第25話 あやしい海のダンジョン下見
ソニアが予想通りさくっと泳ぎを極めてしまったため、明日の集合時間までだいぶ空いてしまった。
『ソニア、暇だしダンジョンの下見に行こうぜ! 若しくは濡れたままでいいから女豹のポーズをしてみてくれ』
がおーって。
「では下見に行きましょう」
女豹は……あ、ないのね。
そうだ、下見ついでにダンジョンの魔素を吸えそうだったら吸ってみるか。
魔物大暴動にならないようにだけ気をつけよう。
なんだか良い出会いが待っている気がする。
『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだ――』
「間違えてます」
容赦なし! 分からないだろ、人外レディとの出会いがあるかもよ?
こんな時こそ神頼み――
『神よ! どうかダンジョンで可愛い人外レディとチョメチョメ――』
『――■?ま※ゴれ○!!』
ひぃっ! 空から聞こえる大きな声?
本能? ねえ、今の本能? 声違くない? 意味不明なんだけど!!
「マスター、どうかされました? ――やっとクズ発言に気がつかれましたか?」
ソニアは今の声が聞こえていないのか? じゃ、脳内にダイレクトアタック?
さらっと心外な事を言われた気がするけど、天の声が気になってそれどころじゃない。
……なんだ今のは?
『いや、うん、何でもない気のせい、本能のせい』
「そうですか……」
『まあ、“わからない事は後回し”って学校の先生が言ってた気がする。それより、ここから北にある岬に“海のダンジョン”はあるんだよな?』
「そうですよ。――やっぱり行くんですね」
新しい仲間の予感がするんだ!!
◇◇◇
――地響きが、雄叫びが、大なり小なりの魔素の塊が、ダンジョンから飛び出し影に飲み込まれていく。
いや、もうここはダンジョンとは呼べない、むしろ“超ド級の海鮮丼”である――
どうも! 現場のカオスシード改めカオスシェイドでーす。
はい、今回の魔物大暴動は起こっておりません、なぜなら現在進行形で私が消化しております。
シャドスペ内に海が出来ました! ミンシアちゃんたちと海水浴だ、わーい。
と喜べたら良かったのだが、アレを見るとね……。
「あれって大渦の原因だよな?」
「恐らく……」
ソニアがぎゅっと俺を抱く力が強まって、いい感じにむにゅにゅってして素敵。
――話は少しだけ遡る。
『へぇ、岬の崖下にぽっかりと穴が開いてるなぁ。あれがダンジョンになってんのか』
上から覗くと、ダンジョン口を海水がそこだけ避けているように見える。
『なあ、このダンジョンってどうやって入るんだ?』
まさか崖からとか? サスペンスドラマのロケ地からジャンプ!!
「もう少し向こうに進むと、下りやすい場所があります」
あ、なるほど、あそこから下に行くのね。
『あそこまで行くのも面倒だな。俺は影を伸ばして下りるけどソニアは、あっ!――』
ソニアに自殺願望があったとは! ぽーんっと飛び降りちゃったよ。
「あれ? マスター、来ないんですか?」
まあ! 百点満点な着地でございますこと!!
『いきなりソニアが飛び降りるから心配したんだよ!』【影移動】――
「え? あ、ありがとうございます」
何、その顔。
俺が心配することがそんなに驚くことかよ? ここがダンジョンか、【魔素感知】――
なるほど、沖の方に向かって、一、二、三、四、五、六、七、八、九、十っと一ヶ所に三十匹以上固まっている場所があって、十個目辺りの海面が一番激しく渦巻いている感じだな。
これじゃ船は出せないだろう。
『あれ? なぁ、ソニア、海坊主って九階層のボスなんだよな?』
「そうですね、ギルドの資料ではそうなってましたけど」
『そうだよなー、でも、大渦がいくつもある辺りって魔素の場所で言うと十個目なんだよなぁ』
「おかしいですね、ギルドの情報が間違っているのかもしれません」
『だいたいアイツらって九階層で海坊主に流されたんだろ? 十階層は何だと思ってるのかね』
ダンジョンのボスといえば一番奥って定番だろ? あと宝物ね!
「ギルドの資料では、十階層はクラーケンという魔物が眠っているらしく、魔王が封印を解かない限り、動けないみたいですよ」
いや、でも明らかにあの辺りは十階層なんだけど。
魔王が封印したってクラーケンって奴は何かやらかしたのかな。
――動けないのは本当っぽいけど起きてないよね? フラグ立ってないよね?
『ふーん、そうか。それじゃ早速【魔素吸収】――』
迷わず吸えよ、吸えばわかるさ!
「やっぱりそうなるんですね。あの、私が冒険者として依頼を受けた意味ってなんだったんですか?」
それは女冒険者に会うためだ――ダンジョンが無くても問題ない。
『まあ、その辺は適当に考えてるから任せとけって』
だってここまで来て何もしないでそのまま帰るってのはダンジョンに失礼だろ。
俺たちが入ってくるのを大きく口を開けて待ってるわけだし。
依頼の事は後で考えるとして、ちょっとやってみたいじゃないか。
「できればその考えを教えてほしいのですけど」
『ちょっとそんなに急かされても、まだ考えてないから! もう! ダンジョン吸い中だからちょっと待ってろ!』
たくっ、調子乗ってんじゃないよ! あ、また膨れっ面だよ。
思いついたら止められないだろ?
――俺の本体サイズを使った力技……。
俺的ダンジョン攻略法。
・ダンジョン口周辺を整地する。
と同時に――
・シャドスペから金庫以外の全てを出す。
・ダンジョン口を影を伸ばして塞ぐ。
これで魔物大暴動が起きても、シャドスペ内に収納しておけばゆっくり吸えるぜ。
「あー、ゴンドールの墓所ぶりじゃないか? 久々のシャバの空気は海臭いぜ、ソニア、抱っこしてくれ」
「えっ? あ、はい。どうぞ」
ほらほら、機嫌悪くしてる暇も、あっけに取られてる暇もないんだよ!
その、生地薄めの磯シャツに飛び込ませろー!
――むにゅりんと相変わらず素晴らしい感触だな!
「よし、これでシャドスペ内はほぼ空になった。念のためだけど、もしシャドスペが破れるようなことがあったら、俺の核を持って逃げてくれよ?」
「ああ、なるほど。全てをシャドスペに入れてしまうのですね。これなら魔物の取りこぼしもないです。……私が泳ぎ方をマスターした意味もないですが」
「小役の取りこぼしが後々の収支に響いてくるんだよ。適当打ちじゃプロにはなれんのよ」
昔、バイトにそう言って指導してた事を思い出した。
店長と仲良くなれば出る台わかるし、バイトに払う金を引いても楽して金が稼げて良かったな――店長が黒いスーツのお兄さんたちに連れて行かれてからはやってないけど。
「DDT打法で演出あるときだけスイカ狙えばいいのでは? ずっと気を張るのって疲れませんか? 毎日打つならもう少し気を抜かないと効率悪いですよ」
「まあ、俺はエンジョイ勢だからそれで打ってたけど、バイト君たちはシビアに労働してもらわないとダメだろ―― なぁ、やっぱりソニアの持ってる俺の記憶って偏り酷くない?」
「そうですか? これもマスターの黒歴史です」
黒歴史の意味が違うだろ!
「あーあ、パチスロ行きてぇな。話をすると打ちたくなるんだよなぁ」
ここにはないけど……。
「“サラザードの砂漠地帯”を越えた先には、カジノ運営で潤っている国があるそうです」
「でも、海外のスロットって演出ないし目押しもないんだよなぁ。んー、でもこの世界のカジノってのも見てみたいな」
「ええ! 不夜城と呼ばれるお城のような建物があるそうです!」
あ、ギャンブルがしたいんじゃなくて、ソニアはそういう景色を観たいのか。
ラスベガス? パフパフある?
「あ、そろそろ海坊主のいる九階層まで侵食できたけど、ソニアは海坊主と戦ってみたい?」
「シャドスペ内は高純度の魔素が渦巻いているはずですし、中に入りたくないです」
「海坊主倒せばレベルアップで、あんあんって――」
「言いません!」
いや、つーんってされても、いつも言ってるのは事実。
まあ、いいや、今回は俺がこのままいただこう。
いやー、おっぱいに挟まれながら飯を食べるって素敵すぎだわー。
……このBGMがなければさらに良かったんだけどね。
『――■は?むまれ※!!』
『――やめよ』
『――■は?むまれ※!!』
『――やめよ』
『――■は?むまれ※!!』
『――やめよ』
どうしよ、本能と天の声の雑音アンサンブル。
天の声は意味不明な声、それにいつもの本能の声、頭の中がおかしくなりそうなぐらい賑やかだ。
これぐらいの音量なら大した事はない、なんだか懐かしい。
さあ、いよいよ十階層だ。
ちなみに、シャドスペ内で倒した魔物の核とスキルはこんな感じ。
半魚人 【呼吸】【高速泳法】【危険察知】
海坊主 【津波】【丸飲み】
シーゴースト 【魔素吸収】【分解】
シャドスペ内は、海水と一緒に流入したピュアスライムさんや元気な海の魔物たちがまだまだ残っている。
さくっと海坊主も吸い殺したので、残りの雑魚はゆっくり消化していけばいいな。
ってところで冒頭に戻る!
――ダンジョンが崩れる前に海に急浮上した巨大なナニカ。
よし、帰ろう。




