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第1話 あやしい自我の芽生え


『――集めよ』


――知らない天井だ、と思う。


 何も見えない、暗闇の中で俺は自分が何だったかを少しずつ思い出していく。


 影内広(かげうち ひろし)、IT企業『ポジティブモンス』に入社して三年、地味で目立たずひっそりとモブな生活をしていた。


『――集めよ』


――両親は?


 ……ところどころ記憶がない。


――そうだ、俺……会社の飲み会帰りに道路に飛び出してトラックにはねられたんだっけ。


 てことは病院のベッド? でもどこも痛くないし、病室というより霊安室な暗さ。


 ほぼ即死でもおかしくない俺が痛みに気をとられずに思考出来ている――あ、俺死んでるねこれ。


 まじかぁ、そっか、死んだのか。


 あの会社は死ななきゃ辞められないってことだったのか――


 で、この俺の状況をどなたか説明プリーズ。


 五感を意識できない、誰かに助けを求めたいけど声が出せない。


『――集めよ』


 待て、じゃ、この声をどうやって聞いてる? あ、幻聴――


 やべ、俺って狂ってる? これが狂ってる感覚? 手がかりは声の主だけ――


『――集めよ』


 集めよ……、何を? あ、魔素を? どうやって? 【魔素感知】?


 あ、出来た――よくわからんけど、声の主の意図が伝わった。


 俺はどうやら大きいの小さいのがころころと丸い玉だらけの部屋にいる。


 中身が透けて見える? ビー玉クラスの塊を包んでいるピンポンサイズの玉が周囲にいっぱい落ちてて、向こうに野球ボールな塊を包むラグビーボールがある――ややこしいな。


 やべ、さらに混乱してきた。


 とにかく、声の主は野球ボールを狙えと言っている――てことはあれが魔素なのか。


『――集めよ』


 オーケー、ところでバイザウェイどちら様? ゲームマスター? チュートリアル的な声です?


『――集めよ』


 無視かい! えーと、気がついたらゲームのキャラに転生してました? 的な奴? 五感のない状態でプレイとかベリーハードなんだけど――


『――集めよ』


 よし、この声をチュートリアルと仮定しよう。


 死んだと思われる俺がよくわからない声と一方通行な会話をしている時点で十分ファンタジーだし、俺はベリーハードな何かに転生した!! ――よし泣こう。


『――集めよ』


 ノーリアクションで上から命令してくるチュートリアル、集めよってどうやって? あー、あの大きいのに近づいて【魔素吸収】……か。


 なんで? 小さい玉はいっぱい落ちてるよ? 競争率低いよ?


『――集めよ』


 俺が小さい玉に意識を集中しようとすると、チュートリアルの声が邪魔するように『集めよ』って言ってくる。


 食い気味で『集めよ』って言える感情があるなら、きちんと話そ?


『――集めよ』


 えー、この辺の小さい玉を吸収しちゃダメなの?


 向こうまで行くのめんどい……、お試しで【魔素吸収】、俺のとこから細い糸が伸びて小さい玉につながる。


 ピンと張った糸から魔素が流れてくる。


 むっ! 向こうも俺に細い糸をつけてきた。


 どっちが先に吸い終わるか勝負!! ――よっしゃ! 吸い勝ったー!!


 五感で説明するなら、イクラを舌で潰したときのぷちっと良い音が鳴る感覚。


『――集めよ』


 あれ? もしや怒った? どうなる? どきどき。


『――集めよ』


 …………。


『――集めよ』


 ……ふーん、声を無視しても危険はなさそうね。


――口角上がっちゃうよ? 口はないけど。




◇◇◇




――ぷちぷちぷちぷちぷちぷちぷちぷちぷちぷちぷちぷちぷち……。


 ひゃっはー!! 


 おっ、また魔素感知ができる範囲が広がった。


 魔素を集めてると自分が成長する瞬間がある。


 この感覚をレベルアップと名付けよう。


 チュートリアルの声を無視してしばらく小さい玉からレベル上げ作業。


 範囲内にある小さい玉達の魔素をまとめて吸収できるようになったぜ。


――ぷぷぷぷちん、ぷぷぷぷちん、ぷぷぷぷちん……。


 ひゃっはー!!(二回目)


 ゲームだったらチュートリアル終わるとシナリオが進むからな、とりあえず出来そうなことを試す。


『――集めよ』


 それにしても何度も同じことばかり言われると、すごく不安な気持ちになるな。


『――コミットせよ』とかだったら発狂してたな……。




◇◇◇




 なぜか魔素から味を感じる? もしや前世の記憶が脳内で五感の代わりをしてくれてるのかも――脳があるのかさえ疑問だけど。


『――集めよ』


 この辺の小さい玉はほとんど俺が吸いとったし、レベルも上がらなくなってきたから、そろそろ大きいのを狙うか。


 移動方法は転がる……。


 ま、動けるだけありがたい。


 ころころと転がってラグビーボールに近づくと、中心に魔素を感じる。


――糸をつなげて吸うぅ!!


 おおお! イクラと違うゼリーな食感? じゅるじゅると十秒チャージ。


 そうか、チュートリアルさんは、俺にゼリーの良さを教えようとしてくれたのか?


『――集めよ』


 違うらしい、だんだん意志疎通が出来てきた。


 【魔素感知】、おっ!! 範囲内にいくつかのラグビーボールを発見!!


 面倒だからそれぞれに糸をつなげて……吸うっ!!


 っ!? これは抵抗されてる? むしろ俺が吸われてる?


 いくつかのラグビーボールから糸を離す、あ、楽になった。


 三つくらいまでなら同時に吸っても大丈夫そうだ。


 じゅるじゅると吸い続けても飽きない、お腹いっぱいにならない。


 じゅるじゅる時々ぷちっとレベルアップ。




◇◇◇




 じゅるじゅる、ぷちぷちを続けてどれくらい時間が経ったのだろう――


 いつの間にか『集めよ』の声が聞こえなくなった――チュートリアル終了?


 でもなーんか俺の中に俺じゃない意思があるんだよな。


 静かになったところで、異世界転生の定番、最初のお約束を思い出した。


――ステータス、オープン!!


 はい、出るわけない……知ってた、だけどチュートリアルの声が何だかわかった。


 俺が何者なのかもわかった……わかってしまった。


 よくあるゲームのステータス風にわかったことを表現すると――



 種 :【魔影】成体

職 能:

スキル:【魔素吸収・プロ】

    【魔素感知・プロ】

    【影宿(かげやど)り】

    【影収納】

称 号:【理性ある狂気】

    【同族喰らい】

    【イレギュラー】



 俺の物語にタイトルを付けるなら……、転生したら人外だった件――


 俺は魔素溜まりから生まれた魔物の一種で、生物の魔素を吸収して成長する魔物――


 保有している魔素が枯渇するか、核を破壊されると俺は死ぬらしい。


 チュートリアルの声(仮)の正体は魔影の本能が出してる信号で、前世記憶が俺に理解できるように、意訳してくれているようだ。


――通常、生まれた魔影達は本能に従って()()()の魔素の回収に向かうらしい。


 だけど、俺の場合、前世の記憶を持って生まれたせいで、エラーが生じて自我が芽生えた……らしい――ちょっと意訳さん、ちゃんと仕事しろ。


 ぷちぷちが生まれたばかりの同族で、じゅるじゅるがスライムだった。


 称号の【同族喰らい】……ごめん、知らんかったんや!!


 本能がギルティって言ってる気がするけど、それは俺の記憶が変換してるだけだからわかりません。


 気を取り直してスキルを確認していこう。


 職能? わからん。


【魔素吸収・プロ】……範囲内の指定した生物をまとめて吸収することができる


――プロって……確かに使い慣れたけど。


【魔素感知・プロ】……核を中心に魔素を感知することができる


 あ、感知の範囲がぶわっと広がった感覚があったけど、あのときにプロになったのかな? 直径で五メートルくらいか。


影宿(かげやど)り】……本体が触れている生物の影に入り込むことができる


――生物の影? とりあえず近くの新米魔影君に使ってみる……、あ、俺の核が影に入りきらないとダメなのか。


 じゃあ、スライムなら? ――よし、スライムの影に入れた。


 そしてスライムが前に進むと影である俺も一緒に進むのね、ナメクジより遅い速度。


 移動は転がったほうが確実に早い。


 よし、いよいよ次は――


【影収納】……自分の本体内に収納することができる


――本体内に、『何を』収納できる? 何でも?


 あと本体が核のことを指すなら収納スペース狭すぎなんだけど。


 急に説明不足……。


 でもよく考えたら、俺が死ぬまでの記憶しか持たないわけだし、異世界の人外情報なんて理解できないのが当たり前――


 むしろここまで人外情報をなんとなくのイメージで理解できてることを誇るべきなのか。


 おそらく転生物のラノベのおかげでイメージトレーニング出来てたんだと思う。


 とりあえずイメージはあるし、あとは実践あるのみ。【影収納】――


 黒いもやがぶわっと広がる。


 なるほど、俺の本体は核にまとわりついている黒いもやも含むのか――


 黒いもやを横に広げるとスライムより一回り小さいくらいか、残念ながらあんまり収納できそうにない。

 

 核は入れられるのか、よし大事な核は収納スペースへゴー。


 宿主のスライムも入るかな? お試しでレッツゴー!!


 べちゃっと音がして、俺の上に収納しきれなかったスライムの余りが落ちてきた。


 俺はスライムの影に入っていたから、端から見れば収納した瞬間は、だるま落とし大成功、スライムの上辺が地面に落ちた感じだろう。


 ……狭い――核とスライム肉で収納スペースが大変なことになった。


 【魔素吸収】――よし収納内でも使える、じゅるじゅる。


 収納スペースに俺の核とスライムの核――


 だいぶすっきりした。


 っ!!


 ……レベルアップきたか!?



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