タチアナとミルティア
「美味しいですね!!!帝国の魚料理もいっぱい食べましたが!こんなに美味しいお魚初めて食べました!」
「そうだろう!オーディルビスは海の幸で成り立ってる国だ。魚料理だけはどこにも負けないよ!!!」
ミルティアとタチアナ。
聖女に就任して、少し経った後ミルティアはオーディルビス王国を訪れたのだ。
オーディルビス王国は、独立していた南群諸島に攻め入り占領していた。
その件での話し合いだと思われていたが、二人はひたすら焼き魚を食べまくっていた。
「帝国はさぁ!魚をこねくり回しすぎなんだよね!シンプルにいこうよ!魚が一番旨いのは、取れたての新鮮な魚を、その場で調理することだから!」
「それは分かります。海沿いのオーディルビスはそうでしょうね」
二人の前には、次から次へと焼き魚が運ばれていく。
「私は王様だし、ミルティアは聖女様。酒の年齢制限とか関係ないでしょ?魚に合う酒があってね」
基本的には酒は15歳から飲んで良いことになっていたが、そんなにきっちり守られている訳ではなく、13ぐらいから、みな飲み始めていた。
「良いですね!飲みましょう!」
オーディルビス王国の臣下は、聖女が訪れ、なにを王に伝えるのか、固唾をのんで見守っていたのだが、二人は、酒を飲んで、焼き魚を食べて、食べ物の話をずっとしていた。
「魚は鮮度が命です。ただ、内陸の国だとどうしても氷付けにしないと運べない」
「氷付けもさぁ、やり方しだいだと思うんだけどなぁ」
二人は飽きる事なく食べて、喋っていたのだが
「南群諸島の幸はどうですか?」
ミルティアが聞くと
「ああ、あそこは果物は旨いが問題が多い。特に宗教はどうにかしたほうがいい」
タチアナは急に苦々しく言った。
「宗教?南群諸島の宗教って、海神信仰ですよね?」
世界には様々な宗教がある。
大きいのは、聖女信仰と、神教信仰。
それに、娼婦らが信仰している女神信仰。
冒険者やキャラバンが信仰している精霊信仰。
などがある。
海の漁師は海神信仰が多く、オーディルビスも、オーディルビス王国が出来上がる前は、この海神信仰だったのだが。
「なぜ、オーディルビス王国の初代と二代が海神信仰を追放したのか、意味が分かった。あいつら、生贄とか未だにやってるんだ。
酷いもんだよ。その生贄制度のせいで、神の使い共はやり放題だ。気に入らない奴がいれば、生贄に指定してやればいいんだからな。
女は抱き放題、旨いもの食べ放題」
「先代までの聖女様は南群諸島に全く興味をはらってませんでしたね。自分の勢力をこれ以上増やすのが嫌だったんでしょうけれども」
頭を整理するかのように、見上げるミルティア。
「私は神教なんて大嫌いだけどね、まだあいつらの方がなんぼかマシだよ。とにかく海神信仰は潰そうと思ってるんだけど、聖女様信仰にしたほうがいい?」
「見て決めますか。果物でも食べながら考えましょう」
「うんうん。さんせー」
二人は結局、寝つぶれるまで、酒を飲んでいた。
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翌日、二人は二日酔いで立ち上がれず、南群諸島へは、その後になった。
その南群諸島。
果実を食べながら二人で歩く。
「ふむ。治安は良く人の暮らしも悪くない」
「交易で成り立ってはいるけど、基本は自給自足が可能だからね。
オーディルビスよりもよほど豊かだ。ここは暖かくて、平地も多い。オーディルビスは、広いけど人が住めたり、耕せる土地は極僅かだからね」
「どうして、こんな豊かな土地が独立出来たのでしょう。正直、先代までの聖女様の記憶辿っても全く重要性を感じてないんですよ、ここ」
「帝国の大陸と、聖女様の大陸からは遠すぎだからじゃない?オーディルビスからは近いんだけどさ。うち、そんなに攻めいるほどの余力無かったし」
「なるほど」
「あとは、あれだ。触れたく無いんじゃないかな?海の民は独特だ。オーディルビスも元々の出自は似た者だから、親近感はある。にしてもね、ああいうのを見るとさ」
タチアナはあるものを指差す。
それは
「?なんです?あれ?」
「海の祝福さ」
タチアナは嫌悪感丸出しで言う。
「南群諸島は、娘が子を産めるようになったらまず父親が娘を犯す。それの子が祝福。そう呼んでいる」
「子?だって、あれは」
「血が濃すぎると異形が産まれやすいそうだよ。それを祝福と呼んでいる」
ミルティアは呆然としている。
「海の祝福は、一年生かされた後、海に投げ込まれる。まあ生贄なんだけどさ。ああいう異形だけではなく、健常に見えた赤子も全部だ。殺すために産むんだ」
その赤子は、身体が崩れていた。骨がキチンと構築されていない。
「こんなのばかりだよ。南群諸島の闇は大きい。ミルティア、私はまずは海神信仰を追放……」
すると、ミルティアは座り込んでいた。
「どうした?ミルティア」
「祝福よ!!!」
ミルティアは叫ぶ。
するとその赤子は、突然大きな声で泣き出した。
そして、異形に見えたその身体は、通常の赤子のようになる。
「な!?凄い!」
「タチアナ!!!南群の代表者を集めなさい!!!こんな腐った風習と宗教は!今日滅する!!!」
ミルティアは叫んだ。
「時代は変わった!!!世界は変わる!!!こんな死ぬために産まれる風習も!それを認めた宗教も!まとめて滅ぼす!!!」
ミルティアは怒っていた。
放置されて死にそうになった自分と、放置され、殺されるだけのその赤子。
「私は全てが正しくはない!だが、明らかな間違いは是正しよう!殺すために産む風習など認めない!南群の民よ聞け!!!私は聖女!真の神の祝福とは!!!このようなモノだ!!!」
ミルティアは叫ぶと同時に念話で島全体に訴えかけた。
それと同時に、島には次から次へと花と草木が育ちはじめる。
海沿いでは、魚達の跳ねる音が聞こえる。
そして、異形の赤子がどんどん癒えてくる。
「殺すために産むな!産まれた結果死ぬのは仕方がない!だが!私は!殺すために産む意志を許さない!!!」
タチアナは呆然としていた。
ミルティアの怒りは初めて見たのだ。
激烈だった。
タチアナはすぐにクビをふり
「各地区の代表者よ!集え!聖女様から話がある!」
王からの命令。
島の代表者は逆らいようがない。
だが、今までの宗教と風習は生活に根付いている。今日から変えろと言われても難しかった。
なのだが、聖女と呼ばれ、本来は自分達を殺すことも簡単な筈のミルティアが、涙ながらに訴える
「子、そのものが祝福なのです。殺すために、産まないでください」
その訴えは、みな聞き入れた。
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「一歩一歩ですね、なにごとも」
ミルティアは話し合いのあと、果物を食べまくっていた。
「あんなに怒るんだね、ミルティア」
「私のトラウマを刺激しまして」
ミルティアは酒を飲みながら
「幼子の記憶って、大体3歳ぐらいからでしたっけ?」
「まあ、人によりけりだろうけど」
「私は最初に声を発した時から憶えてますよ。1歳か、2歳か。母親に言ったんです。『お腹すいた、助けて』って」
タチアナは黙って聞いていた。
「それの回答が『まだ生きていたのか』」
ミルティアは酒を流し込む
「『男子かと思ったから産んだのに、女なら死になさい』だそうですよ。いくら旦那と子供作っても女しか産まれない。不義の子、龍族の子なら男かも知れないと産んだみたいですね。で、結局女だったから、死ねと」
「……すごい、ハードモードな人生ね」
「貴族には乳母っているじゃないですか、普通。私にはそれもいなかったんですが、召使いの人達が一生懸命探してくれたみたいですね、街を駆けずり回ってね。
私はギリギリのところで、いつも人の善意に助けられた。私もそうありたい」
「なるほどねぇ」
「まあ、今となっては恨みも辛みもありません。どうでもいいです。母も苦しんだんでしょうね。だって、私の存在は不義の証ですからね。会ったばかりの男のチ○コ咥えて中だしをせがんだそうですよ。その結果出来た子なんて見たくも無いでしょうね」
「……そう言えば、両親は貴族なのでしょう?どうするの?」
「どうもしません。お互い不干渉です。私は殺されそうになった恨みはあるけれども、積極的に殺さなかったおかけで、生き延びられた。そして、両親が優秀で優しい家臣達を囲っていたおかげで、私はここまで育った」
「優秀で優しい家臣か」
「両親から見ても、私の存在は触れたくは無いでしょうね。生かした恩義はあるけど、放置した罪悪感もあるでしょう」
「それでいいのか?」
「良いんですよ。わたしは生かされた。あの赤子のように、殺される為に産まれたわけではない。その欠片のような愛情で、聖女にまでなった。それで良いんです」
酒を飲みすぎ、ふらふらになりながら
「こんど、おやに、会ったら、ざまーみろ、って、いってやりますよ。親がいなくとも、こは、育つって。それと、優しい、召使いたちを、やとって、くれて、ありがとう、って」
ミルティアは、そのまま寝た。
「……壮絶だねぇ。そうでもなければ聖女なんてやってられないか」
タチアナは微笑む。
「でもあの能力は凄い。もしかしたら、お兄様の病も治るかもしれない」
タチアナの兄は、流行病が国で流行したときに、民を救うために、最前線で治療処理にあたり、病で身体が動かなくなったのだ。
「お兄様、私は必ずお兄様を救いますから」
タチアナは祈りながら
「そして、見ていてください。お兄様を否定したバカな従兄弟は、最底辺の性奴隷として、生かし続けますわ。誇りをなくし、跪いて生きる存在にね」
タチアナは高笑いをしていた。