マンホール・ダンジョン
日も沈みきった頃、マンホールの蓋を開けてみると、不自然に中が明るい。
「兄ちゃん!此処だね!」
「ああ、そうだな」
最初に調べるマンホールから当たりを引いたのではなく、全てのマンホールから地下に行けると考えるべきだろうか?
「雪、隣のマンホールも開けてみよう」
「OK〜」
そうして調べた隣のマンホールもやはり明るかった。
「こんな結界もあるんだねー」
雪はそんな風に言いながら感心しているようだが。
「恐らくコレは結界じゃないぞ」
「そーなの?じゃあなに?兄ちゃん?」
「恐らくダンジョンだな、そしてダンジョンの奥にはジョブがダンジョンマスターの人間がいる筈だな」
「此処から出るにはそのダンジョンマスターを倒さないとダメなんだね!」
「恐らくな」
俺達は知らずの内にダンジョンに迷い込んだのだろう、一階層が迷いの森で人やモンスターが誰もいない事を考えると、グループ単位か人数単位で位相の異なるダンジョンに飛ばされたのだろう。
「じゃあ先に俺が降りるから雪は後に続いて来てくれ」
「OK!」
直接コンクリート壁に打ち込まれた金属製の梯子をゆっくり降りる、マンホールの中は不自然に明るく見通しも良い、やはりダンジョンと見て間違いないだろう。
「雪、降りてきて良いぞ」
「OK〜」
アクセルホッパーは降りれないので地上にて留守番かな、天井に何回か攻撃したがビクともしないので無理矢理連れ込むのは不可能だった。
「壁は壊せないみたいだね」
「ああ、俺も確認した、そういうルール何だろう」
木刀を構えながらゆっくりと探索する、此処がダンジョンなら主に警戒する物は二つになる。
一つはモンスター、しかも地上では戦った事の無いタイプも多くなるかもしれない。
もう一つはトラップ、壁や床を注意して歩かないと変な床や壁は危険な罠かもしれない。
と考察している内に正方形で周りと不自然に色の違う床を発見した。
「雪少し止まってくれ」
「ん?なんか見つけたの?」
「罠……かもしれない。」
定番なら踏むとトラップ発動だろう、意表を突くならよけた先に本命のトラップが有る、あるいは踏むのが正解のパターンも考えられるか。
「兄ちゃんどうするの?」
「よしわざと踏もう」
「なんで?」
「此処がダンジョンの序盤だからだな、相手の思考を読んで、尚且つ軽傷ですむ確率が高いだろう」
例えば即死級の罠を乱発するようなダンジョンなら、最初の梯子を降りた時点からモンスターや罠を大量に設置するだろう、嫌らしい罠を設置するダンジョンなら地下はガス等の無味無臭の気体による罠も考えられる、しかし両方共確認出来なかったので、最も入り口に近い罠なら相手の望みを考察しやすく、かつ逃げやすいだろう。
ガコッという音と共に左右の壁と天井の三方向から矢が飛んできた、その場を動かずにそれぞれのやをキャッチして矢を調べる。
「兄ちゃん、なんか分かったの?」
「普通の矢だな、もう一つ位罠を踏んでみないと分からんが、ダンジョンマスターは形式に拘るタイプかもしれないな、罠も分かりやすいし」
地雷やら光線やらが出て来なかったなら固定の罠しか設置出来ない可能性もあるが……形式に拘るタイプなら徐々に難易度を上げて行く、或いはダンジョンマスター等存在せず異変によりこの地域がダンジョン化したか?
「兄ちゃん!先行こー」
「ああ、そうだな」
俺達は再びダンジョンの探索を進めた。
今度は発見した幾つかのトラップは避けながら進んでいくと、大きめの広場に出た。
「そろそろモンスターのおでましかな」
「兄ちゃん!もしかしたらゴブリンとかオークとかドラゴンとか出てくるかな?」
「まだ序盤だからな、ドラゴンはもっと後じゃないか」
辺りを見回してみると、口が大きく裂け、緑色の肌に小さな体躯の恐らくはゴブリンが現れた。
「兄ちゃん!兄ちゃん!ゴブリンだよ!」
「ああ定番だな」
これでほぼダンジョンマスターの性格は分かったな、恐らくはきっちり様式美やお約束を守るタイプ。
しかし、地上では実際の動物がモンスター化した物しか見かけて無いのだが、この後出てくるダンジョン内のモンスターはファンタジー系で攻めてくる可能性が高いかもしれないな………用心しなければ。
正面に現れた四体のゴブリンに対してゆっくり左側に回り込む、雪は右側に。
「ギャギャギャャ!」
叫びながら棍棒のような物を振り回してくるゴブリンを俺は木刀を横一閃に振り抜きゴブリンを打ち倒す、その威力を持ったまま回転、後から来た二体目のゴブリンを唐竹割りに打ち据えた。
雪の方も終わったようだ、一応注意して見ていたが、抜刀術からの袈裟切りで雪に向かったゴブリン二体は胴体を泣き別れさせられていた。
「どうやら此処のモンスターにも魂は有るようだな」
倒したゴブリンの死体に触れると魂を回収できた。
「兄ちゃん!死体が消えるよ!」
雪の方も魂を回収した瞬間、霧のようにゴブリンの死体は消えていった。
「地上では倒したモンスターの死体は消えないのに不思議だね?兄ちゃん」
「ああ、そうだな」
死体から何かを回収しているのか、それともそういうルールなのか、どっちにしろ俺達にはどうすることも出来ない。
「先に進もうか」
「うん!」
雪の返事を聞き歩を進める。
小部屋を抜けるとまた廊下のような道が続いてその先に三つの別れ道かあった。
「どれにする?兄ちゃん」
「そうだな、少し調べようか」
三つ叉に別れた道の先を観察する……特に違いは無さそうである、地面を見ても違いは無い、続いて壁……特に違いは無いなさて正解は有るのだろうか。
「雪のカンで選んでくれ」
「OK!じゃあ真っ直ぐで!」
雪のカンを信じて罠の有無を確認しながら進む、素人だが分かる罠は結構簡単に分かる、床や壁に不自然な場所が有る場合や宝箱は危険なので全部無視して進む、一時間も探索すると地下へ続く階段を見つけ出した。
「兄ちゃん、宝箱は何で開けなかったの?」
「何が入ってるか分からないからな、特にこのダンジョンが人為的な物だった場合更に危険度が跳ね上がる、一階だから当たりの可能性も有るにはあるがな」
「まあ十個の内一個即死だったらそれで終わりだもんね」
そんな会話をしながらも慎重に階段を下る。
階段を下るとそこは雪国だった。
「兄ちゃん!真っ白!」
「寒くは無いな」
辺り一面銀世界だ、しかし何故か寒くは無い、床の雪を手に取る……普通に雪っぽい。
「階段消えちゃったよ!兄ちゃん」
「そうか、しかしどうするかな」
普通に空が見えている、しかし厚い曇天に覆われて太陽が見えない、そもそもの話今は夜の筈である……が明るさ的には昼間に感じる、ダンジョン内も上階と違い自然の中を歩くタイプのようだ。
「雪、感知魔法使ってみてくれ」
「OK〜、風振感知・カウンターソード!」
「どうだ?」
「うーん………よく分かんない?なんか沢山に邪魔されてる」
沢山に邪魔か………雪か?そういえばずっと晴れだったから気付かなかったが雨の日とかは感知出来ないのかもしれない。
「兄ちゃんどうするの〜」
「方角が分からないからな、下手に動くと迷子になるかもしれん」
雪が降り続く場合足跡は消える、太陽も見えない、切り株も木もないどうする?探索自体が困難を極めるぞモンスターも出てくる可能性が高い。
「兄〜ちゃ〜んもう適当に進も〜」
「そうだな、適当に進もうか」
但し目印を作るか、そもそも此処はダンジョン内だ、方角に拘らずに位置を確認するのがベターか?
「雪の魔法剣が頼りなんだが、頼むぞ」
「どうするの?」
「なるべくデカい岩を隆起させてくれ」
「隆起って?」
「あーなるべくデカい岩山を作って」
「OKー!」
雪は雪原に模造刀を突き立て魔法剣を宣言する。
「岩斬一登・アァァァァス、ピラミッッッッッド!」
雪の正面には約十五メートルの岩山が出現した、コレを目印に俺は鞄に有る穴あき包丁とロープを使って簡単な目印を更に作った。
雪だるまの頭に包丁の柄を埋める、柄にはロープを結ぶ、後はなるべく真っ直ぐ進む、ある程度進んだら鷹の目を使って穴あき包丁の穴がなるべく正面から見える位置に移動してロープを引っ張る、そして再び雪に岩山を作って貰うの繰り返し。
「これである程度は迷わないだろ、暫定的にこの進む道を北にする」
「なんで?別に方角決めなくても目印だけで後は適当で良いじゃん?」
「例えばこの先見えない壁みたいな物にぶつかった場合、一旦最初の岩山に戻って真反対に進む方が位置関係を把握し易い」
「そっか!だから岩山にNって刻んでるんだね!」
ダンジョン内だからな、いくら外のように見えても壁が有る可能性は十分あるのだ。
なるべく真っ直ぐ進んでいるが完璧ではない、距離が長くなればなる程ズレは大きくなる、ロープと包丁と岩山を使って少しずつ進む事二時間、壁に到達した。
「雪で先が見え無かったが意外と早く到達出来たな」
「兄ちゃん、一旦元の場所に戻る?何もしないで戻るならかなり早く戻れると思うよ?」
「いや、意外とダンジョンが狭いからこの外壁沿いに一周してみよう。雪、此処にも岩山をたのむ」
雪に岩山を出して貰い岩山に目印を刻んでから歩きだす。
しかしモンスターが出ない、当初は普通に出てくると思ったのだが……後壁もだ、普通フィールド型のダンジョンなら見えない壁だろう、しかしこの壁は上の階の壁と同じである………まさか大部屋なのか?どちらにしても壁を不自然な点がないか調べながら進むしか無い。
「兄ちゃん!ドア発見!」
「ああ、見えてる」
ドアに辿り着き、慎重に中を確認する………小部屋があり下り階段がある、回りに気を配りながらも階段に近づく特に罠は無いようだ。
「なんかモンスターも出ないし変な雪だけの変な階だったね」
「多分その雪が一番大変何だろ」
寒くもない雪だが要するに視界を奪って右往左往して尚且つ雪自体に何か仕掛けが有ると見るべきだろう。
これは恐らくだが火炎系の行動を起こした場合連鎖的に爆発が起こるんじゃないか?雪もどきが可燃性の物質なんじゃないかな。
「次に行く前に体に付いた雪はキチンと落としとけよ?嫌な予感がする」
俺は一旦パンイチになり念入りに雪を払った。
「兄ちゃん、アッチ向いててね」
「ああ」
ふむ、まあ別に雪の裸なぞどうという事はないが、壁に向かいながら布擦れの音を聞いていると色々想像してしまうな、これが雪じゃ無かったら襲いかかっているかもしれない。
「兄ちゃん!もういいよ!」
「よしじゃ次に行くか」
雪も身支度を終えたので、階段を下って行く。
「次は砂漠か」
「しかもチョー暑いよ〜」
だがシッカリと熱を感じる。
「今度は太陽が有るな」
但しダンジョンの外は夜の筈だが。
「まあ一応長袖を着て帽子もかぶれよ」
「なんで〜よけいに暑くなるよ!」
説明するのか、中学で習わないか?砂漠気候。
「日本と違って砂漠は湿度が殆ど無いから汗が直ぐ蒸発する、するとだ、肌に直射日光が当たる、しかも砂漠は一番暑い時60度位まで気温が上がる」
「うへ〜ぇ」
「下手しなくても低温火傷だろうな、しかも此処はダンジョンだ、ずっと昼のまま延々と直射日光を当て続けられる可能性もある」
再び雪の魔法剣で日陰を作る、そこに入り攻略を考える。
寒く次暑くと来た、ダンジョンはほぼ人為的な構造物と考えていいだろう、幸い俺達はかなりの魂を集めているのであまり苦にならないが………しかしあの雪は何だったのか?本当に発火する物だったのか?或いはアレ自体がモンスターの可能性も有るか、寒くも無かったしな。
情報が足りないな、攻略の糸口を探して辺りを観察していると遠くにピラミッドを見つけた。
「雪、遠くにピラミッドが有る、見えるか?」
「うーん、僕には見えないよ」
「そうか、まあとりあえずアレを目指すか」
「OK!」
どうやら鷹の目を持つ俺にだけ見えるらしい、とりあえずソレを目標に再びダンジョン攻略を開始した。
「兄ちゃん!サボテンは水を沢山含んでるらしいよ!」
「それはアメリカの砂漠地帯限定だな」
「どゆこと?」
「中東の砂漠は殆どサボテンが生えてない、名前は忘れたが見た目がよく似た違う植物だ、しかもそいつは有毒な汁を持ってるから素人は絶対手を出してはダメだ」
「じゃあここはアメリカを模してるのかな」
「いやそれは分からないが、サボテンでダンジョンならモンスターの可能性も高いな」
「じゃあ斬ってみる!」
雪は静かにサボテンモドキに近づいて………居合いを放った。
見事に真っ二つに別れた、魂を雪に吸収されて、サボテンは霧のように消えた。
「兄ちゃん、サボテン消えちゃった」
「やはりモンスターだったかな、多分こちらが接触すると襲いかかって来るんだろうな」
「僕が一刀で倒したから反応出来なかったのかな?」
「多分な」
俺も道に有るサボテンモドキを攻撃してみるか。
「セイ!」
木刀で軽めに叩いてみた、本当は遠距離から石でも投げたいのだが辺りに適当な物が無い、砂は熱されているので手で掴んだら火傷しそうであるし。
一撃与えた途端、サボテンモドキは突如足っぽい物を地面から抜き出して元々手っぽい枝だった部分で殴りかかって来た。
そこそこ早い攻撃だったが、まあ最初から予想してたので簡単に避けて追撃は本気で叩き込む。
「オラァ!」
サボテンモドキは地に打ちつけられてそのまま霧となった。
「やはり奇襲型の攻撃モンスターだったな、まあ俺達なら一撃で倒せるから一方的な戦いになるがな」
「ピラミッドに辿り着くまでのサボテンは全部倒すよね?」
「ああ、魂も貯めれるし敵が擬態をやめて一斉に襲って来る時が有るかもしれないからな、なるべく数を減らした方がいいだろ」
「OK〜」
ピラミッドを目指す道中、流砂をあちこちに見つけたが、アレは危なそうである、雪に注意しておこう。
「雪、あまりそこら辺の流砂に近付くなよ、モンスターが出てくるかもしれないからな」
「モンスターが出てくるなら倒しちゃった方が良くない?」
雪の言う事も一理有るんだか………。
「流砂っていうのは物凄く足を取られるんだ」
「それは知ってる、で中に昆虫系のモンスターが居るよね?RPGとかだと、遠距離から倒せば良くない?」
「ああ、だが仮にモンスターを倒しても魂を取りに行くにはあの砂丘に踏み込まなければ行けない、流石に時間がかかり過ぎる」
「そっか、OK〜アクセルホッパーが居れば倒せたのにね〜」
雪は納得したようだ。
因みに流砂と蟻地獄は別物である………詳しくはWebで。
「やっとピラミッドについたな」
このフロアに入ってから約二時間、太陽の位置も変わって無い事から恐らくずっとこの灼熱が続くらしい。
「大分歩いたね〜」
あの元気な雪がかなり疲れて見える、俺も雪も久しぶりに肉体に疲れを感じたのだ。
「ピラミッドの中で少し休むか?」
「うん!」
たどり着いたピラミッドはかなり大きく、見た所野球ドームぐらいのデカさがある。
開けっ放しの入り口から中に入り少し移動する、外はあんなに暑かったのにピラミッドの中はかなり涼しかった。
「水飲むか?」
雪も少し、しんどそうな顔をしている、これだけ涼しい場所なら此処で休憩してもいいだろう。
「うん!………やっぱり色々リュックに入れてきて正解だったね」
一応包帯やら食料やらを持って来てはいた、というのも俺達以外にこのダンジョンに潜っている人に出会った場合、役に立つと思ったからである。
普通に俺達が消費するとは思わなかった、かなり強く成って食料も消費しなくてもよくなったのにだ………精神的な疲れが水でかなり回復出来るとは準備段階では思わなかった。
そして二十分程休憩してから俺達はピラミッドの中を探索し始めた。




