怪物
間近で見ると本当にデカいな。
「兄ちゃん!あのね遠距離もダメで、近付いてもダメで、どうすればいいか分かんなくて」
「簡単さ、そもそもからして間違ってる。あの白クジラは大量の魂を持ってて強いから、攻撃が効かないんだ」
「じゃあ逃げるしかないのか」
雪達を指揮した人間も間違ってはいない、むしろ優秀だろう。
「総員撤退!!繰り返す!総員撤退だ!!」
撤退の指示がでた、避難関係もキチンと把握出来てるのだろう。
「撤退だって!撤退指示があったら僕は病院に戻るように言われてるんだけど……」
「そうか、じゃあ避難してていいぞ?」
「やだよ!兄ちゃんが白クジラ倒す所ちゃんと見るから!」
「倒せないかもしれないぞ?」
「嘘だね!その自信たっぷりな顔は!それに兄ちゃんは僕がお願いすれば何時だって叶えてくれたもんね!」
「仕方ないな、雪は」
そう、昔から俺は雪のお願いをできる限り聞いてきた、雪も本当にムチャなお願いはしない、昔からのやり取りだ。
「ちょっとだけ待ってろ」
「うん!」
巨大では足りない、空を泳ぐ超大な白クジラを、ちっぽけな人間が倒す。
きっとあのクジラも今まで大変な戦いをしてきた筈だ、海は広大で深く、宇宙に進もうとする人間が未だに解明出来ていない神秘で満ちている。
クジラの天敵と言われるのはシャチと〝人間〟なんだ、だから今更、ごめんなさい、なんて言わない。
「オラァァァ!」
跳び上がり木刀で打ち上げる一撃。
空を泳ぐ白クジラは、その時、空を飛んだ。
パリンという音を立てながらクジラの全身にヒビが入り、血を流し、鳴き声を上げながら、空を支配していた王者は、たった一撃で地に墜ちた。
俺は、雪の待つビルまで移動しながら、アッサリと白クジラを倒した事実に困惑していた。
確かに天界で大量の魂を手に入れた、白クジラを倒す自信も有った、でも此処まで強くは無かった筈だぞ?
天界と人間界ではルールが違うのか?
「兄ちゃん!すごーい!」
「予想よりも強くなりすぎたみたいだな」
「兄ちゃん自分でもどれ位強くなったか分からないの?」
「ああ、天界だともっと体が重いんだよ」
「へ〜あ、そうだ!兄ちゃん!ちゃんと男の子は女性グループのアジトに連れて行ったよ!」
「良くやった」
雪の頭を撫でてやる。
小さい頃から、雪は頭を撫でられるのが嫌いだった、俺は雪の頭を撫でるのが好きだったから、理由を付けては撫でてたっけ。
「もう!兄ちゃん、あんまり頭撫でないでよ」
「ああ、悪いな」
俺はそっと頭から手を離す。
「そうだ、雪の模造刀かなり助かったよ、ありがとな」
「僕、自分の持ってるよ?」
「ほら、見てみろ、多分同じ物だぞ?」
「本当だ!でもなんで?」
「話せば長くなるからな、雪の泊まってるアジトに行くか、挨拶もしないとな」
「ねえ兄ちゃん、なんか急いでるの?」
「ああ、1日経ったらまた天界に転移するらしい」
そう言った瞬間に雪の顔が曇った、こんな兄でも居ないと寂しいらしい。
「そっか……頑張ってね!兄ちゃん!」
「ああ」
とりあえず、俺達はアクセルホッパーを手元に転移させて、雪と一緒に女性グループのアジトへ向かった。
ちなみに雪と早く話したかった為に完全に忘れていたが、白クジラの魂はアクセルホッパーが回収してくれてました。
「貴方が雪さんのお兄さんね」
「はい、そうですが……」
雪をアクセルホッパーの後ろに乗せて女性グループのアジトに着いたその時、俺を待ち構えていたのは俺が逢った人とは別の門番さんだった。
「通さんに兄ちゃんの事言ったっけ?」
「太君に聞いたのよ、白クジラを倒しにお兄ちゃんが行ったから、もう大丈夫だってね」
「太君ていうのはもしかしてあの坊主の事か?」
「多分、兄ちゃんの思ってる通りの男の子だよ!」
一応雪に聞いてみる、まあ異変以降、直接助けた男の子は一人しかいないので合ってるだろう。
「それはもう大変だったのよ?此処からでも強化された目なら、白クジラを見る事位は出来るんだから」
「はあ」
「あれは完全にヒーローを見る子供の目だったわね、まあ太君は子供なんだけどね」
「まさか、白クジラを倒す所を見てたんですか?」
「ええ、それで私達のリーダーが会いたいって言ってるのよ」
どうやら俺はかなりの人数に目撃されてるらしい、だがまあ直ぐに天界に旅立つのでアテにされるのは困るのだが。
「俺はまあ大丈夫ですよ」
「通さん!僕も一緒に行くからね! 」
「ええ、構わないわ」
門番さんに案内されて病院の中に入って行く、そういえば……現在はアジトだけど患者さん達はどうしたのだろうか、門番さんに聞いてみるか。
「ここ元病院ですよね?」
「ええ、そうよ?」
見れば分かるだろうに何故そんな事聞くのか、不思議そうな顔をしている。
「患者さん達はどうなったんですか?」
「ああ、そういうお話しね、安心して、不思議な事に殆どの人の怪我や病気は治ったのよ、異変直後にね」
「ふへー、凄いね兄ちゃん!」
「ああ、そうだな」
と言うことは……だ、当初は健常な人達が沢山いた筈だ。
だけど、雪を直ぐ受け入れる事ができる部屋が空いていたという事は、少なくとも病院内にいた人達はかなり死んだんだろうな。
「リーダーはここに居るは、……まもりさん連れてきたわよ」
門番さんは他のドアより豪華な医院長室と表札の掛かったドアをノックして声をかける。
「どうぞ」
低めの女性の声が中から響く、門番さんはその声を確認してからドアを開けて、部屋の中に俺達を案内した。
「貴方があの白鯨を一撃で倒した男の子ね?」
「ええ、まあそうです」
「私は、このグループのリーダーの日比野まもりよ、よろしくね」
「九条大助です、よろしく」
リーダーという日比野さんは、ふくよかな体型の40位の女性で、凄く優しそうな表情をしている。
「白鯨を倒す所、見ていたわ。貴方……尋常な強さじゃないわね?」
「まあ、頑張って天界で生き残ってますから」
「私は戦闘タイプでは無いんだけどね、それでも貴方が強いのはよく分かる」
「なるほど、それで本題は何ですか?それと何故此処に俺を呼んだんですか?」
「えぇ、お願いが有って呼んだのよ」
やはりそんなところか、基本的に俺は戦いしか出来ないんだけどな。
「あまり時間の掛かる事は無理ですよ、1日もすれば天界にまた転移するので」
「分かったわ、それでお願いしたい事なんだけど、戦闘班が手こずってる相手がいるのよ」
「それは戦闘で、ですか?」
そう此処の各グループには警察や自衛隊員などの戦闘のプロが多数いる筈だ、俺が素人ながらも生き残って強く成れたのは運の部分が多い。
「そう言えるかもしれないし、微妙なラインね。何でも不思議な迷路みたいな場所が有ってね、其処から映画や漫画みたいなモンスターが湧き出すらしいの」
「なるほど」
以前ダンジョンっぽい所で迷った事がある、恐らくそれと同系統だろう。
「でもダンジョンを攻略する時間は多分無いですよ?」
「天界だっけ?強制的に転移するの?」
「えぇ、相手は神を名乗っていますからね、少なくともそれ相応の力を持っているのは確かです」
「まあ仕方無いわね、とりあえずそのダンジョン?を見るだけ見てくれる」
「はい、分かりました、その代わり雪が無茶しないようお願いしますね」
「ええ」
日比野さんはクスリと笑い了承してくれた。
「僕そんなに無茶しないもん!兄ちゃんの方が無茶するし!」




