表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あやしい影に転生しました ~自己主張できない周囲に流され系だった不遇モブが、異世界デビューで思いつくまま気の向くままに投げっぱなしジャーマンする話~  作者: yatacrow
第一章 あやしい影に転生しました

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/59

第15話 あやしい商人の長話


――この町は異常だ。


 昨日の昼すぎだっただろうか、冒険者ギルドの職員が来て、私が注文していたピュアスライムの魔石から魔力が抜けていたという珍妙な報告と謝罪があった。


 魔石は、緊急時の魔物避けの結界や錬金術の素材、魔道具の作成に使われるなど用途は様々であり、我々の生活に欠かせない物だ。


 その魔石がない、損害については賠償する? 冗談はやめてくれ。


 目の前が真っ暗になった。


――商う者のジョブを授かった私は、王都で店を持つことを夢見て子どもの頃からずっと真面目に働いてきた。


 にわか仕立ての行商から始め、大陸中の町や村を回った。


 魔物に襲われ命を危険にさらすこともあったし、盗賊に手持ちの商品を渡して命乞いしたこともあった。


 二十才の頃、ムンロス様の支援もあり、ムーンの町で店を構えることができた。


――王都を目指すのなら、まずはこの町の一番になってみせなさい。


 ムンロス様の期待に応えるため私は身を粉にして働いた。


 治安が良く、人口も多いこの町は、冒険者がブレッシェルやシータウンに行くための拠点となっていて、物資が豊富で商売がしやすかった。


 気のいい人が多く、良縁に恵まれたおかげさまで、わずか五年間にして町一番の商会と言える規模になった。


 そこから更に三年、ひたすら真面目に働き続けた私の名前が、ついに王都で一番大きな商会の代表であるラック会長の耳にまで届いたのだ。


 ラック会長からの注文は、ブレッシェルで採れるヒールリーフ五百束、ピュアスライムの魔石八百個などで、決して無茶な注文ではないが集めるのに時間のかかるものばかりだった。


――一流の商人は二流の商人に物を頼まない。


 この注文には、ラック会長から私に対する“メッセージ”が含まれていた。


 これぐらい簡単に出来なければ王都での成功はあり得ない。


 まずはお手並み拝見、といったところだろう。


 納期は十分に余裕があった。


 そして、あと少しで注文の品が揃うはずだった。


――なのにこの様だ。


 商人が一度注文を受ければ、いかなる理由があろうとも納期に間に合わせる。


 不運も実力扱いされるのだ。


 報告に来たギルド職員を怒鳴りつけたかったが、意味のないことなのでやめた。


 賠償で多少のお金は戻ってきても、失った信頼は戻らない。


 王都に店を持つ夢から遠のいてしまったが仕方ない。


 ……また一から始めればいいことだ。


 私はラック会長に謝罪と事の顛末を報告するため、王都に向かうことにした。


 出立の準備を終えて、一息をついた頃、町で不可思議な事件が起きていることを耳にした。


 冒険者ギルドに入り込んだゾンビ、高齢者たちの謎の失踪、そして、町中で発生している盗難事件。


 噂では、ムンロス様の館でも異変が起きているとか――


 今までこんなに事件が起きたことはなかった。


 冒険者たちの話に耳を傾けると、なんでも大賢者ゴンドール様の墓所に異変があったらしい――あの場所には、魔王の一部が封印されているという噂もあるし、少し気がかりだ。


 私は得体の知れない不安を押し殺して、無理やり眠りについた。


 そして、今朝だ。


 大きな耳鳴りとその後の地響きによって目が覚めた。


 私の店は町の中心から東側の商店街に出していて、店の三階を自宅として生活している。


――運が良かった。


 昨日は自分の不運を嘆いたが、今朝はこの場所に出店していたことに運が良かったと本気で思う。


 なぜなら、窓から外を見ると、南側に見えるはずの冒険者ギルドがなくなり、アンデッドの群れが人々を襲っていたからだ。


 もう一度言う、運が良かった。


 そして、この町は異常だ――


『その後、私はウォーキングアンデッドな町に見切りをつけ、王都に向かって逃げるように飛び出した。王都でその道のプロっ子たちとチョメチョメするために――』


『マスター、最低なモノローグです。ギリアムさんは事態が収拾するまでお店にいましたよ。そのチョメチョメって何ですか?』


『チョメチョメはチョメチョメだ。もー! こいつ、話長い!』


 そして一つわかったことがある。


 スライムさんの正式種名はピュアスライムさんらしい。


 ひたむきに魔素を集める姿、忘れないじゅる。


『途中で読むのを止めれば良かったのでは?』


『えー? いや、だってシータウンまでの道中長いし、どうせ暇だろ?』


『そうですね、馬車での移動でもシータウンまであと三日はかかりますけど……』


『俺、基本的に読み物は最後まで読むタイプだからね。まあ、飽きてきたら飛ばし読みになるけどな。そして、話の長いギリアム君、おめでとう合格だ!!』


 パンパカパーンっ!


『……何が合格なのでしょうか?』


 そこ! 怪訝な顔して聞かない!


『モブのサクセスストーリーって面白いよな。俺はギリアムの真面目な部分に通じるものを感じたんだよ。だから、飽きるまで応援してやろうかなって』


 シータウンや王都まで道中一緒だし。


『はあぁ……』


 なんかため息つかれた――どういう意味!?


 ギリアムさん、お気の毒にって小さく呟いたの聞こえたからな! 失礼な。


 ため息は幸せが逃げるとか言われてるけど、ストレス発散になるらしいよ。


 はあぁ、はあぁって、聞かされる周囲の人たちは、それがストレスになるけどね。


 はーい、というわけで、俺たちは今、商人ギリアム一行と一緒にシータウンへ向かっている。


 ギリアムの記憶からもわかる通り、ムーンの町の冒険者ギルドから南側にあった建物はギルドを残して壊滅してしまったよ――スキルの重ねがけ、威力強すぎ!


 結界のおかげで建物自体は無事だったけど、中にいた人たちは無事とは言えない状態だった。


 そして、残念なことに冒険者ギルドの朝は早かった……。


 ミンシアちゃんを始め、ギルドマスターから末端冒険者まで――職員三十人弱、冒険者八十人弱――がその場で立ちつくし、目や鼻、耳といった穴という穴から体液を流したまま死んでいた。


 超ホラーな映像だったなぁ、眠ったら夢に出そう――眠れないけど。


『くっ! 誰がこんなことをっ!!』


『マスター、もう自分のやったこと忘れたんですか?』


 いやボケやん? でも、ツッコミがいるって安心だよね。


 せっかくミンシアちゃんを迎えに来たのに、別のお迎えに連れて行かれてしまった……。


――ダメだ、ミンシアちゃんは俺のものだ。


 早速、解放されたスキルを使ってみる。【呼び起こし】――


 いやー、出るわ出るわ。


 俺は冒険者ギルドだけを範囲指定したはずなんだけどなー。


 初めて使うから慣れてなくて、町全体を範囲指定してしまった――ま、大は小を兼ねるってね。


 教会の墓地から、ムンラス君のママンである“骨だけフランソワ夫人”や惰眠を(むさぼ)っていた“肉付ご先祖様たち”が溢れ出てきて、町民たちを仲間に入れようとするもんだから大変だったよ――主にサショエル神父が。


――ムンラス君がお母さんと涙の再会ができたと思えば全部が悪いことでもないかな。


 俺もギルドと南側の地域をシャドスペして、きっちり更地にしておいた。


 これで再開発しやすいだろう。


 お決まりのブレッシェルスタイルだ。


 ソニアには、シャドスペ内にいる新入りたちの面倒を見てもらっている。


 ゾンビとしては魔素少なめの底辺だが、ギルドマスターの“カザン”や主任の“ヨーゼフ”、冒険者たちは経験豊富で腕に覚えのある者ばかり――メガネ僧侶もあうあう言っている。


 シャドスペ内の片付けが終わったら、ソニアの練習相手になってもらおうかな。


『ソニア、そいつらはいくら倒しても俺の魔素で元に戻せるからな。いっぱい戦って強くなるんだぞ』


『…………』


 小さく息を吐いて、ギルドの中に入っていった――反抗期かな?


 ミンシアちゃんは俺の核の近くで、んぼーっとしてる。


 元気はつらつ感がなくなった今の彼女には残念ながら魅力を感じない――小ぶりなおっぱいも死後硬直が始まって固いし。


『マスター、人手が足りません』


 ミンシアちゃん、ご指名入りましたよー。


 面倒だから“ムーンギルドゾンビーズ”の指揮権をソニアに渡すことにした。


 あとはよろしく!




◇◇◇




――まずいぞ! アーミーアントだ!?


――この先に数十匹はいるぞ!


――お前ら! 覚悟決めろぉ!!


 先頭にいた冒険者たちがわちゃわちゃと叫んでる。


 でけぇ! 一メートルぐらいのアリ、鋭い牙をぎちぎち言わせながら、こっちに音もなく迫ってくる。


 ギリアムはどうする? ピンチ!?


「あああ、アーミーアントだと。ダメだ、この距離まで迫られたら逃げるしかない。みんな逃げよう。荷物はここに置いていく!!」


 逃げの一手! まあ、無難かな。


 冒険者たちが慌ててギリアムに近づいてきた。


「ギリアムさん、ここは俺たちが食い止める! 先に逃げてくれ」


 あれ? これは冒険者に逃れられない死が約束されたぞ!


 冒険者、逃げないのか。


 すげぇな、これじゃ命がいくつあっても足らんな。


『ソニアは不死だから冒険者に向いてるな』


『死ぬほど痛いのは嫌です』


 冷静に否定された。


 そうか、それじゃ半分に割ったの悪かったかな。


 確かに俺も死なないけど、痛いのは嫌だな。ノーマルスキル【魔素注入】――


『んんっ! 急に何をするんですか!』


『半分に割って悪かったからお詫び? その反応にありがとう?』


『……出来れば声をかけてからにしてください』


 不意に出るエロい声がいいのに……。


「無駄だ! たいして時間は稼げまい。それより、ここにある食料をばらまけば、少しは時間が稼げる。君たちも逃げろ!」


「へっ、俺たちはギリアムさんに昔から世話になってんだよ。こういう時ぐらい恩返しさせてくれよ。たとえ数秒だってギリアムさんの時間を稼げるなら本望だよ」


「そうだよ」


「ギリアムさん、逃げて!」


「そうだ、やろうぜ!」


 熱い、熱いよ冒険者たちー! 尊敬はしないけど。


「……、すまない、お前たちの家族は私が一生面倒を見ると約束しよう」


 胸に手を当てて誓うギリアム――人の一生を面倒見るとか、商人は利に聡いんじゃなかったのかよ。


「っ! ギリアムさんには最後まで世話になりっぱなしだな、行くぞ、お前らっ!!」


「「「「おう!」」」」


 うわー! 突撃してったよ、アーミーアントに。


 バリボリグシャってそんなに柔らかいのかその鉄製の鎧……。


『マスター、冒険者たち……死んでしまいましたよ』


『うん、見てたから知ってるぞ』


 あ、今度はギリアムのお供が! あちゃー全滅か。


『……このままだと、ギリアムさんも危ないです』


 え? なんで男を? って思ったけど、ソニアに応援するって言ってたんだった。  


――それじゃいただきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ