第19話 あやしい昇格試験
「はい、では登録料は銀貨一枚になります。ギルドのルールやシステムの説明は必要でしょうか?」
どこの職員も同じような色気のない事務服だな。
冒険者は男が多いから、無駄に誘惑しないようにしてるのか。
三十すぎの女性は目がとても綺麗だ、それだけ。
ソニアのせいで、目が肥えてしまったのかもしれない。
「いえ、旅の途中で出会ったムーン支部の方から説明は受けました」
うん、嘘は言ってないな。
シャドスペ内に、ムーンの冒険者ギルドが丸ごと入っている。
そして、ソニアはシータウンに向かう旅の途中で、カザンたちから必要な知識は教わっている。
ギルド職員の冒険者応対マニュアル、冒険者ランクアップシステム、依頼の受注時の注意点や失敗したときのペナルティ等、全てソニアの頭の中に入っている。
今のソニアなら、ギルド職員の仕事なんて簡単に出来るだろう。
就職先が一つ出来たな。
「ムーン支部ですか、もしかしたらソニアさんは知らないのかもしれませんが――」
ムーン支部は壊滅、連絡も取れない状況で、今はシータウンのギルド職員や冒険者たちが、対応に追われているところだそうだ。
遠隔地への連絡手段がないと初動が遅れるよなぁ。
「そう、なんですね」
「はい、それでこの町も冒険者不足で依頼が滞ってしまって困ってます。新人のソニアさんが受けられる依頼は少ないですが、少しでも解決してもらえたら助かります」
ああ、ランク上がらないと受けられない仕事があるんだよな。
困った顔のお姉さんはいいね。
『Heyソニア、なんかお姉さんを困らせて』
『申し訳ありません。“なんかお姉さんを困らせて”を理解できません』
どっかの人工知能の返し方!
「承知しました、掲示板はどちらにありますか?」
「はい、右手のカウンターの前にありますよ」
お姉さんの右手は綺麗に手入れされていて素敵。
『マスター、その右手ではなくこちらの方を見てもらえますか?』
いや、知ってるけども!
視界共有してんの?
おっぱい、顔、おっぱい、右手の視点移動がもしかしてバレてーる?
『ソニア、依頼はどんなのがある?』
『そうですね、ムーンの町関係、ピュアスライムの核の大量発注、船の掃除、海岸線の魔物退治、ダンジョンの調査――』
ピュアスライムの核は……、やっぱりギリアムだったか。
覚えていたらスライムさんの核を確保しといてやろう。
『あちゃー! アーミーアントの牙と胴体が欲しいって依頼があるぞ。この間、大量に倒した奴を取っておけば良かったな』
惜しいことをした。
『この間のアーミーアントなら倉庫に保管していますよ』
まじか! ソニア、優秀だな。
ちなみに、アーミーアントの牙や胴体がたまに依頼として出ることや、解体の仕方については、鼻穴大ゾンビさんから教えてもらったそうだ。
というわけで、早速アーミーアントの依頼を解決しておこう。
他の依頼はランク低すぎて受けられないし、なんか面倒くさいな。
「はい、こちらの依頼はCランク以上じゃないと……、えっ? 持ってるって……。っ!! そんなにっ!? というかソニアさんはマジックバッグ持ちなのですね」
ソニアは新人Eランクだから一つ上のDランクまでしか依頼は受けられない。
ただ、このシステムには抜け道があり、Cランク相当の腕前だとギルドから信頼されていれば受けることができる。
今回は、人手不足で滞っている依頼を少しでも片付けたいというギルドの思わくにより、ソニアは腕前ありと認められた――ちょろい。
ちなみに、冒険者の登録はお金さえ払えば誰でも登録は可能だ。
「あの、これって私が誰かが集めたアーミーアントを盗ってきた可能性は考えないんですか?」
聞かなくていいことを聞いてしまう正直者のソニアさん。
職員のお姉さんが困った顔をしてくれた――可愛い!
まさかソニア、これを狙ったのか?
「はい、もちろんその可能性はありますが、誰かから奪う、そしてマジックバッグで運ぶ実力がある。とも言えますし……」
ずいぶん苦しい言い訳をしている。
冒険者の行動は全て自己責任、ギルドが管理している場所での揉め事は禁止されているが、管理下にない場所であればご自由にどうぞ。だってさ。
まあ、依頼者を脅して依頼を成功扱いにしたり、犯罪行為を行った冒険者たちは、不思議なことに誰にも気づかれずにいなくなるそうだ。
怖いな、暗殺者ギルドとかあるのかね。
『カザンさんが教えてくれましたけど、ムーンの町にはいなかったそうですよ』
カザン……、あ、ギルドマスターか。ムーンの町には、ね。
そういうのは、王都にあるって相場が決まっているんだよな。
『ソニア、その辺の疑問はさらっとスルーしてあげなさい』
「――失礼しました」
困らせた事に対して、ソニアが頭を下げると、谷間の向こうにおへそがちらりと見えた。
「はい、そうですね。……ではこちらが報酬になります。素材買い取り分を含めると大銀貨三枚と銀貨六枚ですね。こちらをお受け取りください」
大銀貨一枚日本円で、十万円……、銀貨が一万円だから、三十六万円稼いだわけだ。
一発当たるとボロい商売だな、これ。
「確かにいただきました」
「はい、ありがとうございました。この依頼は納期がかなり迫ってましたので本当に助かりました。それと、このあとソニアさんにお時間があるのでしたら、適正ランクへの昇格試験を受けてもらえませんか?」
なるほど、後付けでDかCランクにしておこうってところか。
最悪、信頼に足る実力だと確認できれば試験に落ちても問題なくなるからな。
『ソニアなら楽勝だろうし受けてくれ。Cランクになれば魔物退治とかダンジョン調査の依頼が受けられるようになるぞ』
『……どんな試験か分かりませんが頑張ります』
大丈夫、ソニアの後ろにはムーンギルドゾンビーズが憑いてるぞ!!
『付いて、いるんですよね? あの、もういいです』
「昇格試験、特に準備することがなければ是非とも受けたいです」
「はい、では試験はこちらの訓練場にて行います。試験員の準備がありますので試験は午後からになります」
訓練場か、広々として大暴れ出来そうだな。
壁やら天井に魔素の反応があるぞ?
『マスター、訓練場の周囲には魔法や衝撃に耐えられるように魔力が込められているようです。できれば吸わないでください』
『おお、早く教えてもらって良かった。あと少しで吸ってみようってなるとこだった』
ソニアがふぅっと胸を撫で下ろす、手が下がった拍子にぷるんっと揺れるね。
『ソニア、今の良かったよ』
ノーマルスキル【影絵・サムズアップ】――
『この影絵は何を意味していますか?』
伝わらない! 知識の偏りよっ!!
午後の試験に向けて武器を見に行こう。
◇◇◇
「――はい、やめ。用紙をこちらに。はい、私は筆記試験の採点をしてきますので、その間に実技試験を副ギルドマスターのマッスゥさん、よろしくお願いいたします」
午後になり、ソニアの適正ランク昇格試験が始まった。
受付の困った顔が素敵なコマリコお姉さんから試験問題と解答用紙を渡された。
試験時間は一時間、俺にはよくわからない問題もウィキソニアに任せれば採点結果を聞くまでもなく満点だ。
カザンもうんうんと頷いている。
あっ! ころりんしちゃった。
カザン、もうそのネタはソニアがやってるからパクっちゃダメだ。
『ずぅばぁなぁぃ(すまない)』
うん、次から気をつけて首は振ろうね。
でも、頭を蹴ってしまうところまでかぶるのは奇跡だ。
『ちょっと! 静かにっ! していただけませんかっ! 集中、しないとっ!!』
「ふっ! はぁ!」
現在、ソニアは実技試験の真っ最中だ。
マッスゥという毛むくじゃらの熊男は大きな図体のわりに素早い動きで、ソニアに刃を潰した剣で切りかかる。
ぎいいぃんっ! 鉄がぶつかる音と同時にマッスゥの剣を受けたソニアが押される勢いに乗って後ろに飛ぶ。
「がははっ! やるなぁ、姉ちゃん。そんなもんで俺の剣を受けきるとはなぁ。開始してから五分くらいか? ずっと防戦一方だが、実力は今のでCランク以上だぞ。さあ、これはどうする? 火精よ集まり槍となれ、貫け【炎の槍】――」
マッスゥの左手に凝縮された魔力から炎が吹き出し、槍の形を作る。
そのまま、マッスゥはソニアにそれを投げつけた。
「くっ!」
ソニアは柄を軸に身の丈以上の大鎌を回転させて、炎の槍をかき消す。
「がははっ、なぁ、姉ちゃん、その武器ってメインなんだよな? なんだか慣れてないような……。まあ、いいや。次行くぞっ!」
『マスター、大鎌ってかなり使いにくいんですが? それに、私がカザンさんたちに教えてもらった武器は長剣と槍なんですけど……っ!』
ロマン武器にご不満がおありのようだが、そんな内心がわかるわけもないマッスゥの追撃、近づいて大上段から剣を振り下ろす。
『大丈夫だ! ソニアなら初見でも使いこなせるって! 銀髪美少女と大鎌はセットだぞ!! たぶん……』
マッスゥの剣を最小限の動きで避けて、すかさず大鎌の刃でマッスゥの足元を薙ぎ払う。
「うおっとと! がははっ、トリッキーな動きだぜ」
剣を地面に叩きつけたまま、前のめりにジャンプして大鎌を飛び避けるマッスゥ――やるじゃん!!
『……セットだと思うなら、前もって教えてください、よぉっ!』
「はあぁっ!!」
気合いとともに、薙ぎ払った大鎌をそのままもう一回転、今度はマッスゥの首を狙う。
は? 俺は全然見えなかったけど、えげつないスピードで回転してみたいだな。
気がついた時には、マッスゥの首にぴたりと大鎌がかかっていた。
『うおー!! すげぇ、ソニア。どうやったかわからないけど、俺なら首を狩ってるぞー!!』
『ふうっ、ふう、首を狩ったら試験は不合格になると思いましたので止めました』
「っ!! がははっ、姉ちゃん! すげぇな、足元を通りすぎたと思った刃が、気づけば俺の首元に刃がかかってやがる。どうやったんだよおい。――おめでとう、筆記の採点次第だが姉ちゃんの実力だけならBランクでいいぞ」
「はぁ、はぁ、ありがとうございます」
ゆっくりと大鎌を下ろし、息づかいを整えてお辞儀をするソニア。
いやはや、ここまで強いのか。
ソニアの良いものを見せてもらった。
もちろんマッスゥには見せないように、幻妖で湯気を出しておいた。
さて、採点結果はまだかいな?




