卑屈な皇子とメイドのパニエ
「畑仕事のやりすぎですな」
一ヶ月前、急に父親が倒れて、一週間前母まで体を壊してしまった。
日々の生活資金と医療費の為に金が必要になった私は友人に相談してただの平民の娘でもやれる仕事を聞いてみる。
「何かいい仕事ないの?」
「お金に困っているならパレッティナ城のメイドになればいいじゃない」
「嫌よ」
メイドにはふりふりのスカート、可愛らしいカチューシャのせいか如何わしい職業の印象だらけだ。
「つまりメイドになって王子と結婚?」
「王子とメイドの恋なんて恋愛小説の中だけよパニエ」
友人に強く進められ、渋々メイドとなった私。
なぜか第1と第3がいないらしいので第2、第4、第5の王子に軽い挨拶をしにいく。
「新人メイドのパニエですわ」
取り合えずこう可愛く言っておけばいいか、たしかに給料もいいから暫くはここで稼ぐしかないわね。
無駄に気を張りながら城を歩く。
「あのメイド可愛いな」
「ウブなカラーズ皇子はともかく、堅物のミランゾ皇子も気むずかしいテスタード皇子もたぶん気に入るぞ」
「さすがにテスタード皇子がメイドにデレることはないだろうな」
「それをいったらデレデレするミランゾ皇子のほうがないって」
ヒソヒソ語り合う男達を通り抜け、第4王子のところに向かった。
「失礼いたします…」
彼は一番気むずかしいらしいのでブリブリした態度をとるのはやめた。
「どうせ君も僕なんかと話したくないんだろ!?皇子だからしかたなく挨拶してるだけなんだ!!」
まだ軽い挨拶をしただけなのに入るやいなや、いきなりキレだした王子。
テーブルの上のカップが倒れぐらりとソーサーを転がった。
「ティーカップが!!」
癇癪を起こす王子を無視し落ちる寸前のティーカップをなんとか守ろうと私は手を伸ばす。
高そうなカップが床に落ちて割れた。
「かわいそうなソーサー」
カップを失ったソーサーなんて使い道がなくて廃棄されてしまうだろう。
「…そこのメイド!」
「はい?」
これはまずい、あまりに緊迫していたので我を忘れて、王子のことも失念してしまっていた。
「僕よりもティーカップが大事か!?物にまで劣るほど価値がないと言っているのか…?」
枕に顔をうずめてめそめそと泣いて悲しむ王子。
「王子、貴方が皇帝だか王様の息子だか知りませんけど人間事態に価値はないんですよ価値は稼いだ金と着用した衣服で決まってます
とよく父がいってました」
「一応訂正してくれ。僕は皇帝の息子だから皇子だ」
「あ、すみません」
「フン…仮にもメイドが王族にそんな言動をして、ここがパレッティナでなければ不敬罪で死んでいたんだからな」
「…はい」
よかったけど、それで済んでいいのかこの国。
「えっと皇子」
「なんだ僕が嫌いでたまらないか?」
どうしてそうなる。卑屈すぎる。
「皇子はどうしてそう悪い方へ考えるんでしょうか」
「生まれが生まれだからな…」
妾の子だから、原因はそれだったようだ。
でも、一般人ならともかく皇帝は妾が沢山いるのが普通の気もするし、妾から生まれる皇子はどこにでもいると言っても過言じゃない。
「妾の子で皇子を嫌った方がいるんですか?」
「直接言われたわけではないがきっと僕を嫌ってるに違いない」
重症である。
「なら、皇子にそんな態度をとった奴等は私がボコボコにしますから」
「は?」
「お部屋を出ましょうテスタード様」
皇子の手を強引にひいて、部屋から出した。
「あ、テスタード皇子だわ」
「久しぶりに見るけど素敵ね…」
女中達が皇子を見て頬を染めた。
なんだか少しムカついたのでいったん部屋に戻る。
「今、索敵とかいうありえない言葉が聞こえた」
「さすがに素敵をどう聞き間違えたら索敵になるんですか」
皇子の耳には都合の悪い単語に変換する機能がついているんだきっと。
「皇子、ご兄弟で仲が良い方っていますか?」
「義弟のミランゾは話しかけてくるが仕方なく社交辞令かroutineでやっているんだろうな…分け隔てなく笑っていたスノーズ兄上はいなくなってしまったし…」
墓穴を掘ってしまった。
「だ…大丈夫ですよ
たとえ誰もいなくても私は皇子のこと大好きですよ」
所詮私は平民、皇子に言おうとしていたのは、嫌いではないです。なのだが、そんな上からの物言いできないからそれの他に上手い言い回しが浮かばなかった。
どうせ暗い方向にもっていくだろう。
皇子が疑り深い人で少し幸いした。
「…本当なら嬉しいが」
なぜ今に限って真面目に受け止めているんだろう。
いいけども、こっちまで恥ずかしくなる。
この皇子が周りとまともに向き合えるのはいつになるやら。
皇子が次に部屋を出るより先にお給与が貯まりそうだ。




