とある王女のお話
とある国の、王城の一角。
窓もなく、昼間でも薄暗い、そんな部屋があった。
王城の一室らしく、美しい調度品や絵画、彫刻で飾られた広い部屋ではあるが、重苦しさを感じさせる場所であった。
そんな部屋に、一人の少女がいた。
フリルやレースで飾られた、豪奢さは無いが清楚で美しいドレス。
腰まである長く艶のある、それ自体が彼女を飾る宝石であるかのような、淡い金色の髪。
大きな緑色の瞳は、幼く見えるが知性を感じさせるものだ。
全体的に整った顔立ちの、美しい少女。
少女の名前は、ラヴィニア。
この城の主である、国王の娘―つまりは、この国の王女である。
「…はぁ」
ラヴィニアは大きなため息をつく。
王女に似つかわしくない部屋の中、何をするでもなく椅子に腰掛けながら。
「…姫様。痛みますか?」
気遣わしげにかけられる侍女の声に、ゆるく首を振って否定の意を示す。
無意識に押さえていた、首筋に意識を向けると、ぼうっと熱を持っているのがわかる。
「最近、頻繁になりましたわね。…やはり、時期が近いから、でしょうか…」
沈痛な面持ちで言葉を紡ぐ侍女に、ラヴィニアは安心させるように微笑みかける。
「まだ、時間はあるわ。痛みもそれほどでもないから、大丈夫よ」
「…姫様…」
痛ましそうな視線を向けてくる侍女に、つきん、と胸が痛みを覚える。
彼女とは幼い頃から一緒にいる。
心から、案じてくれているとわかっている。それでも…そんな目を向けられることは辛いのだ。
ラヴィニアは幼い頃、死神に呪いをかけられた。
それは『18の年に死ぬ』という呪い。
その証として、彼女の首筋には魔法陣のようなものが痣となって残っている。
『…人間なんて、大ッ嫌い!!』
そう言った死神の少女の、憎しみの籠もった視線。忘れることなど、できない。
時折熱を持ち、痛むことのある痣は、彼女に呪いの存在を忘れないように仕向けてくる。
「…一度だけでも、自由に外を歩いてみたかったわ」
無意識に呟いた一言に、侍女ははっとしたような顔をする。
ラヴィニアはこの前17歳の誕生日を迎えた。
命の期限は、あと一年。
(私にできることって、なんだろう)
彼女の運命を変える出会いまで、あと少し。
長編予定の作品の、お試し短編です。まだ恋愛のれの字もありませんが、一応恋愛物になる予定です。読んでくださり、ありがとうございました。