願い
神殿に戻って来た、転移と同時にあいつから魂を回収したのだろうか?左手は完全に回復していた、服は破れたままだけど。
「ホッパーもお疲れ様」
ヘッドライトを輝かせて応えてくれる、ホッパーと会話出来るのもこれが最後かな…………。
―――――――――――よく勝ち抜いた……願いを言うがよい、我に出来うる限りの願いを一つ叶えよう―――――――――――
神殿の中を神の声が響いてゆく、俺の願いは…………
「全部、無かった事にしてくれ、この異変で起こった事、全てを無かった事にしてくれ」
俺の願いが神殿に響く。
―――――――――――良いのか?今お主の力は地球上で最も強い、それが無くなるのだぞ。―――――――――――
「ああ、構わない」
―――――――――――不老不死も全ての富も女もお主の思うままだぞ?―――――――――――
「いらない」
―――――――――――俗な願いが嫌ならば、異変以降の死人全てを生き返らせるのはどうだ?
異変で体の病気や怪我の治った者もいるぞ?
なんならオマケにモンスター化を取り除いてやる、
確かに、科学が役に立たない世界は最初は厳しいかもしれん、だが魔法もそのうち便利に―――――――――――
「いらない、勝ち残った俺が願うのは……あのどうしょうもなく、理不尽で不平等で、悲しみと苦しみと後悔と、でもほんの少しの幸せが有る……そんな元の世界だ」
―――――――――――そうか……解った、だがその願い、一つだけ問題がある。
―――――――――――
「どんな問題だ?俺に出来る事なら、出来る限り手伝う」
―――――――――――観測する人間が必要だ、お主の願いを叶えた、という結果を観測する人間がな、でなければ[元の世界]に本当に戻ったのかどうか確認出来ん、
だから厳密にはその観測者以外を[元の世界]に戻すという形になる
―――――――――――
「なら俺が観測者になる」
―――――――――――良いのか?この世界の記憶は恐らく[元の世界]に戻ったお主の心を暗く重くするぞ?―――――――――――
「構わないよ」
―――――――――――そうか、ではお主の願い、聞き入れた!―――――――――――
眩い閃光が俺を包む、神秘的な輝きは世界を照らして
その瞬間に俺の意識が途絶えた。
目を開ける、意識が朦朧としている、全部夢だったのかな?
それとも神様が願いを叶えてくれたのかな?
ヘッドホンから流れる音楽と、いつの間にか再生が終わったアニメ、目の前のモニターには、俺の好きなゲームが映し出されている。
帰って来たのか……そうだ、日付の確認をしてみよう、
カレンダー、新聞、テレビ、携帯、パソコン、どれも8月1日だ、俺は確かに戻って来たらしい。
「兄ちゃん!さっきからどうしたの?バタバタうるさいから目が覚めちゃったよ!」
「いや、なんか急にニュースとか日付とか気になってな」
「ふーん、それよりプールに行く準備しよ!今日の昼からって昨日約束したでしょ!」
「ああ、そうだな!」
まるであの世界は夢だといわんばかりの日常が戻って来た。
プールで自分の体を見ても、あの引き締まった肉体は存在しない。
雪も何も言わない、
でも俺はソレは確かにあった事だと確信している、あの苦しくて、辛い、戦いは夢じゃないと。
何故なら……プールの帰り道に近くのバイク屋さんに謎のバイクが飾ってあった。
そんな事は有り得ない筈だ、だって本当の[元の世界]ならアクセルホッパーは此処にいる筈が無い。
「神様って嘘、つくんだな」
俺はどうしょうもなく、顔がにやけてしまうのを我慢出来なかった。
「兄ちゃん!何でにやけてるの?」
「ああ、ちょっとした思い出し笑いだよ」
「ふーん」
夕焼け空にプールの帰り道、どこかで見た事のある黒猫も見つけた。
取り敢えず父さんと母さんにバイクをねだろう、猫も飼っていいか聞いてみよう、バイクの免許も取りに行こうかな。
こうして、俺以外の人々は異変に気付く事なく、いつも道理にこの年の夏を過ごしていった、
このどうしょうもなく、理不尽で不平等で、悲しみと苦しみと後悔と、でもほんの少しの幸せが有る……そんな……世界を。
ここまで読んでいただき、ありがとうごいました。
少しでもみなさまの暇つぶしに貢献できたなら幸いです。




