決戦
転移した先はいわゆる荒野だろう、天候は晴れ。
かなり離れているが、相手は……俺と同じ位の年齢に黒髪で顔つきから海外の人間だろう事は察せる、武器は拳銃と長い両刃の西洋剣だ。
お互い無言で向き合って構える、あいつは拳銃を、俺は木刀と模造刀を。
バァンと乾いた炸裂音が三回、恐るべき速度で弾丸が放たれる。
何回か拳銃を撃つ所は見たことがあるが、そのどれよりも早い!
その全てを目で見てから避ける、体が俺のムチャな指示に苦もなく従い、更に俺は避けから接近に行動を変える。
更に追い討ちを放ってくる拳銃!
ほぼ同時に放たれる三発の弾丸、距離が近くなればそれだけ避ける余裕がなくなる。
迫る弾丸を雪の模造刀で弾く、弾かれた弾丸は彼方へと飛んでいく。
腕に痺れを覚えながらも着実に距離を詰めていく。
そして、あいつの次の行動に多少驚く。
なんと西洋剣をぶん投げてきた。
ムチャな体勢でソレを避け、転がりながらも体を前に。
そして俺の間合い!
左右同時に振るった二刀は、いつの間にかあいつの手元に戻った西洋剣と拳銃によって受け止められた。
鍔迫り合い、力は互角だろうか、全神経を相手に集中……。
木刀を受け止める大き目の拳銃……そのトリガーにかかる指に力が入った瞬間、力を抜き、あいつの体勢を崩しつつ、弾丸を避ける。
若干開けた間合いにお互い向き合って隙を窺う、剣術なんて上等なモノは修めてない、でも俺は今までこの木刀と模造刀で生き残ってきた!
次の瞬間、一緒に転移してきたアクセルホッパーが、あいつに向かって突進を仕掛けた。
俺はソレに合わせて追撃を掛けようと構え、ギリギリ紅く輝くあいつの攻撃を避ける。
アクセルホッパーは無惨にも叩き壊され、その僅かな差によって、俺は生き延びた。
考えるよりも早く『加速』を発動、あいつと同じ戦闘速度で斬撃を繰り出す。
『加速』された世界であいつは拳銃から紅い槍に持ち替えていた。
西洋剣と紅い槍。
木刀と模造刀。
似たような構えで、お互いにその凶刃を向け会う。
「ハァァァ!」
「オラァァァ!」
烈昂の気合いを漲らせて、斬撃を放つ。
武器に魂を込めた打ち合い、此処まで勝ち残った俺とあいつの魂の量はそう変わらないらしい、一刀を強化すればソレに合わせて、隙を突いてもう一刀で攻撃すればソレを防ぐ。
槍による高速の突きを避け、その槍を掴めば瞬時に手元に転移される。
どうやらあいつは自由に手元に武器を引き寄せれるらしい。
俺の武器を引き寄せないのは何らかの条件があるからだろう。
あいつの槍を掴んだ瞬間に空中に手放した模造刀を瞬時にキャッチ、再び斬撃の応酬が始まる。
コレでは決着が着かないと考えたのか、あいつは更なる武器を持ち出した。
デカい!
たしかグレートソードだったか?
本来儀礼用の超大な剣を強化された肉体と、武器に魂を込める事で実戦で扱えるようにまでしたのか。
迫る巨大な刀身はまるで嵐を想わせる。
その斬撃を木刀を使って脇に滑らせる、振り下ろし直後の隙を突く為に近付こうとして……しかし俺は再び体を避ける為に動かした、それは地を割る斬撃が再び振り下ろされたからだ。
あいつ、振り下ろした直後にグレートソードを手放す、無手で再び上段に構えて、そこにグレートソードを転移させて再び振り下ろしてきやがった!
お互いに『加速』状態だからこそ、無手の速度とグレートソードを持った状態で余計に差が出てくる、対して俺は武器の転移なんて出来ない、自分の武器を手放す事は出来ないのだ。
此処まで既に何度も刃を合わせているにもかかわらず、それでもお互いに致命傷を負ってはいない。
極限の集中力とカン、必殺の気合いと自分の願い、ぶつかり合ってるのは武器だけじゃないんだ。
グレートソードによって割れた地面、当然ソコには石ができる、それも大きめの石だ、俺はソレに魂を込めながら蹴りを放つ。
即席の弾丸と成った石礫は、あいつの体を撃ち貫かんと迫る……が、あいつは全身を守るように巨大なタワーシールドを出現させた。
キタ!
やっと出来た間合いを詰めるチャンスだ!
タワーシールドによってあいつは俺から視線を外した、それは一瞬だが確実な隙だった。
左か右か上からの三択を相手に迫る、一撃を左手側から叩き込もうと体を動かした瞬間、タワーシールドがぶっ飛んできた。
幸い、タワーシールドが飛んだ場所はさっきまでの俺の居た場所だった。
怯む事なく、俺は一撃を叩き込む、が再びあいつは手元に円形のシールドを出現させて俺の一撃を受け止めた。
どんだけ武具を持ってやがる!
どっかの美術館からパクってきたんだろうけど、手元に出現させる超能力はアポートって名前だっけか、こんなに厄介なんてな。
あいつは無手となっている方の手で、先程とは違う西洋剣を取り出して、至近距離の突きを放って来た。
迎え撃つのは木刀、再び模造刀とシールド、木刀と西洋剣の鍔迫り合いになる。
鍔迫り合いをしながらも、俺はあいつを観察する。
スキル『鷹の目』なんてカッコ良く雪が名付けていたが、実際はただ目がいいだけだ。
しかし目がいいって事は、ただ遠くが見えるって事じゃない。
目で物を追う力、相手の筋肉に力が入る瞬間を察する力、相手の視線を逃さない注意力、様々な部分を観察して相手の動きや思考を予測する。
それこそが俺の戦い、俺は考えながら戦う人間だ。
相手はアポートを発動する瞬間、僅かに手の形を変える。
恐らく呼び出す武具のグリップに合わせているんだろう。
次の武器は拳銃を左手にだろう。
予測通りあいつは西洋剣から力を抜いた。
先程俺がやったようにワザと力を抜いて体勢を崩すつもりだったのだろうが、そうはいかない。
あいつが力を抜くのに合わせて、模造刀側の力を抜く。
俺は予測通りに体勢を立て直して、あいつは体勢を崩しながら拳銃をアポートで引き寄せて、
一手俺の方が早く木刀で相手の腕を叩く!
次の瞬間、あいつの右手にあったシールドから閃光が輝いた。
ただのシールドじゃなかったのか。
俺の左手は模造刀を落として、完全に火傷を負った、しかも動かない。
あいつの左手も拳銃を取り落として、出血している、恐らく骨折しているだろう。
お互いの『加速』による紅い発光が同時に消える、あのシールドの閃光は魔法による物だろう。
あいつの戦闘スタイルは明らかに近接職系統、あいつ自身が魔法を使えるならもっと色々なタイミングで使っている筈だ。
だからあの閃光シールドは奥の手、そして単発の筈。
しかし……筈、恐らく、だろう、と俺は予想ばかりだな。
そんな自分の行動原理を少し可笑しく思いながらも木刀を構える。
あいつも西洋剣を構える。
そして今日何度目かの激突をどちらからともなく開始する!
お互い左手を負傷してあまり使い物にならない、だからだろうか、
打ち合う剣閃は酷く単調で、さっき迄のまるで光速を想わせる戦いはなりを潜めていた。
「ハァァァァ!」
「オラァァァ!」
しかしその単調な応酬は、先程と比べても遜色ないモノであった。
気合い、根性、魂、そういうモノを乗せた剣閃は、まるで嵐を幻視するが如く、荒々しく、激しさを増していく。
「オラァァァ!」
「ハァァァァ!」
後一手、後一手が足りない、この戦いに決着を着ける為にはお互いに後一手が足りてない。
そしてその一手を引き寄せるために、俺は時間を稼ぐ。
お互いを打倒する為に剣を振るい、会話らしい会話をしてはいない……でもどんな会話よりも雄弁に語りかけている気がした。
負けられない、願いがある!
俺だって、負けられない!
お互いに色んな物を背負って戦ってるのが、痛い程に伝わってくる。
どれ程に打ち合い、戦っただろうか、永遠と戦って、戦った。
心のどこかでは終わらせたくない戦いだった。
でも、自分の願いの為に、今、終わらせる!
自己修復を終わらせた、アクセルホッパーをあいつに突っ込ませる。
ソレを回避するあいつ。
『加速』する俺、全力であいつに木刀を袈裟切りに振り下ろして、
この瞬間、俺の勝利で決着が着いた。
俺が勝てたのは、最初から二対一で戦ったからだった。
あいつが『加速』を使った瞬間、作戦は決まった。
あいつはアクセルホッパーを只の自動操縦できるバイクだと勘違いした、自分がアポートを使うから余計にそう感じた筈だ。
俺の鷹の目とアクセルホッパーは、『加速』したあいつの攻撃を受けるギリギリのタイミングまで遅らせて、俺は『加速』の発動をした。
稼いだ『加速』の時間はほんの一瞬、ソレを生かすために再びアクセルホッパーの力を借りる、
元々『加速』の対策は考えていた、俺の『加速』はどれだけ魂を集めても時間が延びる事が無かったので、それを前提にした作戦だったが。
アクセルホッパーと作戦を立てていた。
俺だけの力ではなく、俺達の勝利だ。
転移の光に体が包まれる。
長い戦いが今、終わった。




