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ヘイルカリとナナセ

 ヘイルカリ。

 元は龍族として龍姫に仕え、今はエネビット公国の貴族の妾として生活している女性。


 龍族の特性である闘争本能をうまく使いこなし、龍姫の元ではリーダーとして龍族をまとめあげていた。


 しかしあまりにも忙しく、慌ただしい生活にヘイルカリは疲れ果て、龍姫に頼み貴族への妾入りを要請し認められた。


 かなり名門の家柄だったのだが、妾として入ったその貴族は人外であるヘイルカリを怖がり、一度の子作り以外は会うことすらしていなかった。


 ヘイルカリは「貴族の妾なんてそんなもの」と、近隣で暴れまわる魔獣を殺しまくり、ストレス解消と暇つぶしをしていたのだが


「一度のセックスで無事出来た、と」

 ヘイルカリは一度のセックスで妊娠した。


 出産も順調で、ヘイルカリは与えられた領地で淡々と子育てをしていた。


「ナナセ、あなたは貴族なのですから識字は必須ですよ」

「はい! 母様!」

 息子のナナセは嬉しそうに笑う。

 ナナセは母が大好きだった。


 母は厳しいが、うまくできれば必ず褒める。

 それが本当に誇らしいのだ。


 そんな母子は五年、殆ど父や他の家族の干渉も受けず生活していたのだが、ヘイルカリの夫の正妻、カルナベルがそのナナセの才能に気付いた。

「……この子は、優秀すぎるのでは?」


 カルナベルは正妻という立場で、妾とも親密に接していた。


 ヘイルカリは離れて暮らしているので、たまに会いに行ったのだが、そこでナナセに会う度に

「……この後継争いが激しい時に、この子が議題にのらないのはまずいのでは?」


 カルナベルの子を含めた3人の子はあまりにも出来が良くなかった。

 カルナベルもその教育の責任を痛感していたのだ。


「私の子のモストアルは貴族の器ではありません」

 以前から夫とその父に伝えていた。

 だが

「長男だし、他の子も……」となっていたのだ。


 カルナベルは領地に戻り報告した。

 ヘイルカリとナナセは、夫と父にとっては不気味な存在であったため、すぐには動かなかった。


 ヘイルカリは人外。その子もまた人外の血を受け継いでいる。

 気持ちの良いものではない。

 ボディーガードぐらいならともかく、跡継ぎとするには。

 二人はそう考えていた。


 だが、カルナベルからの話に心は揺れていた。

 本当に後継問題は深刻だったのだ。


 半年後、遂にナナセとヘイルカリは呼ばれた。

 そのナナセの顔を見て

「父系の顔付きではないか……」

 ナナセの父と祖父は安堵の顔をし、またその利発な言動に

「後継関係無く、都に定期的に来るように」

 とヘイルカリに命じた。



 ナナセ10歳の時、その貴族は決断した。

「ナナセを後継にする事を正式に論じる」

 後継争いにナナセを加える事を発表した。


 そして血筋などの問題点が話し合われたが

「ヘイルカリは龍族になる前は名門の元貴族です。後継者の血筋としてはなんの問題もないかと……。そもそも母筋の血はよほどでないと問題になりません」

 学者からはそのような意見が出された。


 その一方で、龍族という人外が貴族の正妻というのは問題にならないのか? という議題については

「ナナセの去就に関係無く、私は妾の位置から動きません」


 というヘイルカリの表明により問題はなくなった。


 そうなると、カルナベルもナナセを後継にすることに対して反対する理由がなくなった。

 なにしろ自分の子のモストアルは育てば育つほど、目を覆うような行為しかしないのだ。


 例え正妻から降ろされたとしても、他の妾の子に譲るのもやむなし。

 そういう覚悟だったのだが、ナナセであれば正妻の座も守れる。


 そしてなによりもナナセは

「カルナベル母様」

 ヘイルカリは「カルナベル様は正妻。あなたにとっては、もう一人の母だから、母様と呼びなさい」

 と言われ、そう言うようにしていた。


 それが、カルナベルにとっては可愛くて、可愛くて仕方がない。


 ヘイルカリは規律を重んじる性格だった。

 あまり家の事で乱すのは不本意という考え方だった為、カルナベルとも仲良くするように努力していた。


 母子共に協力的である以上、カルナベルにとっては後継交代に躊躇う理由はなかった。


「ナナセへの後継交代を、正妻として強く訴えます」

 カルナベルは、夫とその父に訴えた。


 その頃には二人の態度は大きく変わっており

「ナナセは優秀だ。そしてその優秀さは父系の影響が強い」

「我が血族の血をもっとも濃く受け継いだものが継ぐのが相応しい」


 この二人から見てもナナセは、文武両道で優秀。そしてなによりもその顔。

「お前、本当に良い面構えをしているな!」

「ありがとうございます」

 顔付きが父系。

 これが後継指名の最大の理由になった。



「……実際は、私そっくりなんだよなー。ナナセ」

 ヘイルカリは溜め息をつく。


 カルナベルの元にナナセは移動した。

 そこで教育を受けており、定期的にヘイルカリへは手紙が来る。


 一人息子と離れ離れは寂しいといえば寂しいが


「……ナナセは心配だな」

 ヘイルカリの不安。


 一貴族ならば良い。

 だが、多分ナナセは

「公王を目指すんじゃないのか」

 自分とよく似たナナセ。


 若返りのために全てをなげうったヘイルカリ。

 ヘイルカリは目的の為ならばなんでもする。

 どんな苦難も気にならない。


 恐らくナナセもそうだろう。そのうち貴族への不満は公国への不満になる。

 それはいい。だが


「……行き着く果ては、帝国解体に繋がりかねない」

 最終的には帝国を乗っ取ることが最良だと思いかねない。


 ヘイルカリはナナセとカルナベルに手紙を書いた。

『秩序を乱さぬように。規律を大切に』と



 ナナセ30の時、ヘイルカリは眠りにつくことを宣言した。


 ナナセは公国内で力をつけていた。

 そして今の公王はあまりにもだらしがなく、後継もいない。


 このような場合は公国内の有力貴族から新たな王が選ばれる。


 ヘイルカリはナナセに会いに行った。


 小さい頃に別れてから殆ど合わない親子。

 だが、ナナセはヘイルカリに対する敬意は一度も失っていなかった。


 ヘイルカリは

「子に語り継ぎなさい。規律を守れ。秩序を守れ、と」

「……母様」

 ナナセは深く頷く。


「そして、公国が危機に陥った時には起こしなさい。単騎で敵を蹴散らします。血族の血を私に飲ませなさい。それで目覚める」


 ヘイルカリには予感があった。

「聖龍大戦どころではない。もっと大きな戦が起こる。ナナセ、力を蓄えなさい。焦りは死に直結する愚行」


 そして、ナナセの頬にキスして

「おやすみなさい。あなたの治世が上手くいくことを祈るわ」 


 ヘイルカリは用意していたベッドに潜り込み、活動停止となった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ナナセの頃はまだアレだったんだが…… いや、うん。アレはイレギュラー過ぎた事態だよ! 国外も国内っていうか家族内も!
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