ミラーとジェラハグドーム
ミラーが塔にこもり眠りが長くなってから三年。
ミラーの執筆する本が伝説とされた頃、ミラーには様々な問合わせが寄せられたのだが
「面倒くさいのでまとめて答えまーす」
「ししょー。どうやってです?」
ミガサが呆れたように言う。
ミラーが寝て起きるまで平均で10日かかる。
その10日の間に質問の手紙が溜まるのだ。
「寝起きの魔法があるのですが」
「ししょー!? なんでそんなすげー魔法隠してたんですか!?」
ミラーはその質問を無視し
「ニールに言いましょう。一月後質問のある魔法使い達を集めて質疑応答会をやります」
「素晴らしい提案だ。細かいことはこちらで考えよう」
ニールは嬉しそうに答える。
「まず私とミガサが合成魔術の基礎を話して、基本的な質問を遮断します。その後に質疑応答という感じで」
「分かった。そうだな。講義部分と質疑応答を本にして各図書館に寄贈すると事前に伝えよう」
「はい。それで場所はこの塔のどこでやります?」
ニールは首を振り
「この塔は無理だ。事前に各街の魔法ギルドに通達して人数を把握してから場所を決めるよ」
ミラーが今までの書籍五冊の解説と質疑応答を行う。
その衝撃は凄まじいものだった。
魔法ギルド経由で、各国にそれが伝えられ大騒ぎになった。
ミラーの提案から60日後。
ミラーのいる識都はお祭り騒ぎになっていた。
「おはよーございまーす」
「ししょー! 本当に起きた! 早速着替えてください!」
ミガサが色々準備していたのだが、ミラーはノンビリと答える。
「結局どこでやるんでしたっけー?」
「はい。大広間です」
ミラーの動きが止まる。
「……大広間?」
「はい。500人ぐらい来るので」
「……そんなに声大きくないですよ、私」
「大丈夫です。そこらへんはししょーが寝てる間にテスト済みです。声を拡散する魔法と、投影の魔法の準備はもうしてます」
会場は凄まじい熱気だった。
人も王宮魔術師や、帝国顧問など国の代表から、アンダーグランドの魔術師まで多数来ていた。
『本日お集まりの皆様。お忙しい中誠にありがとうございます』
ニールが挨拶する。
普段の彼とは違いかなり緊張したような顔。
そしてその声は魔法により大広間全体に響いていた。
『本日はまず本知識の塔に所属するミガサ氏とミラー氏の基礎講座が行われます。それを受け質疑応答を行います。また、今回の講義内容とその質疑応答は全て本として残し、各図書館へ寄贈予定です。またお手元に必要と言う方は個別に注文を受けます』
その段階でざわめきが多くなる。
『また過去の本に関しても注文を受けます。ミラー氏からもお話あると思いますが、著作の四冊目となる『合成魔術理論とその応用』は大幅な改訂作業が行われます』
また大きなざわめき。
『随所で休憩をとり、こちらにお食事や飲み物を運ぶようにいたします。それではミラー氏お願いします』
ニールは疲れた顔でミラーに場所を譲る。
ミラーは正装に着替えていた。
なんの物怖じもせず
『皆様朝早くから、また遠方からお疲れさまです。このような会にこれだけの方がおいでなすって本当に感謝しております。私としてもなんの秘密もなく、私の全てを開示するつもりでお話いたします。その前に基礎的な話を入れるのは、その貴重な場が基礎的な内容で埋め尽くされないようにするためです。その前に『合成魔術理論とその応用』の補足から始めます。こちらは改訂作業を行っておりますが、主に図です。それでは映してください』
ミラーの合図で図が映し出される。
『ここの理解がされなかったようです。これについて説明しますと……』
皆ミラーの話を真剣に話を聞いていた。
一時間ミラーの話が続いた後に休憩。
次はミラーの話を受け、ミガサがフォローの話をすることになっていたのだが
「枝論しか話してないし!?」
控え室でキレるミガサ。
「おやすみー」
ミラーはもう仮眠に入ろうとして、用意されたベッドに潜り込んでいた。
「ししょー!? 本論の方を私とか、長くなるから暴動おきますよ!? ねるなー!? おきろーーー!!!」
結局ミガサは出来るだけ短く終わらせようと努力はしたが、それでも一時間半はゆうにかかり終わらせた。
食事の時間になり、その後に質疑応答だが、皆は食事に出ようとせず、その場で済ませていた。
理由は交流である。
こんなに名のある魔術士が一堂に集まる機会などない。
特に偏屈で有名なカーダマハルトと、裏世界の人間であるビネグローネは普段交流している人間がおらず、共に挨拶を頻繁にされていた。
その二人はあまり返事もしなかったが、ほぼ二人同時に独り言のように
「質疑応答が今日1日で終わるとは思えないんだがな」
質疑応答。
仮眠していたミラーは魔法により起きて眠そうな顔で登壇した。
そして
『それではお待たせしましたー。質疑応答をしまーす。既に本に載っていること、または本日お答えしたものはー、そこに載っているので読み返せとしか返しませんのでー。ではどうぞー』
一斉に。
会場内の殆どの客が手をあげた。
『……に、ニール? これ、どうします?』
困惑気に言うミラー。こんな質問1日で捌ける筈がない。
ニールは慌てて壇上にあがり
『本日の日没までは質問を受け付け、質問が間に合わなかったものは、こちらで質問を受け、質疑集に載せるようにします』
その内容に会場から安堵の声が出る。
その隙に1人、偏屈で有名なカーダマハルトが手を上げる。
ニールは驚いた顔をするが、ミラーは特に慌てず場所を変わり
『はい。ではカーダマハルト様、どうぞ』
ミラーは名指しで当てる。
すると音声を拡大化する魔法使いがカーダマハルトのところにいく。
『後で文書で御回答準備もあるとお聞きして安心しました。今貴女にお聞きしたいことは一つ。ジェラハグドームの魔術書には、結局なにが書かれていたのか。私も無論読んだ。あれは魔法構成を図ではなく文章に書き下ろすものだ。だが、貴女はジェラハグドームの書を読み、合成魔術の構築に成功したと喧伝されている。だが、そんな文章がどこにある? 合成魔術の項目などない』
その問いにミラーはにこにこしながら聞き
『魔術書、なのになんで『いつも行く料理人の女癖が悪い』みたいな日常が描かれているんですかね? ジェラハグドームは変人だからですか? いえ、あれは魔術書。意味があるから書いた。その日常記載すら魔術の書き起こしですよー。つまり、あの日常に出てきた二人の友人との会話が魔術構成。』
困惑するカーダマハルト。
『私が見つけたのは合成魔術構成の基礎構成です。それが会話から書き起こせる。彼は友人の女性二人に合成魔術を使わせた。自分がではない。誰でも使えるように、他人に使わせたのです』
『……つまり』
『あの本は、正しく魔術書だった。最初から最後までね。そんな話です』
ミラーは、そのまま話続ける
『ジェラハグドーム様の功績があり、私があります。私の功績など皆無に等しい。成し遂げたのはジェラハグドーム様です』
ミラーは笑顔で笑い
『魔法の革命は100年前に既に為されていたのです』
その後も質疑応答は続いた。
だが、途中で
『ねむーい』
ミラーが大きなあくび。
それに慌ててミガサとニールが駆けつける。
ニールは
『ひとまず休憩を入れます。その間に質問票を配りますので』
質問希望者はほぼ全員だった。
皆が真剣な顔で質問を書いていく。
そして、奥からミガサが出てきて、ニールに向かい大きく手でバッテンと形を作ると
『……申し訳ありません。ミラー氏の体力が限界を迎えたようです。質問は全て受け付け、解答しますので……』
会場内は騒がしくなったが、皆はすぐに質問を書くことに集中した。
14日後、ミラーは起きた
「あせくさーい」
「あ! 師匠起きた!」
たまたまミラーの部屋で作業していたミガサが驚く。
「師匠! 質問票はこれだけありますからね! さあ! 解答していってください!」
そこに積み上がったのは、何百枚もの紙。
「おやすみー」
「ししょー!? ねるなー!!! 締め切りあんですよーーー!!!」
結局ミラーが全部に答えるのに約一年かかった。
だが、それが本として完成したときに
「……ジェラハグドームの業績を称えるそうだ」
魔法ギルドは過去の人物であるジェラハグドームを称える賞を作ることとなった。
「驚いたのですが、ジェラハグドームさんのご友人の一人は、識都でグリモアの学園の理事をやられていた方なのですね」
ミラーは資料をめくりながら
「もう一人の魔法使いの友人の資料が出てきません。どんな魔法使いだったんですかね」
目の前にある大量の本
「死んでから100年経ってから評価された。ジェラハグドーム様は100年早かった。そう考えると妥当な感じもしますね」
ミラーは執筆活動に戻った。
その本のタイトルは
『合成魔術を完成させた魔術師ジェラハグドームの生涯』




