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世継ぎ騒動と混乱の元凶

王都編の最後、トーウが締めてくれるでしょう(きっと?)

 ローランス大陸のバールズ王国の王都バルズが今回の舞台である。



「こんな場末の酒場に来て良いんですか」

 軽い嫌味を籠めて、一見何処にでも居そうな大人の一歩手間の少年が言うと、その横に座っていた、育ちのよさが滲み出る少年が答える。

「世継ぎじゃない強みさ、ホルス」

 嫌味を言った少年、ホルス=バラガス(17)が苦笑する。

「ガーロンス殿下を排除して、お前を次の王にしようとしている動きがあるって聞いたぜ、パリンス殿下」

 それを聞いて大きな溜息を吐く、育ちの良さそうな少年、パリンス=バールズ(15)。

「もう少し考えて欲しいよ、ガーロンス兄上が駄目なら、マリセス姉上が居る。性格に問題があるが、全てに置いて僕を上回っている」

「そう言うわけにはいかんだろう。なんせ世継ぎは男子って言うのが通例だ」

 ホルスが肩を竦めて言うとパリンスが手に持った酒を飲み干す。

「お替り!」

「はーい」

 そう言って、ウエイトレスの少女が駆け寄ってくる。

「同じもので宜しいでしょうか?」

 その声を聞いて、パリンスは慌てて少女の方を向く。

「トーウじゃないか!」

 その言葉にその少女、トーウも驚く。

「パリンス殿下ではないですか? なんでこんな場末の酒場にいるんですか?」

 驚く二人を見て、ホルスが言う。

「パリンスお前の知り合いか? まさかどこぞの姫君って事は無いよな?」

 その言葉にパリンスは大きく溜息を吐いて言う。

「それより偉い人だ。偉大なりし八百刃様の代行者、東刃様だ」

 その一言にホルスが固まる。

「冗談だよな?」

 パリンスは首を横に振る。

「本当だよ」

 信じられないという表情を浮かべるホルス。

「あちきは、借金を返さないといけないから地道にお金稼いでるんだよ。それより、この国の殿下がここに居る方が問題じゃない?」

 パリンスが苦笑する。

「大丈夫です、国の運営は出来の良い、兄上と姉上がやってくれます。僕の仕事なんて国民に愛敬を振りまくぐらいですかね」

 トーウは、そんなパリンスに向って言う。

「どう思うおうがかってだけど、あちきの素性は、あまりばらさないでね」

 そう言って、仕事に戻っていくトーウ。



 酔っ払ったパリンスが千鳥足で帰路を進んでいると、数人の男がパリンスを囲んだ。

「お前の所為だぞ」

 パリンスの隣を酔っているが確りとした足取りで進んでいたホルスが言うと、パリンスは否定する。

「ホルスの可能性だってあるだろう」

「パリンス殿下、お覚悟!」

 そう言って、襲ってくる男達。

「ほらな」

 ホルスが自慢げに言いながら襲ってきた、男をあっさり斬り捨てる。

 驚く襲撃者達。

「任せて大丈夫かい?」

 パリンスの言葉にホルスが平然と答える。

「気にするな、俺とお前の仲じゃないか、酒場のつけで手をうってやるよ」

 その言葉にパリンスが頷こうとした時、後方から声が掛かった。

「ちょっと待った!」

 振り返るとトーウとセーイが居た。

「パリンス殿下、そいつのつけ幾らだか知ってるの?」

 パリンスが少し考えてから言う。

「金貨5枚以下だろ?」

 パリンスは尋ねるようにホルスの顔を見るが、ホルスは視線を逸らす。

「冒険で稼いだら返すと金貨20枚もあるんだよ」

 トーウの暴露にパリンスの視線が冷たくなる。

「別にいいだろう、こちらも一応命懸けなんだからよ」

 そうホルスが反論するとトーウが商売人の顔になって言う。

「そこで相談なんだけど、こいつ等の排除を金貨10枚であちき達に委託しない?」

 その言葉にホルスが反論する。

「後から来ておいて横取りとは少々いただけないぞ」

 それをトーウは鼻で笑う。

「スポンサーを騙して過剰請求しようとした人間が何言っても説得力無いよ」

 ホルスが怯む。

「お願いできるのですか?」

 パリンスの言葉にトーウが襲撃者を指さして言う。

「セーイ、やっておしまい!」

『自分でやるんじゃないのね』

 セーイの肩に乗っていた、子猫モードのソウが降りながら言う。

 セーイは、抜刀もせずに次々に襲撃者を柄で打ち倒していく。

「パリンス、もしかしてあの人も代行者様か?」

 ホルスの質問にパリンスが頷く。

「西刃様だ。多分、北刃様や南刃様もこの町に居るのだろう」

「八百刃様の代行者が4名もか?」

 ホルスが驚いた様子で言うとトーウが来て言う。

「あちき達四人は、赤子の頃に戦争で死に掛けてたの。そこにママが居合わせて、代行者にする事であちき達を救ってくれて、ずっと育ててくれたの。だからママの作った借金を返す為にお金稼いでいるの」

 感動するパリンスとホルス。

「良い話だな」

「お礼はちゃんと払います」

 そんな二人を視界の端におさめながらソウがテレパシーで呟く。

『正直あのまま、八百刃様の側に居たら、誰か飢え死にしてたしね』

 パリンスやホルスは聞こえない言葉をトーウは聞こえて居たが無視した。



「失敗しただと?」

 王城の一室で、細身の美形の男性、バールズの第一王子、ガーロンス=バールズ(20)が配下の者を睨む。

「八百刃様の代行者、西刃様が襲撃者を撃退したようです」

 冷静に答える、ホルスによく似た姿をしているが、纏う雰囲気は冷たいその男、ホルスの双子の弟、ガルス。

「西刃様だと、どうして西刃様が出てくるのだ?」

 ガーロンスの問いにガルスが離宮を指さす。

「マリセス殿下が、自分の親衛隊の強化の為に雇っていると居る噂を聞いています」

 爪を噛むガーロンス。

「マリセスめ、余計な事を! 女は、大人しく嫁入りの準備でもしてれば良いのだ!」

「近々見合いの話があるそうです」

 ガルスの言葉にガーロンスが怒鳴り返す。

「当然だ! いままで婚約者一人居ない方がおかしいのだ!」

「しかしこれで、マリセス殿下に期待する人間は居なくなるでしょう」

 ガルスの言葉に無意味に歩き回りながらガーロンスが言う。

「そうだ、だからこそ、パリンスを殺しておく必要があったのだ! それを失敗するとは!」

 壷を叩き落し、割る。

 同時に耳を塞ぐ侍女たち。

 ガルスは視線だけで侍女たちに片付けの指示を出してから言う。

「しかし、これはチャンスかもしれません」

 ガーロンスがガルスを縋るように見る。

「本当か?」

 力強く頷くガルス。

「八百刃様の代行者に次の王位を確約して頂ければ、それに反発する者は居ないでしょう」

 その一言に、途端に明るくなり、ガーロンスが言う。

「そうだ、代行者様も次の王位には誰が相応しいか解っている筈だな」

 高笑いをあげるガーロンスを見ながら小さく溜息を吐きガルスが呟く。

「そんな事は誰もが知っている。どうして自分を信用出来ない」



 翌日の昼間、何時もと同じ様にトーウが酒場で働いていると、店の前に王宮の魔獣車が止まる。

「なんだ?」

「金ぴかだ!」

 ギャラリーが集まる中、ガルスが酒場の中に入るとそこには、一人で頑張って掃除をするトーウが居た。

「お客さん、営業は夜からですよ」

 それに対して、豪華な服を着たガルスが片膝をついて言う。

「お迎えにあがりました東刃様。我が主、ガーロンス様が貴女様との会見を希望なさっております。おこし頂ければ光栄の至りです」

 その言葉に、トーウは少し考えてから言う。

「少し待っててくれる、もう少しで掃除が終わるから。そしたら行くから」

 それに対して、ガルスが立ち上がり言う。

「その様な下賎な事は、他のものに任せれば宜しいかと思いますが?」

 その一言にトーウは溜息を吐いて言う。

「ママの、八百刃の教えには、職業の貴賎はありません。そしてこれはあちきがお金を貰ってやっている事です。バールズ王家には、恩もありますから、会いに行きますので少しだけ待ってて下さい」

 頭を下げるトーウに、ガルスが引く。



 簡易礼服を借りて、ガーロンスが待つ一室に入るトーウ。

「お久しぶりです、ガーロンス殿下」

 頭を下げるトーウにガーロンスが何を勘違いしたのか、尊大な態度で言う。

「まー気にしないでそこに座ってくれ」

 ガルスが機嫌を損ねてないかトーウを見るが、トーウは平然と席に着く。

「今日来てもらったのも他でもない。次の王位について貴女方の口から私が相応しい事を王宮の者に告げてもらいたいと思っている」

 その言葉に、トーウは少し困った顔をして言う。

「あちき達にはそんな権限ありませんよ」

 それに対してガルスが言う。

「そんな事はありません。この国では八百刃様は、唯一絶対の存在。その代行者である東刃様のお言葉ならば、だれもが納得します」

 大きく頷くガーロンスにトーウが大きく溜息を吐く。

「お気持ちは解りますが。八百刃の考えはどんな組織にも属さず、ただ正しい戦いを護る事です。すいませんが、協力出来ません」

 頭を下げて、席から立つトーウ。

「父上には八百刃様は、協力したのに何故!」

 ガーロンスが詰め寄るがトーウが平然と言う。

「ママは、この国にあちき達を預けた時にした約束は、正しい戦いを続ける限りあちき達を守護する八百刃獣の力の使用を容認しただけだよ。別段協力した訳ではなく、ギブアンドテイク。それも八百刃の考えにそう範囲内だけに」

「しかし……」

 なおも何か言おうとしたガーロンスだったが、その前にガルスが頭を下げる。

「解りました。本日の所はありがとうございました」

 慌てるガーロンス。

「ガルス何を言っている!」

 ガルスは構わず、トーウを出口に導き、去り際に一つの箱を渡す。

「態々来て頂いた感謝の印です。城のパティシエに作らせたお菓子の詰め合わせです。他の姉妹のかたとお食べください」

 トーウはあっさり受け取り言う。

「ありがとうございます」

 そして城を出て行くトーウであった。



「何を考えているガルス!」

 ガルスに詰め寄るガーロンス。

「あせってはいけません。次への布石はもううちました」

 ガルスが余裕たっぷり答えた。



 八進に戻り、トーウがお菓子の箱を開く。

 そこには、庶民の収入では一か月分のお金を出しても食べられ無そうな贅沢なお菓子が並んでいた。

「少しまずっかったかな」

 トーウが悩む横で、平然と手を伸ばすホーク。

「気にしなくても良いじゃない。代行者であるトーウが態々会いに行ったんだから、お金貰っても良いくらいよ」

 甘いものは好きなのだが、性格上手を出せないセーイを見てトーウが言う。

「そうだね。セーイも食べなよ」

 セーイは嬉しそうにお菓子に手を伸ばす。

 セーイがお菓子を取り上げた瞬間、トーウの目が点になる。

 ホークもそれを見て言う。

「黄金色のお菓子って奴ね」

 そこには、金貨が並べられていた。

「何考えてるのよ!」



 その夜、パリンスが何時もの様に酒場に来ていた。

 そんなパリンスを見つけてトーウが袋を差し出す。

「ガーロンス殿下に返しておいて下さい」

 その言葉にパリンスが首を捻る。

「なんだいこれ?」

 トーウは溜息を吐いてから言う。

「見ないほうが身のためですよ」

「賄賂か?」

 パリンスの後ろに居たホルスの言葉に驚くパリンス。

「そんなガーロンス兄上がどうして?」

 それに対してトーウが首を横に振る。

「多分、側近の人の独断だよ。お菓子の下にあった」

 その言葉にホルスが頷く。

「ガルスがやりそうな事だ。しかし、お金が必要でしたら貰っておけば良いじゃないか?」

「代行者の立場を利用して、仕事もしてないのにお金を貰うのはママの考えから離れるの」

 トーウがはっきり答えて、仕事に戻っていく。

 パリンスとホルスが席に着いてから、一生懸命働くトーウを見る。

「本気で律儀だよな。そのお金さえ貰えば、こんな所で働く必要は無いだろうに」

 ホルスがパリンスの持つ袋を指さして言うとパリンスも頷く。

 そんなパリンスを見て、ホルスが言う。

「お前はそれで良いのか?」

 その言葉に理解出来ないと言う表情を浮かべるパリンスにホルスが続ける。

「お前は、その金をただガーロンス殿下に返すだけで良いのかって聞いてるんだよ」

 パリンスはかなりの金額が入った袋を見ながら答える。

「ガーロンス兄上が、渡したわけでは無いのだから」

 ホルスが机を叩く。

「それを見逃してるのはガーロンス殿下だろう。ガルスの謀略を許しておくガーロンス殿下に何か言わなくて良いのか?」

 パリンスは少し考えてから言う。

「マリセス姉上に頼んで、注意してもらうのはどうかな?」

 大きく溜息を吐くホルス。

「好きにしろ」



 翌日、パリンスはトーウから預かった金貨の袋を持って、マリセスの離宮に来ていた。

「マリセス姉上、少しお話があります」

 パリンスが何か言う出す前にマリセスが言う。

「最初に言っておくけど、ガーロンス兄上の賄賂の件だったら私は、何も言わないわよ。私自身、西刃様を高額の報酬で雇っている以上、説得力が無いわ」

 その一言で言葉に詰まるパリンスだったが疑問点だけは質問する。

「どうしてそれを知っているのですか?」

「セーイちゃんの側に居る、魔獣の百爪から聞いたわ。今回の事は貴方の判断で動きなさい」

 困惑するパリンスであった。



 パリンスは、王宮の自分の部屋に戻り、問題の金貨の袋を見つめる。

「どうしたら良いのだ?」

 溜息を吐くとその時、侍女が近づいて来て告げる。

「魔術院の長のご息女、アリアンス様がいらっしゃっています」

 その言葉に、パリンスが言う。

「珍しいなアリアンスが態々侍女に用件を頼むなんて」

「貴方が全然気付かないからよ」

 突然直ぐ横からアリアンスが声を掛けてきた。

「何時から居たのだ?」

 パリンスは、慌てながらも聞き返す。

「10分以上前、その袋をずっとみて悩んでいるのを見てた」

 アリアンスの言葉に、視線を逸らすパリンス。

「そうか、それで何の用なのだよ」

 アリアンスはその袋をとって言う。

「これが噂の東刃様への賄賂ね」

 頭を抱えるパリンス。

「何でお前まで知っているのだ」

 呆れた顔をしてアリアンスが言う。

「東刃様が、うちにお金を払いに来たときに聞いたわ。にしても何で未だに持ってるの?」

 ふてくされた顔をしてパリンスが言う。

「仕方ないだろう、この様な物をガーロンス兄上にどういって返せば良いのだ?」

「素直に返せば良いじゃない」

 アリアンスが極々当然とばかりに言うとパリンスが反論する。

「そんな事したら、ガーロンス兄上に余計な敵意を持たれるだろう」

「敵意を持たれてないとでも思って居たの?」

 アリアンスの鋭い一言にパリンスが口を噤む。

「ここは、ある程度牽制するのも一つの手よ。行ってきなさい!」

 アリアンスに押し出されるようにパリンスは、ガーロンスの部屋に向うのであった。



「これを私が、東刃様に渡したと言うのか?」

 ガーロンスは思いっきり不愉快そうに言う。

「そうとは言っていません。ガルスさんの独断だと東刃様も判断しています」

 その言葉に、ガルスが頷く。

「その通りです。東刃様が不愉快な思いをしたとしたら、私の失敗ですので、お詫びをせねばならないでしょう」

 パリンスは問題の袋をおいて、すぐさま退散しようとした時、ガーロンスが言う。

「陛下に余計な事を言うのではないぞ!」

 その言葉に即座に頷くパリンス。



「そんで今日もちびちびと酒を飲んでるのか?」

 何時もの酒場に来ているパリンスをホルスが呆れたように言う。

「他にどうしろって言うのだ?」

「是正するのが、兄弟だと思うよ」

 偶々傍に来ていたトーウが答える。

「まーな、このままガルスの思い通りに動いてたらろくな事にならないからな」

 ホルスも頷く。

「そっちこそガルスさんを止めてくださいよ」

 パリンスが反論すると、ホルスは肩をすくませて言う。

「残念ながらとっくの昔に兄弟の縁は切られていてね」

 そして更なる悩みを抱えるパリンスにトーウは少し考えてから言う。

「正直いまのままだと不幸な事になるよ。多分、パリンス殿下が暗殺される可能性が高い。兄弟を暗殺する方も、される方もけっして幸せには、なれないよ」

 その一言に、ホルスが言う。

「つまり前回の襲撃はガーロンス側の者だって言うのか?」

 頷きトーウが続ける。

「状況から考えて間違いないよ。アリアンスさんは、牽制になるかもと思って居たみたいだけど、逆に相手に襲撃意欲を増幅させる事になっていると思うよ」

 パリンスが言葉に詰まっているとトーウが言う。

「パリンス殿下、貴方にとって何が大切か考えて。その大切な者を護る為には、何が必要なのかを」

 それだけ言い残すとトーウは他の客の所に行く。

「さすがは、代行者だ、良い事を言う」

 そして悩むパリンスを横目にホルスが言う。

「力が必要な時は言え、格安で手伝ってやるから」



 翌日、バールズ王城の王の間に三人の王位継承者が集まった。

 落ち着きが無いが第一王子、ガーロンス。

 何事にも動じそうも無い第一王女、マリセス。

 そして、気弱な第二王子、パリンス。

 高官の誰もが、能力はそこそこあるが、王としての落ち着きが無いガーロンスより、実行力と政治能力が高いマリセスか、操りやすいパリンスが王位を継いだほうが良いと思って居た。

 その雰囲気を感じ、ガーロンスの側近であるガルスは強い苛立ちを覚えていた。

 彼は知って居た、ガーロンスは落着きが無く、短絡的な所があるが十分に王としての資格を持っていると。

 同時に、王の資格に一番疑問を覚えているのがガーロンス自身である事も。

 だからこそ彼は自信を生み出させる為に、色々な手段を用いた。パリンス襲撃もその手段の一つでしかなかった。

 現在の所、それが実る様子は無かった。

 そして、35を過ぎて居るのに若く、力強い英雄王、アーロス=バールズが告げる。

「パリンスが皆の前で告げる事があると我に告げた。本日はその為の場である」

 その一言に明らかに動揺するガーロンスと密かに舌打ちをするガルス。

 そしてパリンスが立ち上がる。

「余計な事を言うな、パリンス!」

 大声を出すガーロンスだが、パリンスはそれを無視して話を始める。

「私はここで宣言します。私は国王になるガーロンス兄上を助けて、この国をより良い国にする為に全力を尽くす事を」

 意外な言葉に、誰もが言葉を無くす。

 アーロスが視線だけで話を促すとパリンスが頷き言う。

「臣下の者の中には、ガーロンス兄上を排除して私を国王に据えようとする者が居るらしいが、そんな事は決してこのバールズ王国にプラスにはならない。ガーロンス兄上は国王としての能力を十分に有している。そしてマリセス姉上の様に何もかもを変えようとする強引さも必要ありません」

 苦笑するマリセス。

「言うわね」

 パリンスは、続ける。

「大国であるこのバールズ王国にもう英雄は不要です。この国に必要なのは、堅実な国王。それがガーロンス兄上です」

 英雄王とも言われる現国王すら否定する意見に王の間に居た誰もが青褪める。

 しかし予想と反してアーロスは、爆笑する。

「パリンスお前の意見は確かに聞いた」

 その後、ガーロンスを見て続ける。

「お前はパリンスが言うとおりの王になれるか?」

 その言葉にガーロンスが少し怯んだが、直ぐに立ち直り宣言する。

「バールズ王国を安定させる堅実な国王にでしたら私は成れます!」

 その言葉に頷くアーロス。

「その言葉を私は待っていた。正直、三人とも王の器とは思えぬ。しかしガーロンスをたてて兄弟力を合わせるのなら立派にこの国を護ってゆけるだろう」

 こうして全てが上手く行くかと思われた。



 夜の王宮を歩くガルス。

「まさか命を狙ったパリンス殿下に助けられるとは思いませんでした」

 晴れやかな表情をしたガルスの前に一人の男が立つ。

「パリンス殿下の襲撃はもう宜しいのですか?」

 その男は、パリンスを襲った男の一人だった。

「もう良い。ガーロンス殿下さえ自信を持って頂ければ、パリンス殿下を恐れる必要はない」

 そう告げて通り抜けようとした時、男は隠し持って居た短剣を抜いて、ガルスの腹を刺す。

「何をする。報酬は前払いで払った筈だぞ」

 ガルスの言葉にその男は告げる。

「それでは困るのだよ、八百刃を信望するこの国には滅びて貰わなければいけないのだからな」

 ガルスが最後の力を振り絞って離れて問いただす。

「お前は何者だ!」

 男は胸に着けた九盾印を見せて言う。

「我等はこの世界の終焉へ向かう事への反逆者。存在する事を望む者。八百刃の受け止めし九つの盾、九盾」

 その言葉に舌打ちするガルス。

「私のミスだな、この頃の事件は全てお前等の手引きだな!」

 男はあっさり頷く。

「実験中の人工魔獣を逃がしたのも、マリセス殿下を襲わせたのも我等の思惑。八百刃に力を取り戻させない為にもこの国は邪魔なのだよ」

「そんな事だと思ったよ」

 その声に驚き振り返る九盾の男。

 そこには、トーウとホルスが立って居た。

「情けないな、そんな奴に腹を刺されるなんてよ」

 ホルスの軽口にガルスが怒鳴り返す。

「私の事は良い、この様な行動に出た以上、何かをする筈です。早くそいつを取り押さえて吐かせるのです」

 九盾の男が自信たっぷりに答える。

「もう遅い、我等の仲間は既に動いている」

 大きな音が町の方から聞こえてくる。

「おいおい本当に大丈夫なのか?」

 その言葉にトーウが大きく頷く。

「あちき達は正しき戦いの護り手、八百刃様の代行者なんだよ」



 一斉蜂起と言っても良い程の人間が同時に動いた。

 必死に押し止めようとする軍人達だが、多勢に無勢その崩壊は容易に予測できたが、そこに助けが来た。

 暴徒の先頭に居た、魔獣兵器を駆使する男が吹っ飛ぶ。

 その周囲に居た、男達が持つ何処で手に入れたのか疑りたくなるほど強力な魔獣兵器がどんどん切り裂かれて無力化されていく。

 勢いを失った集団に、アンナを始めとするマリセス親衛隊が立塞がる。

「汝等の戦いは間違っている。それは代行者、西刃様がこちらに居る事が証明している」

 アンナの宣言に答える様に、疾走するセーイが持つ刀に変化した百爪が唸る。



 人工魔獣達の暴走、それは考えられる限り最悪な展開であった。

 しかし、天井をぶち抜いて落ちてくる砲弾から放たれた煙が、通常の薬など通用しない人工魔獣達を眠らせていく。

「人工魔獣も命、僕は命を無駄にする者達を許さない」

 ナーンが生み出した、魔獣砲台から放たれる、睡眠煙砲弾は、人工魔獣達の各種防衛機能など端から意味無いと言わんばかりに効果をあげて行った。



 若き魔術師達による、禁呪の使用、誰もその力を止める事は出来ないと覚悟した。

 しかし、その魔術が押し返されていく。

「なかなか面白い術ね。でもその程度の力は、あたしに掛かれば意味無いわ」

 ホークの輝石蛇の増幅が篭った輝石魔術は、禁呪の膨大な力すら圧倒して押さえこんでしまう。



「代行者であるあちき達には戦いを感じる事が出来る。だから王都に散らばってもらったよ」

 トーウの言葉に九盾の男が怒鳴る。

「貴様等は自分が自らの滅びに手を貸そうとしているのがどうして解らない!」

「それじゃあ、貴方達が犠牲にしようとしている人達の未来はどうなるの?」

 トーウは真剣な瞳で詰問する。

「それは、世界を滅びから救う為の仕方ない犠牲だ!」

 九盾の男の答えに、トーウは、右手を広げて言う。

「どんな理由があろうとも、死んでいく命を仕方ないで済ませる貴方達の戦いは間違ってる」

 トーウの手に小さな龍の姿をしていた、空道竜がまきつく。

『東刃の名の下に、その力を解放せよ、空道竜』

 トーウの右掌に『東刃』の文字が浮かび上がり、龍の姿を取り戻し、円を描く。

『八百刃の神名の元に、代行者、東刃が求めん、空道竜が造りし道を通り、八百刃獣よ、御力を示し給え、炎翼鳥エンヨクチョウ

 空道竜の作った、円より炎を纏った大鳥、炎翼鳥が現れて言う。

『息災で何よりです』

 頷きトーウは金貨の入った袋を投げ渡して言う。

「これはママにお願い」

 その言葉に大きく溜息を吐く炎翼鳥。

『何時も何時もすまないな。さて、私はどうすれば良い?』

 炎翼鳥の一睨みで何もいえなくなった九盾の男。

「この馬鹿が、設置した爆弾を全て爆発する前に昇華させて!」

 トーウの言葉に九盾の男が高笑いをあげる。

「幾ら八百刃獣でも、この城に百以上設置した爆発物を昇華させるなど不可能だ!」

 それに対してトーウが不敵な笑みを浮かべる。

「残念賞。他の八百刃獣ならば、百以上の爆発物を見つけ出すことも不可能に近かったかもしれない。でもエーパパは違うよ」

 炎翼鳥の翼から放たれた無数とも思える羽根が城に密かに隠された爆発物を次々に爆発する前に昇華させてしまう。

 その場に居た人間全てが言葉を無くした。

「エーパパは、炎の力を持つ。つまり爆発物は、エーパパの羽根と共鳴しやすい。そしてエーパパは元々王宮守護をやっていたからこういった事態用に自分の羽根を飛ばし、遠隔操作も出来るんだよ」

 トーウの説明に、九盾の男が逃走する。

 その前に、一人の男の幻影が浮かびあがる。

真九マク様どうかお許しを!」

 男の願いは叶わなかった。

 消えていく九盾の男。

 そしてトーウが幻影を見る。

「貴方何者?」

 その男、真九の幻影は、そのまま消えていった。

「あれが九盾のボスか、かなり厄介ね」

 トーウはそう呟いた。



 同時に発生した事件は全て代行者の働きで事なきを得た。

 王宮で代行者に感謝を捧げる宴が開かれていた。

 そこを取り仕切るガーロンスと怪我が治りきっていないのに働き続けるガルス。

「結局セーイちゃん達は参加しないのね」

 つまらなそうに呟く、マリセス。

「仕方ないでしょう、有名になる事を嫌う人たちですから」

 パリンスが苦笑する。

「ホーク、サボってないで働く!」

 パリンスの背後からトーウの声が聞こえた。

 少し固まった後、パリンスが振り返ると、そこには侍女と混じって働くトーウ達が居た。

 確り手を抜くところは抜いて働くホーク。

 真面目に働くが喋れないので他人のサポートしか出来ないセーイ。

 何故かこけてメイド服のスカートがめくれあがるナーン。

 そんな姉妹をサポートするトーウ。

 パリンスはそんなトーウの側に行き尋ねる。

「どうしてこんな事してるのですか?」

「給料が良いからだよ」

 指でお金のマークを作り嬉しそうにトーウが答える。

「アーロス陛下からも報酬を貰ったし、借金完済の道も大きく前進してるぞ!」

 大きく溜息を吐く、パリンスであった。

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