兵器の為に生み出された命
失敗作として廃棄目前の魔獣とナーンの話
ローランス大陸のバールズ王国の王都バルズが今回の舞台である。
「これで問題ない筈です」
そう言って、小型の魔獣を搭載した、魔獣剣の調整を終えるナーン。
「見事な技術だ。流石は、偉大なる八百刃様の代行者だけはある」
そう言って、納得するのは、バールズ王国の魔獣兵器開発最高責任者、ホルマルス=ホストンである。
「これは正確に言うと代行者としての能力じゃないのです」
その言葉にホルマルスが驚く。
「そうなのか?」
頷くナーン。
「僕の代行者の能力は、自分が触れた武具の強化です。通常の製造は、ママにマンツーマンで教わりました」
「八百刃様は、自らの手で武具を作られるのですか?」
驚愕するホルマルスにナーンは頷いて言う。
「ママは、戦争に関係する事なら何でもできるって言っていました」
唸るホルマルス。
ナーンは時計を見て言う。
「本日の仕事はこれで終了ですか?」
ホルマルスは、その言葉に慌てて言う。
「おしまいだ。また明日宜しく頼む」
「こちらこそよろしくお願いします」
頭を下げて、王室の魔獣兵器研究所から退室する。
ナーンは王宮の魔獣兵器開発研究所に客員研究員として、招かれて居た。
「しかし、こんな小娘が八百刃様の代行者だなんて信じられない」
作業着から、私服に着替えているナーンに対して、女性研究員達が囁く。
「やっぱり嘘なんじゃない?」
「騙りって奴ね。可能性は高いわね。証拠なんて一個も無いんだからね」
女性研究員の一人が、丁度作業着を脱ぎ始めて手首の所に持って着ていたナーンに近づき言う。
「何で八百刃様の代行者なんてハッタリを言うの!」
怒気が篭った声に、ナーンが首を傾げる。
「詐欺師がいい気になってるんじゃない!」
長身の女性がナーンのシャツを掴み、壁に押し付けようとする。
「止めて下さい」
淡々と言うナーンに、その女性が更に力を込めようとした時、ナーンは床を蹴って、空中で回転すると大柄の女性もあっさりと空中で回転して、背中から地面に落ちる。
「シャツが駄目になりました。トーウに何て言えばいいんでしょうか?」
未だ作業着を手首の所にしながら悩むナーン。
半歩下がる女性研究員達。
「お前等何やってる!」
そこにホルマルスが入ってくる。
慌ててる女性研究員達。
「大丈夫かね?」
ホルマルスがナーンに近づく。
「気にしないで下さい。良くある事です」
そう言った時、ナーンはホルマルスがそっぽを向いたので、胸元を見ると、シャツが引っ張られて伸びた所為で、胸が丸見えになっていた。
「出て行ってください」
その言葉に、ホルマルスが慌てて更衣室を出た。
ホルマルスと一緒に歩くナーン。
「迷惑かけたね」
「気にしていませんから、大丈夫です」
ホルマルスは、頭を下げて言う。
「そう言ってもらえると助かる」
その時、一匹の魔獣の子供が走ってくる。
「待て、零号!」
後から追ってくる研究員。
その、狼の魔獣は、ナーンの腕の中に納まる。
「君、どうしたの?」
ナーンが話しかけると、狼の魔獣は恐怖の感情を拙いテレパシーで送ってきたので、その狼の魔獣を抱きしめてナーンが言う。
「この子に酷いお仕置きをしたのですか?」
「関係ない!」
その言葉に、研究員が強引にナーンから狼の魔獣を奪い取ろうとする。
ナーンは、半歩下がって護る。
「関係ない人間が、感情だけで手を出すな!」
研究員の言葉にナーンが、額に南刃の文字を浮かび上がらせて言う。
「僕は、八百刃様の代行者、南刃。この子は生きるために必死に戦っている。その戦いを僕は正しいと認めます。相手になりますか?」
プレッシャーに後退する研究員達。
「事情くらい説明したらどうだ?」
ホルマルスの言葉をかけると慌てて頭を下げる研究員達。
「ホルマルス様、すいません」
「そんなことより、説明を頼む。私も八百刃様の代行者と敵対したくないのだからな」
その言葉に研究員が慌てて弁明を始める。
「その人工魔獣は、失敗作なんです。元々は、暖房系に使う人工魔獣だったんですが、兵器用に改良した試作品なのですが、思った様な効果が上がらず、廃棄する予定なんです」
その言葉にナーンが悩む。
廃棄予定だったらこの子が暴れるのも解るが、人工魔獣に因る兵器の開発に携わっているので、失敗作は処分するのも理解できるからだ。
そしてナーンは見てしまった、縋るような狼の魔獣の瞳を。
「それで、給料の一部として貰って来たって訳?」
半ば呆れた感じでトーウが言う。
「ごめんなさい。でもほっとけなかったのです」
ナーンが夕飯を作っていたトーウの前に正座して頭を下げる。
「これって、他の研究施設に売れば、金にならない?」
モラル知らずで、外道なホークにおたまを投げつけて黙らしてからトーウが言う。
「事情は解った。その子は、極端に食費掛かったりしないよね?」
「はい。この子は、ヒバと同じで大丈夫な筈です!」
その言葉に溜息を吐いてトーウが言う。
「解った。折角助けたんだから大切に育てるよ」
姉妹には厳しいが、魔獣には優しいトーウだった。
そんなこんなで数日過ぎたある日、夕食の後、トーウがナーンを連れて外に出る。
「あの子、本当に大丈夫?」
その言葉に驚くナーン。
「どう言う事ですか?」
トーウが大きく溜息を吐いて言う。
「この頃連続して起こっている放火事件知ってる?」
ナーンが頷く。
「確か、出火原因は人工魔獣の可能性が高いって話ですよね?」
トーウが頷く。
「あちきが確認したよ。出火後に残っていた感覚は、間違いなく魔獣の力だった。それもレイ(零号の愛称)と同じ気配」
ナーンが大声で否定する。
「レイは、そんな事をしていません!」
興奮するナーンを宥めながらトーウが言う。
「だったら問題ないけど、レイは戦闘調整中に失敗してる。だからあの子自身が自分を制御出来ないで、暴走する可能性が大きいの。少なくともあちきの見立てじゃ、レイが犯人の可能性があるよ」
意外と冷静なトーウにナーンが涙する。
「レイを疑るのですか!」
涙を流し始めるナーンにトーウが頭をかきながら言う。
「嫌疑を晴らしたかったら、真犯人を捕まえた方が良いよ。あちきはバイトで夜は空けられないけど、暇人のホークにレイを監視してもらって、その間にセーイと一緒に犯人探索したら?」
その言葉にナーンは強く頷く。
「わかりました。僕の手できっと犯人を見つけてみます!」
その日の夜から、ナーンとセーイに因る、探索が始まったのであった。
『何時まで続けるの?』
セーイの肩で欠伸をしていた白猫モードのソウが言う。
「レイの疑いが晴れるまでです」
セーイも頷くが、ソウが言う。
『この頃ろくに寝てない。あんな紛い物の為に代行者である、貴方達が無理する必要はないと思うよ』
それに対して、セーイは思いっきり首を横に振り、その動きでソウが地面に落ちる。
ソウは咄嗟に体勢を直して着地して言う。
『トーウは八百刃様から魔獣に関する知識と感知能力を貰っているんだよ。そのトーウが言っているのだから、あの紛い物の可能性が高いよ。とっとと処分する方が良い!』
「絶対駄目です。レイはもう僕達の家族なのだから」
ナーンが断言すると、セーイも強く頷く。
その時、火の手があがる。
「あっちです!」
駆け出す二人。
『結局逃げられたね』
その言葉にしょげるセーイ。
「いくら僕達でも、代行者の能力無ければ、本気で逃亡した人工魔獣は追いかけられません」
ナーンがそう言って溜息を吐くが直ぐに気を取り直して言う。
「でもこれでレイが犯人じゃない事が証明されました」
『何で?』
ソウの言葉にナーンが八進を指さして言う。
「レイは今もホークと一緒に八進の中に居ます。放火は出来ない筈です!」
その時、後方からレイがナーンの足元にやってくる。
「どうしてですか?」
愕然としているナーンに対してソウが言う。
『そいつは、思いっきり放火があった方から帰ってきたよ』
「ホークに監視を頼むなんて発案したあちきが悪かった。ごめんなさい」
素直に頭を下げるトーウ。
「そうそう、トーウが悪い」
ホークの言葉に、トーウの容赦の無い踵落しが決まる。
『しかしこうなると益々怪しいね?』
ソウの言葉に、トーウが少し考えた後言う。
「そのことなんだけど、一つ聞いて良い?」
落ち込んでいるところに声をかけられたナーンが顔を上げる。
「なんですか?」
「レイは、試作って言っても人工魔獣だから、一緒に作られた子が居ないの?」
トーウの問いにナーンが少し考えてから言う。
「たいてい試作は、多少弄った数パターン作るものですから、可能性はあります」
その言葉に頷きトーウが言う。
「だったら、レイじゃなくそっちの子って可能性があるよ」
その説明に、ナーンの目が輝き走り出す。
「確かめてきます!」
そんなナーンを見送りながら、トーウは、寝ていた八進の動力をしているヒバをセーイに渡す。
「嫌な予感するから後追って」
頷きセーイが走り始める。
「トーウはついていかないのか?」
復活したホークが聞くと、トーウが答える。
「バイトがあるもん」
着替えて出て行こうとするトーウに対してホークが言う。
「バイトに行くのに、正装するんだね」
苦笑するトーウ。
「途中に寄るところが出来そうだからね」
立ち上がるホーク。
「王宮に行くならあたしも行くよ」
肩を竦めるトーウ。
「問題の魔獣だった場合の為の裏工作をお願いに行くんだから、たかれないよ?」
「ここより美味しいお茶は飲めるだろ?」
そして二人は、八進を出る。
「それでは、レイ、零号には兄弟が居るのですね?」
ナーンの言葉に、この間の研究員が答える。
「ああ。零号よりより実践的な壱号がいたが、逃亡した。そこから制御式に問題が判明して全廃棄が決定したんだ」
その言葉に、頷きあいナーンとセーイは研究所を後にする。
『まさか本当に居たなんてね』
ソウが驚いている時、新たな炎があがる。
そこに駆けつけるナーンとセーイが見たのは、今も炎を噴出して放火を続ける魔獣とその前に立つレイであった。
『レイの奴、止めるように説得してやがる』
ソウの通訳にナーンが言う。
「それで通じそうですか?」
それに対してソウは、溜息を吐いて言う。
『あの様子を見て判断してくれ』
壱号は炎を噴出すのを増加させて行く。
振り返るレイ。
ナーンが決心する。
『我が声に応え、我が剣よ、集いて雷光打ち出す銃と化せ、雷光銃』
ナーンの額に『南刃』の文字が浮かび、護身用に持っていた拳銃が周囲の物質と融合して、ライフルに変換される。
『南刃の名の下に、その力を我が刃の力とかせ、火羽鳥』
セーイと一緒に来ていたヒバが取り付き、その動力になる。
『南刃の名の下に、その力を我が弾かせ、暖炎狼零号』
レイが南刃の声に反応して、ひとつの弾丸に変化して、雷光銃に吸い込まれる。
照準を合わせてナーンが言う。
「これでおしまいです!」
そして弾丸と化したレイは、雷光を纏いながら自分の弟を貫いて共に消滅した。
『いい加減、落ち込むのはやめろ。一番辛いのはナーンだぞ!』
ソウの言葉に、めそめそしていたセーイがナーンを見るが、ナーンは笑顔で言う。
「大丈夫です。だってレイは自分の戦いをやり遂げたのですから」
涙を拭うセーイ。
そこにトーウが入ってくる。
「ナーンこの給料どう言う事!」
そう言って、トーウが給料明細を見せる。
「えーとレイを譲ってもらうかわりに給料半分で良いっていった所為だと思います」
その言葉にトーウが怒鳴る。
「どうしてそんな事言うの!」
相変わらず騒がしい四つ子であった。
ただ、ナーンの小物入れの中にはレイの首輪がしまわれていた。




