双子とヤファ
クレイと、ハリアと名付けられた双子は、聖女になったミルティアに招かれて、聖都に来ていた。
しかし、特にやることもなく、双子はミルティアのいる宮殿で、ダラダラと過ごしていた。
「クレイお姉様、暇です」
「ハリアおねえさま、ひまです」
二人は、名前を授かった後も、互いを『お姉様』と言い合っていた。
ミルティアに関しては、「お姉ちゃん」と呼び方を変えていたのだが
「遊びに行きましょう」
「そうしましょう」
双子は勝手に出かけようとするが
「ちょ! ちょっと!? どこ行くのよ!?」
宮殿から出て行こうとする、双子を見咎めたヤファが止めようとしたが
「邪魔」
「どけ」
ヤファを突き飛ばす。
それを見た、周りの衛兵達の足がとまると、その間を抜け、双子はスッといなくなった。
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「大きい街ね、お姉様」
「たべものがいっぱいね、おねえさま」
二人は手を繋ぎ歩いていた。
すると
「美味しそうな匂い」
「たべたい」
屋台の一角で立ち止まる。
「おや、可愛らしいお二人だね。ここはお肉の屋台だよ」
「食べたい」
「たべたい」
「お金はあるかな? あと節制の制約は?」
節制の制約。肉は基本的には下民が食べるもの。聖女に仕える神官や、貴族などは基本的に食べないことになっているのだが。
「お金ならある」
「せっせいなんてないです」
金貨を出すハリア。
「おや? 金貨じゃないか。銀貨か銅貨はないか? これ銅貨五枚なんだよ」
「じゃあ、また明日とか来ますから」
「さきに、おおくはらうので、たべさせて」
「ああ、先払いね。うん、それなら嬉しいな。さあ、どうぞ。一個ずつでいいかな?」
「まずは一個」
「おいしそう」
双子はお肉にかぶりつくと
「美味しい!」
「おいしい」
二人は喜んで食べおわると
「また来ます」
「おいしかった」
「ああ、待ってるよ」
店主はにこにこ笑いながら見送った。
2人は屋台街を歩く。
「果物がありますね、お姉様」
「たべましょう、おねえさま」
果物が並べられている屋台。
「いらっしゃいませ。ここは、果実の絞り汁を出しています」
「飲みたいです」
「おいしそう」
「少し高価ですよ、2杯で銀貨1枚頂きます」
ハリアはすぐ金貨を出す。
「先払いです」
「またくるので、のませてください」
「ああ、有り難いですね。わかりました。今作ります」
屋台の人間は、道具を使い果実の絞り汁を作ると
「お待たせしました」
「どうも」
「いただきます」
高級な果実の絞り汁を飲みながら
「私、毎日これ飲みたい」
「わたしもです、おねえさま」
2人はニコニコしながら食べ歩きした。
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翌日。
「ハリア、クレイ、昨日は勝手にどこに出かけていたのですか?」
ミルティアが怒っていた。
「暇だから」
「ごはんたべに」
「ヤファが止めた筈ですが」
「ヤファって誰?」
「やふぁ、しらない」
「2人が突き飛ばして、壁にめり込んだ娘です!!! 私の祝福が無いと、複雑骨折で死んでましたからね!!!」
ヤファは、双子に押され、そのまま壁に激突して気絶したのだ。
衛兵が慌ててミルティアに報告し、祝福が間に合ったのだが
「押しただけ」
「ちょっとだけね」
「良いですか、勝手に出歩かないでください。なんか金貨もバラまいたそうですね。屋台で噂になってますよ。金貨で買い物しまくった、身なりのいい双子の姉妹が来たって」
「美味しかった」
「おいしかった」
ミルティアはため息をつき
「そうですね、暇だと言うならば、教育してもらいますか」
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双子の前には、紙の巻物が置かれていた。
「それでは、聖女様の歴史について勉強を……」
マイセクローラが語ろうとすると
「食うな!!!」
ヤファが双子に突っ込む。
双子は巻物を食べようとしたのだ
「食べ物じゃない?」
「おいしくない?」
「これは読み物です。字は読めないですか?」
この世界の識字率は高くない。
読めなくとも不思議ではないが、2人は知識の塔出身である。
読めるだろう、とミルティアは用意させたのだが
「読めない」
「よめない」
「じゃあ、聞くだけでいいです。まずは歴史。お二人の名前の由来にもなっている、クレイ、ハリア。このお二人の歴史です。まず初代のクレイ様が御生誕された時代は」
『ぐう』
「もう寝たの!?早すぎでしょ!?」
「……あのさ、この2人、知識の塔、特別顧問の娘じゃないの……」
ヤファが呆れる。
「まあ、とりあえず報告しましょ。勉強には向いてませんって」
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運動。
双子の戦闘能力はずば抜けていた。
護衛として可能か?のテスト。
「真ん中の人形を傷つける事なく、両端の人形を倒してください」
ビネハリスが、言うと
『ジュバッ!!!!』
凄まじい音がして、真ん中の人形が真っ二つになり、両端の人形は吹き飛んだ。
「うん。読んでたんだ、これ」
ビネハリスは呆れたように
「護衛としては不適格ですっと」
メモに書き込むビネハリス。
「次、ここにある人形十体を、必ず倒してください。この人形は逃げます。絶対に逃がさないように」
ビネハリスはそう言うと、人形は自在に動き始めた。
双子は
『ドズン!!!』
人形を追うこともなく、中心部分を攻撃。
その余波で五体ほど破壊するが
「ケホケホ」
「けほけほ」
土煙が舞い上がり、追撃は不可能だった。
「追っ手としても難しいですよっと」
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ミルティアは、まとめられた報告書を見て頭を抱えていた。
『勉強を始めると寝ます。勉学が必要なジャンルは不可能。文字も読めません』
『護衛としては不適格。守る対象から殺しかねません』
『追っ手としても不適格。戦い方は大雑把で、取り逃がす敵は多い。命令にはまともに従いません』
つまり
「だめじゃん」
なにも出来ないのだ。
なんか役目ないかなーと、目の前で抱き合っている、ハリアとクレイを見ながら
「そう言えば、昨日の屋台のご飯どうでした?」
「お肉美味しかった!」
「おにくにね、くだもののあじが、しみてたの」
「ああ、コウホークの果物煮かな?」
「お肉がジュッとしてね」
「かめば、かむほど、あじがでる」
「うんうん、聞いているだけでお腹がすきます」
そこで、ミルティアは気づいた。
「ああ! そうだ! 姉妹ですから、味覚も似ていますし! お二人のやること決まりました!」
「なに?」
「なに?」
「食べ歩きをして、報告してきてください」
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「なんで! 私が! こんな危ない双子に付いて行かないといけないの!!!」
ヤファ。
双子は、ミルティアの為の食レポーターになった。
そして、それのお目付役として選ばれたのはヤファ。
「ビネハリスさんと、マイセクローラさんは結構忙しいのです。あと余力あるのはヤファさんしかいません」
「ぐぬぬぬ」
納得のいかないヤファ。
「1人で、とは言いませんよ。何人か連れて、せっかくだから学園からの卒業旅行みたいな気分で出かけられてはどうですか?色々街を回らせますし」
「本当に? まあそれならいいかな?」
「ハリア、クレイ、絶対に暴力ふるっちゃいけませんよ?いいですね?」
「わかった」
「頑張る」
「ヤファさん、苦労をおかけしますが、二人きりじゃダメなんです。他の人と関わらないといけないんです」
「なんで?」
ミルティアは微笑み
「親からも、周りからも捨てられた子達ですから。人と触れ合う中でしか、人間性を取り戻せないのです。ヤファさん。あなたは問題もあった。でもね、人を囲い、慕われる力は強かったんです。だから、きっとこの双子も囲えます。お願いしますね、ヤファさん」
そう言われると、ヤファはスティアナの事を思い出し、胸を痛める。
だから
「わかりました。聖女様。全力を尽くします」
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「フラフラすんな!真っ直ぐ歩け!」
ヤファはもう後悔していた。
この双子、言うことを聞かない。
「お姉様、これおいしそう」
「おねえさま、これたべたい」
ヤファはため息をつきながら
「贖罪にもならないけれど」
スティアナの顔を思い出しながら
「苦労ぐらいはしないとね」
苦笑いをして、双子を止めに行った。




