第23話 あやしい魔王降臨 後編
あー、蟹がうめぇー。
岩場の影から、大蟹狩りで魔素がうまー。
ビッグシザース 【切断】【泡吹き】
シータウンの海岸線に、生息している大きなハサミで人の頭をばつんばつんしちゃう魔物だ。
蟹ってさ、黙々と食べちゃうよね。
あー、日本酒飲みたくなるよなぁ。
『女将、熱燗つけてくれ!』
『……、本当に置いて行かれるとは思いませんでした。やあっ!』
え、だって俺いらんかったやん?
宿に帰ってもすることないしー、ギルドの倉庫で腹いせにピュアスライムさんとかピュアスライムさんとかピュアスライムさんとかの魔素をいっぱい吸ってー、ギルド職員全員の黒歴史を町の至るところで、【精神干渉】【大声】【超音波】のスキル重ねがけしながら、町民に言いふらすぐらい暇だったやん?
『すまん、海が俺を呼んでいた』
『意味がわかりません。ふっ!』
『一応、ソニアと俺は極細影糸でつながっていたわけだし、置いて行ったとも言えないだろ?』
心はそこにないけど。
『何度も話しかけたのに、全然反応なかったです、よっ!!』
ほー、ソニア、大鎌の使い方を極めてきたなぁ。
ビッグシザースがばっらばら。
『やっぱソニアって大鎌似合うなぁ』
『……また聞いてませんね? もう!』
ひゅひゅんっと風ごと切りつけると、もう蟹の核まで粉々になっちゃった。
なんか、ストレスでも溜まってんのかな?
『あのさ、ソニアはもう冒険者なんだからさぁ、素材を壊さない倒し方でやんないとダメだぞ?』
あ、こめかみにぴきっと血管が浮き出てきた。
『別に、ふっ! 冒険者とかっ! どう! でも! いいっ!! ですし』
おいおい、めっちゃ機嫌悪いぞこれ?
『ああっ! もう、数が多いですね! はああぁぁっ! 永遠に踊り狂え【無差別の死の輪舞曲】――』
ひゅんひゅんどころか、びゅんびゅんってなんか海が切れたり、岩場も削れてるんだけど!!
ぱきっぱきぃっ!!
あーあ、めちゃくちゃ振り回すもんだから、硬い甲羅部分に当たったタイミングで大鎌にヒビが!
物は大切にしなさいって注意せねば!
『おい、ソニア――』
『……マスター、敵、いなくなっちゃいましたよ? それと――』
大鎌系エキストラスキルが生えました、ですって!
【無差別の死の輪舞曲】……範囲内にいる敵味方を問わず怒りに任せて踊るように切り刻む美しい高速回転切り――飛ぶ斬撃を添えて――
いや、もう怖えぇよ! なにそれエキストラ?
もう大鎌を極めたってこと?
ウェポンスキルとかあんのかよ!
待て、範囲内の敵味方って、俺……いるよね? さっきから普通に範囲内だよね?
斬撃が飛ぶってどこの三刀流だよおい!
『あー、せっかくマスターに買ってもらった大鎌……、壊れちゃいました、ね』
ちょっ! 蟹の死骸の踏みつけながら、海に体を向けた状態で、きりきりきりってゆっくり顔だけこっちに向けないで!
そして、そんな虚ろな目で微笑まれるとますます怖えぇんだよ!
『……ソニア、すまんかった。話をきちんと聞こうか』
『あら、マスター、よろしいのですか? では聞いていただきましょうか――』
少しキャラ変わりましたソニアさん?
いえ、朝日を背にしての虚ろな笑顔が怖いです。
俺がソニアを置いて行く少し前まで遡る――
「ソニア、でしたね」
厳しい顔が一変、すべてを包み込む菩薩の笑顔でソニアに体を向ける。
「ほんの少しだけですが……、魔王の魔力から大きな絶望が……、おぞましい感情が私に流れ込んできました――」
ぶるんぎゅっ! ジャミラは震えた自分を強く抱きしめて、おっぱいが苦しそう。
大きいと見た目の破壊力が……、みんながジャミラに釘付けだな。
「そして、ソニア……、貴女は出会ってしまったのね」
あ、やべ、また話が飛んでる。
もうちょっと放置されすぎ、少し飽きてきたし割って入るぞっと――
『ふっはっはっは!! 虫けらごときが我の何を知ったというのか。そこの大鎌を持った虫けら、ソニアと言ったか、お前は見覚えがあるぞ――そうか、あの村の生き残りか。ふんっ、我を追ってここまで来たとでも? その力、どこで得たのか知らぬがその程度で我を討てるとは思わぬことだ』
これで、“あっ! 今お前のこと思い出した”感が出たはず。
ちょっと早口になってるけど、それっぽくまとめてさっさと帰ろう。
『我は混沌を好む。虫けらどもの奏でる絶望の感情を糧に、我はかつての姿を取り戻すであろう。そこに転がっている虫けらの怒りと恐怖、美味であったわ』
実際、やらかした後って調子が良かったりするんだよね。
人に関しては、魔力よりも負の感情が力になるっていうか笑えるっていうか――あれ? 考え方が魔王っぽくね?
「魔王よ! この子に何をしたか……、わかっているのっ!?」
『ふっ、貴様らは道を歩くとき、いちいち足に当たった石ころがどこに転がるかを気にして歩くのか?』
「くそがっ! なんて奴だ!」
熊男に悪態つかれた!
小学生が登校中に石けりしながら歩いてて、事故が起きたりもしてるんだぞ!! 石けり、ダメ、絶対!!
『貴様ら虫けらがどこに転がろうと我には何の関係もないことだ。この町で宝石類を盗んだのもただの気まぐれだ。これから混沌の世界が訪れる、全ての災い、絶望は、我、魔王カタストロフが原因であーる。今日は気分がいい、見逃してやろう。では、サラダバー!!』
もういっそ、全部カタストロフって奴のせいにしておこう。
少しアホっぽいけどお茶目な魔王ってことで。
いやいや、本能監督、設定がばがばだからって怒らないで!
それにしても、ゾンビーズ、結局何もしなかったな。
暴れてないし、訓練場に来た意味がなかったな。
『じゃ、ソニア、後は任せたよ。俺はここでドロンだっ!』
部屋全体に影が一気に広がって、魔王が外に出たように演出した。
『マスター! 本当にこの状況で置いていかないでくだ――』
ここからは、ソニアに任せてほとんど聞いてない部分になる。
魔王の影が去り、残された面々は互いに顔を見合わせて一息をついた。
「ふう、どうやら魔王に見逃されたようね」
その場に座りこむジャミラたち、震えが止まらないようだ。
「はい、とんでもない魔力でしたね――奥様、大丈夫ですか?」
「……ええ、なんとかね」
「がははっ、たくっ、とんでもねぇな。カザンが簡単にくたばるはずだ」
無駄に明るく振る舞って滑ったっぽいマッスゥ。
「わ、私たちは助かったのでしょうか? ――はあ、良かった!」
支配人、お前が助かるかどうかはむしろこれからだぞ。
「はーん!? なんだぁ! 魔王は逃げたのかぁ? そうかぁ、でもなぁ問題はお前たちなんだよぉ!!」
どーんっと指をハサンたちに向ける復活のウザイン様、さっきまでキョロキョロとびびりまくってたのをソニアがしっかり見ているぞ。
「ははーっ! ウザイン様、先ほどは申し訳ございませんでした! ついかっとなってしまい……」
綺麗なスライディング土下座で、ウザインの足元に摺りつくハサン――プライドなし。
「はーん? ふざけるなぁ! ハサン、貴様は国に戻ってから処刑だぁ!」
「そ、そんな」
いやいや、そんな青ざめた顔するぐらいなら、なんでご主人を殴っちゃうのよ。
「ああっ! えーと、その先ほどの言葉は……魔王カタストロフに言わされたのでございますよ。私としましては、ウザイン様や奥様方には、手前どもの宿にてまだまだごゆるりとご逗留いただきたいと心から願って止みませんですはい。お代? いえいえ一切いただきません、大変、名誉な事でございますゆえ――」
さらりと魔王のせいにしてるぞ、こいつ。
「はーん? 魔王に操られていただぁ? 嘘つけぇ!! はーん? お代をいただかないだぁ? 当たり前だぁ、支配人、お前の処遇は宿の主人とゆっくり決めさせてもらうぞぉ」
がくりと頭を垂れる支配人。
そして、次の矛先をマッスゥにロックオンするウザインだったが、ジャミラから待ったが入る――異議あり!!
「――旦那様、魔王が復活したんですよ、この件は世界中に知らせる必要があります。誰を罰する、誰が無礼を働いた等は、もう良いではありませんか。これ以上、何かおっしゃりたいのでしたら、私が後ほどお伺いいたしましょう」
「……は、はーん? そうだな、魔王の前には全て小事ではあるなぁ、よ、よぉし、ジャミラの好きにしろぉ!」
ジャミラのおっぱい圧に負けたか。
「ソニア、これからも貴女は魔王を追うのね?」
ついに、ソニアが魔王ハンターになってしまった。
「――はい」
「そう、では私も出来る限りお手伝いしましょう。“アイリス”に立ち寄ったときは顔を見せなさい、貴女を歓迎するわ」
すごいかどうか微妙な立場っぽいけど、一応、後ろ楯を手に入れたな、やるじゃん、ソニア!!
『マスター、“アイリス”に行くことはありますか? マスター?』
その頃の俺は、酒場の飲んだくれを相手にギルド職員一人一人の黒歴史を面白おかしく話してたのでソニアの呼びかけは聞いていない。
「ふふ、口だけでは信用できませんよね、私たちは貴女を疑ってしまったのだから……」
無言のソニアから勝手に表情を読み取るジャミラ。
『マスター? 本当に宿に帰ったのですか? マスター?』
めっちゃ呼ばれてたぁ――すまん。
「ハサン! お詫びの金品と、親愛の指輪を用意しなさい。親愛の指輪は、アイリスの民であれば、見せるだけでソニアの味方になってくれるでしょう。それから、マッスゥよ」
さっきソニアが合流したときに、俺に見せてきた指輪がこれのことか。
味方……、ねぇ。
アイリス関係の商会で割引が効くぐらいのほうが信用できるけど。
「がははっ! 何でしょうか?」
「王都の冒険者ギルド本部に、魔王復活の一報を至急報告しなさい。全世界に向けて周知し、警戒せよと!!」
この言い方だと冒険者ギルドとか国同士で連絡できる魔道具とかあるんだろうな。
「がははっ、もちろん承りました!」
ちなみに、この熊男は重度のロリコンだ――見た目が八才のままのソニアだったら危険だったかもしれん。
「あの、疑いがなくなったのなら、私はここで失礼します……」
「ソニア、辛いことがあったらいつでも言って。力になるわ」
「がははっ、ソニア、そのぉ、悪かったな。いきなりBランク相当の実力者が登録したその日のうちに、他国の使者から盗難事件の協力を要請されたもんでな。断れなくてなぁ……」
黙れ、ロリコン! 謝って済む問題ではない。
マジックバッグらしき物を持っていると冒険者内に広まれば、ソニアを利用しようとする輩も出てくるだろう、悪目立ちさせた罪は重いぞ。
「……では、失礼します」
『マスター、どちらにいますか? ――聞いてなさそうです。はあ……、勝手に不幸だと決めつけられるのは、どうにも気分が悪いものですね』
以上がソニアと合流するまでの話。
『なるほどな、お詫びの金はいくらだった?』
『最初の質問がそれですか……』
――お金って大事よ?
第一章、完でございます。
第二章から旅のお供が増えていきます。
ここまで読んでいただいた読者の皆様、ありがとうございます。
まだまだシェイドの実体化は先になりそうですが、引き続きよろしくお願いいたします。
以下、くれくれのお願い。
ブクマ、評価、感想があると作品を肯定されている気がしてモチベーションが上がりますので応援よろしくお願いいたします。




