ミシディアと龍姫
ひさしぶりの更新です。
あと二話投稿して一旦こちらは完結となる予定です
時系列的には、「龍族と愉快な~」の前の話で、ソレイユとヘイルカリが貴族の妾となり子供が出来たあたりです
諜報活動。
情報は宝。それを得る諜報は大切。
だから、龍族も諜報を大切にしていた。
「エールミケアには見所があります。諜報に使えるかと」
フェルラインは龍姫に報告していた。
「フェルラインがそう言うなら、そうしましょうか。ヘイルカリがいなくなって色々不便をしているのよ。あの娘、外交も諜報もなんでも出来たから」
「それと、ミシディア様ですか」
「……限界?」
「はい。昨日も暴れました」
「寂しくなるわね」
龍姫は立ち上がり
「私が会うわ」
=====================
ボロボロの部屋。
息を乱す女性。
「ミシディア」
「……あるじ」
この龍族の館で唯一、龍姫を「あるじ」と呼ぶミシディア。
龍族の最古参。
始まりの龍族。
だが、最近は闘争本能のコントロールが出来なくなっていた。
「ソレイユとヘイルカリがいなくなって、あなたと戦う龍族もいなくなった。もう潮時かも知れない。ミシディア、あなたは活動停止しなさい」
活動停止。
龍族は不老。いつまでも生き続ける。
だから限界を迎えたら眠りにつく。
「あるじ、わたしは」
「最後に良い思い出を作って寝ましょう」
龍姫は、ミシディアに微笑んだ。
=====================
「下級娼婦、あなたまだ手掴みでご飯食べてるの?」
ミシディアのお別れ会に来たヘイルカリは相変わらずの態度で罵倒する。
「てめえな!」
「唾汚いんだけどーー。生まれも育ちも悪すぎでしょ」
ソレイユも一緒になって罵倒。
「あなたたちね……」
この二人は龍姫に呼ばれてわざわざ所領から駆けつけたのだが
「……フェル、ソレイユ先輩はいるだけ悪影響だと思うんだけど……」
「……私もそう思うんだけど」
フェルラインとマリスクリアは小声で話し合う。
「ミシディア、活動停止は過去に例はないわ。だからこそ、眠りについてしばらくたてば直るかもしれない」
龍姫は微笑みながらミシディアに酒を渡す。
「楽しい思い出を胸に、眠りにつくとよいわ」
「……楽しい思い出……」
ミシディアは少し上を見上げ
「……楽しい思い出?」
クビを捻るミシディア
「だからあなたはバカなのよ、ミシディア」
ヘイルカリは呆れたように言う
「龍姫様との思い出が楽しく無かったとでも」
ソレイユは嘲笑するように話すと
「ああ! 主との思い出! はい! 楽しいこといっぱいあります!」
ミシディアは龍姫の事を「主」と呼ぶ。
ミシディアだけが呼ぶ呼び方。
「主との出会いは忘れていません! 龍族にして頂いた時の事とか!」
「……ああ、笑いながら街に帰ってきたやつ……」
龍姫は微妙な顔をする。
龍姫は改めてミシディアとの思い出を考えるが
「……まあ、酒で酔いつぶれながら飲むといいわ」
闘争につぐ闘争。
彼女は幸せだったのだろうか?
だがミシディアは
「そうですね! お酒いっぱい飲みます!」
楽しそうに酒をグビグビ飲んでいた。
ミシディアは翌日街を歩いていた。
「殆ど街なんて歩いた事無かったけれど」
今日で眠りにつく。
龍姫から、せっかくだから街でも回ればいいと言われて出かけてきたのだ。
龍姫の治めるアルネシア公国は領地は狭く元々は荒野だった。
しかし、龍姫が赴任してからは、鉱山への流通の要、そしてふんだんに金を使う龍姫と龍族のおかげで経済が周り、辺境にも関わらずそこそこの人口を要する街が出来上がっていた。
ミシディアは街を見渡す。
街の人達は笑顔で歩き回っていた。
龍姫が来てから出来上がった街なので、まだ街は綺麗。
龍姫が金にあかせて全国から食材を集めているのだが、その恩恵でこの街にも食材はあふれていた。
「……わたしは、下級娼婦だった」
ミシディアは呟く。
殺されそうになったところを龍姫に拾われ、龍族となった。
復讐を成し遂げて龍姫に忠誠を誓ったのだが
「……こんな綺麗な街で、わたしは眠るのか」
マトモな人生ではなかった。
復讐とは言え、人を殺しまくった。
自分はマトモな死に様では無いだろう。そう思っていた。
「眠りながら、この街を見守りたい」
ミシディアはゆっくりと館に帰った。
館から歌声が響く。
眠りの儀式。
龍族達は決められた旋律で歌い続ける。
その中で龍姫とミシディアは二人きりで話をする
「ミシディア。おやすみなさい」
「はい。主。私は眠りながらこの街を見守ります」
ニコッと笑うミシディア。
龍姫は気になった事を最後に聞く
「……龍族になって、後悔はある?」
その言葉にミシディアは
「幸せでした。主。苦難も怒りも後悔もありました。でも、幸せでした。私は笑顔で眠れます」
そして龍姫の手に口付けして
「主。おやすみなさい」
そう言って、眠りについた。
ミシディアが眠りについた部屋。
ヘイルカリとソレイユが訪れる。
「……この娘も苦労が絶えなかったわね」
ヘイルカリ。ミシディアへの若さの嫉妬は最後まで収まらなかった。
「貴族の妾も出来ないだろうし。これで良かったのよ」
ソレイユ。
ソレイユにとっては特別ミシディアに強い反感などはない。皆にやるように、ミシディアにも嫌がらせをしていただけだった。
「私達もそろそろかもね」
龍族は闘争本能が収まらなくなると眠りにつく。
始まりの龍族、ミシディアは眠りについた。
次に古いのはヘイルカリとソレイユだ。
「その時が来るまで全力を尽くしたいわね」
ソレイユは笑い
「きな臭い臭いがするわ。戦争は近い」
「……あなたの勘が外れることを祈るわ」
ヘイルカリは憂鬱そうな顔をしたあとに
「聖女の転生時期が近い。世界は乱れるかもしれない」
溜め息をつくヘイルカリ。
そして
「私の子も、あなたの子も、戦争に巻き込まれない事を祈る」
ヘイルカリはゆっくりと
「ドラゴンハーフはマズい。世界を混乱に導くかもしれない」
二人は黙ってミシディアの眠る部屋を出て行った。




