見えてないのかもしれない。
入場門みたいなところに、頭だけサメと頭だけシャチの男たちが銛を持って立ってるな、この世界、九割魚人とかもいるのね。
「とまれシャ! ややっ、ラァブ殿でしたシャ。失礼しましシャ、どうぞお通りくださいシャ」
サメ魚人の語尾が気をなりながらも、ルークを操作してラァブに続けて歩かせる――おっとルークがそろそろ起きそうだな。
門をくぐって裏側をチェック、ベニヤ板で加工なし……。
『ソニア、雲行きが怪しくないか?』
『板にお城の絵が描かれていたり、ピカピカの立看板はすごい発想だと思いました』
あ、ダメだ。
シャドスペから出たくてそわそわしてる。
珍しい光景はソニアの大好物だった……。
◇◇◇
「きゃー! ラァブ様の触手……、えっ! そんなぁ!! ぐんって伸びちゃうぅ!!」
「ねね、ラァブ様、コレを私たちのアソコに……はあぁ、すごい」
「ラァブ様の触手の吸盤が……、あん! 違う、うん、そこよ! いいわねぇ」
「もう少し……奥に……ぐんって! んはぁ、すごっ!」
「ええ! 触手ってそんなことまで!? んんん、粘液でどろっどろ……」
「ラァブ様? 次は私とこちらへ」
「ラァブ様の粘液べとべとでくっついちゃう」
「ちょっと! ラァブ様はワタシとするの! ねっ、ラァブ様ぁ」
――ラァブのモテ期が到来している。
わけではなく、セイレーンたちの指示に従って、くねくねと触手を操り、重そうな岩を持ち上げたり、木材に粘液をつけて接着したりと、砦のような物を造っている――トンネル工事といい、ラァブは建設業に向いてんなぁ。
って歓迎会どこよ!?
ちなみに、ルークはぼーっと突っ立って放置されている。
『なあ、ソニア、この世界の歓迎会って客に砦を建設させるのが当たり前なのか? ラァブも頼られて楽しそうにしてるから、分からないんだけど』
『ラァブさんは今まで一人でしたから、頼られるのが嬉しいのでしょう。歓迎会はマスターの世界と変わりませんよ』
『だよな、それにラァブから聞いたセイレーンのイメージとあまりにかけ離れすぎてて引いてるんだが。俺から見ると――』
恋する白濁ブツの主観
・誰もが聞き惚れる美声
・海色のショートカットやショートボブと短めの髪型
・揃いも揃って絶世の美少女たち
・スタイルは、ボン、キュッ、ボン!
・小さな貝殻で作られた際どいビキニ
俺の主観
・高くて不快なダミ声
・薄汚れた海藻色の純日本風おかっぱ、おでこの有無ぐらいしか違いのない髪型
・おたふく顔に、腫れぼったい一重、膨らんだほっぺには、シミとそばかす、ニキビでざらざらな皮膚感、上を向きすぎてアピールしてくる鼻の穴、明太子を二つ並べた唇、揃いも揃って絶許の美無女たち
・ずん胴で、ボン! ボーン!! ビチチチィ!!
・小さな貝殻で作られた際どいビキニが不快な部分を隠してくれているグッジョブ!
……百人中一億人が血涙を流して吐き顔になる生物なんだけど。
ラァブの美的センスは二度と信じないと心に決めた。
「あらん、もう、順番、順番よぉ。本当にみんな可愛すぎぃ! もう食べちゃいたい!!」
コイツら食うと寄生虫とかで腹下しそうだし、やめたほうがいい。
あ、奥からなんか凄いの出てきた……。
「あんっ! セレンちゃん、紹介するわねぇ。こちら、ラァブのマスターのルークちゃん。ちょっと照れ屋で人見知りなのよ」
「ラァブ様とルーク様、アクアス村にようこそですの。私はアクアス村の村長の娘セレンですの。本日は海底トンネルの完成、アクアス砦の建設までご協力いただいて感謝してるんですの」
ちょっとラァブに聞いてみよう。
『おい、歓迎会ってどうなってんだ?』
「そんなこと聞くのぉ? ンヂィ! ……何でもないわぁ、セレンちゃん、ところで歓迎会の準備って出来たのかしらぁ?」
「ああ、それはラァブ様を魅了したので無し……ごほっ、ラァブ様の魅力的なお力をもっと確かめてから行いたいですの」
『魅了って言った! このトップクラスに気持ち悪いナマ魚類が今、魅了って言ったぁ!!』
『……ラァブさんは状態異常耐性がないので、魅了されているかもしれません』
『うげ、魅了で見てくれ変えてるだけで実際はコレかよ! ラァブを正常に戻せないか?』
『マスターの精神干渉を使えば戻せるはずです』
『ソニアも持ってたろ?』
『マスターとは注ぎ込む魔素量が違いますので、完全に魅了されているラァブさんを私の力で戻すのは難しいです』
面倒くさ……、じゃあ、このままにしておこう。
「そうなの? じゃ、ラァブ頑張っちゃう」
「はい、お願いするですの。ところで、先ほどからルーク様はずいぶん緊張してますの。ラァブ様はまだまだ砦建設がございますの、可愛らしいルーク様はこちらでゆっくりと私がおもてなししますの」
『まさか! チョメチョメか?』
『チョメチョメが何かわかりませんが、恐らくマスターの想像通りかと』
まじか! じゃあルークが卒業するまでは様子を見ようかな。
『ラァブ、ルークの脱チェリーチャンスがやってきたみたいだから、この場は任せるぞ』
「ぁん、ルークちゃんも隅に置けないわね! セレンちゃん、ルークちゃんをよろしくね」
「任せてですの、では、ルーク様……こちらですの」
セレンの背中は鱗が斑に散らばっていて、俺が見てきた異性の背中としてはトップクラスに汚かった。
◇◇◇
俺が影読みしてるんですの! あ、また話し方うつっちゃったよ。
――最近ずっとご無沙汰ですの。
今まではスー大陸とラスト大陸を通る船や漁船の人間たちをアクアス村まで歌で誘いこんで、みんなでおもてなししてたんですの。
だけど、海が荒れ始め、あの大渦が現れるようになってからは、船が通らなくなったんですの。
私たちセイレーンは、人間の精に混ざる魔素を吸って生きてますの、人間たちが獲れなくなって困ってたんですの。
ある日のことですの。
村に突然クラーケンがやってきて、「魔王のためにこの身を捧げよ」って言うんですの――とても怖かったですの。
私は必死の覚悟でクラーケンに【歌】【美声】【魅了】のコンボスキルをぶつけたんですの。
もし失敗したら、村はなくなっていたかもしれないんですの。
――良かったですの、無事に効いたみたいですの。
「わかったわぁ、魔王様にはトンネル開通の歓迎会の準備があるからセレンちゃんたちが戦闘に参加出来ないって魔王様に伝えておくわねぇ」
「よろしくですの。それから男たちを連れて来るんですの」
「あん、わかったわぁ、待っててねぇ」
クラーケンはシータウンからここまでトンネルを掘りながら来たんですの、これからは船を襲わなくてもトンネルを使って町まで人間たちを獲りに行けるんですの。
クラーケンが戻ってきたら、ここに砦にするんですの。
「セレン様、先ほどクラーケンが戻って参りました」
いつの間にか眠っていたんですの。
あのクラーケンと会話してきっと疲れが出たんですの。
「私が準備するまで砦を建設させるんですの」
私はメイクし直して、いつもの貝殻ブラを着け、クラーケンの様子を見に行ったらとても可愛い男の子がいたんですの。
照れ屋らしく目を伏せて、下を見ながらじっとしてて可愛いんですの。
――この子が魔王ですの?
従いたい……、じゃなくて魅了で従えるんですの。
「あんっ! セレンちゃん、紹介するわねぇ。こちら、ラァブのマスターのルークちゃん。ちょっと照れ屋で人見知りなのよ」
ルークというんですの、美味しそうですの。
「ラァブ様とルーク様、アクアス村にようこそですの。私はアクアス村の村長の娘セレンですの。本日は海底トンネルの完成、アクアス砦の建設までご協力いただいて感謝してるんですの」
「そんなこと聞くのぉ? ンヂィ! ……何でもないわぁ、セレンちゃん、ところで歓迎会の準備って出来たのかしらぁ?」
一瞬だけ苦しそうにしたんですの、もしかしたら魅了の効果が切れてるかもしれないですの。
「ああ、それはラァブ様を魅了したので無し……ごほっ、ラァブ様の魅力的なお力をもっと確かめてから行いたいですの。【魅了】――おかわりですの……」
「そうなの? じゃ、ラァブ頑張っちゃう」
よし、目がハートになったんですの。
「はい、お願いするですの。ところで、先ほどからルーク様はずいぶん緊張してますの。ラァブ様はまだまだ砦建設がございますの、可愛らしいルーク様はこちらでゆっくりと私がおもてなししますの」
「ぁん、ルークちゃんも隅に置けないわね! セレンちゃん、ルークちゃんをよろしくね」
「任せてですの、では、ルーク様……こちらですの」
久しぶりに大当たりですの、ゆっくり楽しみたいですの。
「ルーク様、少し散らかってますけど私の部屋ですの。……ちゅぶっ!」
――積極的なナマ魚類!!
いきなり汚部屋に連れ込まれたと思ったら、ルークのファーストキスが売り切れちゃった。
このままナマ魚類と異種族間性交か。
俺の時もこんな感じだったのかな、眠ってる間に終わってて、気がついたらセレンが可愛く見えるレベルのクリーチャーが隣に寝てたんだっけ。
ん? 魔素が流れた?
「……う、ここは? え? ベルトンさんは? みんな……? え? え? 君は……?」
あれ? ルークが起こされた? 寝てるうちに終わると思ってたんだけど?
『……ソニアはどうしてルークを起こしたんだ?』
『…………――本人が眠っているうちに好き勝手するなんて最低です――』
黙ってたって影読みでわかるんだけどね。
寝てるうちに終わるほうが幸せなんだけど、ソニアにはちょっと早かったかな。
『ソニアは結構エグいな?』
「っ!? あれ、体が動かない、ちょっと待ってくむぅちゅ」
そりゃ影傀儡してるんだから動けないよ。
『っ! マスター、ルークさんは助けないんですか?』
『なんで? ルークにとっては脱チェリーのチャンスだぞ。邪魔しちゃダメだろ』
『そんな! 私を出してくださ――』
『邪魔しちゃダメだろ?』
ルークは今日でチェリー卒業でいいじゃないか。
チェリーなんて早ければ早いほど、まだの奴らにマウント取れるんだって。
『ぐうっ! これはあんまりでは……』
「――ちゅっふう、セレンと呼んでほしいですの。ルーク様は天井の染みを数えておけばすぐに終わりますの――』
「いやっ! どうして……、こんな目に! いつも……いつもっ! むむうゆ」
うーん、完全に男女の攻守が逆転してるな、というかキモおっさんがショタっ子を無理やり押さえつけてる構図は見るに堪えないな。
ソニアは絵面を気にしているのかな?
「今さら言葉は無粋ですの――」
『マスター! ルークさん、嫌がってます!!』
『あれ? ソニアはルークの事が好きになっちゃった?』
まじかー、年も近いし淡い恋心的な?
『それはないですが、無理やりなのはおかしいと思います』
どうしてルークが嫌がってるって決めつけるのかな、もしかしたら新しい扉が開いてるかもしれないのに。
――さて、どうしたものか。




