第30話 あやしいトンネル 中編
七階層のラァブ部屋、休憩中の冒険者たちの空気は悪い。
「くそ! ベイス……」
「なんで、なんでだよ!」
「バカヤロー、これじゃ薬代をお前から取れねぇじゃねぇかよ」
以上、ゼニス率いる“コーラス”の一言――なお、ゼニスの言葉は本心ではない。
「そんな、あの解毒薬が効かないなんて……、いや、一度は効いたはずなんだ」
そう、ルークの呟きのとおり、あの解毒薬はシーサーペントの猛毒を確実に解毒できていた。
『では、なぜベイスは死んだのか――』
ミステリーである。
これは殺人事件だ、犯人がこの中に……いるっ!
『犯人は貴方です、マスター』
『なっ! 何を言うんだ、俺には動機がないぞ』
『貴方はあのとき私に対してお礼を言わなかったベイスに憤りを感じた、そして、頭に来た貴方は……、シャドスペから毒矢を持ち出して――』
『そうだ! せっかくソニアが魔物たちから守ってやったのに! 俺、許せなくてっ!! かっとなってしまって!! 俺がやりました……』
『…………』
『あれ? ソニア、次はお前が俺に「私のために貴方は罪を犯してしまった。だけど、私は貴方を逮捕――」的なセリフ言う番だろ?』
『……なんでマスターはこの空気の中で茶番ができるんですか? それに、私のために罪を犯したんじゃなくて、単に毒矢の威力を確かめたかっただけじゃないですか』
あっさりソニアに看破されてしまった。
えー、だって毒矢対策されたら困るやん?
あの解毒薬――二本目使用――でダメな毒が使われている“ゴンドールの墓所”の難易度、高くね?
あのダンジョン、三階以降はざくっと割愛したけど、他にも凶悪な罠があったよな。
『で、証拠の毒矢の行方なんですが……』
毒矢? 刺したあと、その辺に転がしたような?
『え、えーと……わかんない』
こいつ、まじか! って目を見開くのやめて。
「あのっ! ソニアさん!!」
お、ルークじゃないか、うちのソニアに何か用かね?
気安く声をかけてきたのはムカつくけど、タイミング的にナイスだよ。
「はい、何かご用ですか?」
「あっ、あの! 先ほどはありがとうございました!! 本当は――」
んん? よく見ると、こいつ顔が可愛いぞ。
実は女の子だったとか? 詳しくは【影読み】――男……。
はあ? これで十五才? どう見ても十才ぐらいのショタっ子なんだけど!?
あと数年もしたら、合法ショタっ子として、世の中のお姉さんを呼び込むマシーンとして活用できないだろうか?
「僕、どうしたの? お姉さんと少しお話しよ?」
背の低いルークを覗き込むOL風の綺麗なお姉さんは、ブラウスの隙間からちらちらとおっぱいを見せながら、ルークを誘惑してくるんだ!
『ルークの奴! けしからんよな!?』
『何がですか? 今、ルークさんと話してますので静かにしてください』
残念ながら同意を得られず――
ルークは八才のときに、【遊ぶ者】を神から与えられて以来、周囲の連中から遊び人とバカにされながら生きてきたのか。
両親も最初はルークを守っていたようだけど次第に疎ましくなっていって……。
――やっぱり人の愛情なんてそんなもんだろう。
それから十二才でわずかな金を持たされて家を追い出され、王都に仕事探しに向かう途中で、魔物に襲われて……、そこを運良くベルトンに助けられてそのまま世話になってると。
発明好きのルークは、ベルトンのパーティーでサポーターをしながら、空いた時間に“百メートルぐらいの距離でなら使えるトランシーバー的なアイテム”、“長持ちする松明”、“見た目より入るリュックサック”を開発したらしい――さっきベルトンが早めに応援に来れた理由がこれか。
へえ、ルークやるじゃん、実力があるじゃないか!
ってあれ? ルークどこに行った?
『マスターが影読みしている間に、ルークさんなら向こうに行きましたよ。本当はもっと早くお礼を言いに来たかったけど、ベイスさんの件ですぐに来れなくてすみませんでしたって』
『めっちゃ良い子じゃないか、男の子だけど』
『そうですね、男の子ですしマスターは関わらないですよね』
そうだな、男の子だし関わらない……、あれ? なんか思考誘導されてね?
『マスター、そろそろ出発するみたいです。ベルトンさんがゼニスさんのところに向かいました』
ゼニスか、コイツらもいい加減に泣き止めよ。
「ううう……」
荷物持ちAがベイスを抱き上げ、ゼニスたちが支えて遺体を海に――
「うう、ん? ……おい、ゼニスさん、これ」
「あん? これはっ!」
「なぁ、兄貴! この手のひらの傷……、ここに来るまで無かったよな?」
めそめそのコーラス隊がその場でひそひその話を始めてしまった。
「おい、ゼニス、どうしたんだ? 冒険者はいつだって生死が隣り合わせだ。……冷たいかもしれないが、そろそろ切り替えてくれ。休憩は終わりだ」
ベルトンも言いにくかったのか、苦しげな表情だな。
「――おい、この件は保留だ。今はベルトンの旦那に従おう」
「でも、ゼニスさん! これはベイスが俺たちに何かをっ!」
「わかってるよ! だからこうするんだ! ふっ!」
ええ! グロっ! ゼニスがベイスの手首から上を切り落としたぞ!
『なあ、ソニア、この世界って死んだら遺髪的な感覚で、手のひら持って帰るもんなの?』
ちなみに、ゼニスたちの凶行はソニアの角度からは見えていない。
『なんですか、その猟奇的な発想は……』
いや、俺の発想じゃないからドン引きはやめて?
コーラス隊はカルトな宗教にハマり中っと心のメモに書いておこう。
「兄貴! 何をっ!?」
「しっ! 声を落とせ……、いいか、こいつは証拠だ。お前たちはこのままサポーターとして犯人を探せ。 俺は戦闘班を探ることにする」
「……ゼニスさん、その必要はなさそうだ。うちの坊主と同じ年に見えるがとんでもない野郎だ」
荷物持ちAがくいっと顎でルークの方を示す。
アイツ、何かを拾った……で、可愛く首を傾げながらぽいっ。
こらっ! ラァブトンネルはポイ捨て禁止!
「兄貴っ! あれっ! あいつ、何か捨てたぞ!」
「お前ら、いいか? 誰にも悟られるず、アイツが捨てた物を確認するんだ……」
「おーい、出発だ! ソニア、君はこっちだ!」
うちのソニアを気安く呼んでんじゃねぇぞ! このイケメンオールバックが!!
今は調子に乗ったベルトンに不幸が訪れる呪いをかけてやる。
不幸よ、イケメンなベルトンを【呪え】――なーんちゃって。
「ぐっ……?」
「ねぇ、ベルトンどうしたの? 行きましょう?」
ちっ、おい、胸が当たってるぞ! こんなときにうらやま……いや、けしからんぞ!
ちなみに、このあと八階層のラァブ部屋では、ソニアがきっちり実力をアピールし、晴れて戦闘班に配置されることになった。
いよいよ九階層、そろそろラァブが海坊主役で登場かな?
◇◇◇
襲いかかる大津波攻撃、全てを飲み込む大渦、触手で“恥ずかし固め”を極められて大事な部分がおっぴろげのビスチェ、ひたすら粘液まみれのベルトン、ルーク。
一部に俺の趣味とラァブの趣味が入っているが、現在、ラァブはノリノリでボス戦をやっている。
九階層のラァブ部屋の陸地面積は少なく、ほとんどが海の中での戦闘となっていた。
最初に見たときは、高層ビルサイズだったが、今の大きさは八メートルちょっとの洞窟に入るサイズになっている――大豪院先輩現象と名付ける。
余談だがベルトンの中では今がクライマックスのようだ――
「くそぉ! ゴランの敵だぁ! 唸れ魔剣サンダースピリットソード!! 行くぞクラーケン!! ファイナルっ、サンダーっ、カッティングううぅぅ!!」
うおおぉぉぉ!! く、そ、ダサええぇぇ!! 【魔素吸収】からの【影収納】――
「ンヂイイイイイィィィィィ!! や、ら、れ、たわぁ……」
あまりにダサい必殺技に、予定よりも早めにラァブを回収してしまった。
このタイミングで? ぽーんっと上位職【シーハインド】が解放されたけど、解放スキルなし。
なんじゃこりゃ?
『んもぅ! シェイドちゃんのそれ、激しすぎよぉ!! あー、ラァブ疲れたわぁ』
ラァブがキモやかましいから上位職の確認は後回しにしておこう。
『お疲れ、お疲れー。いや、ラァブのノリノリっぷりが気持ち悪くてさ、つい本気出してしまったよ。すまん』
『あん、シェイドちゃんが正直すぎて、逆に清々しいわぁ』
『はあ、溺死者多数の被害状況で、歓談できるマスターたちを尊敬します』
ソニアの言うとおり、ラァブ戦が終わってみると攻略隊の半数近くが溺死している状況だった。
『いやだって、まじでラァブはやり過ぎだぞ』
『ああん! 自然すぎる流れでラァブのせいにされたぁ! でも、あの赤い髪の人タイプだったの。だから、良いとこ見せたいって思ってぇ』
運良く生き残ったのは八名の精鋭たちだ。
Aランク冒険者 ベルトン(ライジング)
Bランク冒険者 リック(ライジング)
Bランク冒険者 ビスチェ(ライジング)
Dランク冒険者 ルーク(ライジング)
※ゴラン脱落
Cランク冒険者 ゼニス(コーラス)
Cランク冒険者 荷物持ちA (コーラス)
※ベイス、荷物持ちB脱落
Cランク冒険者 ボウズ(ハードパンチャーズ)
※残り全員脱落
Cランク新米冒険者 ソニア
※濡れた海女さん装備がそこはかとなくエロい
「はあっ、はあっ! や、やったか?」
「あぁ、なんとかなったかぁ」
「でも、ゴランさんが……」
「っ! バカね! そんなこと皆だって知ってるわよ! ルーク、あんたはさっさと素材を拾って来なさい!! あんたの仕事は今からでしょうがっ!!」
「は、はい!」
おい、ベルトンが“クラーケン復活フラグ”を踏んだぞ! ――これはご期待に応えないと。
ラァブがシャドスペに沈んで、残りの雑魚もなんとかソニアがさらっと片付けたようだな。
最後までセイレーンたちは見かけなかったな。
『良かったなぁ、ラァブ。ベルトンからご指名だ、後で影吹きするからそのつもりな』
『やだぁ! ベルトンちゃんったらラァブに照れてたのね。わかったわ、この姿で待機してるわぁ』
『そうだな、照れていたらいいな。じゃ、待機しててくれ』
さらっとスルーしておこう。
『そう? わかったわぁ』
ちなみに、大盾持ちのゴランは、ラァブの初手【大津波】に巻き込まれあえなく溺死。
あれだけ重装備だとそりゃ沈むでしょ。
さて、場も落ち着いてきたし、そろそろラァブの復活フラグの回収か――




