他人
7時から11時までやってる有名チェーン店のコンビニに立ち寄る。
家を出たのは朝早くだったし、ここら一帯のモンスターは片付けた、ある程度安全になったので遅めの朝食をとるためだ。
「「一せーのー」」
雪と一緒にコンビニに突っ込んだ車を外に放り投げる。
「ガラスってこんな風にくだけるんだねー」
「そうだな」
雪の言うとうり、粉々にガラスは砕けている、非日常的光景をどこにでも有るコンビニでも感じるのは、少し悲しかった。
「雪、カンズメと常温保存のパンにしとけよ、後クリームパンとかは止めとけ乳製品は腹を壊すかもしれないからな、ジュースもだからな」
「OK〜」
レンジが使えればご飯とか食べれたんだがな、雪と俺は食料を持って落ち着けそうなバックヤードに移動した。
警戒しながら進んだが、奥には誰もおらず、腰を落ち着けて食事をする事が出来た。
「ねぇ兄ちゃん、これって泥棒になるよね?」
「どうだろうな、この大災害じゃ緊急事態だしな、多かれ少なかれ誰かなんかやってるだろ」
普通の災害時はレジにお金を置いておいたり、住所を書いた紙を置いておくと罪にならないらしい、罪悪感はあるが生きる為には仕方ないだろうしな。
さて飯も食い終わったし、そろそろ行くか。
「兄ちゃんちょっと待ってて」
「どこ行くんだ?」
「トイレ〜」
「俺も付いてくよ」
「なんで?」
「危ないからだよ、今は非常時なんだからな」
「う〜分かった」
俺達はコンビニ内のトイレに向かった。途中でジュース等が陳列されている冷蔵庫から、一番大きなサイズのミネラルウォーターを三本取り出して雪に渡した。
「トイレのタンクに水が無いと流せないからな、確認しとけよ、後で俺も使うから」
「OK〜……兄ちゃんちょっとだけトイレから離れててくれる?」
「ああ」
兄妹でも恥ずかしいのだろう、俺は素直にトイレの前から距離をとった。
トイレを済ませた俺達は再び街中の探索を進める、目的としてはモンスターを排除しての、魂の回収だ。
戦わなければ生き残れない、魂を他人より多く回収すれば、それだけ安全になる、強くなればなる程立ち回りが楽になるだろう。
天界とやらにいくか行かないかは分からないが出来る事はやっておくべきだ、雪を守るために。
街の探索を続けるが、大型スーパーや警察所等に人が籠もっている事が多いようだ、此処までゾンビを狩ってきたが、逆に都心部に近づくにつれてゾンビが少なくそして強くなっている。
恐らくどこかで失敗してある程度強くなった人がゾンビになり、強い魂を持ったゾンビになったんだろう。
「雪、俺の後ろに下がっていろ」
「なんで?」
その中で人影が一つ動いている、ゾンビではなく人だろう人影がこちらに声を上げながら手を振っている、
「おーい」
手を振り返して此方も返事を返す。
「こんにちは」
「こんにちはでーす!」
身長は185位でガッチリとした筋肉、鉢巻きと胴着のいかにも格闘家ですという感じの人だった。
「学生位なのに普通に外歩けるんだ、すごいね」
「いえ、運がよかったのが大きいです」
「でどうする?」
「どうするとは?」
どうすると聞かれたが、まあやはり戦うのかどうかだろうな、
「人同士で戦うのはちょっと遠慮したいです」
「そうかなら仕方ないな、俺は真っ直ぐこの道を行くから魂集めるなら他に向かった方がいいぞ」
「分かりました、どうもです」
俺と雪は地図を見に一旦近くのコンビニによった。
「兄ちゃん、あの格闘家さん強そうだったね」
「ああ」
それよりこれからどうするかだ、恐らく都市部で生き残った人々はゾンビを大量に倒して強くなっている、つまり普通と違う事をしないと強く成れないのだ。
「よし雪、山に進むぞ」
「はーい」
俺達は出来うる限りのゾンビを倒しながら山に向かった。
「という分けで動物狩りだ」
「動物ですか、兄ちゃん」
「そう動物だ、山の中は結構動物が居るからな」
既に時間は夜である、月は出ているし、夜道も意外と見通せるので魂集めに支障は無さそうである。
魂を集めたおかげなのか疲れが感じられず、身体能力もかなり上がっている、此処まで来るのに時間はかからなかった。
「ねぇ兄ちゃん、なんか夜なのに普通に見通せるんだけど」
「奇遇だな俺もだ」
あちこちにある鳥や犬等の死骸を流し見ながら、獣道を歩いていく。
そして巨大な鹿が突撃して来た。
「来るぞ雪!」
「よっこいしょぉ!」
鹿の左右にて角を受け止め、手で思い切り角を掴み雪とタイミングを合わせながら、後ろへ投げ飛ばした。
キャアアという鳴き声と共に山を転がるように鹿は離脱したのだが、少ししたら再度アタックをしかけて来た。
「雪、炎系は使うなよ」
「OK〜」
俺は正面から鹿の体当たりを木刀で受け止めつつ雪に合図を送る。
「雪!」
「疾風怒濤・ストォォームゥスラーイス!」
一振りにて四閃の風が鹿の四肢に傷を負わせたのだが、鹿はまたしても一撃離脱をしていった。
「まだ来るぞ」
「うん!」
雪の返答と共に周囲を観察するが、小枝をパキッと踏み砕く音が聞こえるだけでなかなか襲ってこない。
そして……その時が来た、三頭で三方向から襲って来たのだ!
瞬時に木に登り雪と声を交わす。
「雪、拙いかもしれないぞ」
「兄ちゃん、どーする?」
「そうだな……雪はその木の上から遠距離攻撃してくれ」
「兄ちゃんは?」
「下に降りて攻撃を迎え撃つ」
「大丈夫なの?」
「任せろ」
心配そうな顔をしながら、俺を見送る雪の顔を見たら負けられないという思いが強くなった。
地に降り立ち、木刀を構えながら神経を張り巡らせる、そして一瞬の静寂……
三頭の鹿が先ほどと同じように同時に突撃して来た、その瞬間に『加速』を発動させる。
一頭は雪により四肢に傷を付けられていたので、『加速』状態の俺から見ると僅かに速度が落ちている。
その隙を突き角を避けながら一閃、『加速』した一閃は見事に鹿の前脚を斬りとばした。残り二頭、体を反転させて構えるタイミングで雪の声が響きわたった。
「地隆一刀・アァースゥゥウォーール!」
俺に攻撃するという事は鹿二頭も必然的に距離が近づくという事……そのベストといっていいタイミングで地面が隆起を起こし、二頭の鹿は同時に腹部を岩に打ち抜かれた、駄目押しに一閃……地を蹴り空中にある鹿の首をはねる、雪も俺と同じタイミングで木から飛び降りながら鹿の首を模造刀で打ち砕いた。
素早く、倒した二頭の鹿の魂を吸収、雪も一頭の魂を吸収した。
「雪、探索系のレーダーみたいな技使えるか?」
「うん!今ので使えるようになったっぽい」
「試してくれ」
「OK〜では、風感地振・レェーダァーサーーーチ!…………ふむ兄ちゃん人っぽいのが一人走ってるよ!」
「追いかけるぞ」
そもそも最初からおかしかったのだ、山の中と言ってもモンスターがいなさすぎるのが。
今の状態なら本能的に魂の多い方向に向かうはずである、さらに言えば的確に襲って来る鹿三頭の見事なコンビネーション攻撃、明らかに人為的な攻撃だった。
「兄ちゃん見えたよー」
「雪は此処にいろ」
「いやだ」
「今から人を殺しにいくんだぞ」
「だからだよ、いったじゃん兄ちゃんについて行くって」
決意の籠もった顔で此方を睨みつけるように見つめてくる、いいのか?襲撃犯は逃す訳にはいかない、不意打ちで人を殺しに来るような相手なのだ、ここで殺さなければ後々どうなるか分からない。
「分かった」
俺は返事をして、様々な覚悟を決めて、歩き出した。
襲撃犯は山中にあるログハウスに立てこもるようだ。
ログハウスの周辺は広場に成っており、襲撃犯は真っ直ぐドアまで進んで入っていった。
「雪は裏口に回れ、俺に付いて来るって言ったんだからな、奴が裏口から出てきたら躊躇せず殺すんだぞ」
「OK……分かってる」
さて……雪を見送りつつログハウスに慎重に足を進める、相手は恐らくモンスターテイマーのような能力持ちだろう、奴が此処を拠点にしているならばトラップ位仕掛けてあるはずだが……現状普通のトラップはあまり俺には意味が無い、体の強度が高いので簡単なトラップは効かないだろうからだ……だいぶ人間やめてきたな。
木刀を左手に持ち替えて、右手でドアノブに手をかけようとした瞬間横合いから影が飛び出してきた。
「おっと」
俺はバックステップでドアから距離を取った。
差し詰めモンスタートラップというところか、雉っぽかったが……追撃が無いって事はドアに触れようとする相手にだけ攻撃する命令を受けているのだろうが……初見でよけれるレベルなので攻略は簡単だな。
少し大きめの木の枝をドアに投げる、雉が飛び出してきたので木刀で叩き落としてお終い。
恐らく簡単な命令しか見てない所では出来ないのだろう、出なければわざわざ鹿の近くで待機しては居なかったはずである……さあ扉を開けよう。
と気を緩めてしまった所でドアを開けた……瞬間、犬が牙を向けてきた。
「っった」
鋭い痛みを感じながらバックステップで飛び退く、とっさに右腕を差し出して首に向かう噛みつきをブロック、犬は絶対に離さないとばかりに噛みついてくる。
「オラァ!」
犬をそのまま地面に二度三度と叩きつけた、キャインという鳴き声を聞き暫くすると犬は絶命した。
魂を回収して傷を回復させる、血がかなり流れたが特に目眩などは無く、今度は慎重にログハウスに侵入した。
各部屋を見て回る……いない、キッチン・バス・トイレ・寝室・二階も見て回るが……いない、裏口で雪が待っている筈だ一度合流するか。
「雪、誰かでてきたか?」
「んーんでてきてないよ?」
どこにもいない?上手くかわされたのか?これ以上ログハウスを捜すのはめんどくさいな。
「よし、雪さんログハウスを燃やそう」
「OK〜んじゃぁ、燃焼炎袈・ファイアァァァバーーーン!」
「おぉ」
なんか凄い勢いで燃えてるな普通の火事では多分此処まで見事にもえないよな。
「兄ちゃん、キャンプファイヤーみたいだね!」
「まあ確かにそうだけどさ、一応人間を火炙りにしてんだからもうちょっとなんかあるじゃん」
雪は無邪気すぎる、いやわざとそう振る舞ってるのだろうか。
「関係無いよ他人だもん」
「そうか」
雪のその言葉に少し救われた気がした。
ログハウスが完全に焼け落ちた後襲撃犯の死体を探して、完全に白骨化した死体から魂を回収した。
結局顔も判らず男か女かも分からないままに人を殺したせいか、こんな極限状態だからなのか、罪悪感はわかなかった。