トーナメント
光に覆われた視界が開ける。
瞬時に辺りを確認して近くの小さなビルっぽい建物に隠れる。
中で直ぐに荷物の確認、どうやら荷物は持ち込めたらしい、そして雪の模造刀もキチンと腰にぶら下がっている。
そして確認出来たフィールドの特徴は都市だ、それもコンクリートジャングルと言っていい程のだ。
次は索敵だ、なかなかに広いフィールドのようだ、俺は勝手にトーナメントと言うからコロシアムみたいなフィールドを想像したのだが、実際は広大なコンクリートジャングル、かなり索敵が難しいだろう。
取りあえず入ったビルを簡単に索敵、相手が何処にいるか分からない、だが有利に戦う為に先制攻撃したい、ざっと各部屋を見て回り最後に屋上に出る、鷹の目を発動させながら屋上から周りを観察する。
パシュ!
ソレは突然だった、乾いた音がしたと思ったら足下のコンクリートが削られていた、避けれたのはただの幸運だろう。
弾痕から方向が大体掴めたのでダッシュで屋上から飛び降りる、相手はスナイパーしかも凄腕だ。
異変が起きてから色々な法則が狂った、俺の視力もその一つだろう。
元は両目とも0、5だったし眼鏡もしていた、だが魂を吸収してから視力はかなり良くなった、一キロ先ならかなり細かく確認出来るようになり、二キロ先でも人を認識出来る、俺の視界に映らなかった………つまりスナイパーはそれ以上の距離から俺を狙撃した事になる。
いくら法則が違うって言っても凄すぎる。
常に動きながら路地裏を縫うように走る、それぐらいしか回避方法が思いつかない、相手がスナイパーのジョブなら接近戦はこちらが有利なはずだ、そう信じて狙撃ポイントだと思われる場所に走る。
候補は複数有る、条件としては三キロ以上離れていてかつ弾痕の角度から俺がいたビルよりもある程度高い場所だろう、あと屋上じゃなくてもいい。
走りながら高いビルの窓を確認する。
有った!
一つだけ窓にヒビがある!
狙撃ポイントを特定したその瞬間、ほんの一瞬の隙を二発の弾丸によって、俺は体を貫かれた。
「グハッ」
口から息が漏れ、腹から血がドロリと流れ出る。
俺は近くの建物に力を振り絞って走り逃げた。
二カ所から同時に撃たれた、しかもキチンと隙を突いて……だ。
相手は分身みたいな事が出来ると見て間違い無い、遠隔操作であれほど見事に狙撃は出来ない、止まった的ならまだしも、動く人間には無理だろう。
リュックから応急手当て用に持ってきたガーゼと包帯で適当に傷を塞ぐ。
さて、建物からどうやって脱出するかな。
相手は超が付く凄腕スナイパーだ、狙撃だけならどこぞの13やシティでハンターをやってる人並みだろう、現実にも大戦中に経験とカンで高命中を誇ったスナイパーもいる。
本来スナイパーはスポッターと呼ばれる風や湿度等を読む観測手と、二人一組が普通なのだ。
恐らく分身出来るのはその関連のスキルなのだろう。
だが本人の技量がトップクラスで、スポッターが必要無いから分身は両方スナイパーと成り、狙撃しているものと考えられる。
建物の出入り口は当然監視されているはずだ、追い詰められた俺を相手はなるべく近距離で狙撃したいはずだろう。
距離が遠い狙撃は強化された俺の肉体に感知されている、事実狙撃二回で仕留めきれていない。
空気を裂く弾丸の音で俺は咄嗟に回避行動に移っているのだ……当たったが。
敵の分析はこんな所だろう。
後は今持っている物でどう反撃するかの作戦だな。
sideスナイパー
……速い、流石に勝ち残っているだけはある。
見た目は普通のアジア系の青年だがその力は本物だ。
初撃は避けられ、二撃目、必殺のつもりで放った弾丸は当たりはしたが致命傷では無いだろう。
明らかに人間の能力を越えている、まあ私も大概だが。
さて次はどうするかな?姿は見えないが居場所は分かっている、スコープから見えるビルの中だ。
私の知覚能力も上がっている、分身からの情報を同時に処理するのも大分慣れた、あの青年は屋上からか?それとも適当な窓を割って脱出するのか?地下はあのビルには無い。
私のマッピングスキルは人こそ映さないが正確に地理を確認できる。
願いなんて無い、ただ撃つのが好きだった、それはどんどんエスカレートして、難易度が高ければ高いほど気持ち良く成れた。
異変が起きて歓喜した、スナイパーライフルを好きなだけ撃てるスキルに感謝した、人を守るという大義名分の下モンスター共を蹴散らした。
そして今、人を撃てる!しかも相手は強い!!
さあ青年、この最高のゲームで私を気持ち良くしてくれ!!
そんな事を願った瞬間動きが有った、硝子の割れる音と一緒に、青年が隠れているビルから事務机が次々に投げ出された。
裏口の分身の方は動き無しのようだ、さて青年の狙いは私の"目"を逸らす事が狙いだろう、二射目より対象との距離は近く三百程。
今までの感触から、あの青年をこの距離なら確実に撃ち取れる、あんな適当なトラップに釣られる私では無い。
だが私の知覚にふとした違和感を覚えた、ソレは一瞬だが確実に存在した。
しまった!と後悔する。
青年はあの投げ出した机の裏に隠れながら、同時に道路に一緒に飛び出したのだと、影の動きを感知した瞬間思い至った。
その度胸に感心しながらも引き金を引く、パァン!と乾いた音を発しながら不自然な影の動いた机を撃つ。
暫く観察する……血が流れ出ている、死体こそ周りの机に隠されて見えない……が血が出る"何か"に命中はした、だが死体の確認までは油断しない。分身が確認に向かう、そういえば、そもそもどうやって一試合を終えるのか?バトルロイヤルの時は明確な数値を確認出来たのだが。
この試合の開始から十時間をここで過ごすのか?相手を殺した瞬間にまた休憩部屋に跳ばされるのか?
考えながらも分身は"ソレ"を確認……やはりというべきか"ソレ"は人型の看板にトマトジュースを大量にくくりつけた囮だった。
そりゃそうだ!あんなに綺麗な赤い血なんて普通無い!
場所を変えよう、ビルから抜け出した形跡は無いが裏口は今監視できて無い。
相手の今までの行動パターンからして、まず逃げ、隠れる事を優先するはずだ。
何らかの方法で脱出しているかもしれないが、一応ビルを出来るだけ監視しながら移動する。分身も自分と対角線上になるように移動を開始させる。
分かってた、"アレ"が罠だと。
しかし確証が無かった、自分の推理に自信が無かった。
そこが私と青年の勝負の分かれ目だった。
「キャァ!」
私はビルの影から現れた青年に一刀で切り裂かれた。
side九条大助
浅い!
金髪ポニーテールでライダースーツの女性に雪の模造刀で斬りかかった……が失敗した。
完璧に奇襲が成功したと思ったが、やはりスナイパーも此処まで勝ち残っているだけある。
一刀両断するつもりで放った一撃は、片手を切り裂くだけに留まった。
女性は直ぐに距離をとり、無事な方の手で拳銃を虚空から取り出して撃ちだした。
俺は腹に向かって来る弾を、よけそうになる体を我慢して、そのまま最短距離を駆けながらスナイパーの胴体を今度こそ一刀両断にした。
「見……事……ね」
「あなたも強かったです」
本当に強かった、この戦いはどちらが勝ってもおかしく無かった。
情報の差が勝敗を分けたのだ。
今回俺が相手に与えた情報は剣士であり、好奇心は有るが、戦うよりもまず逃げて隠れるのを優先する、そんな性格位である。
対して相手の情報は、
武器はスナイパーライフル、
狙撃では連射出来ない、
ジョブはスナイパーかガンナー
恐らく分身が出きる
優先して胴体を狙撃する
索敵は目に頼っている
恐らく慎重な性格
攻撃の威力はビルを壊したり、コンクリートの壁越に狙撃したりは出来ない
トラップ作成は苦手
等情報戦という見地から見れば、むしろ俺にアドバンテージが有った。
だがこれはただ俺に運が有っただけに過ぎない。
スナイパーやガンナーは武器も威力も掴み易い、だから腹に鉄板を仕込むなんて単純な対策も出来る。
虚空から拳銃を取り出していたので、このスナイパーさんは更にレベルが上がれば対物ライフルやバズーカなんて物を出してこちらが殺されてたかもしれない。
"運"
お互いに目的の為、勝利の為に全力を出す、最後の最後の僅かな差……それが"運"なんだろうな。
スナイパーの魂を吸収して体を回復する、更に力が漲ってくる。
十秒程して光が再び俺を包む、また転移らしい。
直ぐに戦場なのか、それともまた自宅で休憩できるのか……出来れば後者であって欲しい。




