空襲
サービスエリアからアクセルホッパーに乗り再び高速道路を走る、モンスターを跳ね飛ばしながら。
「兄ちゃん!楽にゾンビを倒せるね!」
「ああ、かなり楽になったな」
今までは倒したモンスターの魂を回収するのに、いちいち魂に触れなければならなかった。
しかし現在は倒したモンスターの魂はアクセルホッパーが吸引して一時的に貯める事が出来るのだ、貯めた魂は俺達に分配する事ができる。
「アクセルホッパーは賢いね!」
「ああ良い子だな」
この機能により、アクセルホッパーがモンスターを跳ね飛ばして、後ろに乗っている雪が俺の倒せなかったモンスターを倒す事により、効率良く魂を回収出来るようになった、魂を貯めて置けば傷付いた時に回復もできる。
しかも、アクセルホッパーには意識があるようで、自動操縦できる上に離れた位置からアクセルホッパーを呼ぶ事もできる。
「ねえ!兄ちゃん!僕もアクセルホッパー動かしたい!」
「別に良いぞ、アクセルホッパー、暫く雪の言うことを聞いてやってくれ」
「よろしくね〜」
雪にアクセルホッパーを貸す、雪は一人高速道路を走り出した。
「雪、ここら辺に居るから、暫くしたら帰って来いよ」
「OK〜」
一人で遠くの景色を見つめる……四日目の朝か、随分遠くまで来たもんだな。
山間部から見える朝日に照らされながら、俺は……いや俺達は後三日間魂を集めて、強くなって、雪の安全を確保する。
そして神の言うことが本当なら……
「兄ちゃん!ただいま〜」
「おかえり」
再び高速道路を二人と一機で走る、ここら辺は何故か事故車両が少ないな。
「兄ちゃん、なんか変じゃない?」
「ああ、事故車が少ないな、モンスターもいないんだが、道路は所々傷付いた後が有るな」
そんななか特徴的な鳴き声の鳥が上空に現れた。
ピーヒョロロロー
「兄ちゃん!何だっけあれタカ?」
「あれは鳶だな、どうやら俺達は狙われているらしいぞ」
高速で飛翔する鳶しかもデカイな5メートル位か?恐らくここらを狩場にして魂回収しているんだろう。
「くるよ!兄ちゃん!」
アクセルホッパーを左右に動かしながら、鳶の嘴によるアタックをよける。
「雪!攻撃を頼むぞ!」
「空激閃針!エェア!スピアァァァァー!」
雪の放つ魔法剣が鳶に向かって連続で放たれる、だが当たらない鳶も同じように左右に避けながら更に攻撃を重ねてきた。
ピーヒョロロロー
「今度は魔法かよ!」
上空から放たれるのは氷柱による弾幕、幸いにも連続で五発しか撃てないようで、撃ったら暫く弾幕は止むようだ。
「空球激突!エアァァボーーール!」
弾幕の止んだ隙に今度は雪が魔法剣を放った。
円を描くように放った魔法剣は広範囲を凪払ったのだが。
「兄ちゃん!効いてないよ!」
「炎系の魔法剣に切り替えろ!」
「それだと当たらないよ!」
鳶はダメージを受けた様子がなく、そのまま空を飛んでいる。
恐らく風系統は効きにくいんだろう、異変以降の世界はゲームのようなルールが所々に見られる。
あの鳶は氷の魔法を使っている、なら炎系が効く筈だ。
「今からアクセルホッパーを跳ばす!近くなら弾速が遅くてもいけるだろ!」
「OK!」
俺はアクセルホッパーを跳ばす為にハンドルにある特殊なボタンを押す、すると車体の横から飛行機の翼の様な物がガシャン、と音を立てながら飛び出した。
車体を腕力で持ち上げてジャンプさせる、翼によって空を駆ける力を手に入れたアクセルホッパーは盛大にジャンプした。
「炎閃飛刀!フレェイム!スラーーイス!」
空中にて豪快に放たれた魔法剣は鳶を捉えたかに思われた……だが。
「兄ちゃん!あいつ氷の壁でガードしちゃったよ!」
道路に着地して再び鳶の攻撃を避ける……が氷柱攻撃が左手にかすった、鳶の様子は殆どダメージ無し、このままではジリ貧だ。
「直接ヤツを叩くぞ!」
「どうやって?」
「俺の木刀に炎をエンチャントしてくれ!」
「OK!」
俺は背負っていた木刀を雪に渡して再びアクセルホッパーを跳ばす準備をする。
「炎術装填、エンチャントフレイム!」
木刀に炎が付与され、それを右手に持ち攻撃のタイミングを計る。
「雪!俺がとんだらアクセルホッパーを運転して着地地点に移動してくれ!」
「えっ!?ちょ兄ちゃん!」
ピーヒョロロロー
飛べない俺達は獲物ってか……だがな!
再び先程以上の力を込めて車体を跳ね上げる。
翼によって空を駆けるアクセルホッパーの車体上で立ち上がる。
俺は前輪に足をかけて、その回転を加速のエネルギーに変えて跳ぶ!
「俺は飛べない、けど跳ぶ事は出来る!」
ピーヒョロロロー
木刀を持ってその勢いを加速させ、逃げる鳶を両断した。
「兄ちゃ〜〜〜ん!」
着地はなんとかなりませんでした。
移動を一旦やめて、鳶の攻撃で痛めた体をアクセルホッパーに貯蔵していた魂で回復させる。
あの巨大鳶の魂もちゃんと回収してくれたらしい、アクセルホッパーの回収範囲はかなり広いようだな。
「兄ちゃん!ムチャしすぎ!」
「ああすまない」
「ううん、仕方ないのは分かってるんだ……でも心配で」
雪が泣きながら抱き付いてくる、暫くこの体勢のまま休んだ。
「そろそろ行こうか雪」
「うん!」
ゾンビや偶に出てくる鳥系モンスターを倒しながら、アクセルホッパーを再び走らせる。
モンスターを倒しながらの移動は思ったより時間がかかり疲れも溜まったので、小休止としてサービスエリアに再び寄ることにする。
「兄ちゃん!ここも結構綺麗だね!」
「そうだな」
おかしい……前回寄ったサービスエリアも不自然な位綺麗だった上に、今回も似たような状態……一度だけならまだしも、二度目の不自然は何かある。
「雪、気をつけろよ何かおかしい」
「そうかな?」
モンスターはサービスエリアに寄り付かず、人の気配はしない、駐車場には車がまばらに駐車してある。
取り敢えず、駐車場にアクセルホッパーを停めて店内に入る。
「いらっしゃい」
店内には、やけに影の薄い三十代位の男性がポツンと椅子に座っていた。
「ここで暫く休憩しても大丈夫ですか?」
「お願いします!」
辺りを見回しながら男性に訪ねる、見たところ他に人は居ないようだが。
「いいですよ、此処は安全ですから、あなた方もあの鳶から逃げて来たんでしょう?」
「倒してきたんだよ!凄いでしょ!」
男性は雪の返事に物凄く驚いたようだ。
「凄いですね、私は逃げるのがやっとでしたよ」
男性から少し離れた位置の椅子に雪と腰掛けて会話を続ける。
「ここに来る前のサービスエリアにも寄ったんですが、似たような状態だったんです、何か知りませんか?」
「ああ、私の能力でね、安全結界とでも言うのかな?一定の範囲を自分の都合よく出来るんです」
「すごーい!」
雪は感嘆の声を上げているが当然制約があるんだろうな。
「余り使い勝手のいい能力では無いんですがね、頑張って高速道路を移動してたんですよ」
結界能力か……鵜呑みにするのは拙いだろうが、状況的にはだいたい当てはまっていると思われるな。
「ここで鳶から逃げ回ってやっと結界をはってさてこの先どうしようかと悩んでた所なんです」
「安全に過ごすだけならここで充分何では?」
相手のスタンスを聞いてみる、俺達と同じように強くなる為に東京を目指してるのか、それとも誰か探してる人がいるとか。
「えぇ、結界内は水やら食料も普通に用意出来ますし、モンスターの侵入も出来ません、まあぼちぼち考えますよ、能力強化の為にモンスター狩りしないといけないですから、町におりなければいけませんしね」
「おじさんは町に行ったら人気物になれるよ!」
まあ雪の言う通りだろう。
避難所は異変の現実を受け止めれない人もいるだろう、救助が来ると待ってる人もいるだろうし、異変を受けとめて動く人もライフラインの確保はかなり魅力的に映るだろう。
誰もが俺達兄妹のように食事が必要無い程強くなれる訳では無いのだ。
「人気物ですか……そうですね人恋しいと思うのは確かですね、あなた方との会話もかなり楽しい」
「そうだよね……ひとりぼっちは寂しいもんね」
雪は少し顔を曇らしている、もし自分がひとりだったらなんて事を考えているのだろうか?
「そろそろ俺達は行きますね」
「ええ、機会があればまた会いましょう」
「おじさん!バイバイ!」
一時間程おじさんと会話しながら休憩して、再びアクセルホッパーに乗り高速道路を走り出す……悪い人では無かったので生き残って欲しいと思う。