Ⅳ時 放蕩の戦士
~ヴェスナルタ女王、視察訪問~
十二の月にヴェスナルタ女王が我が国を訪れることが昨日発表された。ヴェスナルタの女王、エテカリーナ・スウェイク陛下は、即位後4年目にして昨年ようやくご成婚されたが、相手の身分が問題視され、現在も未だ王室内が落ち着かない様子だ。新王配殿下アレクセイ・サスタヴァーチは腕を買われて女王の護衛をしていたが、もともとは他国の生まれでサスタヴァーチ家の養子になってようやく侯爵の地位を持った人物である。公爵を差し置いての突然の結婚に、周囲はまだ戸惑っているようだ。新王配殿下とそろっての訪問は、まだ先のことになりそうである。
~ラウラ第二王子、未来の王直属の剣へ~
早々に王位を退き騎士団員として剣術を磨いているラウラ第二王子(22)が、ラウ第一王子(24)の騎士になることが昨日発表された。国王陛下から直属の命令であり、陛下とラウ第一王子、ラウラ第二王子3名をそろえての会見が8日、闘技場で行われる。
今朝アリョーシャが配って来た新聞には、実に一般的な記事ばかりが載っていた。王子を突き飛ばして逃げた元貴族の女の行方など、誰も気にしていない風だ。騎士選定まで行われたともなれば、もはやラウ第一王子は、次期王決定である。この国にとっての騎士とは王を守る象徴であり、騎士団の人々はそれを目指して入団している。第一王子に騎士として第二王子が付いたと云うことは、正式な戴冠などはされていないものの決定とみて間違いない。早々に私のことなど記憶の彼方へと忘却され、格式高い何所かのお嬢様とご成婚されるだろう。どうやら絵が追いついていないのか、文字だけの新聞を私はぽいと投げ捨てる。
もう出かける時間だ。お嬢様でなくなった私は、自分で食事を用意し、自分で洗濯をし、自分で買い物をしなければならない。日が明るいうちに、既に慣れ親しんでいる妖精使いの家を出た。
この国ではみんなだいたいが明るい髪色をしていて、私も生まれた時から金に近い髪色をしている。だからなのか、ルシファの黒髪というのは雑踏の中でも存外に目立つものだった。
「お、シルビア。また会ったな」
そう声を掛けられなくても気付いただろう、相変わらずの戦士姿に、思わず辺りを見回してしまう。
「……今度はサボりじゃないでしょうね」
「年中サボるようなやつじゃないよ。と云うか、この間だって別にサボっていたわけではない」
戦士の仕事は基本的に依頼がなければ見回りと云う形であちこち歩き回ることが多いとは、この間レイアートから聞いていた。特にこの時期は窃盗やすりが多いから、見回りの方が多いようだ。
「見回りの時に少し息抜きしたって良いだろう、ずっと見回っているわけにもいかない」
「屁理屈ね」
「いきなり自警団に女が怒りながら乗り込んで来たら、大問題になりそうだったから先回りしておいただけだ」
確かに云われてみれば大問題だ。自警団は民間人にとって気易い場ではあるものの、個人個人が信頼を得てやっている仕事でもある。私があのまま殴り込みに行っていたら、ルシファの信頼はガタ落ちだったかもしれない。云われるほど怒ってはいなかったが、事情が事情なだけにぴりぴりして怒鳴りつけるぐらいはしていたかもしれない。ひとまずはあれで良かったと云うことにしておこう。
「今日も買い物か?」
「日々生活していかないといけないもので」
「ルーガーデン家ともなれば、それこそ王子の花嫁になるには家柄として問題ないだろう」
「少し前がそうだったとしても、今はただの没落貴族よ。自分で家をなくした以上、自分で生活していかなければならないわ」
──お嬢様、これでルーガーデン家は終わりになってしまいますが、よろしいのですか。
父の右腕であったレオノフにそう尋ねられて、私は頷いた。父亡き後、私がすぐに婿を見つければ存続できたのかもしれないが、もちろんそんな気持ちにもならず、義母と義姉に付いて下町に降りてしまった。おそらく陛下に釈明して猶予をもらえば存続する可能性はあっただろうが、私はそれをせず、自分の意思でルーガーデン家を潰したのだ。
レオノフのあの言葉をたまに思い出すのは、ほんの少しでも、家を失わせた罪悪感があるからかもしれない。
「家を、なくした?」
「そうよ、もうただの庶民なんだから、自分の道は自分で見つけて行かないといけないの」
「……そうか」
ふと真面目な顔をしたかと思えば、そうして視線を落とす様はなるほど品が良く、確かに良いところのお坊ちゃんだ。貴族の男性が戦士になることは、なかなかに珍しい。戦士はあくまで町の自治組織であり、もともとある権力によって力を得られるわけではない。むしろ貴族は偏見の目で見られることが多く、おそらく騎士団に入るより苦労するはずだ。それを兄弟で、一番名のある自警団に入ってしまうのだから、コネでもないのならば相当な実力だ。
──それでも剣の扱いは抜群ですから、難しい依頼もこなしてしまって、誰も文句が云えないんです。
ふとレイアートの言葉が過る。戦士になる必要がないのに自ら入団し、好き勝手やって剣の腕も一番ともなれば確かに敵が多そうだ。しかしそんな面倒くさそうな敵など相手にしないから、また敵が増える。悪循環に陥る典型だ。だがその代わり、庶民から尊敬の目で見られる。
「レイアートって、本当に弟なの?」
「……なんだ、その疑いの目は」
「似てないなぁと思って」
外見は確かに似ているのだが、レイアートと話してしまったからか、性格の違いがどうにも浮き出てしまう。文句ではなく、単純に似てないと思っただけだ。
「まぁ確かに、似ていると云われたことはないな」
「でしょう」
「そんなに断言しなくても良いだろう、これでも十は離れているんだ」
「それを感じさせないから驚いているんじゃない」
ルシファの年齢など知らないが、私と近いぐらいだろう。となるとレイアートはやはり十代半ばでまだ学生だ。戦士は誰でもなれる役職だから、学生を理由に規制はされていない。それでも兄に憧れるが故に学生でありながら戦士になるとは、本当にルシファに強い憧れを持っているのだろう。その割にはだいぶ手ひどい扱いをしていたが、それは見なかったことにしておこう。
「まぁとにかく、レイは事情知っているから、何かあったら頼ってくれ。あんなんでも、良い筋をしている。いざと云う時には役に立つはずだ」
「わざわざ話したわけ」
理由を聞いたらすごく呆れられそうな気がする。自分でも莫迦莫迦しい逃げ方をしたとは思っているが、それでも譲れない部分というものがある。私にとってはどうしても、許せない話だっただけだ。
「仕方ないだろう、自警団でそういう流れになったんだ」
「……自警団全員が知っているってこと?」
「いや、最初に云っただろう、話の通じそうな城の連中に話をしておくって。だから俺とレイと、後は大元の他には、数人しか知らない」
果たしてその話の通じそうな城の連中とは、いったい誰のことなのやら。城から離れてしまっている私にはまったく想像もつかないが、とりあえず自警団で興味津々に見られる心配は薄れた。もし何かあったら自警団に行かなければならないのだし、好奇の目で見られるのは好きではない。
自警団でそういえば、と思い出す。
「もう必要ないだろうから、これ返すわ」
初めて会った時に渡された戦士の証、大切なものだというのはわかっていたのでなくさないよう肌身離さず持っていた。結局翌日には城に居どころが知られるという結末で使う意味なく終わりを迎えてしまったから、いつまでも持っているわけにはいかない。しかしルシファは軽く笑ってかぶりを振る。
「いや持っていれば良い、何かあったら自警団を頼れる」
「こんな大事なもの、怖くてずっと持って居られないわ」
「そう、大事なものだから大切に取って置いてくれよ。簡単に王子に取られないように」
笑いながらの冗談に、私は苦笑してしまう。
「私が城に行かない限り、王子様なんて出て来ないわ」
「うん?」
「偉い人は城から出て来ないの、そう決まっているもの」
それが悪いことだとは思わない。権力者とはそういうものだ。私が屋敷から出られなかったのは、たぶん必死になって出る気持ちがなかったから。もちろん出ることは難しかった。それでも必死になって出る努力はしなかった。いつまでも自分の意思で籠の中の鳥で居るつもりだった。そんな自分には戻りたくない。だから城にも、行きたくはない。
「そうかもな、出たくても出られなくて泣いているかもな」
「……え?」
「出たくても出られない、そういう場合だってあるだろう」
まるで私のことを云い当てられたのかと思うほどに、それは的確な言葉だった。
「……ルシファも、前はそうだったの?」
胸中が見られてしまったような気がして悔しくなり、つい振ってしまった。かわいくないと思っても、訊いてしまうのが私だ。ルシファは案の定、少し顔を苦くする。
「レイから聞いたのか」
何を、とは云わずともわかる。見たくれは戦士のそれなのだが、ちょっとした仕草や思考はどちらかというと貴族のそれに近い。それも北国の貴族らしい、謀略に向いているほうだ。
「現在進行形でそうだ。こうしてここに居ることも、家族以外はあまり良く思っていないままだからな」
「それでも辞めないのね」
「俺は戦士であることに誇りを持っている。だが同時に、自分の家にも誇りを持っている。要するに、わがままなんだ。だからどっちも辞めないという結論に達した」
羨ましいほどの潔さが、私の心には冷たく突き刺さる。私もそれだけ割り切ることができたら、どんなに楽だっただろう。私もそれだけ自分の家に誇りがもてたら、父母の努力の結果でつないだ我が家にもっと愛情を持つことができたら、失わなくて済んだのだろうか。
──シルビア、まだ何も終わっていないじゃない。この間頼んでおいたのに。
父の真意を知りたい。少しの希望を持ってあの人が選んだ相手の下に身を寄せたことは、間違いだったのだろうか。
どん! どん! どどどん!
と感傷に浸ってしまった私の後ろから、突然の爆音が流れた。何事かと振り返れば、各々楽器を構えた人たちが勢ぞろいしている。
「さぁさぁ今年もやって参りました、毎年恒例エヴァン楽曲団のパレードが通ります! 市場のみなさん、準備はよろしいですか!」
突然の音にも関わらず、少し先に居る市場の店主たちがおーと返事をしている。その熱気は朝市で見るのと見ているが、それよりもっと和やかで心から楽しんでいる様子が伝わって来るようだった。
「今季の冬迎祭りも、妖精の加護に感謝して一日一日を終えましょう!」
市場店主たちの声を聞いた楽曲団の人々は、パレード先頭を務める指揮者の合図で、次々と市場へと繰り出して行く。流れているのはこの国ではお馴染みの国歌だ。緩やかなメロディが日中を過ぎた街を彩って行くさまを、ぼんやりと見届けてしまう。パレードが通ると同時に市場は大騒ぎになり、大爆発でも起こったのかと思うほどの喧騒だ。貴族の社交場に居たら絶対に体験できない、耳を塞ぎたくない騒音。
「相変わらず元気だよな、貴族の方が祭りの楽しみ方を知らないかもしれない」
同じ貴族ながらルシファは初めてではないようで、慣れた様子でパレードの団員に手を振ったりして見届けていた。
「お祭りなのね、あれ」
「ああ、そうか、市井の祭りは出たことないんだな、自由で楽しいぞ」
「……楽しそうね」
いつも日暮れ前になると混み始める市場だが、その倍は居るのではないかと云うぐらいの人混みだ。中に入ったらはぐれるのが目に見えているというのに、人々は進んで中へと入って行っては笑顔で飛び出して来る。
物珍しくて見ていただけなのだが、ルシファは何を思ったのか私を見ていたずらを思いついた子どものように意地悪い笑みを浮かべる。
「行くか?」
「……え?」
「中に入るまでわからない楽しさだからな」
気がついた時にはルシファに腕を引かれて、公園から市場までの距離があったと云うのに、文句の一つも云う間もなく、気が付けば人混みの中に入り込んでいた。
「ああ、ちょっと! ルシファ、はぐれる!」
「ああ、だから手そのままにしとけよ。はぐれたら簡単に潰れるぞー」
こんな状態では絶対に潰されるのが目に見えていたから、腕を掴まれている状態だったが慌てて手を握り直す。本当なら文句の一つも云いたいところなのだが、周囲の陽気さに負けて悪い感情を吐き出すことさえ躊躇われる。まるで子どもが親の手を離すまいと必死になってルシファの手を掴んだのだが、当の本人は突然足を止めて驚いたように私を見る。
「……何?」
「……あ、いや。……」
一瞬目を逸したルシファだったが、
「あのな、シルビア……」
また私に視線を合わせた時に、ぐいっと後ろから引っ張られた。
「ほーら若いのはこっちで遊んでから盛り上がってくれ!」
まるでタイミングを図ったかのように私を引っ張ったのは、魚屋の小父さんだ。たまに買うので顔は覚えているものの、買い物以外でこうして話すのは初めてである。
「男が恰好良さを見せつけられる場面でもあるな、はっはっはっ」
商品がずらりと並んでいるのだが、ここから見るには遠かった。手に取って確かめたかったのだが、ルシファに止められたのでおとなしくしている方が良いのだと判断する。それからルシファは店主と軽く話したあと、いくつか置いてある弓矢を手に取り構える。弓矢と云ってもよく見ると矢はゴムになっていて、当たっても害がないようだ。ルシファは剣が腰元にあるにも関わらず、弓矢も難なく構えていた。
ルシファが苦戦した様子もなく三つほど的を撃った後に説明してくれたが、あれは射的と云うらしい。商品に当たればそれを持って行って良いことになっているのだと云う。誰が考えたのかはわからないが、今のだと完全に店側が損をしている。しかしそれでも、魚屋の小父さんは良い腕をしている、さすがだなぁとルシファに満足気な顔を見せていた。……そういうものなのだろうか。
「良かったなぁ、嬢ちゃん」
小父さんが嬉しそうに云うので私も笑顔で返しておいた。笑顔を作るのは、得意中の得意だ。だがそんな笑顔を作ることさえ、ここでは罪悪感になる。心の底から楽しんでいるみんなに合わせたいのに、完全に染まりきれない自分が嫌になる。
それでもルシファは私を連れてあちこちでお祭りを説明してくれた。見たことのない遊び、食べたことのないもの、最初は戸惑ってばかりだったけれど、夢中になっている間に気付けば日も暮れていた。
「ちょっと遊び過ぎたな」
公園に戻って来たルシファはあちこちで取った戦利品を見ながら、満足そうにベンチに座る。私も久しぶりにはしゃいだからか、少し疲れてしまっていた。おとなしくルシファの隣に座ってようやく手を離した。夜の公園はいつもなら人が少ないはずだが、当たりにはぽつぽつと、お祭りの休息をしている人たちが居る。よく見かける白猫は喧騒にうんざりしているのか、ベンチの下ですやすやと眠っている。
「どうした、静かだな」
「ちょっと疲れただけよ」
「だいぶはしゃいだもんな」
「だって楽しかったもの」
「楽しかったならそれで良い、最初ぽけっとしてたからな」
「だ、だって……勝手が全然わからないもの」
いきなり見知らぬ世界へと飛び込んだら誰だってああなる。それに私は、どうしたって庶民の中に入ると、腐っても貴族生まれであることを突きつけられる。そんな当たり前を吹っ切るのに、少し時間が必要だった。
「まぁでも楽しめたのなら俺も満足だ」
まるで自分が何かしてもらえたかのように喜ぶルシファに、思わず呆れそうになる。そんなにお人好しにしていて良いのだろうかと思ってしまう。そんな私たちのもとに、ひゅるるるる、と音がして、思わず顔をあげた先にぱっと明かりが舞った。
「……花火?」
「おお、今年はこんな近くであげたのか。ラッキーだったな」
ルシファは近いなぁと声を出すが、私はもっと驚いていた。花火とは建物の中で見るものだった。空に近いところで、城のテラスで、屋敷の屋上でそれは眺められるものだった。どれも近くにある光が眩しくてとても綺麗なものだと思っていた。
だが今ここにある花火は、もっと近くにあるように感じる。空からは遠いのに、目の前であげられていると感じられるぐらいに、それは今までのどの花火より距離を感じさせなかった。
「お、明かりがあると助かる」
花火に見とれていたら、ごそごそと戦利品をいじっていたルシファが私に向き直って、髪の毛に何やら付けている。
「……何?」
「髪飾り、俺には使い道がないからな」
「見えないわよ」
「帰ったら見てくれ、今日の土産は今日付けているのが一番だ」
他にもいろいろルシファには必要なさそうなものはあった気がしたのだが、髪飾りなど狙わないと取れないはずだ。私にそこまで気を遣っていることに、裏を感じられないのが逆に不思議になる。むしろ裏があったほうが安心すると云ったら、この人は気分を害すだろうか。
「んー、ちょっとはしゃぎすぎたかもしれないな」
結局花火をじっくり見てしまい、帰るのがいつもより少し遅くなってしまっていた。余韻も残っていて帰る足取りもゆっくりになってしまう。あんまりにも遅いとエオリオが煩いのはわかっていたのだが、それさえ頭から飛ぶほどにお祭りを楽しんだことに満足している。
「付き合わせて悪かったな」
「ううん、ありがとう。……楽しかったから」
「参加したいものには、素直に参加すれば良い。考えるのは後だ」
家の近くまで送ってくれたルシファは、じゃあなと軽く去って行く。現れるのも唐突だが帰るのも唐突だ。話に脈絡がないように思えるが、私の胸中をそのまま云い当てて来るのだから、たぶん洞察力は相当優れているのではないだろうか。
からかわれないよう家に入る前に外した髪飾りは、庶民のお祭りのお土産とは思えないほど上等なものだった。
・・・・・
「本年も立派な花火だったな」
「はい、父上。下は今日も元気そうで、安心しました」
久しぶりに謁見する国王に最近の報告をしていたら、今日の祭りで打ち上げた花火師が訪れ、本日の祝いにと謝辞を送りに来た。その流れから出た雑談だった。
「満足そうな顔を見れば、すぐにわかると云うのは楽なことだ」
「あまりそういじめてやらないでください、父上」
思わず苦笑で返すラウに、国王は満足そうに笑い返した。
「楽しいのは構わないが、私とて時間はそう割いてやれん」
「わかっています」
優しい笑顔のまま、国王は現実を突きつけ、ラウもそれに頷く。何も時間をかけようとしているわけではない。もちろん楽しみたい思いもあるのだが、それよりも優先してやらなければならないことがある。のちの楽しみのために、今はそれを差し置いて先にやらなければならない。
「私としても、あまり時間をかけられる問題ではありませんから」
「そうだな、これ以上手遅れになる前に……迷惑をかけて済まないな」
「いえ。父上の所為ではありません、それにその分、私のわがままを聞いて戴いていますので」
シルビアへの求婚こそ、そのひとつである。ラウにはどうしても、彼女でなければならない理由がある。その面倒事を許してくれているだけでも、寛大な王と云えるだろう。
王などと云うものは、所詮わがままなど許されない。世界の憧れのように書かれる王は、蓋を開ければ実に排他的で、国を守るためならそれ以外のものには非情にならなければならない。国というひとつの国家を守るためなら、なんでも投げ捨てなければならない。
そんな王になるためには、やはりわがままではあるが、汚い面もすべて見せられるほどの支えが欲しいとラウは思うのだった。