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あやしい影に転生しました ~自己主張できない周囲に流され系だった不遇モブが、異世界デビューで思いつくまま気の向くままに投げっぱなしジャーマンする話~  作者: yatacrow
第一章 あやしい影に転生しました

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第22話 あやしい魔王降臨 中編


『それじゃ、ソニア、場所を変えるぞ。俺のタイミングに合わせて垂直ジャンプだ。両手を上げるのを忘れるな』


『…………』


 また拗ねてるっ! 子どもかよ! 子どもだった!


『さて、虫けら諸君よ。行くぞ、【影傀儡】――全員その場で垂直ジャンプさせてからの【転移】――』


 とうっ!


 転移先は、暴れても平気そうなギルドの訓練場を選んでみた。


 ソニアは両手を上げたまま着地、ハサンとマジデの女たちはバランスを崩したものの無事に着地できたな。


 地面に転がっているのは、ウザイン、支配人、ジャミラの三人。


 転移のタイミングで影傀儡やジャミラの影支配がキャンセルされてしまったけど、ぴくぴくが止まらないようだし問題ない。


「こ、ここはどこです? お前たちは警戒を怠るなっ!!」


「「「「「はっ!」」」」」


「おいおい、なんだぁ? いきなり目の前に団体さんと怪しい魔物だと? がははっ、おっ、ソニアもいるじゃねぇか! よお! さっきぶりだなぁ!!」


 驚きつつも、余裕で挨拶をしてきたのは熊男ことマッスゥ。


 個人情報を簡単に漏洩するギルドの幹部が気安く話しかけてくるんじゃねえ。


『マスター、どうしてここに転移したのですか?』


『ん? そりゃ、ソニアのいる部屋が汚れるのも嫌だったからな。暴れても大丈夫な場所に転移したんだよ』


『なるほど。……垂直ジャンプしたのはなぜですか?』


『いや、戦いの場所を変えるときは、垂直ジャンプって決まってるだろ?』


 だいたい火薬を派手に使えるところに、町中から飛ぶんだよな。


 戦隊シリーズだと、最後は大型モンスターと合体ロボットが町中で大乱闘しちゃうから建造物はほとんど破壊されるんだけど。


『……決まっているとは思いませんでした』


 うん、覚えておきなさい、いつか試験に出るから。


 それにしても、こんな夜中までマッスゥが訓練してたとはな。


 暇なやつ。


「ここは? 貴方は……マッスゥさんっ!? ということは、ここは冒険者ギルドの中ですかっ!? どうして?」


 支配人、マッスゥと顔見知りか。


 町内の寄り合いで挨拶ぐらいするか、そこそこのポジションだろうし。


『ふん、虫けらが一匹増えてしまったか。広い場所のほうが我の肉壁を紹介しやすいのでな…、出でよ、不死の世界の迷い子たちムーンギルドゾンビーズ――』


 カザン、ヨーゼフ、メガネ僧侶、ミンシアちゃんをゆっくり影から出す。


「うわあ、壁からゾンビがっ! これが魔王の力!!」


 支配人がいいリアクションする。


 ハサンたちは無言で警戒中。


「はーん? それはわしの宝石じゃねえかぁ? おい、ハサン、そいつらがわしの宝石を着けてるぞぉ!!」


 ナイスチェックだよ、ウザイン。


 よし、これでソニアの容疑は晴れただろ。


「がは……、笑えねぇな。おいおい、お前はカザンじゃねえか……」


 マッスゥの雰囲気が変わった! めっちゃ怖いぞ!?


『……おお、そこの虫けらはこの肉壁と顔見知りだったか、安心するといい。お前もすぐに仲間に入れてやろう』


「はっ! お断りだぜ。色々と訳が分からねぇが、お前がブレッシェルやムーンを襲った魔王だとするならば、お前だけは許しちゃなんねぇって事だ。おい、ソニア! こいつはお前の(かたき)だ……、いや、そうか、お前はこいつを倒すために冒険者になったんだな」


 登録したばかりの冒険者がどれだけ努力したらBランクに近い腕と知識を持てるって言うんだ。


 そうか、魔王を倒す……その目的ためにお前は命を―― と続きを影読みで確認。


 いやいやいや、ソニアにどんどん重たい設定が乗っかってくんだけど!?


 仮にソニアが命をかけた猛特訓をしていたとしても、まだ俺が墓から出てきて二週間も経ってないよ。


 あー、あれかな? ソニアは時間と老化が止まっちゃう的な部屋で修行でもしたのかなー?


 やめて! もうそんなに設定盛ると――


「マッスゥさん、その通りです! おそらくソニア様は魔王カタストロフを追ってこの町まで来たのです。そして、魔王が大使様のお世話係の影に潜んだことをどこかで偶然察知して、手前どもの宿に泊まったのです。新米の冒険者が一ヶ月も宿代を払ってまでシータウンに滞在する理由、それは魔王が正体を現すのを待つため! ソニア様、違いますか?」


 ほら、来たよ、早口でまくし立てる設定盛り盛り中毒の支配人!!


 マッスゥに乗っかってさらに話を広げるとか、宿屋やめて小説家になれや。


 えーと、あれだぞ、三点リーダとかダッシュ記号は二回ずつ使えよっ!


 支配人の話の展開が盛り上がりすぎて、誰も矛盾に気づかないんだけど……。


 偶然察知とかどんなスキルよ?


「…………」


 ソニア、何も言えないよな。


 もはや状況についていけない感じの困惑顔だ。


「そうですか……、その顔を見れば十分です」


「がははっ、水くせぇぞ。もっとお前は大人を頼れ、頼ってくれていいんだぞ!?」


 いや、どうした支配人とマッスゥよ?


 ソニアの顔を見ながら脳内で、設定がガン積みに盛られてるんですけど……。


 もうこれは影読みするのも面倒くさいレベル。


「なっ! ……では私たちはとんでもない勘違いをしていたと?」


 ついにハサンたちに伝染しちゃったよ!


 いやでもこの展開は俺たちからしたらウェルカムだけども!


 お、ウザインがこの流れのおかしさに何か言いたそう。


 ゆっくり立ち上がって、俺とソニアを交互に眺めて――


「はーん? いや、でもこいつと魔王がぐるの可能性も――はむなぷとらっ!」


 おいぃ! ハサン、殴っちゃったよ、自分のご主人を殴っちゃったよおぉ!!


「お黙りなさいっ! こんなうら若き乙女を盗人と疑い、さらにこの鬼畜な魔王の仲間だとまでウザイン様はおっしゃるのですかっ!! 我が主人ながら唾棄すべき存在になったものですね!」


 いや、うら若き乙女を盗人として最後まで追いつめたのはお前なんだけど?


 わざわざ冒険者ギルドから個人情報まで引き出して……。


 すげえ軽蔑した目で、ご主人の事見てるけど後で叱られない?


「おいおい、大使様よ、あんたは疑っちゃならねぇもんを疑った。このままだと悪いがあんたの依頼を受けることは出来ねぇな」


 地方のサブマスが他国の大使の依頼を断っていいのかよ!


 ギルマスとか国から怒られるんじゃね?


 それに、依頼って海の魔物退治だよな?


 いいの? 町民の皆さんもきっと困ってるよ?


「ふふっ、副ギルドマスターが言うじゃないですか。いいでしょう、シータウン最高の宿“テティーズ”に、三代に渡って仕え続けた“アンドル家”の家長にして現支配人のノーベル・アンドルがここに進退をかけてウザインさまに申し上げます。即刻、宿泊費を精算のうえ出てってもらいましょう! チェックアウト……いえ、ゲットアウト(出て行け)!!」


 あーあ、大事なお客様に親指を下に向けたポーズでマウント取ってる。


 ゲットアウトって、もしや俺の耳が都合よく通訳してる?


 なんかすげえ歴史ありそうな言い方だけど、ただの宿の雇われだよね?


 ご主人の意向を無視して親善大使を追い出そうとしてるんだけど、ねえ、いいの?


 こいつら、盛り上がりすぎてヤバい顔してるけど大丈夫か?


 そして、俺、放置されすぎなんだけど。


 ゾンビーズとか出てきたはいいけど、することもないからぼーっとしてるし。


――あ、今度はマジデの皆の様子がおかしい、この空気に感染すると燃えちゃうの?


 皆、熱くなりすぎじゃね?


「みんなっ!」


「「「「うん!」」」」


 一人のマジデが他のマジデに声をかけ、互いに頷きあう、そして、冷たい視線で唖然としているウザインに――


 ダメだ、それ以上はウザインが死んじゃう、ウザインのヒットポイントはもうゼロよ!


 脳が加速してスローモーションでお送りするならこんな感じ。


 マジデ一号が、ゆっくりと口を開く。


「わぁ、たぁ、しぃ、たぁ、ちぃ、もぉ、おぉ、まぁ、えぇ、にぃ、はぁ、あぁ、いぃ、そぉ、うぅ、がぁ、つぅ――」


「そぉこぉ――までです!」


 スローモーションを強制終了。


 もうやだよ、誰か止めてくれ。


 マジデ隊の暴走を一言でぴたっと止めたのは、凛とした表情で、つんっとおっぱいを上に向けて堂々と立っている――ジャミラだった。


「「「「「っ! 奥様!!」」」」」


「こっ、これは! 奥様、具合の方は良いのですかっ?」


「がははっ、なんだ、いい女じゃねぇか!」


「ちょっとマッスゥさん! 失礼ですよ! この方は親善大使ウザイン様の奥方にして、ご結婚なされるまで王位継承権第八位を持たれていたジャミラ様ですよ!!」


 やべー!! 俺、どっかの王族を操ってたぁー!!


 え、ジャミラって奥さん? マジデの一人と思ってたわ!!


 しかもウザインより偉そう。


 さりげなくコアな個人情報をバラす支配人、ダメすぎ。


 というか、俺の影、薄くない? 影だけに……なんつて。


『マスター、元気出してください』


『あぉごぅばぁ』


 お、おう。サンキュな、ソニア。


 何言ってるかわかんないけど、ミンシアもありがとう。


「ハサン、主人に手を上げるとは何事か! 貴女たちも主人への無礼は許しませんよ!」


「はっ! ジャミラ様、申し訳ございません!!」


「「「「「申し訳ございません!!」」」」」


 ジャミラの厳しい言葉に、さっと片膝をついて頭を下げるハサンたち。


 いいの? 魔王いるよ? 警戒解くの危なくない?


「そして、支配人ノーベル・アンドル、冒険者ギルドシータウン支部副ギルドマスターのマッスゥよ。お前たちも少し冷静になりなさい」


「はっはい! も、も、も、申し訳ございません!!」


 おう、ジャパニーズ土下座は異世界でも共通のボディランゲージ。


「ちっ、言われちまったな。がははっ」


 ばつの悪い顔をしながらぼりぼりと頭を掻いているマッスゥ。


「ソニア、でしたね」


 厳しい顔が一変、すべてを包み込む菩薩の笑顔でソニアに体を向ける。


 もう、俺は空気だ。


 このまま魔王消えてもなんとかなりそう。


『ねえ、ソニア。俺さ、ゾンビーズ片付けるから、先に宿に帰っていいか?』


 一応、宝石類を盗ったのが魔王ってのは伝わったしさ。


『それは困ります』


 ですよねー。


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