第11話 あやしい事案発生
シモン君があれからずっと起きない。
シモン君? ほら、そこのランチやってる女の人、おっぱいでかいよ!
『…………』
――返事がない、ただの屍のようだ。
魔素の反応はあるっぽいんだけど、元が俺の魔素のせいかシャドスペ内だと感知しにくいんだよな。
外に出すにしてもお昼時だから、お食事中の方がいたら申し訳ない。
――そうだ! 教会に行こう。
『おお、シモン! 死んでしまうとは情けない……。そなたに、もう一度機会を与えよう。再びこのような事がないようにな。では、ゆけ! シモンよ!』――的な。
神様いるらしいし、これぐらいできるっしょ!
えーと、地図で見ると教会はここからだとちょっと遠いな。
あ! 近くに武器専門店があるー!! 異世界の武器か、ファンタジーだ。
冴えない新米冒険者の主人公が武器屋に立ち寄ると、『お前の波動、気に入った。我が名は聖剣エクスカリバー、我を手にせよ――』とか頭に話しかけてくるんだぜ。
なけなしの金で買った聖剣は称号に【力奪われし聖剣】とか出てて使えないんだ。
うはは、そんなに簡単にチートがもらえるわけないのだ。
転生者も転移者もだいたい何かしらの努力をして強くなっていくのだよ。
まあ、当事者になってしまうと努力とかしたくないけどね!
あれ? 脱線してたらやろうとしたことを忘れた。
ま、いいや。
とりあえず武器専門店にゴー! 【透過】【影伸縮】【影移動】――
「きゃあっ!」「うおっ!?」
面倒くさいから真っ直ぐ武器専門店に向かって影を伸ばしたら、歩いている奴らに気づかれてしまった。
みんな下を見ながら歩きすぎ。
上を向いて歩こう、涙がこぼ――セーフ?
さて、天井側に上がって……、ほう! ほうほう!
剣が格好いい! 槍? 斧とか! 短剣もあるね!
テンション上がるなぁ。
店主はドワーフかな?
「おい、ハンス! 大丈夫か!?」
おい、ハンス! お客さんだよっ! さっさと出てこい!!
「なんだよ、騒がしいなぁ? どうしたよ」
奥からおっさん出てきた、ノンドワーフか――ちっ!
「い、いや、どうしたって……、なんか黒いモノがお前の店に入ったからさ」
「黒いモノってお前なぁ、ウチは汚れた冒険者たちが来るわりには清潔を保ってんだよ。“ザクボル”なんていねぇよ。そもそも武器ばっかでエサもねぇしな!」
ザクボル? どうしてか不快な響きを感じる。
「いや分かってるよ、ザクボルだって貧乏宿屋の食堂からは動きたくねぇだろうさ。いやな? 今日は色々とおかしいんだよ、実は――」
冒険者ギルドや民家で盗難事件が多発してるらしい。
まじか、すごく心当たるぞ!
ところで、ザクボルって何?
あ、本能さん、お久しぶりっす。
ザクボルは? あ? ゴキブリ。
こんなときだけ、嬉々として信号送ってくるなよ! でもね、寂しかった!!
――本能にたまに構ってもらう自我の関係。
それよりハンスよ、人をG扱いした罪は万死に値する――が、俺は優しい。
高そうな武器没収で勘弁してやろう。【影収納】――
「民家の盗難はわかるけどよ、冒険者ギルドだぞ!? 誰が手を出すって言うんだよ。ん? 待て……、げっ!!」
「ハンス、どうした? ……まさか?」
「ああ、そのまさかだ。置いてる武器の値段の高いのだけごっそりやられた……」
金貨五、六枚が……。とか言ってる、口は災いの元。
連帯責任で隣の防具専門店からも没収しておくか。
うん! なかなかの品揃えだったよ。
武器、防具をコンプリートしていくのも面白いかもな。
次は、道具屋行って……、あ! 教会に行くんだった!
待ってろ、シモン君!
◇◇◇
――教会、入れませんでした! ごめんよ、シモン君。
いよいよお別れの時が近づいて来たのかもしれない。
なんだか嫌な感じがするのよ。
透過できない何か。
もしかしたら、結界とかあって魔物が入れないようにしてるのか?
何かあったときのために広めに作ってあるし。
ちなみに、町長さん家とか隣だからすぐに避難できる――まったく権力者ってどこの世界でもやらしいな。
裏庭に墓地があるし、そこなら入れそうだし、シモン君もそこならきっと寂しくないだろう。
『最愛の妻フランソワ、ここに眠る』
よし、最後に多めに魔素を入れてみて、これでダメならフランソワ夫人と仲良くなってもらおうか。魔素注入――
――ぴくん。
おっ? あ! 魔素が動き出した!
シモン君の中で魔素が凝縮されていくのがわかる。
……おや!? シモン君の様子が……!
『……もー! お、お兄ちゃん、寝ぼけてないで起きてよっ! 寝ぼすけなんだからぁ。今日は、わ、私とデートする約束でしょ――』
は?
なんだろう、ぷんぷんって擬音とともにくねってる女の子がいる。
おめでとう! シモン君は【妹】に進化した!
って待て待て! 寝てたのはシモン君だろ……って違う、ツッコミどころはそこじゃない。
見た目がどう見ても、シモン君の記憶で読んだ“ソニアちゃん”なんだけど?
少女だよな、いや、シモン君の体――まさか……男の娘か?
『お兄ちゃん、どうしたの?』
うっ、こてんと首を傾げたときの破壊力がすごい。
いや、お前はシモン君だろ? 俺の前世に妹はいない。
そもそも血のつながった妹がこんな感じになるのはラノベの中だけ――
『……お前、なぜ妹属性のことを知っている? シモン君じゃないよな? 見た目がソニアちゃんになってるし』
ヤバい、俺の核が危ない! 影ふ――
『待って、お外に出る前にこれだけ言わせて!』
およ、外に飛ばそうとしたのが伝わった?
――何を言う気だ!?
暫定シモン君が、ゆっくりと呼吸を整え、キリッとした表情になる。
『一体いつから…………シモンの魂がこの核に入っていたと錯覚していた?』
っ!
なん……だ……。
おっとこれ以上は言っちゃダメな気がする。
わざわざ止めたのって、そのセリフ言いたいだけかよ!
『は? 本当にソニアちゃんの魂が入ってるの? じゃ、シモン君の魂は?』
『シモンは……、お兄ちゃんが村に来る前に天に昇っていったよ。私はシモンの傍でずっと泣いていたから……』
ソニアちゃんと名乗るシモン君は悲しげな表情で、あの時の事をぽつり、ぽつりと語り出した――故人を偲びながら拝聴しよう。
――俺が来る少し前、村の玄関口に近い場所にある“いつもの広場”で遊んでいたシモン君たちは、魔物たちの一番最初の犠牲者となった。
『うわっ、なんだよあれはっ!!』
『アレクさん、魔物がいっぱい……』
『メモルっ、ガイっ! お前らはこのまま村の皆に異変を知らせて来いっ! シモンはソニアを守って早くここから逃げろっ。ここは俺が! 食い止めてや――へぷしっ!』
メモルが迫り来る魔物の群れに気づき、ガイ、アレクがそれに答えるが……ちーん。
まず、魔物たちに向けて両手を広げ、立ちふさがったアレクの頭が一部はじけ、そのまま後ろに倒れた。
続いてメモル、ガイは背中を踏まれて死んだ。
『いやあああぁぁぁっ!!』
『アレクぅっ!! メモル! ガイ……。 ぐすんっ、ぐそっ! ソニア、逃げよう、立つんだ! わっ! さ、せないっ! ぐうぅ!』
お漏らしじょばのソニアちゃんが、泣きながらその場にへたりこんでしまった。
シモン君がソニアちゃんをかばおうと魔物の間に入り、そのまま圧殺されてしまう。
子どもたちの死体の中で、シモン君のだけ損傷が少なかったのは、ソニアちゃんの体をクッションにしたからだ。
その後、魔物たちのひゃっはーが始まる。
シモン君は、大好きだったソニアちゃんを最期に守ることが出来た――たとえソニアちゃんが続けてぶちゃりと潰れていたとしても……。
『僕の生涯に、一片の悔いなし!』と言ったかは知らんが、シモン君は満足して昇天した。
逆に守られたソニアちゃんは、シモン君の死に際をしっかり見てしまった。
――シモンが死んでしまった、私をかばって……。
――私が逃げなかったから……。
――どうしてこんなことが? ひどいよ! シモンを死なせてしまった。
――嫌だ! なんで? 平和な村が……。
――もっと遊びたかった。
――そして……いつかシモンと……。
――どうして……神様……。
やり場のない怒り、理不尽に対する憎悪、死に際の激しい後悔が、ソニアちゃんを現世に縛りつけてしまった、と言うわけだ。
『なるほどねー、だけど、それはソニアちゃんのせいじゃないよ』
『うん、シモンがフラグを立てたせいなんだよね』
そうそう、シモン君がフラグを――
……ん? こいつ、何でフラグのことまで知っている?
『なあ、なんでお前は妹キャラやフラグのことを知ってるんだ?』
本能は相変わらず静かだが、俺の中での警戒心が跳ね上がる。
『え? お兄ちゃんの魔素には、お兄ちゃんの記憶が入ってるんだよ。だから、妹属性が嫌いじゃないことも、フラグのことも知ってるんだ。えへへ』
『え? じゃ、ブレッシェル村のゾンビーズにも俺の恥ずかしい記憶を知られてるだと!?』
『んーん、私がお兄ちゃんのことを知ったのは進化してからだよ。それに記憶といっても全部じゃないよ。お兄ちゃんの嗜好とか過去の黒歴史とか……』
一番知られたくないところじゃねぇかっ!!
もう殺すしかない……、男の娘だし。
いや、待てよ。
逆に一から距離を詰めていくこと考えたら楽かも? 違う、その前提は女の子のときだ。
俺の雰囲気が変わったことを察した?
ソニアちゃんが“大きなナニカ”を持って核に近づいてきた。
っ!! やばっ、魔素吸――
『待って!! お兄ちゃん、ほら、これ!! 私が進化したときに自然にもげた“リトルシモン”だよ。シモンの形見、おっきいね』
はっ? もげ? ……のおおぉぉぉ!! ナニを核に見せつけているっ!! 俺の視界はそこじゃない、いやそこからでも見えるけど!
やめて、つけようとしないでそれぇ!!
『わかった! 止まれ!! それ以上、俺の核に近づくな。いいか、ゆっくりその手に持っているものを下に置け、いいな、妙な真似はするなよ。よし、いい子だ……【影吹き】――』
ソニアちゃんがリトルシモンを手放すと同時に影吹きで外に飛ばす。
ズゴっ!! すごい音がして誰かのお墓にリトルシモンが雄雄しく突き刺さっていた。
シモン君、確か八才だったよな、【極める者】か……。
『あぁ、シモンの形見がぁ』
やめなさい、そんなの形見にするぐらいならシモンが着ている服を形見にしなさいよ。
うーん、どうしよ、こいつのノリが嫌いになれない。
しばらくは警戒しつつ、手元に置いておくのが正解かな。
『お兄ちゃんっ! これからよろしくね?』
あざとい! あざといが……、にやけてしまう――こいつ、わかってるな!
『おう、よろしくな。それじゃソニアちゃんの――』
『もぅ、お兄ちゃん! ソニアって呼んで!』
なんだろ、このやり取り……。
俺の嗜好を計算したうえでの会話だと思うと、少し切ないし、なんとも油断が出来ない。
でも、これはこれで楽しいからいいか。
あとはもう少し大人だったら良かったのだが――
『――ねえ、もう少しだけお兄ちゃんの魔素をもらえれば大きくなれるよ。えへへ、どうする?』
――お兄さん、あと一万円くれたらすごいことあるよ? みんなに大人気だよ。どうする?
その道のプロと肉体言語をかましているときに言われたセリフを思い出した。
うーん、じゃ、お兄ちゃんがちょっとだけ魔素を入れちゃおっかなー。




