トーナメント・第二試合
光と共に視界に映るのは白い熊。
お互いが転移したのが同時なら、認識したのも同時。
だが動いたのは白熊が先だった、俺はフィールドを先に確認してしまったのだ。
確認したフィールドは某、天下一を決める武道会場と瓜二つだった。
一つ違いがあるのは、場外が虚空と言うのだろうか?まるで宇宙を想わせるようなモノだった。
グァァアアア!!
白熊の叫びと同時に振り下ろされる爪、更に全身の強大な筋肉は魂で強化されており、まさに急所に当たれば必殺と言っていいだろう。
「ぐっ!」
初動の遅れは左腕を代償として払わされた。
まだ左手は繋がっている、血は流れているが大した量ではない、しかし左手があまり動かない。
右手で模造刀を引き抜き、白熊の腕を切り飛ばす!
が……駄目、カキン!という音が響きながら弾かれると、白熊は更に俺に攻撃を加える為にその爪を振り回す。
俺は咄嗟に模造刀を手放して距離をとる、白熊も手放した模造刀に一瞬、興味をむけて攻撃がやむ。
その隙に空いた右手で、リュックの肩に掛ける部分を引きちぎり無理矢理中身をぶちまける。
強化された動体視力で、空を舞う荷物の中から目的の物を見つけ出す。
有った!
俺がリュックから取り出したかった物、ソレは痴漢撃退スプレー又は催涙スプレーと呼ばれる物である。
いろいろな状態を想定していた俺は、役にたちそうな物をリュックに入れた、その中には雪の物もある。
雪は可愛いので護身用に色々親が買って持たせていたのだ。
ソレを白熊の鼻先に投げつける。
グァァアアア!?クァァァァ!?
狙い通りに催涙スプレーを爪で攻撃した白熊、鼻先で飛散するスプレーは白熊に強烈なダメージを与えた。
良く嗅覚の鋭い動物で犬が挙げられる、大体人間の一億倍にもなるらしい。
だが熊はその犬よりも更に十倍近く嗅覚が鋭いとされている。
鼻と目を押さえながら、辺りを転げ暴れ回る白熊、先程までの知性を感じさせる動きは影を潜め、ただ苦しそうに激しくのたうち回る。
「オラァ!」
木刀で白熊の腹を全力で叩き、場外へ吹き飛ばした。
クァァァァァァァァァ!?
白熊は叫びを響かせながら虚空に落ちて行った。
やはり模造刀は斬撃属性だから効かなかったのだろうか?今となっては分からないが毛皮か腕が強力な防御スキルを持っていたのだろう。
木刀では普通に白熊を攻撃できた。
予想通り、少し経ってから最初に白熊のいた位置に魂が現れた、だが直ぐに回収する訳には行かない。
第一試合、スナイパーとの戦いで魂を回収したら直ぐ次の試合になった。
つまり魂を回収しなければ約10時間は此処に居られる事になる、この時間を利用して準備を整えるのだ。
リュックから散らばった物を整理して、リュックの肩帯をソーイングセットで簡単に修理する。
実はこのリュック、ある程度力を入れたら千切れるように予め細工をしていた。
これは大統領の身辺警護をするシークレットサービス、通称SPの人達がしているネクタイからヒントを得た。
SPの人達が使用しているネクタイは、引っ張られ首を絞められるのを防ぐ為、取れやすくなるように切断、縫い付けるという工夫をしているらしい。
この話を聞いた時は、ドレスコードを守るのも大変だなと思ったものだ。
「よし」
押さえる位しか出来ない左手だったから、何時もより時間が掛かったが、何とかリュックの修理が出来た。
荷物を仕舞って、血だらけの服を着替る。
服の下には心臓を守るように簡単な鉄板を紐とガムテープで巻き付けてある。
後はヘルメットでも有れば良かったのだが、家には無かった。
白熊の魂を回収、体の修復がなされてから転移が始まる。
次はもっと楽な相手だといいな、なんて有り得ない事を考えながら光に包まれた。




