第18話 あやしいビップルーム
着いた……。
ギリアムは町に入ると馬車とともにどこかに行ってしまった――忙しい奴だな。
誰かに俺の事を話すかな?
ま、どうでも大丈夫だ――最悪、転移で逃げるし。
それより問題は、このシータウンだよ。
『マスター、明らかに元気がないですね』
ソニアは魔法使い風のローブスタイルで、フードを頭からすっぽりと被って、目立たない格好をしている。
もちろん幻妖も使用中だ。
俺はフードの中にいる。
ここだとソニアの頭視点で周囲が見えるし、下を向くとローブの隙間から谷間が見えるナイスポジションなのだ。
――また一つ、夢が叶った。
ソニアを生かしてて良かった。
『ああ、だって海の町って、波止場と船がいっぱいのただの港町じゃん』
海岸線には魔物がいるから危険だとかで、水着美女ときゃっきゃうふふしてるリア充のバーベキューパーリーは開かれてなかった。
むしろ、屈強な漢たちがマグロでも釣りに行くのかってぐらい海は大荒れだったよ。
『その話はギリアムさんがずっと説明してたじゃないですか』
『基本的にギリアムの話は長いから聞いてないな、伝えたい事は三行にまとめてほしい』
『ギリアムさんにそれを求めるのは間違っていますね』
うん、それは俺が間違っていた。
『まあ、いいじゃないか。とりあえず町中を歩くのは明日にして今日は宿でゆっくりしようぜ』
シャドスペには、ムンラスベッドが置いてあるからソニアはそこでも休めるのだが、さすがに町中で影から出たり入ったりするところを人に見られるのは不味いからな。
『あ、ここの宿がギリアムさんの話だとオススメだそうですよ』
どーんっと歴史を感じさせる佇まい、なかなか立派な門構えだな。
宿は町の北側にあって、すぐそばの船着場に豪華客船が停泊している――天気が良ければ良い風景影絵が描けそうだ。
『いいぞ、一ヶ月は泊まれるだけの金を渡しておけば拠点としてゆっくり使えるだろ』
『マスター、そんなにここに長居するのですか? すぐに出立する可能性もあるなら、そこまでしなくても……』
『ああ、金の心配ならしなくていい。何日この町にいるかはわからないが、いちいち手続きするの面倒だからな』
それに、この町から出るときまでに返して貰うし。
『わかりました、ではそのように』――手続きは私がやるから別に構わないんですけど。
ぶつぶつと呟いているソニアに、大銀貨を一ヶ月分の三十枚を渡して宿で手続きをさせた。
船が出せないせいで、足止めを食ってる客が多いのか、ソニアが一ヶ月分をまとめて支払っても特に不審に思われることもなかったようだ。
「――はい、ではソニア様、ごゆるりとお過ごしくださいませ」
ギリアムのオススメだけあって、しっかりとした接客態度だ。
三階建の宿の二階、上がってすぐの部屋に案内された。
部屋に行く途中で、三階のビップルームには、ラスト大陸――俺たちがいる大陸――から、船で一ヶ月ほど東に進んだ先にあるサラマンドル大陸北部にあるサラザード砂漠地帯を治める国から親善大使が来ているらしく、くれぐれも粗相のないようにお願いします、とソニアが懇切丁寧に説明を受けていた。
『なあ、ソニア。商う者のジョブを持っていると話が長くなるんじゃないか?』
『……否定できませんね』
部屋の中は、可もなく不可もなく、窓からは曇り空の下、荒れ狂ってる海が見える。
……天気の悪い日の海って不安になるよね。
ぽすんっとソニアがベッドに腰かける。
『よし、じゃあ行ってくる』
『あの、マスターどこかに出かけるんですか?』
『おう、ちょっと三階のビップ見てくるわ』
親善大使の性別と、どんな部屋なのか気になるし。
『私も見てみたいです』
うん? ゆっくり休んでていいのに。
『見てみたいって、シャドスペから見えるのか?』
そういえば、いつもゾンビーズと中を片付けたり、ベッドであふんあふん言ってるとこしかなかったけど、ソニアも見えてたのか?
『なんか失礼な思念を感じましたけど、マスターの精神干渉に私の精神干渉を同期させると視界が共有できるんです』
まじか、じゃあ一人でむふふシーンを楽しんでたけど、実はソニアも見ていたと?
『えっと、お風呂とか女の人の胸とかお尻を見てるときは同期を切るようにしてました』
うわ、恥ずかしい! 八才に気を使われてた?
『そ、それは教育上良くなかったな』
『いえ、教育上の良し悪しを今さら反省されましても……』
まあ、確かに今さらか。
それじゃご一緒しますか。【影収納】――
◇◇◇
広々とした空間に、王都から取り寄せた装飾品や、歴史を感じさせる雰囲気の主賓室、ビッグなキングサイズのふかふかベッド、高級バスルーム完備!!
同じような部屋が何部屋かあって、エキゾチックレディたちがくつろいでいたり、おしゃべりをしたりしていた。
個人的にはそっちも興味があったが、今回はこの宿で一番ビップな部屋を覗くことにした――まだ初日だし、楽しみは取っておこう。
『すごいですね、外国の親善大使を迎えるだけありますね!』
ソニアが目をキラキラさせながら室内を眺めている――この辺は八才なんだよな。
『ああ、いいなぁ』
とりあえずムンラスベッドとあのベッドは交換して……、いや、宿ごと入れるか?
でも、あんまり広すぎると落ち着かないんだよな。
冒険者ギルドの二階の部屋に……、うん、ベッドだけなら入るな。
バスルームは――
『なあ、ソニア、シャドスペでも風呂に入ったりとかできるのか?』
『……お風呂に入るためには、湯を沸かすために炎系の魔物の核を発熱させる必要があります』
つまり、炎系の魔物の核があれば俺の中でも風呂が入れるのか。
じゃあ、バスルームも貰っておくかな。
『マスター、私は無理してお風呂に入らなくても――』
『何を言っているんだ、ソニア! ソニアが風呂に入るためじゃない、俺がソニアを風呂に入れるために貰うんだよ!』
そこ、勘違いしちゃダメなとこ。
シャドスペにバスルームがあれば、外で野宿するときでも素敵なワンシーンが楽しめるんだぞ。
『ソニアちゃん、いるー? ――きゃあっ、シェイドさんのエッチぃ!』
ばしゃり、そう、お湯をかけられたい。
『――スター、マスター!』
『うぇい! あ、すまん! また異世界旅行してたわ。ソニアは俺にお湯をかけたりしないもんな』
『えっと、どこからお湯をかける話になったのでしょうか。マスター、ここのバスルームを収納しますと、村の中でかなり浮いてしまいますけどよろしいですか?』
あー、それな。
こじんまりとした村に、二階建の冒険者ギルド、その隣に高級バスルーム……。
確かに合わないな。
『でも、いいのか? お風呂、ソニアも嫌いじゃないだろ?』
『まあ、一度は一人でゆっくりと入ってみたいですが……』
そう、この世界の庶民のお風呂といえば公衆浴場になる。
時間も決められているし、ごみごみしていて色気がないのだ。
一応は覗くけど!
『そうだろ。でも、まあバスルームだけ浮いてるのもちょっと嫌だな。一旦、保留にしよう』
シャドスペのレイアウトは、王都の物件を見てから配置を決めてもいいな。
お城と城下町、デビルプラント園、そして、こじんまりとした村。
うん、悪くないぞ。
まあ、お城とかはシンフォニアだっけ? そこを見てからだな。
そうだ、バスルームから大きめの鏡だけは貰っておこう。
ソニアが使うかもしれないし。
それじゃ、あとはムンラスベッドとキングサイズベッドを交換っと。
――うーん、高そうなベッドではあるけど子ども用だからな、すごく違和感が……いや、ない。ないったらない!!
それにもう気に入ってしまった。
このベッド、めっちゃ柔らかぁ。
沈むなぁ、眠くなるわ――寝れないけど。
『マスター、この広い空間がさらに広く感じるほどベッドが小さくなったのですが?』
『えーと、ほら、親善大使がうっかりさんでベッドが変わったことに気づかないとかさ――』
あでー? なんか部屋を出るときより、広くなったどー? 的な。
『そんな迂闊な人が親善大使になれるとは思えないのですが……』
さすがソニアさん、鋭い、頭いいなぁ! さすソニ!!
『もういいじゃん、とりあえずこのまま様子見てようぜ。小さい魔素が何匹か近づいて来てるし』
つまり、元に戻す暇はない。
どかどかと大股で歩いてきて、乱暴にドアが開けられる。
何でかね、もう怒ってんだけど。
「はーん? とても不味いねぇ、この宿の、いやこの国の食事はぁ! 早くこの国から出たいんだがぁ?」
『おお、“カンドゥーラ”、“クゥトラ”、“アカール”だ!』
『何の呪詛ですか? 無差別に人を呪うのはどうかと思います』
いや、なんで誰かれ構わず呪うキャラ扱いなの?
『いやいや、服装の名前だよ。俺がいた世界では砂漠地帯の国の人が着てる服装がこんな感じだったから、こっちでも似たような文化が育つんだなって思ってさ』
まあ、大きなわし鼻が特徴的な彫りの深い顔のおっさん、背は小さいな。
白いカンドゥーラに、金のネックレスだの宝石の指輪をこれでもかと装備している。
ステータスアップ効果でもなければ肩が凝りそうなんだけど。
「ウザイン様、そう申されましても、今は海の魔物が暴れていて船が出せません。もう少しだけお待ちくださいませ」
お付きのおっさんは、目の下にくま作って大変お疲れのご様子だな。
楽にしてあげるかな?
額にはりついた汗をふきふきしながら、早く帰りたいと愚痴るウザインをなだめている。
「はーん? おいハサン、わしの仕事は何だぁ? この国の王への挨拶は終わったのだぞぉ。貰うものを貰ったんだから帰るだけだろぉ?! だいたい何でこの国に来たときは穏やかな海が、帰る時になって大荒れしているのだぁ? 冒険者ギルドの調査はどうなっているんだぁ!!」
体は小さいのに、声も態度もビッグサイズ――体のサイズ的にムンラスベッドで十分だな。
「はい! えーと、それが……ギルドの報告では、魔王復活の影響ではないかと……」
また、魔王の話か。
『物騒な世の中になってきてるな』
『そう、ですね』
魔王の話になると、何か物言いたげなんだよなぁ。
それにしても、王様からは何を貰ったんだろう?
えーと、どこかに置いて――、あ、あの箱か――
お、大事に包まれているのは形的には剣か。
箱の中に鍵穴からするりと入れば外からは見えない。
よし、新米冒険者の訓練用のボロい剣と交換しておこう。
『マスターはファーストフードでハッピーなセットを注文するように物を盗りますね。何を入れたんですか?』
『盗るって……、それは違うぞ。多少の価値観の相違があるかもしれないが等価交換だ』
『等価交換の意味をお分かりでしょうか? 等価であれば大丈夫ですが……』
知ってますぅ。
『いいじゃん、別に。……分かった、じゃあこうしよう。海の魔物? 俺が倒せば少しは対価になるだろ?』
そしたら、ウザインたちは国に早く帰ることが出来る。
そして、俺は高そうな剣と新しい核をゲット出来る――まさに一石三鳥だ。
『……そうですね。それでよろしいんじゃないですか』
ソニア、何か投げやりになってないか?
『よーし、おっさんの入浴も着替えも見たくないし、そろそろ二階に戻るぞ』
『はい、ご一緒できて楽しかったです』
部屋を見るぐらいで大げさな。
どうもソニアは新しいものを見るのが好きなようだ。
しばらくして三階からおっさんの叫び声が聞こえてきた。
俺がソニアの生着替えをじっくり堪能していたときに、鏡がどうとか大声で怒鳴ってからに。
他の宿泊客の事も考えない傲慢な親善大使には罰を与えよう。
ソニア? あいつなら俺を抱っこして隣で寝てるよ。




