表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/11

序章

 むかしむかし、あるところにとても美しく働き者な娘が居ました。娘のお母さんは幼い頃に亡くなり、お父さんは、二人の娘の居る女性と結婚することになりました。しかし継母と義姉は大変ないじわるで、日々を遊んで暮らし、生活の雑用をすべて娘に押し付けたのです。

 いつも暖炉の掃除で汚れる娘に、灰かぶりと云う名前をつけて、散々にこき使いました。

 そんな娘に、さらに不幸は降りかかります。家の主であったお父さんが、事故で死んでしまったのです。男性の居ない家は王様から貴族の地位が剥奪されてしまいます。貴族ではなくなったので、継母とお姉さんはお父さんの莫大な財産を手に、下町に移り住みました。娘は、当然のように働かない継母とお姉さんの世話をしなければなりませんでした。

 そんなある日、第一王子がお嫁さんを決めるための舞踏会を開くことになり、娘たちに招待状が届いたのです。

「王子様と結婚できるかもしれないわ」

「ずるいわ姉さん、私だって」

 招待状をもらった二人の姉は大はしゃぎ、継母とお姉さんは連れ立ってドレス選びに行きました。娘にも招待状は届きましたが、着飾るドレスはなく、舞踏会など夢の夢。日々を淡々とこなすだけです。

 舞踏会当日、精いっぱい着飾り笑顔で出て行った継母とお姉さんを見送ると、娘は一人、家に残っていました。やることはたくさんありますが、三人が居ないのです。いつもより少しは気が楽です。そんな彼女のもとに、白亜の妖精は現れました。

「かわいそうなシンデレラ、いつも働き者のシンデレラ、おいで」

 好奇心旺盛な娘は、見たことのない妖精に導かれるまま、家を出て行きました。なんと娘が辿り着いた先は舞踏会の会場であるお城でした。いつも煤まみれの服はいつの間にか綺麗なブルーのドレスに変わっており、娘も立派な招待客の一人になっていました。

 舞踏会の会場は人がたくさん居りましたが、娘の美しさに誰もが息を吐きました。いったい何所のご令嬢なのだろうと、みんな興味津々です。そんな噂が王子にも広まり、彼女を見つけた王子は、

「一曲踊りませんか」

 そうして娘に跪いたのです。娘が満足に返事をする間もなく、仮面をつけた王子はステップを踏み始めます。娘も手を引かれるまま、ステップを踏みました。楽しい時間はすぐに過ぎ去り、一曲踊り終えた後、王子は娘に微笑みかけました。

「貴女の名前を教えてもらえるだろうか、私は……」

 そう云って王子が仮面を外そうとした時です。

「優しいシンデレラ、美しいシンデレラ、もう時間がないよ」

 会場が突如暗くなったかと思うと、妖精が娘の耳元でささやきかけました。来た時と同じように導かれるまま、娘は慌てて会場を後にします。

「待ってくれ!」

 王子の止める声も聞かず、娘はお城を後にしました。階段を下りる時に足を引っ掛け靴が脱げてしまいましたが、気にかけている閑はありませんでした。お城の外に出た時にはすっかり魔法は解けて、美貌のご令嬢は灰にまみれた娘に戻っていました。ただ一つ、不思議と魔法の解けなかった硝子の靴が、娘の片足に光り輝き、舞踏会の証拠となって残りました。

 もう一方の硝子の靴は、王子が手にしていました。階段で拾ったそれを握りしめ、王子は国王に宣言しました。

「私はこの靴の持ち主を、将来の妃とします」


 翌日、お城の憲兵が硝子の靴を持って町中を走り回っていました。

「この靴の持ち主こそが、王子の認めた王子の婚約者です」

 憲兵を迎え入れた娘を押しのけるようにして、舞踏会に行っていたお姉さん二人は即座に名乗りを上げました。ただ差し出された靴は妖精の魔法によって娘に合わせられ造られたもの、そう簡単に入りません。

「あとは先ほどのお嬢さんだけですね」

 あの子は舞踏会になんて行ってないわ、憲兵の問いかけに姉たちは声をそろえて抗議します。娘もいつもの薄汚れた姿のままでしたし、自分の話ではあるけれど、大人しく奥に引っ込んでいました。

「こんなところに居たのか」

 奥の部屋でいつものように仕事をしていた娘のもとに、憲兵とは別の声が降って来ました。見上げた先に居るのは明らかに王子様らしい恰好をした、金髪碧眼の男の人でした。

「さぁ靴を履いてみてくれ」

 憲兵からいつ靴を取ったのか、王子は跪いて娘に靴を履くよう促しました。あっけにとられているお姉さんたちの前で、王子は娘の足を靴へと入れました。当たり前のようにそれはぴったりと入り、王子はにこりと微笑みました。

「やはりそうだ、君こそ、王子の花嫁だ」

 そうして狭い部屋で高らかに宣言したのです。

「王子の花嫁を見つけた!」

「王子の未来の妃だ!」

 憲兵たちはばたばたと外に出て宣言してしまいます。娘たちはただただ呆然とするしかありません。

「どうしてこんなことに……」

「なんでなの?!」

 悲鳴を上げるお姉さんたちの前を素通りし、昨晩現れた白亜の妖精がまた娘の前にやって来ました」

「美しいシンデレラ、おめでとうシンデレラ、ほら」

 そう云ってまた、あの美しい姿に娘を変えたのです。何所から見ても、王子の嫁にふさわしい、美しい娘の姿でした。


「もう片方の靴は何所にあるんだい、両方履いてくれないか。そうしないと僕は……」

 そう云って王子が娘のもとを少し離れた途端、

「王子と結婚なんて、絶対嫌よ!!」

 娘は慌てて外へと飛び出しました。

「な……追え! 彼女を、シルビア・ルーガーデンを探し出すんだ!」

 王子の声が響き渡る中、娘シルビアは町の中を逃げました。外には憲兵が居るにも関わらず、彼女は驚くほどの素早さで、彼らを撒いてしまったのでした。


 世界ローズサウンドは北大陸の真ん中に位置するサントラガル王国。精霊の加護を受ける世界の中心アリカラーナと少し似た、妖精の加護を受けた国で上がる物語は、王子に夢見るシンデレラとは、少し違うシンデレラのお話。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ