4 たかが自己紹介、されど自己紹介
「えっと、その、庶務は僕の他にもう一人いて、高等部一年の方なんですけど、ヴィゼっていいます」
出てきたのは金髪で金色の目をした長身でたくましい体躯の男子だ。こちらも御門に負け劣らずの美男子である。鋭い目つきがクールな雰囲気を作り出している。
「高等部一年の庶務、ヴィゼルフ・ベルスだ。一週間前の朝食は食パンとサラダだ。好きなハサミの色は黄色だ。よろしく」
「ちょっと待って、ヴィゼ。なんかおかしい。自己紹介って、そーゆーもんだっけ?」」
「何か違うのか?」
「そう思う」
「や、そもそも、自己紹介とは何を言えばいいんだ? 三日徹夜して考えたんだが、全然思い浮かばなくてな……。で、そのまま登場してしまったから、もう何を言っていいのかわからん。ついでに眠い」
「や、ちょっと順番に突っ込ませて。まず、三日も徹夜したの? 何その無駄な集中力の使い方」
「俺なりに真剣に悩んでいたんだ。まるで生きるか死ぬかの人生の岐路に立たされた気分になって」
「自己紹介で深刻になりすぎだって! しかも、そこまで悩んだ末に言おうと思ったことが一週間前の朝食と好きなハサミの色? 何をどう考えたらそうなるの! 自己紹介は、主な自分のプロフィールを言えばいいんだよ!」
「じゃあ、今、身につけてる下着の色とか?」
「や、それ知りたいの多分変態だけ」
「じゃあ、最近ハマっていることは、大きなクマのぬいぐるみを抱いて寝ることとか?」
「あー、うん。それならギリギリでいいかな。ってか、ヴィゼ、意外……」
「まあ、それは滝島の話だが」
「おい、ヴィゼ! なんで俺の秘密を知ってやがる!」
滝島が怒鳴り声を飛ばしてきた。
「ヴィゼ! 自分のことを言わないと意味ないから!」
「そうは言っても、卯月。もうネタがなくなった」
「三日徹夜の成果がこんだけ!?」
「もういい。次に行ってくれ。次回があったら、今度は五日徹夜して考えてみる。大好きなカップラーメンを食べながら」
「おそらくないと思いますけど! ってか、好きな食べものを言えたじゃん! それでいいんだよ! 自己紹介は!」
もはや言うまでもないと思うが、ヴィゼは大変な不器用である。