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メンバー集め アシュリー・フランケンシュタイン 2

・ぼちぼち再開していきます。

・二話と五話をかなり改稿しています、申し訳ございません。

「お、帰ってきた」


 スティーブンへの説教を終えて部屋に戻ると、片付けたのか幾分か綺麗になった部屋でアシュリーが長閑に煎茶を飲んでいた。

 卓上にはお茶請けが用意されている。


「生きてるか?」


 げっそりとしたスティーブンに、アシュリーが問う。

 あんまり興味なさげに。


「死んでる」

「えっ解剖していいのか!?」

「なんでそうなる!?」

「半分冗談だ。茶を淹れたから飲んでもいいぞ」

「半分……」

「気にするなオーランド、こういう奴だ」


 スティーブンはそう言って向かいのソファーに倒れ込むように座り、オーランドもそれに倣う。

 質の良い低反発らしく、ゆっくりと体を包み込んでいく。


「なんだ、珍しいもの食べているんだな」


 アシュリーの食べているお茶請けを見てスティーブンが言った。

 小さい口でぼりぼりと音を立てながら食べているそれは──


「煎餅だ、食べるか?」

「煎餅!?」


 オーランドはつい大きな声を張り上げてしまった。


「「…………」」


 いきなりの大声に、二人は呆然とする。

 恥ずかしくなってオーランドは「失礼しました」と頭を下げる。


「申し訳ない、故郷の菓子でして懐かしく……つい興奮してしまいました……」


 オーランドはイーストウッド州の出身ではなく、地方から単身でこの学院に入学した。

 ホームシックになるタイプではないが、そう簡単に里帰りできるような距離ではないために時折、望郷の思いを馳せることもあった。

 加えてイーストウッドでは米菓が一般に流通しておらず、というかそもそも米があまり普及していないため、よもやな場所で出会った故郷の味に驚いてしまったのだ。


「そうなのか? いいぞ、遠慮せずに食べてくれ、いくらでもあるからな」

「あれ、貴重な品じゃないのか?」

「いや、一等学生は申請すれば安価で色々と取り寄せてくれるぞ? 知らなかったのか?」

「なんと!? 斯様な特典があったとは……よもやよもやでありますなぁ……」

「ブロンズの時はそんなのまったくなかったのに……本当に学院は等級で扱いが違うよなぁ……ゴールドになった途端に上げ膳に据え膳で甘やかしてくる、どうにも極端だ」

「まあでもハングリー精神は養える。特に当落線上にいる奴らはギラギラしているのが多い、正直私も危なかったぐらいだ」

「そういえば今期は三十位だったな、いつもは二十位前後にいるのに」


 一等学生は三十位まで。本当にギリギリである。

 オーランドとしても二十八位なので人のことは言えないが。


「自分の研究にばかりかまけていたら必修レポートの提出を忘れてしまってな……教授に土下座して期限を延ばしてもらったんだが大幅に減点された……」

「想像以上にしょうもない理由だった」

「言うな」


 それでも三十位をキープできるあたり優秀なのだろう。


「ふむ……その研究とやらはどんなものなのですかな?」


 煎餅をバリバリと豪快に割りながらオーランドが問う。

 普段はかなり行儀が良いのだがどうにも止まらない、どうやらいつになくテンションがハイであるらしい。


「んー? そうだなぁ……一言で言うのは難しいが……私はな、私をもう一人作るのが夢なんだ」

「あ、言っていいのかそれ」

「先に言っておいた方がいいだろう? それで離れて行くならそれまでの縁だったってことだ。……ウォーウルフ以外はみんなそうだったけど……」


 唇を尖らせぼそっと呟く姿は寂しさ半分と一人でも理解者がいた喜びが半分という複雑な感情が渦巻いているように見えた。

 なんと言うべきか、友人がいないと言いながらここに一人いるではないかと、微笑ましい気持ちになる。

 研究はあまり微笑ましくないようだが。


「それはつまり……ホムンクルス、ということですかな?」

「少し違う、人造人間よりは自動人形の方がニュアンス的には正しい。上手く説明できないが……人のように動く人形、長じて私と同じように考え私と同じように動く人形が欲しいのだな。そう、自分がもう一人いたなら、と思ったことはないか?」

「ありますな。しかしまた……なんとも……」


 考えたことはある。しかし、それを実行に移そうとなると奇特な考えだと言わざるを得ないだろう。現実が見えていない、それは、未だ神の領域だ。

 だがまあ──


「嫌か? 僕はこの空想家の妄言は嫌いじゃないんだが」


 スティーブンが言うと、アシュリーはむっとした顔をする。


「お前が言うな第八位、どの口で妄言とか言っているんだ」

「うるさいな、今年こそ僕はあいつらに勝つさ、計画だってちゃんとある」

「なら私だって作って見せるさ。妄言なんかじゃない、現実は破るためにある」

「へぇ……そこまで言うならどちらが先に達成するか、勝負しようじゃないか」

「望むところだ、なんなら賭けるか?」

「いいだろう、何を賭ける?」

「そうだな……ここはベタに『勝った方の言う事を一つ何でも聞く』でどうだ?」

「乗った」


 ──張り合う二人を見て、オーランドは思う。

 似たようなのを五年も側で見てきたのだから、こういう我武者羅に元気なドリーマーは嫌いじゃない。

 浪漫が無くては世界もつまらないというものだ。

 得心がいったとオーランドは手を叩く。


「なるほど類は友を呼ぶ、本当でありましたか」


 届かぬものに手を伸ばす者たち。

 現実を見た上でなお、挑もうとしている。

 そういうお互いの共通点が何か二人を引き合わせたのかもしれない。


「拙は構いませぬ。ウォーウルフ殿の推薦だ、腕には申し分ないでしょう。自動人形、結構ではないですか。正直理解はできませぬが夢を追うことを否定するほど拙も狭量でもありませぬ」

「ん? そうか? なにか引っかかる言い方だがまあ良し! よろしく頼むぞオーランド・ベイ!」

「ええ、こちらこそ。アシュリー・フランケンシュタイン」


 なんというかまあ、良い仲間になれる気がする。オーランドはそう思う。



 ***



「これで三人か……」


 スティーブンはほっと一息。とりあえず、課題が一つ片付いた。

 アシュリー・フランケンシュタインの加入は嬉しいようなそうでないようなちょっと複雑な気分だが、やはりどちらかと言われれば嬉しいのだろう。

 それで、かねてから気になっていた件について尋ねる。


「で、それ……何だ?」


 鳥籠のような小さな檻に入れられている、宙にふわふわと浮かんでいる謎の黒い生物。

 上質な黒い布で作ったてるてる坊主みたいな見た目で、先ほどから黄色い目が忙しなく周囲を見回している。

 意思疎通は難しいように思えるが、耳がなくとも声が聞こえているらしく、大きくなったり、小さくなったり、ぐるぐるしたり、うるうるしたりするその目がなにやら感情豊かで、なんとなくではあるけれど何を考えているかはわかる。

 なんだこれ。


「これか? これは……なんだろう……? なんだと思う?」


 アシュリーは「さっき創ったのだが」と言いつつ、こて、と頭を傾ける。


「魔物、ではないようですな」

「うむ! 生まれも育ちもこの研究室だ!」

「使い魔じゃないのか? 普通、魔術科の領分だとは思うけど」

「使い魔……ではないな。使い魔は術者ありきの存在だが、私とこれは魔力のパスが繋がっていない。完全に自律している」

『は?』


 男二人の気の抜けた声が揃う。


「まあどうやって創ったか私にもわかんないけどな! ハハハ!」

「くそっ、一歩リードされたか!」

「いえそこではないでしょう!?」

「法律に違反するようなことはしていないぞ」

「いえ、そこでもなく。生命を創造するなど、神の御業ではありませぬか」

「うーん……正直、創ったというよりはなんか気づいたらいて、近くに置いていたはずの素材が減っていたという感じなのだ。ぶっちゃけ意味がわからん」

「な、なるほど……名前はなどあるのでして?」

「アル、アーティフィシャルライフの略だ。人工なのか怪しいところなのだが」


 黒いてるてる坊主改めアルと名付けられた謎の生き物。

 スティーブンはそれを興味深げにしげしげと眺めていると、なんとなく目が合った気がした。というかしている。


「なんか……こいつ僕の方ばかり見ている気がするんだが」

「ああ、たぶん材料にスティーブンの血液が含まれているからだな。何か感じるものがあるのだろう。なんか知らんが置いてたらいつのまにかなくなってたから」

「ええぇ……」


 心底呆れたようにスティーブンは息を吐いた。



 ***



 その後は、遠征についての話し合いだった。

 どんなチームを作るか、どんな方針で行くのか、どの魔物を狙うか、戦法は、持ち物は、そんなことを摺り合わせていく。

 そんな折に、スティーブンは机に置かれた椀を思い出す。

 アシュリーが淹れてくれた煎茶が入っているが、すっかり冷えてしまっていた。


「…………」


 せっかく淹れてもらったのだから飲んでしまおうとしたところで、思いとどまる。

 茶碗を揺らす。

 スティーブンがオーランドに説教されている間に淹れられたもの、つまりは、淹れる時の姿を誰も見ていないということだ。

 アシュリー・フランケンシュタイン。

 悪人ではないが、その性質は混沌だ。


「アシュリー」

「ん? なんだ?」

「このお茶、何も入れてないよな?」

「?」


 問うと、楽しげに要望を伝えていたアシュリーの顔が、すんと澄ました冷たい表情に変わる。

 状況が呑み込めていないのは、煎餅も煎茶もしっかりと楽しんでいるオーランドだ。


「「…………」」


 見つめ合う。いや、睨み合うか。

 鋭い視線が交差する。


「ちっ」


 先に眼を逸らしたのは、アシュリー・フランケンシュタインだった。


「君のような勘の良い男は嫌いだよ」

「おい、何を入れた」

「…………媚薬」


 気まずそうに、そう言った。


『は?』

「いや、その、金になるのだ。そういう依頼は。でも、効果を試そうにも被検体がいなくて……別に体に害があるわけではないから、こう、こっそり?」

「こっそり? じゃねぇよ! お前、黙って被検体にしたこともそうだが男といる部屋で媚薬を使う意味わかってんのか!?」

「はっはっはっ、私みたいな貧相な女に欲情する男などそういるはずもないだろう」

「お前みたいな貧相な女に欲情するようにするための薬だろうが!」

「あ」

「この馬鹿!」


 スティーブンはアシュリーの頭を叩く。

 確かオーランドはかなりの回数おかわりをしていたはずだ。

 効果のほどは知らないが、この頭のおかしいマッドサイエンティストの腕はかなり良い、無駄に、そう無駄に良い。


「オーラン──」


 スティーブンが薬を盛られた親友に声をかけようとしたところ──


「ウォーウルフ……殿……」


 後ろから、うめき声が聞こえた。

 しかし、振り返らない。声の主はスキンヘッドの大男だ。

 振り向けば地獄だと、わかりきっている。


「何も言うな! 十秒耐えろ! 僕は逃げる!」


 スティーブンはアシュリーを両手で抱きかかえ部屋の外に出る。

 急いで扉を閉め、出てこれないように廊下にあった家具で部屋を封鎖する。

 部屋の中からは獣の如き低い声が響いており薬の効果のほどが知れる。

 オーランドは敬虔な宗教家なだけあって禁欲的な男だが、あれほどの男が耐えられぬほどなら間違いないだろう。


「効果は抜群だな! 売れるぞ!」

「やっぱお前嫌いだ!」


 スティーブンの怒声が一等学生寮に響いた。


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