天界
一瞬の浮遊感を感じてから目を開けて周りを確認する、一面真っ白でなにもなく、気配も感じない。
此処が天界か?
考えていると例の声が聞こえてきた。
―――――――今からバトルフィールドを作成してそれぞれに転移してもらう、そのフィールド内で戦いあって、死んだものは魂の量を半分にして生き返り下界に戻って貰う、死体から入手出来る魂は半分とする―――――――
なる程バトルロイヤルか、しかも死んでも下界で生き返るとね。
単純に考えるなら二人倒せば仮に死んでも元の強さには戻れるだろう。
ただ〝それぞれに転移〟と言っていた事を考えると、幾つかのグループに分けている可能性が大きい、つまりはこれが最初の選別なんだろうな。
また光に包まれて一瞬の浮遊感と共に転移した。
再び周りを確認すると岩や珊瑚に海藻がある水中だった。
水中だが普通に活動出来る、何故か息も出来るし苦しくもない、体も軽いが移動に若干の抵抗を感じるな。
そして最も気になるのが、俺の身長位の石板が海底に立ちながら映し出している数字、100と24:00と映っている。
とり敢えず現状確認出来たので移動しようとしたのだが、石板を中心として半径三メートル位しか移動出来ない、見えない壁に阻まれているのである。
神による開始の合図まで約三十分程待った。開始と同時に石板の数値が変動する、一つは恐らく制限時間、もう一つは参加人数かな?
まず索敵、今までは雪に頼っていたが俺でも出来ないことはない、特に広いフィールドだとより早く敵を見つける事はそれだけでアドバンテージになる。
鷹の目を発動、因みに鷹の目と呼んでるが(雪さんが命名した)何か自身に変化がある訳ではない、要するに目を凝らすだけである。
目視出来る範囲に敵は居なさそう、あとは攻撃手段の確保、今持っているのは木刀と爺さんから貰ったアイテムボックスと着ている服。
適当に役にたちそうな物をアイテムボックスに入れる、そこら辺りの石とワカメと珊瑚を収納した。
敵を探して歩き回るが、この水中フィールドは岩場が複雑で見通しが悪いのも有りなかなか見つからない。
暫く歩きようやく足音を確認した、相手も俺の足音を感知したのか、急に足音が消えた。
さてどうするか、相手が索敵の魔法でも持ってたら一方的に位置がバレて不利になる、ならばダメ元で行動する。
俺は辺りの岩場を木刀で粉砕しまくった。
案の定敵は慌てたのか、ウワッという声を上げたので、位置を確認出来た。
位置を把握したので後は移動しながら石を投げまくる、敵も此方に石を投げ返してくるが、初撃で右肩を痛めたようで満足に反撃出来ないまま死んだようだ。
死体に近付いて魂を吸収しようとしたその瞬間、死体だと思ってた相手から貫手を腹に食らった、俺はそのまま敵の伸ばしきった腕をとり、関節を逆方向に思いっきり力を入れて折った。
グァァァァァァ!と敵が叫び声を上げる、痛みを堪えながら木刀で一閃、敵の首筋に全力で叩きつけて今度こそ息の根を止めた。
死体から魂を回収、死体は消えて無くなり、貫手で貫かれた腹が修復された。
「……ふぅ」
一息つく、敵が死んだと思ったのが"ふり"だったとはな、気がつかなかった。
しかも貫手がまずかった、とっさに相手の腕を折るのに成功したから良かったが、下手したら内蔵を引きずり出されていた。
格闘技は詳しく無いが関節の仕組み位は知っている、強化された力で相手の腕を折る事ができて本当に良かった。
さて、手頃な岩をアイテムボックスに収めてから、壊れておらず大きい岩に隠れる。
さっきの戦闘音を聞いてこの場所に集まってくるヤツもいる筈だ、敵が現れた時に先制攻撃できるチャンスを窺いながら、現場を見張る事にした。
しかしよく分からんフィールドである、水中っぽくても息はできるし、動きも多少抵抗を感じるが地上と変わらず動ける。
敵を攻撃した感触もそう変わらない、石も普通に投げれる、かと思えば音は地上より大きく、耳に鋭く響く、ここは何なんだ?
暫く待機していると、思った通り敵が現れた……但し三人だ。
三人とも男で三十代位が一人と二十代位が二人である。
手斧で三十代がバールを持った二十代の首を切り裂こうとする、それをバールで受け止めて応戦している。
離れた位置にいたもう一人がウォーハンマーで岩をゴルフ玉のように飛ばして遠距離から攻撃、無数に襲いかかる石礫をバールの人は捌ききれずにダメージを受けた。
手斧の人は上手く捌き手斧を投擲、ウォーハンマーの人の頭をかち割った。
武器を手放した三十代がバールの人に後ろから殴られる、痛みを堪えながら三十代は地面の石をデタラメに投げつけて牽制。
ソレが丁度目に当たってバールを落として目を押さえて蹲る、手斧の人は相手が取り落としたバールを拾い上げ殴りかかろうとする。
このタイミングがベストかな。
石を手斧の人の手・足・顔・を狙い投擲、接近して木刀を一閃、バールの人にも一閃して弱りきっていた二人の息の根を完全に止めた。
漁夫の利作戦成功である。
三人から魂を回収するとやはり死体は消えた、本当に下界に戻れるのかな?まああの声を信じるしかないか、再び漁夫の利を狙おう。
と一時間程待ったのだが誰も現れない、そう上手くはいかなかったようだ。
再び探検と索敵を開始する、地面が岩場から砂地に変化してきた、索敵は目視と耳で行っているがそれだけでは不安がある、雪の魔法があればな………。
と弱気になっていると男のはぁ!と言う叫び声が響いてきた。
声の方向に進みながらアイテムボックスより石を取り出して、何時でも投擲できるように握り込む。
大きめの珊瑚に身を隠しながら敵を窺う、どうやらイルカと白い胴着を身に纏った三十位の格闘家と思われる男が戦っている。
やはり水中っぽいフィールドのせいなのか、イルカのスピードと防御力はかなり凄いようだ。
格闘家は脚と拳による連撃をかなりの速度で繰り出し続けている、だがイルカはその攻撃を受けてもビクともせず、キュイキュイという叫び声を格闘家に向けて放つ。
音波による攻撃なのか、格闘家の足下の砂地が舞い上がり一帯が見えなくなる。
視界が塞がれていく中で再度イルカの声が響き渡り、砂地は更にめくられてイルカと格闘家がどんどん見えなくなってく。
これではタイミングを見てからの不意打ちを仕掛けられない。
と観察していた次の瞬間、足を掴まれ…下半身を砂地に埋没させられた。
やられた!
とっさに『加速』を使用してその場を抜け出す、これで一秒程残っていた『加速』はほとんど使ってしまった、回復しないと使えない。
その場で飛び上がった俺は、先ほどまで自分が捕まっていた地面に向けて石を連続で投擲した。
その行動を見ていたイルカと格闘家がこちらに攻撃を仕掛けてくる、イルカは音波、格闘家は俺と同じ様に投石だ。
「グァァァァ!」
おもっいっきり叫んだ、足がもの凄く痛い、そして熱い、さらには頭の中が破裂しそうな位痛い、まるで脳を直接揺さぶられた様だ。
俺は血飛沫を撒き散らしながら地面に落下した。
side格闘家
格闘技、最初は健全な肉体と精神、あるいは護身術として始める人も多いだろう。
だが、自分の体を鍛え上げると、人を殴り、蹴り、関節を折る………そういう自分が身につけた力を振るいたくなる、少なくとも俺はそうだ。
大会に出て、力を振るう、それだけでは満足出来なくなってしまう。
大会等では本気ではあっても全力は出せないのだ。
自分の全力が出せなくて、ストレスが溜まっていたそんなある日、異変が起きた。
白い炎が現れて視界を覆い尽くす、不可思議な現象が起こったのだ。
それと時を同じくして、動物達が凶暴になり次々に襲いかかってくる現象が起きた、当然みんな恐怖して逃げ惑い、隠れ、なんとかして対抗した。
だが俺は、そんな状況を楽しんだ、全力で鍛えた力を振るえるこの異変を喜んだ。
凶暴化した動物達やゾンビを容赦なく殴り、蹴り、急所を潰す、また死体に残った白い魂に触れると体の傷等が回復して、更に体が強くなるのも暴力を加速させた。
人を守る為、そんな大義名分を手に入れた俺は容赦なく俺が守るグループと敵対する人間達も殺した、念願の人間相手に全力で鍛えた力を発揮する事が出来たのだ。
そして敵を求め天界に行った、最後まで残れば願いが叶うらしいが、別に叶えて欲しい願いは無い、俺は全力で戦えればいいのだ。
天界ではバトルロイヤルで戦うらしい、飛ばされた所で俺は戦った、今はイルカと戦っている。
まるで空を水中のごとく泳ぐイルカは強敵だ、今までも沢山殺し合ってきたが、水棲の生物は初めてでなかなか突破出来ない。
イルカは音で攻撃出来るらしく、遠距離攻撃の乏しい俺は投石位しか選択肢が存在しなかった。
そんな中近くで高く飛び上がった奴がいた、咄嗟にイルカに投げようとした石をそいつに投げつける。
イルカも音を飛ばしてそいつを攻撃した、そいつは激しい声を上げながら血飛沫を撒き散らして地面に落ちていった。
何らかの遠距離攻撃でもしようとしたのかもしれないが、無駄に終わったのだろう。
イルカはその男を多少気にしているようだが、その隙をついて投石をする。
イルカは牙での攻撃を仕掛けてくる為にこちらに突撃して来る、冷静にカウンターを決める!
拳、蹴り、頭突き、三連撃を叩き込む、イルカも負けるものかと音撃と至近距離からヒレを打ち込んできた。
砂が舞い視界が再び奪われる、イルカの攻撃で体中が傷だらけだ、だけれどイルカも血を流し、ヒレと目を損傷している。
俺がえぐってやった、次で最後だ俺かイルカどちらが勝つのか、全力の一撃を食らわせる!
イルカはもう音撃を放つ事が出来ないのか、牙を剥き出しにしながら突進してきた。
それを俺は真正面から全力で迎え撃つ!俺が一番初めに習った技………正拳突き!
「ハァッ!」
生涯最高と思える正拳突きをイルカに打ち込んだ。
イルカはその衝撃でぶっ飛び、岩に叩きつけられた。
俺もイルカの牙で手首が変な方向に切り裂かれ血が吹き出ている、それを簡単に手で押さえて止血する。
やばい、早く魂を取り込まないと……そういえば近くに男の死体が有ったな、イルカは結構遠くに吹き飛んだようだし、先に近い男の魂で回復しよう。
かすれた視界で男を確認、近づいて男に触れようとした瞬間、死体が持っていた木刀で腹を突き刺され、そのまま横に凪払われる、ほぼ体を上下に引き裂かれた。
「みっ……ごと……だ」
些か運任せな作戦だが見事な奇襲だった、俺も男が血まみれで死んだとばかり思っていた、コレが全力の本気の戦い、意識が薄れながら思った、俺は………満足だ。
side九条大助
ギリギリだった、運も有った、奇襲が……上手くいった。
万全な状態でも正面からあの戦いに勝つ事は不可能だっただろう。
或いは勝った方に戦いを挑めば確実に勝率は高くなるだろう、土竜がいなかったらそうした。
だが実際は土竜の所為で自分の居場所を知らせてしまう結果になった。
最初の投石で土竜を始末出来たのであまり強い土竜じゃなかったのが幸いした。
イルカの音撃と格闘家の投石で血塗れになり上手く偽装出来たのも良かったのだろう、薄れる意識を必死に引き留め、体を引きずり、土竜の死体から魂を回収。
体の傷は塞がったが全力戦闘出来る程は回復していかった、『加速』がほんの僅かだけ発動出来るまでは回復出来たので『加速』による全力の一撃による奇襲に全てを賭けた。
もう一つ幸運だったのは格闘家がイルカの魂を先に回収しなかった事だろう、それが有れば格闘家に確実に負けていた、盗み見た格闘家とイルカの戦いはそれぐらい激しかったのだ。
慎重に格闘家とイルカの魂を回収した、そしたらかなりパワーアップ出来た。
「ふぅー」
思わずため息が出た、ギリギリで生き残れたのだ、緊張につぐ緊張で体は大丈夫でもかなり精神的に参っている。
だが先を急がねばならない、今この瞬間も敵は強く成っている可能性が高いからだ、俺は休まずに探索を開始した。
そこからは順調だった、イルカと格闘家の魂を手に入れた俺は力が更に強化されたようで、出会う敵達全てに勝つことが出来たのだ。
戦った相手は鯱にカバに鯨。
人間だと警察官や軍人っぽい人達も相手にした。
みんなそれぞれ自信が有ったのだろうけど実際は『加速』すら発動せずに対処できた。
やはりイルカと格闘家の2人の、飛び抜けて強かった魂のおかげで倒す→強くなる→倒す→強くなる、のスパイラルを実行できたのは大きい。
24時間経つ前にこのフィールドは俺一人になった。
石版を眺める、数字は0と00:00になった。
―――――――――――これより1日の休養を与える、後の試練に備えよ―――――――――――
あの声が再び聞こえ、声が響き終わると共に光が全身を包んでいく。
その一瞬の後、俺の視界は今となっては懐かしく感じる程の場所、自分の部屋に変わった。
自然と涙が零れる、此処に家族が居る訳では無い、家には俺一人だけだ………それでも涙が止まらない、その日俺は異変が起きてから初めてぐっすりと眠る事が出来た。
欠伸をしながら目を覚ます、あのままベッドで寝てしまったようだ。
取りあえず家を探索、どうやら異変が起きる前後位の状態のようだ。
そしてテレビには番組の代わりにあの石版に映っていたように数字が映されている。
現在の数値は13:49だ、数値が減っているので恐らく後それだけ此処にいられるんだろう、普通に水が出たので取りあえず風呂を沸かす、着替えを用意して、適当に食事をした。
食器を洗い、久しぶりの風呂に入る、何ともいえない幸福を感じる。
綺麗な服に着替えてから再びベッドに横になる、そのままもう一度俺は眠った、俺は俺が思った以上に疲弊しているらしい。
起きた後に旅立つ準備をする、次はどんな試練かわからないので家から持っていける物を選別してアイテムボックスに詰め込む………そして雪の模造刀だ。
「雪、力を借りるぞ。」
一言、決意と共に呟く。
この空間の物が試練に持ち出せるかは分からない、それでも出来る事をやる。
さあ時間だ………願いを叶える為に。
―――――――――――次はトーナメントを行う。それぞれ一対一でフィールドにランダムで移動させる。
移動した先で相手を倒して貰う。
相手を倒さずに十時間経過した場合そのまま下界に戻って貰う。―――――――――――
こうして俺の体は光に包まれて再び移動した。




