東京
線路を歩き、高速道路を歩き、バイクを走らせ、五日目の日付が変わる頃、色々な戦いを乗り越えた俺達兄妹は、目標の東京が見える所までやってきた。
「雪」
「なに?兄ちゃん」
「東京は多分酷い状態だ」
「今までも酷かったじゃん」
高速道路から見えるのは、世界有数の都市と呼ばれた東京の変わり果てた姿だった。
ビルは倒壊しており、車は軒並み事故にあっている、ゾンビやカラスや猫犬等のモンスターがあちらこちらで戦闘を繰り広げていた。
「やはり規模がちがうな」
「兄ちゃん!強くなる為だよ!強くなって身を守れるようになって!色んな人達を助けれるようになるんだよ!」
「ああそうだな」
雪の言葉に一応頷いておく、俺は雪を守れるだけの力を手に入れたいだけだ、それ以外は俺にとってはオマケであり、雪にとって恥じない兄でいる為に行動するのも雪に嫌われないようにする為だ。
俺は情けない男何だろう、自分の行動する意味を妹に求めるなんてのは、でもこんな世界で生きるには目標がいるんだ、必死になれる目標が。
「アクセルホッパーは俺達の後を適当に付いてきてくれ、モンスターの数が多いからお前に乗りながらはキツイ」
アクセルホッパーはヘッドライトを二回点滅させて返事を返してくれた。
今のたぶん了承の合図だよね?
雪と共に片っ端から町中のモンスターを倒して行く、モンスターのレベルも一段高く、なかなか苦労する。
「水刃流麗!アクアァウィーーップ!」
剣先から伸びる雪の魔法剣が周囲のモンスター達を両断していく、俺も負けじと木刀を振るっていく。
「オラァ!」
辺り一帯のモンスターが片付いた所で、一旦雪と道路の中央に集まる。
「雪、此処は都心から外れてるからモンスターが沢山いるが、中心に向かう程少なくなる筈だ」
異変が始まった当初なら、都心部の方がモンスターが多かっただろう。
だが既に四日目、恐らく都心部は人間がかなりのモンスターを狩っているだろう。
「じゃあこのまま外周を回って雑魚狩り?数は多いからかなり強くなれるよね!」
「ああ」
雪と共に雑魚モンスターを大量に狩るために都心部は避けながら日が昇るまで狩りを続けた。
五日目の朝、モンスターを狩り魂を集める。
だが……おかしい、人が居ないのだ。
雪はなにも考えずに模造刀を振るっているようだが、いくら都心に近くてモンスターが大量に発生し易くても、普通に生き残っている人も居るはずなのだ。
建物等の倒壊が目立つのは誰かが争った後だと思われるのだが、異変発生から五日目で人が全てゾンビ化するだろうか?
などと考えていると、グレーのスーツを着た三十代位のビジネスマン風の男性がこちらに向かって歩いてくる、その男性は僅かに生き残ったモンスター達から完全に無視されているようだった。
「おはようございます。凄いですね、ここら辺りの化け物達を全部倒したのでしょうか?」
「まあそうですが」
雪を後ろに下がらせてから会話を続ける。
「それはお二人で?」
「ええ、それでどういったご用件で?」
男は丁寧な口調で喋っているがなんだか胡散臭い。
「失礼しました私、船橋調介と申します」
「俺は九条大助」
「僕は九条雪です」
「御兄妹でしたか」
船橋はそんなセリフを言いながら目的を語り始めた。
「私の目的は振り分けと言いますか、注意勧告係りみたいなものです。現在、殆どの人達は都心にて四つのグループに分かれて生活しています。」
なるほど、この人はスカウトみたいな物何だろう、どこのグループかは分からないが。
「まずは女性グループ、女性と言ってもメインのメンバーが女性という事でお年寄りや子供もいますね。続いて男性グループ、こちらもメインが男性というだけでお年寄りや子供も居ますね」
女性グループか……やはり災害時は男性が怖く感じたりするのだろう、生活基盤も壊れているしな。
男性グループもお年寄りや子供の面倒を見ているならそう悪く無さそうだが。
「次に梵教グループ、此方は梵教徒の方がメインでお年寄りがかなり多いですが、若者もある程度居りますので治安も保たれています」
「そして聖神子教グループ、外国人の方が大部分を占めて居りますが、グループ内の治安は保たれており男性・女性・子供・お年寄りバランスよく在籍して居ります」
宗教グループか、宗教は良い方向に向かえば心の拠り所になりかなり治安も保たれる。
目の前の危機に取り敢えず派閥争いや宗教争いを止めて困難に立ち向かっているのだろう。
「では、四グループに分かれているが取り敢えずの治安は保たれていると言うことですか?」
都心の割と意外な状況にに船橋さんに質問をする、災害時はかなり治安が荒れると聞いた事があるのだが、グループに分かれているとはいえ治安が良いとは……人間も捨てたもんじゃないな。
「そうですね……、ですがあくまでもグループの縄張り内でのみの話です。現状は普通の災害ではありませんからね、銃火器も車両もなぜか使えませんから、警察官や自衛隊員等も個人として動いている方が殆どです」
縄張り内のみね……当然食料やら水やらを手に入れる為に縄張りの外に出るのが普通だろうな。
「その言い方だとグループがそれ以外にもありそうですね」
「ええ、その他の勢力なんですがね……ヤクザやらチンピラやらが活動していましてね、それはもう酷い行いをしているのです!」
雪がいるからか、かなりオブラートに包んで言っているが……船橋の表情からはかなりの嫌悪感が感じられる、相当な外道共なんだろう。
「それで船橋さんはどのグループのスカウトなんです?」
雪が軽い感じで船橋に質問している。
「いえ先程も言いましたが私は案内人でして、現在の都心の状況を人に説明したり、各グループの拠点に案内するのが仕事何です、私はなぜかモンスターに攻撃を受けませんので」
「モンスターに攻撃を受けないなら食料とか取り放題じゃないの?」
雪は続けて質問する
「一人が持てる量は少ないですからね、人には普通に攻撃されますし、ですがこの能力のお陰で色々な事に役立てるので」
こんな世界でも関係ない人々の為に行動できる……善人何だろうな、恐らくグループ同士の調整役や情報交換等もこの人が請け負っているんだろう。この都心がある程度の治安を保たれているのもこの人の力が大きく関わっているんだろう、それこそ魔法や超能力ではなくこの人が生きて鍛え上げた力なんだ。
「では船橋さんは俺達の動向が知りたいという事ですね」
「はい」
船橋は俺の質問に短く返事をして先を促した。
「俺達は強くなる為にモンスターが多いと思われるこの東京に来ました、なので基本的にはこのまま外周のモンスターを狩りたいと思っています」
「分かりました、では都心部のモンスターはなるべく倒さないようにお願いします」
「善処します」
俺の返事に満足したのか、船橋は大きく頷くと来た道を帰って行った。
「兄ちゃ〜んなんでそんな政治家みたいな返事してるの〜」
「んーまぁ善処しますは政治家の返事みたいか、だけど別に悪い言葉じゃないんだぞ、政治家だって中には良い人もいるしな」
「本当に〜」
雪はあまり政治家に良いイメージを持っていないらしい、日本では仕方ないかもしれないが。
「例えばさっきの返事にハッキリ答えた場合は不測の事態が起こった時、動きが制限されてしまう」
「もっと詳しく!」
「今は何が起こるか分からない、ハッキリと都心部のモンスターは倒しませんと答えたら、あちらが緊急事態になった場合助けれないだろ」
「まあたしかに、じゃあ関係ない!全部倒します!って言ったらどうなるのかな?」
「現状モンスターの魂は一つの資源みたいな物だ、恐らくグループのメインメンバーはバランス良く均等に魂を分配している、船橋さんも一人では持てる量は限られるって言ってたろ?」
「なる程、当面の資源と未来の安全と両方取ったんだね」
「そうだな、治安が保たれていると言ってたから、あちらは都心のモンスター狩りをある程度安全に行えるんだろう。だから全部倒しますなんて言ったら俺達は全てのグループから狙われるな」
「うへぇ、それは嫌だね!」
という訳で『善処します』は行動に幅を持たせる素晴らしい言葉なんだよ!決して曖昧な言い訳に使う言葉じゃないんだよ!決して勉強しない言い訳に使ってなんかいないよ!
……なぜか若干取り乱したな
「後はその他の勢力の根城が外周部なんだろうな」
「そっか、じゃあ悪者退治もするかもしれないのか」
悪者退治なんて言ってるが、ゾンビではない人を殺す事になるかもしれないんだ、雪は顔を少し強ばらせながら返事をかえしてきて、一通り話をした俺達は再びモンスター狩りを始めた。




