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メンバー集め ??? 1

「まずは飯を食いに行こう」


 スティーブンの提案そのまま三人はそのまま医務室を後にした。

 その足でアシュリーの研究室に寄りオーランドを回収。

 救出時の彼の表情は菩薩のように慈愛に溢れたものであったと後にスティーブンは語る。

 しかしながら、坊主なのだしそういうこともあるだろうと結論付けて気にしない方向へと舵を取り、デイジーを紹介して有耶無耶に。

 お互い穏和なこともあってファーストコンタクトは恙なく終了、オーランドの愛称はめでたく「ランちゃん」に決まった。

 そして四人揃って親睦を深めるために食堂へ。

 そこまでの数分、先頭を行くスティーブンの後ろで三人が苦笑していることに、彼が気づくことはなかった。



 それはさておき、等級が上がればそれだけ食堂の質が上がる。

 一等学生ともなれば各地から呼び集めた超一流のシェフによって最高級ホテルのそれと同等以上の逸品が提供されるのだ。

 がしかし。

 スティーブンとアシュリーという食事=栄養摂取としか考えていない罰当たり貧乏舌ーズには特に関係なかったりもする。

 さすがに最下級のウッドの学生たちに提供されている「質0:10量」がテーマの半ば豚の餌みたいな料理だと些かの抵抗はあるが。


 基本的にはバイキング方式で、スティーブンのトレーには野菜炒め、卵焼き、琥珀色のスープ、米飯が載っている。

 素材も調理の腕も抜群ではあるのだが、比較的質素。

 その代わり量自体はそれなりに多い。なんだかんだで食べ盛りだ。


 各自料理を取って席に着く。

 オーランドとデイジーは育ちが良いので、シェフが思う存分に腕を振るった凝った料理を選んでいる。

 アシュリーは野菜カレーのS。見た目通り少食。


「スーくんいつもそれだよね」

「食べ慣れてるからな」

「たまには他の料理も食べたりしないの?」

「レバニラとかはよく食べる。あとは気が向いたら時々」

「レバーは鉄分が多いですからな」

「その前に吐血癖を直せよ」

「……僕だって好きで吐いてるわけじゃない。ほら、いいから食べるぞ」

『いただきます』


 さっそく食べ始めると、四人は自覚していた以上に腹が減っていたことに今更ながら気づき、そのまま無言で食べ進める。

 オーランドを除いてまともな生活習慣ではない。


 一番食べるのが速いのはスティーブンで、瞬く間に料理が減っていく。

 一口が大きく、顎の動きがやたらと速い。

 しかしこの青年、中々に綺麗な食べ方をする。

 元より平民ではあるが長らく貴族の屋敷で生活していたので、幼い頃からきっちりと教育されている。実を言えば執事の真似事だって可能だ。

 早食いは褒められたものではないが、テーブルマナー自体は習得している。


 逆に遅いしあまり行儀がなっていないのはアシュリー。

 口が小さいし、咀嚼も遅い。カレーもライスと混ぜに混ぜているので若干見目が悪い。

 だが最低限のマナーは理解しているので、このメンバー間では咎める者はいない。

 むしろ一部の好事家の間ではちびちび食べる姿が小動物のようで庇護欲がそそられると話題されているが、これは特に関係ない話である。


 もとい。


「それで」


 半分ほど食べたところでスティーブンは一度箸を置き、三人に声をかけた。


「最後の一人、魔術科についてなんだが……誰か候補はいるか?」

「「「…………」」」


 その言葉に三人はしばし無言でスティーブンを見つめ、口の中のものを飲み込むと、全員ほぼ初対面の割には息の合った連携を見せる。


「特に」

「これといったのは」

「いないねー」


 いない。

 いるわけがない。

 いや実際にはいるけどここでそんなこと言えるはずもない。

 アシュリーは友達が少ないので本当にいないのだがそれはともかく、ここで挙げるべき名など存在しないというのが三人にとっての当然の結論である。


「なっ……一人もか!? 魔術科だぞ!?」


 逆に予想外の返答に愕然とするのはスティーブンの方である。

 なぜなら魔術科は技術科に次ぐ人数を誇り、合同訓練や共同研究も多く他科との横の繋がりも強い。

 そしてなにより一等学生、二等学生の枠が他科に比べて20も多い。

 それだけ友人知人の数も増えるし、フリーの人間だって相応にいる。

 だから最も難易度が低いのは魔術科、そう高を括っていた。


「そう言われましても拙には勧誘に値するほどの御仁には心当たりはありませぬなぁ……」


 顎を撫でながら残念そうに呟くオーランド。

 しかしながらそこに深刻そうな気配は見られない。


「別に魔術科に関しては贅沢を言うつもりはないぞ。とにかく平均以上の火力持ちなら誰だって構わない」

「しかしな、おそらく今の状況でこのチームに入りたがる人間は少ないぞ」


 アシュリーも半笑いで一蹴する。


「僕らの平均順位は18位、これは中々の数字だ。条件はそう悪くないはずだろう?」

「いやー……そういう事じゃないと思うなー……」

「なぜだ!?」


 デイジーにさえも苦笑され、スティーブンは理解できずじんわり涙目になる。

 三人にとって、いや周囲の人間にとってはその理由はあまりにも明白だったのだが。

 それでもヒントは与えない。

 与えてしまったら彼女になにをされるのかわかったもんじゃない。

 これは、彼が自分で気づくからこそ意味があるのだろう。

 そうでないなら、不意に彼が振り向く度に気配を消して隠れたりするものか。

 下手に干渉してしまうのは無粋というやつだろう。犬だって食わない。


「そう言うウォーウルフ殿には誰か当てはおらぬのですか?」

「いるにはいるが……あまり僕の意見ばかり押し付けるのは良くないだろう?」


 この場の三人はスティーブンの希望によって選ばれている。

 しかし独裁をするつもりはない、良きリーダーであるためにはメンバーの意見も汲み取るべきだろうとスティーブンは考えている。

 しかしアシュリーは気怠そうに手をひらひらさせてそれを否定する。


「人選について私はウォーウルフに一任する。お前のことだ、下手な奴は連れてこないだろうからな」

「む」

「そうそう、私たちはスーくんの意見を信頼するという意見で統一されてるんだよ!」

「然り、然り」


 ニパッと笑うデイジーに、我が意を得たりと満足そうに頷くオーランド。


「むむ」


 むむむ。と、そう言われてしまってはスティーブンは言葉に詰まる。

 率直に言えば照れる。

 たとえそれが揶揄い半分の軽口だったとしても、信頼なんて言葉は面と向かって言われるにはむずがゆい。


「……わかった」


 しかしながら、ここまで言われて期待に応えられないようでは男が廃るというもの。

 スティーブンは懐から数枚のメモ用紙を取り出す。

 それは昨晩徹夜で考えた(怒られるので内緒である)魔術科候補者リストを卓に広げるのであった。


「ほぉ!」

「これは……」

「凄いじゃん!」


 早速とばかりに資料にかぶりつく三人。

 そこには魔術科の生徒の名前と性格、成績に使用魔術、そして勧誘難易度などが事細かく書かれていた。

 その情報量に感嘆する三人。完成させるには長い時間を要したことだろう。


 しかして、少しだけ得意げなスティーブンを横目に三人の心は一つとなる。


(((いねぇ!!!)))


 そこに、彼女の名前はなかった。

 学生寮が氷の城になる日も近い。


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