嘘の責任
突然、バラエティ番組が中断して、アナウンサーが画面に現れた。ひどく緊張した様子だ。
『番組の途中ですが臨時ニュースをお伝えします。長崎沿岸部に上陸した巨大生命体は、海上自衛隊と長崎県警の合同防衛網を突破し、市街地へ向かっているとの情報です。政府は臨時対策本部を設置し、与党では陸上及び航空自衛隊の出動も視野に入れた対策を検討しています。しかし野党側の強い反発のため調整は難攻しそうだとのことです。また、在日米軍は―――』
・・・ナンデスカコレハ?
楽しい夕食の時間。突如として流れた意味不明のニュースに食卓は凍りつく。
うぉ! 現場の映像出てるよ! すげぇ、街が怪獣映画のワンシーンよろしく破壊されてる!
「低俗。とんだバラエティ番組ね」
「え、これヤラセなの?」
「当然でしょ? 今頃苦情の電話が殺到よ」
なんだ単なるバラエティの余興か。てっきりホントに巨大生命体が襲ってきたのかと思ったのに。
「天下の情報伝達手段であるテレビがこんなもの流してたんじゃいざというとき大混乱だわ」
「テロ予告とか?」
「えぇ。本当に逃げなきゃいけないときに報道しても『また冗談だ』って思えて行動しなくなるわ。まるでイソップ寓話の羊飼いと狼ね」
有名な物語の一つだ。羊飼いの少年がいつも冗談で「狼が出たぞー」って言っていたら、本当に狼が出たときにみんな冗談だと思って助けてくれなかったって話。通称狼少年。嘘はよくないってことだよね?
「そうね。でも私としては『人社会における責任』について呼びかけていると解釈するかしら。羊を食べ終えた狼は次に何を食べるかしら?」
・・・村に入ってきて小さな子どもを襲う、か。
「もし初見でちゃんと対処していればそんなことにはならなったでしょうね。日ごろから嘘の情報伝達を行っていた羊飼いの少年の責任だわ。自業自得ならしかたないけれど巻き込まれた周りはいい迷惑よ。人社会での責任を放棄しているとしか思えないわ」
「最近のテレビ番組は捏造とか色々と問題あるみたいだしねぇ。チャンネル変えるよ?」
これ以上彼女の機嫌を損ねるのもアレなので真面目なニュース番組にでも変えましょう。ぽちっと。
『この巨大生命体は』おや? 『自衛隊でも有効な』あれあれ? 『米軍がミサイルによる攻撃を』どのチャンネルも巨大生命体ニュースですよ!
「・・・私たちはもうとっくに狼に食べられる村人になっていたようね」
後日、避難が遅れたことにより被害がかなりのものになったという記事が新聞に載っていた。
う~ん、これも一つの現代病ってヤツだよね。
おわり