第16話 あやしい名前
ジェネラルアーミーアント 【無音】【歩行】【統率】【酸】【集団行動】
獲ったどおぉーっ!!
アーミーと名乗るだけあって団体さんで襲いかかってきた。
最初の斥候アリ三十匹を魔素吸収で一気に吸い上げ、あとから来た兵隊アリ百匹と引率の将軍アリは何匹かをソニア用に丸ごと飲み込んで、残りは俺が美味しくいただいた。
少し酸っぱいみかん味だった。
皮の剥きすぎで指先が黄色くなるぐらい食ったからしばらく食べたくない。
――お粗末様でした。
『ふっ!』
シャドスペ内で、ソニアがばきっと将軍アリの顎を蹴り砕いたところで戦闘終了だ――いい足をしている。
ソニア、楽勝ムードだったはずだけど、はぁはぁと息を荒くしてどうしたんだ?
――ソニアはレベルが上がった! ソニアはレベルが上がった! ソニアはレベルが上がった! ソニアはレレレのレ……。
流石の成長速度二倍チート、ソニアのレベルアップが止まらない。
びくんびくんするたびに、ソニアの魔素が膨れ上がっていく――俺もチートほしい。
『ソニア、レベルアップおめでとう』
『んっく! マスターっ! んん! あり、がと……ます、ん!』
また変な声出してから。
よーしここは暖かいセクハラしてやろう。
『おいソニア、お前のことゾンビーズが見てるぞー』
『やっ! 恥ず、ん! かしいです……』
いいっ!
さて、ソニアもようやくレベルアップが終わったようだな。
暗いから見えにくいけど、衣服が乱れて、頬を紅潮させているソニア。
グッドだ!
『はぁ、はぁ。マスター、一度外に出してもらっていいですか』
あ、少し怒ってる? 外に出たい……かぁ。
うーん、ま、いいか。
『ほいよ!』
「ふぅっ! ありがとうございます、マスター」
んーっと両手を上げて伸びるソニア、胸元のボタンが取れたのか谷間がちらっと見えてるぞ。
「…………」
ギリアムは、何が目の前で行われたのか理解できていないようだな。
俺がギリアムの影からアーミーアントたちを美味しく頂いただけなんだけど。
『おい、ギリアムよ』
「うぇっ!?」
ちょっとキャラ崩れてないか? まあいいや。
『俺は……』
あ、やばっ! この世界で初めて名乗ることになったけど、影内って名乗るの? 世界観キツくない?
「ギリアムさんが固まってますけど……」
いや、ちょっと待って。
名前、名前……。影だからシャドウ――
ダメだ、なんか仲間に置いて行かれそうだ!
『なあ、ソニア、俺の名前知ってる?』
「……知りませんよ、そもそも名乗られてませんし」
うわ、冷たっ! マスターの名前ぐらい知っとこうよ! 興味持とうよ!
「あのー、先ほどの声は貴女でしょうか? もしかして私は死んだのでしょうか?」
ギリアム、ちょっと待って、勝手に話を進めない!
そうだ、ソニアとギリアムに精神干渉しとかないからややこしいんだ。
違う、それより名前だ、考えろ、考えろ。
『ギリアムに話しかけてるのはその女じゃない、今、名前を考えてるからちょっと待ってろ!』
「えっ? あ、あぇーと、これは……?」
「マスター、ギリアムさんが混乱しています。どうでもいいことで時間を取らないでください」
そうだ……名前などはどうでもいい――いや、どこの右手さんだよおい!!
外に出てから辛辣だな、ソニア。
魔素操作してもいいんだぜぇ? へへへ。
「マスター……」
おっとソニアに不穏な思念を捉えられたか。
っと、いかんいかん。
話が脱線しすぎて異世界まで行ってたわ。
よし、決めた! 俺の名前は――
『わたしはシェイド、こんごともよろしく……』
カオスシェイドからシェイドだけをもらうことにした。
「マスターは、いつ邪教の館で悪魔合体したんでしょうか?」
なんでそんな知識まで持ってるんだソニア、知識に偏りがありすぎるだろ。
「シェイド……」
『いや、呼び捨てかーいっ! 危ないところ救ってやったのにお礼も言えないんかいっ!!』
「はっ! あ、いえ、その……」
おいおい、商人のくせに挨拶がなっとらんのー。
「えっと、この頭に響く声はシェイド殿と言うのですか。私はギリアムというしがない商人です――申し訳ありませんが、少しだけ整理する時間をくださいませんか?」
おいおい、義務教育じゃないだよ。
時間は有限、待ってくれないんだ!
ハリー、ハリー!! ヘイヘイ、ハリーアップだぜ!
「マスターはずっと暇じゃないですか。私がギリアムさんに事情をお話しますから大人しく待っていてください」
ぐぬぬ! 仕方ない、説明面倒だしソニアに任せよう――
◇◇◇
「全部、あんたのせいだったのかぁ!!」
うわー、めっちゃ怒ってるんですけど?
ねえねえソニアさん、なんで俺が人間だったとかの話から今までのストーリー全部お話しちゃってんの? バカなの? わざとなの?
はあ、話して良いことと悪いことをあとで教えないといけないな。
そして、ギリアムの話は続くよどこまでも――
「あんたがゴンドール様の墓所を荒らし、恵みの森を死の森に変え、ブレッシェル村をゾンビが徘徊する村に変え、そして、ムーンの町での魔物騒ぎ、盗難事件、失踪事件、冒険者ギルドの職員や冒険者たちを殺し、町中にアンデッドを解き放っただと!? あんたそれでも人間だったのか? あんたの気まぐれで、どれだけの尊い命が失われたと思ってるんだ! 若者の未来を奪い、死者を冒涜し、一体なんの目的が――」
“元”人間な。
やべ、うぜぇな。
面倒くさい、俺の嫌いな話だよー。
ていうか、まだ倫理がーとか私の夢がーとか話してるけど、ギリアムの話まじ長い。
『えー、そんなの運命だろ』
と口答えしてみる。
「なんだと!? 運命なんかじゃない。あんたの選択が人を殺したんだ。あんたの取った行動がこの子の選択肢を奪ったんだ!! 人っていうのはな――」
ギリアムの長い長い説教を要約すると、人生は選択の連続を積み重ねていくもので、軽率にその機会を奪った俺が許せないんだとさ。
いやいや、人生はね、すべて運命ってので定められているのよ――永遠に分かり合えない二つの理論って奴だ。
選択肢は二つだけ。
与えられた命令をやるか、やらないか。
少し語ると――
選択肢が増え始めたのは、小学校が終わる頃だっけ、ママンが死んでママンの旦那とも離れられたからだったなぁ。
それまではひたすらアイツやママンに従う日々、やるか、やらないかの二つだけ。
中学からは色んな親戚の家を回りながら、ママンたちに教えてもらったやり方を使って汚く生きあがいた。
中学卒業後、俺の不遇に同情してくれる素敵な仲間たちを作った。
みんな、俺がお願いすると、喜んで俺に勉強を教えてくれた。
気前のいい奴なんかは、ゲームやラノベ、漫画をくれたり、生活費や受験費用なんかを恵んでくれた。
あいつらは俺の一生の宝物だった。
ま、大学行って、選んだ職場は合法ブラックで、三年間いいように使われて最後はトラックでドン――
そして、転生先では、魔素集めをひたすらコミットさせられる魔物だった。
そんな運命の奴がいるんだよな……ソースは俺。
――そういう奴がいることを知らないから、ギリアムは素敵な夢物語が吐けるんだよ。
まあ、ギリアムに説明したところで理解はできないだろう。
……すごいぞ、ギリアムがまだ話してた!!
「――だから! あんたはもっと反省して、これから罪を償って生きていくべきなんだ。ぐすっ」
あれ? ギリアムなんで泣いてんの? ソニアが泣かしたのか?
『はいはい、めんごめんご。おっぱい反省しました。ほら、何言ってるのかわからなかったから、三行にまとめて教えてくれ』
「…………」
あ、黙った。
今度は顔を真っ赤にして、わなわなと震えてる。
記憶を読んだ限りは、そんなに激昂するキャラじゃなかったんだけど、やっぱり真面目な奴はキレると危ないんだな。
あ、そうだ。
頑張ったギリアムに大サービス。【魔素操作】からの――
「う"?」
「ばぁぃ」
「…………」
「ぁれ?」
「ごごば?」
うん、続々と起き上がるギリアムのお供や冒険者たち。
また良いことした。
「っ! お前たち……! そんな姿に――」
良かった、ギリアムも涙を流して喜んでくれているように見えなくもない。
「なんで……、こんな惨いことが出来るんだ?」
さあ? こいつらがこうなることも運命?
てかさー、生き返ったんだから問題ないだろ? たとえゾンビでも。
『せっかく俺の善意で復活させてやったのになんで怒るんだよ。ここは感謝するところだろ?』
「……ダメだ、理解できない。お願いだ、彼らを解放してくれないか?」
説教の次はお願い。
こいつ、どの立場にいるんだろうな。
『もういいや、会話に飽きた。ソニアも収納するぞ』
「もう少し時間が欲しかったですが、それが命令とあら――」
もうね、うだうだとうるさい。【影収納】――
あとでシャドスペ内で魔素を出し入れしながらお説教タイムだ。
「おい、ソニアさんや彼らをどうしたんだ!?」
『俺の中に収納した。ソニア、そいつらに色々と教えおけ!』
『…………』
うわ! 話の途中で収納したせいか、不機嫌この上ないって感じで、新入りたちをギルドの中に案内してる。
感じ悪っ! さてと――
「わ、私も殺すのか? そもそもなんで助けたんだ! みんなは見殺しにしておいて……」
『お前の事、どうでもよくなったから殺してもいいけどどうする? それともゾンビがいいか?』
さあ、ギリアムの選択はなーんだ?
「…………、私には夢がある。それに、ここで死んでは彼らの命をそれこそ無駄にすることになる。どうか殺さないでくれ」
いや、俺が有効利用してやるから死んでも大丈夫だぞ。
『オッケー、そんじゃ、そこの馬を起こそう――』
「ひびぃん、がふっ! ぐるるぶぅ」
ゾンビホース、ここに爆誕。
あれ? ギリアム、なぜ空を見ている?
『ギリアム、空を見上げてないで、さっさと出発の準備しろ』
あ、お祈りでした? 祈って運命が変わるんなら俺が生まれてすぐにチートもらってるよ。
「…………」
黙々と投げ捨てられた荷物を馬車に戻していくギリアム。
感じ悪いからゾンビーズには手伝わせないことにした。
こうして、俺たちに漂う空気は最悪のままシータウンへと向かうのであった。
せっかく応援する気でいたのに……解せぬ。




