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近未来百年史(7) クローン動物と貴族制度

 iPS細胞による再生医療やアンチエイジングの研究が進むと、次の研究課題として体細胞クローンが検討された。


 日本においては、人間への応用は禁止された。何よりも倫理的な問題が大きく、また、妊娠と出産は人間の専権事項であるという基本指針に反する点も問題視されたのだった。


 牛や豚や鶏などの経済動物への応用は研究が許可された。受精卵の分割によるクローン牛などは百年以上前から一般化されているありふれた技術なので、倫理的な障壁が低い事が理由だった。


 クローン技術を応用した絶滅動物復活の研究も検討された。議論の結果、が最初の研究対象となった。これは伊勢神宮の強力な推挙による。式年遷宮において新調される神剣の飾りには朱鷺の羽が使われていて、日本産朱鷺の絶滅以来、日本で繁殖させた中国産朱鷺の羽が使用されていた。関係者はその状況を非常に苦慮していたのだった。


 日本産朱鷺復活の研究開始の報に接し、皇族は揃ってお喜びのお声を上げられたと報道された。


 天皇制は維持されていた。天皇制廃止論も何度か持ち上がった事もあったが、その都度、天皇制維持の結論が出されていた。しかし天皇家の激務の解消については前向きに検討された。皇室改革を繰り返し、また天皇を支える貴族を新しく制定する事によって業務を分散した。


 ベーシックインカムが整備され、ロボットが充実し、庶民であっても労働不要となった日本において、貴族とは庶民の憧憬の具現化であると規定された。憧憬の具現化とは即ちアイドルである事を意味する。芸能人アイドルのように年齢が若くて容姿が整っているのではなく、深い教養と優れた感性を備えて文化の牽引役となる事が貴族には期待された。伝統を維持した上で時代の先端を取り入れ、社会的困難に対する際の叱咤激励役となり、外国に対する日本の顔である事が求められた。


 皇族及び旧華族を中心に貴族が制定され、その数は50家と定められた。おおよそ県ごとに1家が存在する形である。天皇を頂点として爵位が制定され、従来は天皇と皇族のみに求められた業務や役割を貴族各家が分担した。


 貴族の収入については、庶民と同じベーシックインカムに加え、爵位に応じて国庫から1家当たりおよそ4億円前後の貴族年金(内廷費相当)が賄われた。ここから家毎に特色ある資産運用を行って収入を確保した。


 貴族各家が経費を出し合って社交界を運営した。社交界には著名人や外国要人なども招待された。その中にはテレビカメラこそ入れないものの、雑誌や新聞などの取材は積極的に受け入れた。そうして報道される社交界の様子は、庶民に対して娯楽を提供し、また、生活の規範を考える切っ掛けを与えた。


 貴族には政治的特権は無く、経済的特権も貴族年金のみであった。但し貴族限定の会員制商業施設などが社交界とは別に経営されたり、報道で名前と顔が売れる為に世間への影響力が非常に大きかったり、それを利用した広告塔としての存在価値があったり、といった形では恩恵を受けた。また、勲章を受ける個人や団体を政府に推薦する権限も与えられた。


 活動の規模では貴族は大きな力を持つ事になったが、個人の自由という点では庶民に軍配が上がった。庶民であっても商業的に成功すれば、その自由と同時に貴族以上の活動規模を手にする事も出来る。その為に爵位を返上して下野する人物が後を絶たなかった。貴族は庶民以上に、後継者の育成には力を入れなければならなかった。

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