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天国だと思ってたらふつーに異世界だった話  作者: 雰囲気美人
幼少期編
2/14

1.両親

主人公ちょっと馴れたみたいでですます調じゃなくなってます。



 私は天人族という亜人種として生まれた。


 亜人種とは魔力を有しながら、魔物とは違って理性を持ち、他種族とは――時折敵対関係になるものの――基本的に争いを好まない友好的な種族のことを言う。



 その対極にある存在を魔人種と言う。


 魔人種は魔力を多く持たない種族を蔑み、忌み嫌い、亜人族とは相容れない者達である。

 だが、この大陸には幸い住んでいないので関わることはないだろうとのこと。



 天人族はこのイングド王国の支配階級で、人族に翼を生やしたような姿をしている。


 見た目はただそれだけの違いなのに、天人族は亜人種の中でも特に膨大な魔力を体の内に秘め、個々が強力な固有魔法を持つ。



 対して、人族とは魔力を一切持たない種族。


 しかし、人族はその強い繁殖能力をもってして現在大陸において最も数の多い種族である。

 故にイングド王国は多くの隣国のように多量の人族を亜人族が貴族階級を占めて支配するという形を取っている。


 支配するとは言っても、庶民階級の天人族も数多くおり、人族は特に奴隷のような扱いを受けているわけでもない。


 天人族が貴族階級を占めているとはいうものの、政治の腐敗を避けるために貴族家は必要最低限まで抑えられており、多くの天人族が人族と同等の地位にいるからである。



 逆に、既存する貴族家の権力はその分だけ大きくなるわけだが。



 私の生まれた家はそんな貴族家の一つだ。


 私の名はメイラ・クロシアン。

 両親に溺愛されながらぬくぬくと育ち、最近三歳になったばかりのクロシアン公爵家の次期当主の一人娘。


 公爵家と言う位なのでそれなりの地位にいるはずだけど、今は王都を離れた領の屋敷で暮らしている。


 現クロシアン公爵である私の祖父は王に滞在しており、祖母もその付き添いで領地を離れている。

 なので、普段は私と父と母と沢山の使用人達で暮らしている。



 ところで、クロシアン公爵領は王都のすぐ北に位置するので、王都までは一日も掛からない距離らしい。

 でもそれでもどうなんだ、これは……



「メイちゃーん、こっちにおいでー」


「なーにぃ、おうさま」



 私は甘い猫撫で声で私を呼ぶ三十代半ばの美丈夫を見る。


 そう、この蕩けたような締りのない顔をする男性はこのイングド王国の国王だったりするのだ。



「ああ、可愛いなあ、メイちゃんは。十年後と言わず今すぐにでもうちに嫁においで。」



 そう言って私を抱き上げる。


 何を言うんだこの男は。精神年齢はともかく、私三歳なんですけど。



「駄目です、叔父様。十五年は待って貰わないと、メイを嫁になんて出せませんわ」



 そんな言葉で私を国王の腕の中から奪い取ったのは母様。


 この国の貴族の遺伝子は非常に強いらしく、貴族家にはそれぞれ各々の家特有の代々受け継がれる髪と瞳の色がある。

 貴族家自体数が少ないのもあって、貴族なら瞳と髪の色だけでどの家の出自か大体分かると言われている。



 王家も例に違わず、現国王の姪である母は国王とそっくりな濃紺の瞳と、腰まで伸びる翼と同じ色の白銀の髪を持つ。

 その美貌は誰もが息を飲む程で、何人なんぴとをも魅了する。


 父譲りの髪色以外を、まるで全てコピペして幼児仕様にしたかのように母にそっくりな私は使用人達に将来を有望視されているのも頷けてしまう。



「お堅いなあ、アリアは。良いではないか。メイちゃんも私と王城で住んでみたいだろう?」

「えー」


「嫌なのか……」



 ガーン、と効果音が聞こえてきそうな勢いで床に四つん這いになる国王。


 こんなのが国王で大丈夫なのか、この国は。

 母様も呆れたような顔で這い蹲る国王を見ている。



「また業務をほっぽり出していらしていたんですか、陛下」



 涼しげで穏やかな声と伴に私たちがいる中庭に下りてきたのは父様だった。


 父はクロシアン家現当主である祖父の息子で、完璧なくらいにクロシアン家独特の空の色を、何倍にも薄めたようなブルーの瞳と、淡い金色の髪を受け継ぐ美男子だ。

 物腰はいつも柔らかで丁寧で、これぞ貴公子というような人である。



「エドガー、貴様は最近私の扱いが雑ではないか?仮にも国王だぞ、私は」



 国王がむくりと起きながら不服そうに言う。大方図星を突かれて不満なのだろう。


「職務を投げ出すような国王にはこれくらいが適度かと」



 容赦なく切り込む父様に私は追随する。



「おうさま、おしごとしてないのぉ?」



 下がる眉と悲しそうな声音は勿論わざと。



「うぐぅっ……メイちゃんまでそんな顔をしないでくれ……」



 国王は肩をしょんぼり落としながら帰っていった。情けないなあ。



「良くやった、メイ。見事だ」



 父様は悪戯っ子のようににんまりとしながら母様から私を受け取る。

 悪ガキの笑みが端正な顔立ちに妙に合う。淡い青の瞳が楽しそうにキラキラしていて、普段より若く見える。


 父様はいつもは見た目通りの隙のない貴族のように振舞うが、私と母様だけの時は自分の素の顔を晒け出してくれる。

 その子供っぽい表情に笑み、母様はこういう所にも惹かれて結婚したんだろうなと思う。



 さて、側から見れば仮にも一国の王である人物に対してあんまりの扱いだと思われるかもしれないが、あれくらい徹底的にやらないと帰らないんだ、あの人は。


 国王には三人の息子がいるそうだが、残念ながら娘は一人もいない。

 そういった理由もあって、彼は姪である母様の娘の私を大層可愛がって、しょっちゅううちに来るのだ――勿論非公式で。


 それはもう、私の中で国王が近所のおじさんくらいのたち位置になる程の頻度で。



 可愛がってくれるのは嬉しいけど、国王と言うだけに業務がそりゃもう沢山あるはずで、いつまでも王都を離れているわけにはいかない。

 なので偶に私達に追い返され、偶に護衛騎士に引き摺られて帰る。


 何なんだこの残念な国王は。


 因みに、国王は嫁に来いなどと言っていたが、私は彼の息子の内の誰かと婚約している訳ではない。


 年齢的には上の二人の王子は十歳近く離れているが、年の離れた三人目の王子は私と年が近いので有り得ないこともないが。

 まあ、色々複雑なのでそこら辺は追々...



「どうした、メイ。眠いのか?」



 私が欠伸をすると、父様が私の顔を覗き込んでくる。



 「うん、ちょっと...でもせっかく父さまのおしごとがおわったのに……」



 欠伸で言葉が途切れる。


 私は当然三年間私に愛情を注いぎながら育ててくれた両親が大好きだ。


 普通の貴族なら育児を使用人に任せて投げ出しそうな所、彼らは出来る限り自分達で私を育てようとしてくれている。



 今では慣れたのか、すっかり何も言わなくなった使用人一同の、私の生まれたばかりの頃の驚きようでそれがどれ程異質なのかが分かった。


 その仲睦まじい姿からも、両親は貴族界では珍しい恋愛結婚をしていて、私が望まれて生まれたことがありありと分かる。

 今では前世の両親と同じくらいに、彼らは私にとっての親である。



 そんな私の父様は祖父が王都に滞在する間、次期領主としてその領地経営の仕事を肩代わりしている。


 仕事内容は書斎での書類の処理と月に一度の領の点検とかで、優秀な父様は難なくこなしてしまうが、父様はそれに加え警備隊の訓練に付き合ったり、自身の魔法の特訓をしていたりするので、父様が私に構っていられる時間は意外と少ない。



 そして今日の午後は大好きな父様が私のため開けておいてくれた大切な時間なのに、たかが幼児である体の睡眠欲のために無駄にできない...



「メイは本当にエドガーが大好きね」



 母様が微笑ましげに私と父様を見る。


 何気なく見上げると、母様の言葉に嬉しそうに、少しだけ父様の口元が緩んでいるのが見えた。我が父親ながら非常に可愛いと思ってしまう。



「うん!母さまもだいすき!」



 破顔する母様はいつもながらに眩しい。


 因みにこれは本心だからあざといとか思わないで欲しい。誰だって美男美女は愛でたいでしょ。



「じゃあ、三人でお昼寝しましょうか」



 母様が私の髪を愛おしそうに撫でる。



(うーん、そうなる?

 まあ、いっか...)



 また欠伸が出る。




 その日は三人で川の字で寝た。






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