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近未来百年史(3) 鎖国の準備

 労働のロボット化と物流革命により、あらゆる国産商品の値段が著しく下がってきた。


 国産品の価格が下がった結果、相対的に輸入品の価格が高くなった。輸入を減らして国内生産のみで需要を賄う事が重要課題として認識されるようになった。


 最初に手掛けられたのは海底鉱床の開発だった。日本近海から太平洋にかけての海域は21世紀初頭から世界的な争奪戦となっていたが、日本政府は当時から対応して必要な海域を確保していた。海底からの採掘コストが大きな課題だったが、海中でも活動可能なロボットを開発して解決した。


 地下資源も切り拓かれた。今迄は採算の合わなかった鉱床でも低コストで採掘可能とするロボットを開発した。地下深くの鉱床の探索は困難だったが、金や銀なども少しずつ発見されていった。日本は再び黄金の国と呼ばれるようになった。


 こうして各種の金属を含む鉱物資源を国内で調達できるようになった。


 次に取り上げられた課題は石油だった。日本のエネルギー源は既にマグネシウムに移っていたが、プラスチックやゴムや各種薬品の原料として石油の需要は相変わらず旺盛だった。石油の合成はC1化学として確立されていて、実際に生産している国もあり、日本でもそのプラントが建設された。


 合成石油の炭素源には、空気中の炭酸ガスを集めてマグネシウムと反応させる方式が研究され、マグネシウム発電所に組み込まれた。林業廃棄物となる下草や小枝など、農業廃棄物となる作物の茎や根なども集められた。企業や一般家庭からのゴミも徹底分別して生かされる事になった。


 ゴミ分別支援を目的として、家事ロボットが各家庭に無償で支給された。


 一部の強い要望に押されて少し幼い容姿のロボットも用意され、人気を博した。家事ロボットの仕事振りについては政府の方針によって完璧が志向された。適当な頻度で失敗する制御回路を組み込む事は技術的には可能だったが、完璧なゴミ分別の必要性を理由に却下された。


 同じ頃、一次産業にもロボットが投入された。既に高齢化が進み過ぎた上に後継者も乏しく、農家数が減少し続ける状況にある中、ロボットによる労働力の補填とAIによる知識や経験の共有は大きな力となった。


 日本の一次産業は再興した。農業は手間の掛かる減農薬や無農薬の栽培が増えた。漁業は養殖を中心とするようになって資源の枯渇を回避し、食用魚の品種改良も盛んになった。畜産も林業も十分な労働力が確保された。


 家畜飼料や食用油も国産化された。トウモロコシ、大豆、胡麻、荏胡麻、椿等々が大量に生産されるようになり、国内需要を満たした。食料自給率はカロリーベースで計算しても大幅に高くなった。


 芸術品とまで賞賛される一部の農産物は、日本在住の富豪達の口コミで世界に広まり、高値で輸出された。


 こうした一次産業再興の流れの中で、幻となっていた天然素材が復活した。あり得ないほど安い労働力を無尽蔵に投入して、手間がかかり過ぎる為に消滅しかかっていた伝統的素材や工芸品が生産されるようになった。小石丸種の絹織物や姫路白鞣革や金唐紙など、その価値を良く知る富豪達に愛された。


 地味だが重要な課題として肥料の問題が上がった。肥料の三要素の内でリン酸とカリはほぼ全量を輸入に頼っていた事が、食糧生産上の大問題と認識された。


 カリ肥料の原料については、合成石油の原料として集められた林業廃棄物や農業廃棄物から、炭素を除いた灰分が抽出されて使用された。海水からのマグネシウム抽出後の残渣からもカリウムが抽出されて、不足分を補った。


 リン酸は工業原料としても重要である事から、その国産化は関係者の期待を集めた。


 食肉加工場や飲食店や家庭ゴミから動物の骨を中心とした食品廃棄物が徹底回収された。下水汚泥や製鋼スラグから重金属等を除去してリン酸を回収する技術が実用化された。果ては富栄養化した湖水や海水からも微生物やイオン交換膜などを駆使して回収した。


 ありとあらゆる手段で国内のリン酸を搔き集め、リン酸の国内需要に何とか届くようになった。


 金属や石油や食品等々の原材料はこうして国産でほとんど賄えるようになった。これにより物価は益々下落していき、それに伴って税収が低下するようになった。


 ベーシックインカムの原資は国債を通しての日本銀行からの出資が主であった為、税収が低下しても維持された。それ以外の予算については、マグネシウム生産工場など国外での政府系企業からの利益が大きかった為、これも税収低下は問題にならなかった。

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