第29話 あやしいトンネル 前編
最終的な“海のダンジョン”攻略隊の主な人物一覧――ざっくり影読み済み――はこちら。
参加者名、( )内はパーティー名、あとは俺の主観。
Aランク冒険者 ベルトン(ライジング)
ジョブ 戦う者
鉄の胸当て、赤黒いズボン、長剣
シータウン出身、Aランクとなって故郷に錦を飾れるか?
Bランク冒険者 リック(ライジング)
ジョブ 潜む者
暗めの緑のつなぎ上下でとても動きやすそう
Bランク冒険者 ゴラン(ライジング)
ジョブ 戦う者
大きな体を隠せるほど大きな盾と、鉄製のフルアーマー、パーティーのタンクは任せろ!
Bランク冒険者 ビスチェ(ライジング)
ジョブ 祈る
おっぱいに自信あり、魔法使いのお姉さん、好きなものはベルトン
Dランク冒険者 ルーク(ライジング)
ジョブ 遊ぶ者
荷物持ち、本人は真面目だけど、ジョブのせいで苛められがち
Cランク冒険者 ゼニス(コーラス)
コーラスは他に四名在籍
Cランク冒険者 ボウズ(ハードパンチャーズ)
ハードパンチャーズは他に三名在籍
Cランク新米冒険者 ソニア
海女さん装備のトライデント使い、地味顔、スタイル良し、無口、無表情、冷たい、スルーが酷い――
『マスターの私に対する主観が悪口になってます』
『さっきの仕返しだ』
『はぁ……、もういいです』
あっ! おい、態度悪いぞ!!
参加者は、総勢十五名、Cランク以下はほとんど荷物持ちみたいだな。
……ちなみに、ビスチェは足もしっかり手入れされていて素敵だったと伝えておこう。
◇◇◇
岬……というよりは、土砂が積み上げられ固められた何かの場所に、ぽっかりと大穴が開いていて壁はすべてぬらぬらと気持ち悪くテカっている。
「おい、海のダンジョンってこんなだったか?」
「いや、俺が知ってるダンジョンはこんな感じじゃなかったぞ。――もしかしたらダンジョン変動が起きたのかもしれん」
「あー、昨晩の地響きか」
「おい、おしゃべりは終わりだ。みんなっ! 足元が滑りやすい、気をつけて行くぞ!!」
「「「「「おうっ!」」」」」
「「「「「はい!」」」」」
以前にダンジョン攻略に参加した冒険者たちの話を聞いていたら、ベルトンの号令がかかり、それぞれ返事をしながらダンジョンへと入っていく。
『なあ、よくこんなラァブの粘液でテカってるところに入って行けるよな』
『マスター、私たちも入るんですよ』
『いや、まあそうなんだけどさ。気持ち悪くないのかね? 冒険者ってすげぇメンタルだよなぁ』
『そうですね、依頼のために命を失うこともありますし』
ギリアムの護衛のことでも思い出してんのかね?
おっと、そろそろソニアがダンジョンに入る番だな。
ソニアの役割は、攻略隊後方に配置されている荷物持ち兼戦闘班のお世話係――サポーター班――の護衛に決まった。
サポーターのお仕事は、戦闘班が切り散らかした魔物の素材を拾ったり、ボス部屋を制圧した戦闘班のために休憩場所を用意したりと比較的安全だったりする。
参加するだけで一日銀貨一枚なので、同行している戦闘班が優秀であればかなり安全で美味しい仕事となるわけだ。
「おい、ルークだっけ? お前、どうやってライジングに拾ってもらったんだよ」
「え? 僕はベルトンさんから……」
「はあ、いいよなぁ。サポーターとはいえ、一応は“ライジング”の一員だもんなぁ」
「遊び人がうまくやってるわ」
「しかもDランクで!」
「違いねぇ!」
「まあ、遊び人の割には暗くて地味だけどなっ!」
「「「だはははは」」」
「……ぐ」
当然、Dランクのルークは王都でも勢いがある冒険者パーティー“ライジング”に在籍しているため、周囲のやっかみも酷かったりする。
『あの地味っ子、遊び人なんだな。なんか面白い遊びとか知ってるのかな?』
『ルークさんのジョブは、【遊ぶ者】であって、“遊び人”ではないんですけど、サポーターの方たちは知らないのでしょうか』
『知ってていじってると思うぞ、あいつらは自分よりも美味しい人生を送れそうなルークが羨ましいんだろ』
――みんな、欲しがりだからな。
『ルークさんの努力がベルトンさんに認められた結果だと思うんですけど』
『そう思えるのは、ソニアみたいに持ってる奴だけだよ』
『……そんなことないはずです』
――第一階層攻略このまま進むぞ!
おっと遠くからベルトンの声が聞こえる。
無事に第一階層のボス部屋もどきでの戦闘が終わったようだな。
『ソニア、バックアタックに気をつけて進むぞ』
『ここがダンジョンでしたら、そうします』
ダンジョンじゃないけど、雰囲気って大事じゃないか!
俺たちだけ緊張感ゼロで攻略隊の後ろをついていく。
◇◇◇
ラァブの手抜き工事のせいか、ダンジョンもどきの壁から海水が入り込んでて膝下まで水位が上がってきてるな。
ん? 背後に魔素の反応が――
『ソニアっ! 危ないっ!』
ソニアの背中に銛が飛んできたっ!
でも、大丈夫。
持ってて良かった【影収納】――
ソニアの体に影を展開、銛が当たる瞬間に飲み込んでシャドスペの中へ――
『ごがあぁあ!』
やべぇ、ソニアは無事だけど、デビルプラントのお世話をしていたヨーゼフに当たってしまった。
飛び散るヨーゼフの欠片はデビルプラントの餌になってしまったようだ。
『ヨーゼフ! デビルプラントにいつもと違う餌をあげたらダメだろ!』
勝手に餌付けして困るのは、いつだって動物園の飼育員さんなんだぞ!
『ざばぁぜん(すみません)』
うん、わかればよろしい。
『マスター、その……ありがとうございます』
さくっと背後の半魚人を処理したソニアからお礼を言われた。
俺が守らなくてもぎりぎりで避けてそうだけど、ここはお礼を受け取っておこう。
『おう、あとで太ももすべすべさせろよ。それとヨーゼフにも一言を……ってまだいるな! 【魔素吸収】――』
まじでラァブの奴、どこまで下に掘ったんだ? ソニアの膝上まで水位が上がってきたぞ。
放流した半魚人たちは、今までの陸上での動きと違い、海中をなかなかいい動きで泳いでくる。
よく見るとシーサーペントなんかも泳いできている。
ん? 前から流れて来てないかこれ?
『ソニア、荷物持ち班にも敵を警戒させろ! 何匹か戦闘班が取りこぼしてるぞ!』
「皆さん、海中に半魚人とシーサーペントがいます! 気をつけてください!」
セイレーンはいつ頃登場すんのかな?
「うぐっ! シーサーペントに噛まれた……こひゅっ!」
「僕、今からベルトンさんたちに連絡します!」
ルークが何かアイテムを取り出して、ごにょごにょ言ってるけど電話っぽいなあれ。
猛毒注入で瀕死の奴を除くと、全員が荷物を地面に置いて、その上に避難しているようだ。
「おい、ベイスっ! うぉ、シーサーペントがあっ!!」
おう、荷物持ちAが巻きつかれた。
仕方ないので、巻きつきシーサーペントは俺が美味しくいただいた。
「ぐうう……、あれ? あっ! おい、ベイス! 大丈夫か? こっちに上がれぇ!」
巻きつきから解放された荷物持ちAが猛毒状態のベイスを掴んで自分のところに引き上げた。
「皆さん、そのまま動かないで!! 殲滅します!! すぅーっ!!」
じゃぼっ! 大きく息を吸い込んでソニアが海中を自由に泳ぎ回る。
半魚人ばりの高速泳法で、次々とトライデントで魔物たちを突き刺しては宙に放り投げていく。
宙を舞う魔物たちは天井近くで、俺が受け取ってシャドスペ内に入れていく。
シャドスペ内では、カザンたちがあうあう言いながら止めを刺していく。
連携がうまくいくと気持ちいいな。
「おわっ! ヤバい囲まれてるぞ!」
「もうすぐベルトンさんたちが戻ってきてくれます!」
やっぱり電話とかあるの?
ルークが荷物の上で叫んでる。
ルークの声に反応して、海中から半魚人が襲いかかる!
「っ! うわわっ!!」
おう、間一髪でルークは半魚人の銛を避けて海に落ちる。
そこにシーサーペントが口を開けて突っ込んできた。
哀れルーク、あえなくシーサーペントの口の中に――
『させません!』
――ざくりっ!! ああ、ルークうううぅぅぅ!!
『マスター!』
ルークに向かって大きく口を開いたシーサーペントをざくりっと、ソニアがトライデントで突いて宙に――はいはい、収納しますって。
「ふっ!」
体勢を整えた半魚人が再びルークに襲いかかるが、ソニアの投げたトライデントが頭にぶっすり刺さってそのまま事切れた。
なんとか戦闘終了、海面にはぷかぷかと魔物の死骸が浮いている。
ベイス以外は、そんなに被害はなさそうだ。
「おーい! どうしたー! 俺だ、ゼニスだ! 大丈夫かー?」
ざぶざぶと音を出しながら、戻ってきたのはゼニス。
「恐らくこれで全部です」
半魚人の頭からトライデントを抜いて、ソニアが答えた。
「は……? これ、全部お前がやったのか?」
ゼニスが驚く、そりゃ、新人の海女さんがこんなに強いとは誰も思わないだろう。
「おい、ルーク、大丈夫か!?」
「すまんねぇ、ちょっと隊列が伸びすぎてたみたいだねぇ」
お、ベルトンと、えーと間抜けな語尾のリックが先頭から戻ってきたな。
「お、おい! ベイス! しっかりしろ!!」
どうやらベイスはゼニスのパーティーメンバーのようだな。
「こひゅっ! こひゅっ! ぜ、ゼニスの兄貴、すまねぇ。シーサーペントに噛まれ、ちまったよ! こひゅっ!」
「おい! ルーク! 何をぼんやりしているんだ!! 解毒薬を早くゼニスに渡してくれ!!」
ベルトンがルークに指示を出すと、ルークが慌てて解毒薬をゼニスに渡す。
「はっはい!! こ、これを……」
「ベルトンの旦那っ! いいのかい?」
ゼニスが受け取った解毒薬を見て驚いている。
「ああ! 早く解毒してやれ。ただし、後で報酬から引くけどな」
にやりと笑うベルトン。
「へっ、それじゃ、そいつはベイスの報酬から支払うとしよう。悪いな、恩に着るぜ」
何そのやり取り、冒険者っぽい!? ちょっと良かったよ!
そして、ベイスの呼吸が安定してきた! やっぱり高い薬なのかね。
――俺が持ってる毒矢にも効果あるかな?
『その解毒薬はかなり高価で貴重です。恐らくゼニスさんが解毒薬を使いやすいように、わざと言ったんですね』
気前がいい、男にもモテそうだな。
「みんな! この先の部屋に小島があるんだ! そこまで行ってベイスの治療と休憩をしよう!!」
「ゼニスの兄貴……、ベルトンの旦那……、ありがとう」
うちの子にもお礼を言いなさい? 下手したら全滅だったんだぞ!?
おう、こらっ!
「ソニアさん、ルークから聞いたよ。仲間を助けてくれてありがとう。どうやら君はかなりの実力者のようだね。新人と聞いて安全な場所に配置したことを謝罪しよう」
ばちっと固まったオールバックは、頭を下げても乱れない。
「いえ、私は新人ですし、気になさらないでください」
「――そうか、わかったよ。まさか魔物がこんなに多いのは誤算だった。恐らく七階層の戦闘から逃れた魔物たちだったんだろう」
七つ目のラァブ部屋ね。
「ベルトン、先を急ぎすぎたようだねぇ」
「……すまないリック。もしかしたら僕はライガンさんの応援に早く行きたくて、攻略を焦っていたのかもしれない」
リックにたしなめられて、ベルトンは反省しているようだ。
七階の部屋は、体育館ぐらいの小島が海に浮かんでいる不思議な空間だった。
海水の流入は止められず、ソニアの腰ぐらいまで水位が上がってきている。
いよいよソニアの海女さん装備が活躍しそうな感じ。
ダンジョン攻略隊、次は八階層。
ここまでの行程は六時間、まずは一段落といったところかね。




