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愚直なまでに真っ直ぐな盾

英雄とは力強き者ではなく、人々を導く強い意志と実行力を持つ者である

 ローランス大陸のバールズ王国の王都バルズが今回の舞台である。



「すまないけど君みたいな子供を指導に雇うほどうちは人材不足じゃないんだ」

 その言葉にセーイは頭を下げて、その道場を出た。



 とぼとぼ歩くセーイ。

『気にするなセーイ、王都にはいっぱい道場があるから明日こそは、仕事が見つかるさ』

 隣を歩く、子猫姿のソウがフォローするが、セーイの気分は晴れない。

 そんなセーイの前で、いかにも高貴な家柄風の女性とその侍女が絡まれていた。

「よーよー姉ちゃん少しで良いからお茶一緒にしようぜ」

「無礼者! このお方をどなたと心得る」

 侍女の言葉に馬鹿笑いをあげる絡む男達。

「これは良い。いいとこのお姫様らしいぜ。そんな相手とやれるチャンスなんてそうそうないぜ!」

 すると、その女性は最初から男達など眼中にない表情で言う。

「何をやっているのです? この様な野良犬をいちいち相手にしてはいけません」

 平然と歩き始める女性に、男達が激怒する。

「何だと! ふざけやがって!」

 男の一人が女性に殴りかかる。

「姫様!」

 侍女が女性の前に出て盾になる。

 次の瞬間、男は大きく投げ飛ばされていた。

 セーイが侍女の前に出て男を投げ飛ばしたのだ。

「邪魔するならお前を先に……」

 言い終わる前にセーイの蹴りがその男の股間をクリーンヒットする。

 セーイは刀を抜いて睨む。

 普段は大人しく、弱々しげだが、戦っている時のセーイの迫力は尋常ではなく、あっさり逃げていく男達。

 セーイは元のおとなしい雰囲気に戻り、心配そうに女性を見たとき、その女性が抱きつく。

「セーイちゃん会いたかった!」

 セーイを強く抱きしめる女性にセーイは目を白黒させる。

「姫様のお知り合いなのですか?」

 侍女の言葉にその女性が答える。

「貴女は知らないのね。彼女は八百刃様の代行者の西刃様ことセーイちゃん。短い間だけど、王宮で暮らしていた事あるのよ」

 嬉しそうな顔をして解説する女性をセーイが思い出して全身から冷や汗を垂らす。

『そのくらいにしてもらえませんか? マリセス王女』

 ソウの言葉にその女性、17歳のバールズ王国の第一王女マリセス=バールズが不満気な顔をする。

「ひさしぶりにあったのよ。もう少しだけ」

 体全身でセーイを感じているマリセス。

「姫様、その様な事はお控えください。特に相手はあの八百刃様の代行者様です!」

 慌てて止めに入る侍女。

 渋々セーイから離れるマリセス。

「お礼に、お茶をご馳走させてください」

 ソウはその微笑みに邪心を感じた。



「なるほど、八百刃様が作った借金を返す為に、働こうとしているのに、雇ってくれる所がないのですね?」

 マリセスの離宮で出された紅茶を飲みながら、セーイがマリセスの言葉に頷く。

「その程度の金額でしたら、数多い信望者から募れば直ぐ返済出来ると思いますが?」

 侍女の、マリア=メイデス(17歳の既婚)の言葉にセーイが首を横に振り、ソウが説明する。

『ヤオは、そう言う事を嫌っているからな。娘のこいつ等も、ヤオから授かった力を使って金を稼ぐのはともかく、信望者から金をとるのはもはや本能的に駄目らしい』

 その言葉に苦笑するマリセス。

「本当に八百刃様に似ていますね。わかりました。お仕事の口でしたら私が紹介しますわ」

 その言葉にセーイは少し嬉しそうな顔をしたが直ぐに申し訳なさそうな顔をする。

『コネを使うのは不味いと考えてるよ』

 ソウがセーイの代わりに伝えるとマリセスが言う。

「いいのです。セーイちゃんの実力を見込んで頼むのですから。貴女みたいな強い人に教えてもらえば、私の親衛隊もパワーアップします」

 その言葉にセーイも納得して頷く。

「話が決まった所で、紅茶をもういっぱいどうぞ」

 セーイは素直にお替りを貰い、飲み干した所で、目を擦り始める。

『セーイが眠くなったみたいだから、八進に帰るよ』

 ソウの言葉にマリセスが言う。

「かなり眠いみたいですから、こちらで一眠りして行かれたらどうですか? 起きないようでしたら、最新型の魔獣車でお送りしますわ」

 セーイが大きく首を横に振るが、ソウは頷く。

『そうして下さい。あたしは、トーウ達に伝えてきます』

 そう伝えてあっさり離宮を出て行くソウにセーイが戸惑う。

 言葉を伝えるソウが居なければ、帰る意思表示すら難しいのだ。

「ゆっくりしていって下さい」

 微笑むマリセスの顔を見ている間にセーイの眠気はピークに達して、おとなしく寝室に行って眠ってしまう。



 セーイが眠る寝室で、邪悪な影が迫っていた。

「全ては計画通りです」

 マリセスが、涎を拭いながら、紅茶に仕込んだ睡眠薬で眠っている筈のセーイに迫る。

「本当に可愛くなりました。全力で可愛がってあげます」

 セーイの服を脱がそうとした瞬間、セーイの目が開き、マリセスを投げ飛ばす。

「痛いですわ」

 と言いながら目を白黒させるセーイに近づくマリセス。

「起きていたのは少し予定外ですが、まあ良いです。おとなしく私のペットになりなさい!」

 セーイが対応に困ってオロオロしている間にマリセスがにじりよる。

 そんなマリセスの頭部にチョップが決まる。

「痛いですわ!」

 マリセスの文句にチョップを放ったトーウが言う。

「あちきの姉妹に変な事するの止めて下さい」

 手を腰にあてて言うトーウ。

「何でここに居るのですか?」

 マリセスの言葉にトーウが溜息を吐いてから言う。

「王宮で暮らしてた時も何度もセーイを変な事しようとしてたの、忘れたんですか?」

 その言葉にマリセスが言う。

「セーイちゃんって本当に可愛いのですもの! 更に可愛くなって我慢できなかったのです」

 セーイを背中に庇いながらトーウが言う。

「とにかく今回の話は無かった事にして下さい」

 その言葉にマリセスが懇願する。

「それは待ってください。本当にセーイちゃんの力が必要なので、お願いします。報酬も今回の慰謝料も追加しますから」

 報酬の追加、その一言にトーウの足が止まる。

「セーイを変な道に進ませる訳には行かないから駄目」

「一日で金貨10枚」

 マリセスの言葉にトーウの動きが止まる。

 セーイがトーウとマリセスを交互に見る。

『トーウ、まさか金でセーイの純潔を売らないよね?』

 ソウの突っ込みに、何かを堪える顔をしてトーウが言う。

「そうよ、割高な報酬貰うのは駄目、適当と思われる報酬じゃないと」

 無理に自分を納得させるトーウにマリセスが悪魔の囁きを行う。

「私の親衛隊に女性ならナンバーワンだと勘違いしている隊員が居て困っているのです。彼女に自分の実力を解らせる為、詰り若き有望な親衛隊を強くするためです、金貨10枚も決して高くありません」

 トーウが無口になる。

「安心して下さい。親衛隊の事が片付くまでは変な事は絶対しません」

 トーウが、セーイを見る。

『自分は大丈夫だと言っているよ』

 呆れた口調のソウの言葉にトーウが振り返って言う。

「変な事したらこの離宮が消えると思ってね」

 マリセスが微笑み言う。

「安心して下さい」

 何故かトーウとソウには、マリセスの後ろから悪魔の尻尾が見え隠れしている気がした。



 翌日の離宮に隣接した鍛錬場にセーイが案内される。

「彼女です」

 マリアが、奥で剣を振るう女性を示す。

 その女性は、20代前半で綺麗な顔立ちなのに、周り全てを敵に回すような雰囲気がそれを台無ししている。

『剣だけで生きていますって言ってる様な奴だね?』

 ソウの言葉にマリアが頷く。

「姫様も彼女の実力には高い評価をつけています。数少ない女性の実力者として、自分の親衛隊には必要不可欠な存在として活目していますが、あの性格の為、他の親衛隊との揉め事も多いのです」

『つまり、天狗の鼻をへし折れって事ね』

 ソウのようやくにマリアが頷く。

「よろしくお願いします」

 剣を振るう問題の女性、アンナ=モードスの手首をセーイが掴み首を横に振る。

「何のつもりだ!」

 睨みつけるアンナ。

「そんな剣の振りかたしていたら、力だけの剣になるって意味だよ」

 幼女モードになったソウが伝言する。

「力だけの剣だと」

 アンナがセーイを射殺しそうな視線を向ける。

「力なき剣に意味は無い」

 セーイは自分の木剣を構える。

「口答で説明するより実際にやった方がわかり易いってさ」

 ソウの伝言にアンナも木剣を構える。

「私が教育してやろう」

 そう言って、鋭い振り下ろしの一撃を放つが、セーイは少しだけ後退し、木剣の勢いを自分の木剣で加速させて地面に叩きつけさせる。

「何?」

 アンナが、地面を叩いた事による手の痺れが回復する前に、セーイはアンナの木剣を絡めて、飛ばす。

 セーイに木剣を突きつけられて愕然とするマリセス。

「女性の力では男性相手に勝つのは難しいから、相手の力を利用する技を見につけないと駄目だってよ」

 ソウが解説をする。

 その後、向上心高い親衛隊員相手に指導するセーイであった。



 セーイが指導を始めてから一週間が過ぎた。

「今日こそ勝つ!」

 アンナは、何度も勝負をしていた。

 しかしまるで勝てなかった。

「いい加減認めたら、セーイの方が強いって?」

 幼女姿のソウの言葉に、アンナが言う。

「私は、自分の剣に誇りがある。だからこの剣で貴女に勝つ」

 セーイは、頷き勝負を受ける。

 数日で格段早くなった剣だったが、セーイは最小限の動きでそれを受け流し、隙が出来た所に木剣を入れる。

「勝負ありで文句ないよね」

 ソウの言葉にアンナは答える事は出来ない。



 一日の鍛錬を終えて、浴室で汗を流すアンナ。

 その背後で別の女性親衛隊員が言う。

「自分の分がわからない人間って惨めよね。いくら相手が子供だからってあれだけ明確な力差を見せられて挑み続けるなんて恥ずかしく無いのかしら?」

「脳みそも筋肉で出来ているのでしょ」

 アンナは拳を握り締めて堪える。



「それでどうでしょうか?」

 離宮内部の浴室で、メイドの人と一緒にお風呂に入って居た、セーイにマリセスが声を掛ける。

『なんであんたが浴室に居るの?』

 子猫姿に戻っているソウの言葉にマリセスが余裕たっぷりな態度で言う。

「ここは私の離宮です。私が浴室に居ても何も問題はありません」

「トーウ様から禁じられています。国を滅ぼしたくなければ即座にお戻り下さい」

 入り口からマリアが声を掛ける。

「せめてもう少しだけでも駄目?」

「駄目です。トーウ様には浴室や寝室で凶行をおよばない様にきつく言われていますので」

 残念そうに、浴室の扉が閉まるまでセーイの裸を凝視するマリセス。



 セーイはお風呂あがると直ぐにマリセスのところに向った。

 そんなセーイを抱きしめるマリセス。

「最高の抱き心地です」

 その眼前にソウの爪が突きつけられる。

『顔に傷を負いたくなかったら直ぐに止めて』

 マリセスがセーイを開放して言う。

「話は戻すけど、彼女は変れますか?」

 セーイは首を横に振る。

 溜息を吐くマリセス。

「そうですか残念です」

 それに対してもセーイは首を横に振る。

『あの人はあのままで良いって。セーイが今教えているのは、あの人が苦手な相手に対した時の戦い方だって』

 首を傾げるマリセス。

「しかし、それでは限界があるのでは?」

 セーイが頷くとソウに伝える。

『最初から個人の力量には限界があるよ。彼女が果たすべき役割はもっと大切な物。マリセスさんが求めている親衛隊の象徴になれるって』

 その言葉にマリセスが少し考えてから言う。

「セーイちゃんの言葉を信じるわ」



 翌日、親衛隊は、マリセスの視察の護衛として、城下町にいた。

『あたし達がついていく必要あるの』

 マリセスが乗る魔獣車に同乗するソウにセーイが頷く。

「私は嬉しいので構いません」

 本気で嬉しそうなマリセス。

 そして魔獣車が止まった。

 セーイがじっと外を見る。

 そこでは激しい戦いが始まっていた。



「敵は魔獣兵器を持っていない。十分我々の装備で対応できるぞ!」

 隊長の言葉に、マリセスの親衛隊は必死に戦う。

 元々、マリセスの親衛隊は、魔獣兵器を装備した、重装備兵を相手にするのではなく、今回の様な、魔獣兵器を装備していない小規模な襲撃に備えて設立されたもので、今回はその成果が確実に発揮した。

 しかし誤算が一つあった。

 それは、数であった。

 少数精鋭な親衛隊に対して、敵は軽装な事を良いことに、住民に紛れて大量な伏兵を用意していたのだ。

 どんどんと押されていく親衛隊。

 しかし、アンナは必死に最前線で立ち、剣を振るい続ける。

 周りの隊員が完全に負けを感じる中、アンナは一人愚直なまでに剣を振るい続ける。

 全身に傷を作りながらも、その剣には一切の衰えは無かった。

「無駄な抵抗は止めろ!」

 その言葉にアンナは首を横に振る。

「我々はマリセス殿下を御守りする為に戦う。それに後退は無い!」

「ならば死ね!」

 一斉に襲い掛かる襲撃者達。

『西刃の名の下に、我が刀に化せ、百爪』

 その声ならぬ声と共に、白い刀身に変化した百爪、ソウを握ったセーイが襲撃者の前に立塞がる。

『下がるが良い。主人を護る為に死力を尽くす、それは正しい戦い。我等はそれを守護する』

 ソウの言葉に、襲撃者が少し怯む。

「小娘一人増えた位で負けてたまるか!」

 再度斬りかかって来るが、セーイは、相手が動く前に、踏み込み相手のアキレス腱を斬って行動不能にしていった。



 襲撃者を捕獲し、離宮に帰ってからマリセスは親衛隊を集めて言う。

「御苦労でした。貴方達のその強い信念を私は誇りに思います」

 その言葉にアンナが言う。

「しかし今回はあの子が居たからです」

 自分の実力に不甲斐無さを感じながらアンナが言うと、マリセスが苦笑する。

「あの御方は、八百刃様の代行者西刃様です。貴方達が正しい戦いを貫いたからこそのご助力です」

 驚いた顔をする親衛隊のメンバー。

「ですから、西刃様に勝てない事を恥じる必要はありません。それどころか、西刃様を相手に自分の戦い方を貫いたアンナは誇るに値します」

 意外な言葉に言葉を無くすアンナ。

「親衛隊はただ強いだけの組織になっていけません。真に私が欲するのは、常に自分の理念を持って正面から全てを受け止める強い盾の様な強さです」

 その言葉に、親衛隊のメンバーは、アンナを見て頷く。

『あたし達の仕事は終わったな?』

 ソウの言葉に頷くマリセス。

 去っていくセーイに頭を下げるアンナと親衛隊のメンバーであった。



 数日後、アンナは何時もの鍛錬の後の入浴後、離宮の離れで休んでいると、下半身が下着姿のセーイが駆け込んで来た。

「西刃様どうしたんですか?」

 アンナの言葉にセーイは涙目でアンナにしがみつく。

 混乱するアンナの所に、妖艶な下着姿のマリセスが入ってくる。

「セーイちゃん覚悟しなさい。親衛隊の件も終わりました。これからは個人的なお付き合いの」

 その時、マリアが来て言う。

「姫様!」

 そしてマリセスを連れて消えていく。

 その後、ソウが来て言う。

『失敗した。お金を数えてる隙を狙ってくるなんて姑息な手段を使うね。セーイ、大丈夫だった?』

 ソウの言葉に涙を流し続けるセーイを見て、自分の護るものと信念を護った力に大きな疑問を覚えたアンナであった。

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