結婚詐欺師はどっち?
ホークはとことん贅沢が好きで、夢は玉の輿にのることである
ローランス大陸のバールズ王国の王都バルズが今回の舞台である。
ナーンが八進を運転しながら言う。
「王都に入るのはいいですが、どうするのですか?」
トーウは、資料を調べながら答える。
「お仕事するの。あちき達が何のために旅してるか理解してる?」
トーウが周りの姉妹を見る。
「玉の輿にのるため」
ベッドで呑気に横になっているホークにトーウの肘が打ち込まれる。
「ママがあちき達を育てる為に作った金貨二千枚の借金を返す事よ!」
その言葉に刀の手入れをしていたセーイの隣で休んでいたソウが言う。
『知ってる? 代行者って言うのは、神の仕事の代行を行う者を言うんだよ。トーウ達の場合は、ヤオの代わりに正しい戦いを助ける事なんだけどねー』
セーイが頷くが、トーウは断言する。
「だからこそ、ママの代わりに借金返すの!」
こちらにもセーイが頷く。
「とにかく、王都でいっぱい仕事して借金を減らすんだよ!」
トーウがガッツポーズをとった。
「トーウも何で、力を使って大きく儲けようとしないんだろう?」
肩を竦めるホークが、ゆっくり王都の繁華街を歩いていると、見るからにガラが悪い男達が前からやってくる。
当然、ホーク以外の人間は避けて行くが、ホークは普通に前進する。
ガラの悪い男達は、当然避けると思って前進する。
そしてホークはもう直ぐ当たるところで左手にはめたエメラルドの指輪を突き出す。
「これを渡すから退けとでも言うのか?」
嘲りの言葉を吐く男達を無視して呪文を唱えるホーク。
『エメラルドよ、宿りし風の力を解放し、我が前の物を吹き飛ばせ、風爆』
吹き飛ばされるガラの悪い男達。
「通行の邪魔なのにも気付かない人って本当に邪魔よね」
拍手するギャラリー。
「あたしの力だったら当然よ!」
両手を挙げて答えるホーク。
そしてその両手を掴む近衛兵達。
「嬢ちゃん何やったんだい?」
向かいの牢屋の男の言葉にホークが睨み返す。
そんなホークを監視する兵士が言う。
「大人しくしていろ。それよりお前は、何者だ?」
その言葉にホークが言う。
「ホーク=バー。ママの名前はヤオ=バー。パパはいっぱい居るよ」
ホークがそっぽを向きながら答える。
「父親の事以外は全て、持っていたパス通りだが、問題はお前みたいな小娘が古代の秘術である輝石魔術を使えるのかが問題なのだ」
その言葉にホークが答える。
「ママに習ったの。どうでもいいけど何時になったら出してくれるの?」
「暫くは出られないぞ、王都の中で輝石魔術を使えば懲役の決まりだ」
兵士の言葉に、ホークが大きく溜息を吐く。
「力技で抜け出して良い?」
その言葉に兵士は驚く。
「お前は何を考えている。輝石一つ無い状態ではないか!」
それに対して、ホークは、牢屋の床石を軽く蹴る。
「並みの術者だったらそうかもしれないけどあたしだったら出来るよ」
あっさりとした言葉に兵士が唾を飲み込む。
「ここを逃げた所で逃げ切れると思うな!」
ホークは不敵な笑みを浮かべて言う。
「なんだったらこの王都一つ灰にしてあげましょうか?」
その言葉に本気の色を感じて怯む兵士。
「出来ない事は、言わない事だよ、ホークくん」
一人の老人が入ってきた。
兵士が敬礼する。
「バロドルス魔術院長様、この様な所にどの様なご用件でございますか?」
その老人、モリビス=バロドルスがホークを見て言う。
「バーの苗字を持つ人間が捕まったと聞いてな、気になってきて見ればホークくんだった」
その言葉に驚く兵士。
「バロドルス魔術院長様の知り合いでございますか?」
それに対してモリビスが首を横に振る。
「何度か顔をあわせただけだ」
その言葉に安堵の息を漏らす兵士。
「そうですよね、こんな誇大妄想娘がバロドルス魔術院長様の知り合いの訳がありません」
そう言って、兵士が嘲りの表情をホークに向ける。
「止めておけ、さすがに自分の力だけでは王都は滅ぼせないが、周囲の輝石を共鳴させて、この詰め所を崩壊させるくらいは簡単に出来る筈だ」
その一言に青褪める兵士。
「この王都で不用意に魔法を使わないと誓えば、今回の事は不問にする」
その言葉に、首を傾げるホーク。
「さっきから気になってたんだけど、あたしとどうゆう関係?」
苦笑するモリビス。
「王宮に汝らが預けられた時に、何度か顔をあわせた程度の関係だ」
その一言に手を叩くホーク。
「そうか、小さい頃預けられてたのってここだったんだ」
「当然、汝らの母親の事も熟知している。汝に万が一の事があったら、この国が消滅するだろう事もな」
兵士はその言葉に、畏怖し、数歩後退する。
ホークは頭をかきながら言う。
「解ったよ。八百刃様の名の下に、あたしは、この町で不用意に魔法を使わないことを誓います」
その一言に頷き、モリビスがいう。
「急いで開けてやれ」
兵士は慌てて牢屋のドアを開けた。
そこから出てホークが言う。
「お礼は何が良い? 体だったら残念だけど、玉の輿にのる為にとってあるから駄目だよ」
その一言にモリビスが肩を竦める。
「最初から期待していない。汝を助けたのは汝の母親に恨みを買いたくないからだ」
頷くホークに、モリビスが言う。
「本気で玉の輿に興味があるなら我が家に来い。上玉を用意するぞ」
その言葉にホークは少し考えてから頷く。
「それも良いかも。御飯くらいでるんでしょ?」
その言葉にモリビスが頷く。
「問題ない」
モリビスの屋敷は、王都の中心部のかなり大きな建物であった。
「魔法の需要が減ってるのに羽振りが良いわねー?」
ホークの言葉にモリビスが苦笑する。
「この家は、先祖代々受け継いだものだ。別に私の金で買った訳じゃない」
ホークは、庭園の様子を見て言う。
「これだけの物を維持するのは大変なお金だよ。もしかして貴方の息子とお見合いするの?」
モリビスが首を横に振る。
「私には、娘しか居ない。王子とくっつけて政治力を得ようと考えている」
その言葉に頷くホーク。
「やっぱ男に生まれた以上は権力を手にしないとね」
その言葉に、モリビスが言う。
「そしてその一環として、わしの甥を勧めるつもりだ」
その言葉にホークが悩む。
「言っておくけど面食いだよ?」
モリビスが庭の手入れをする美青年を指さす。
「顔と家柄と金だけは有るぞ」
その言葉にホークがその青年を向いた。
そしてその青年もホークを見て微笑んで言う。
「これはこれはお嬢さん。僕の楽園にようこそ」
芝居が掛かった動きをしながら挨拶する美青年にホークが何か言いたげな視線をモリビスに向ける。
「長所はさっき言っただけだ。短所ならいま披露した性格を始めとして山ほどあるがな。嫁入りしてくれるのだったら、事故死させても構わんぞ」
その一言に、悩むホーク。
「確かに金はありそうだけど、短い間でも脳みそない人間と付き合うと、こっちの脳みそまで減る恐れがあるんだよな」
そんなひそひそ話に青年、ホールズ=バロドルスは高笑いをあげて言う。
「恥しがらなくても良いよ。時間がゆっくりある」
「一応親戚だ、苦しそうな毒殺等は止めてもらいたい」
モリビスの言葉に、ホークはばれない魔獣車の事故の起こし方を考えはじめていた。
バルドロス家の客室ベッドの上でゆっくり体を伸ばすホーク。
「事故死許可も出てるし、金持ちそうだから、あいつに嫁入りするのも良いかも」
そう呟いていた時、一人の少女が入ってくる。
年頃はホーク達と同じだが、幼児体型だが華があるホーク達と違った、地味な魅力を持つ少女である。
「ホークさんお久しぶりです」
いきなりの言葉に首を捻るホーク。
「あんた誰?」
その少女は怒りを堪えながら言う。
「王宮で何度か一緒に遊ばせてもらいました、アリアンス=バロドルスです」
必死に記憶を探るホークだったが途中で諦める。
「ごめんさない覚えてない」
「まー良いです。それより、お父様の話にのって私の従兄弟、ホールズとお見合いすると言うのは本当ですか?」
その言葉に、ホークが頷く。
「金持っていそうだからね」
はっきりとした答えに驚くアリアンス。
「お金なんて? そんな事で生涯の伴侶を決めるというのですか!」
ホークは笑顔で答える。
「大丈夫、一年くらい我慢してから事故死させるから」
その言葉に唖然とするアリアンス。
「そんな事が許されると思っているのですか?」
ホークはあっさり頷く。
「モリビスさんから許可もらい済み。モリビスさんは、あたしを自分の親戚にすることで、八百刃様を味方に付けたって思わせたいんだよ。まー本人もそれでママを本当に味方につけたとは思わないみたいだけど、政敵に対するカードの一枚って考えてるんでしょ」
「そんな結婚をカードみたいに扱うなんて異常です! 第一お金なんかの為に結婚して貴女は良いのですか?」
アリアンスの言葉にホークは真剣な目をして言う。
「お金なんかの為にって言えるのは、貴女がお金に困った事無いからだよ。あたし達のママは信望者から余計なお金を貰う事はしなかったから、いつも金欠だった。だから自分の食べるご飯を抜いて、あたし達に御飯をくれた時だってある。ママがいくら神名者だからといっても、空腹になれば辛いし、動けなくなるのに、あたし達育てる為に必死に働いてた。そんなママの借金を無くして、お腹いっぱい卵料理を食べさせてあげられるんだったら結婚の一つや二つ幾らでもやるよ」
その言葉にアリアンスが驚く。
「そんなに大切なのでしたらどうして離れているのですか?」
その言葉にホークが苦笑する。
「ママって一部の神様たちに嫌われてるの。だから金運ないの。そんなママと一緒に居たら何時まで経っても借金減らないからね、独立してお金返す為に旅をしてたのよ。でもこれで借金無くなればトーウも煩く言う必要もなくなるし、セーイも喋れないのに無理に仕事する事も無くなる。ナーンだって好きな機械の研究が出来る」
その言葉にアリアンスが何も言えなくなる。
「そしてなんと言ってもあたしが楽して贅沢が出来る。これが一番大切よ!」
その一言にこけるアリアンス。
「貴女は!」
その後、色々言ってくるアリアンスを無視して、ホークはベッドで眠ってしまう。
ホークが毎度の如く、人様の家で大きな顔をしている間に二人の婚礼はとんとん拍子で進んで行った。
そしてモリビスを代理親とした、ホークの見合いが始まる。
「ご趣味は何でございますの?」
ホールズの母親の質問に清楚そうな白いレースドレスのホークは微笑みながら答える。
「ピアノを少々」
「ご両親はどんなお方なのですか?」
ホークは、視線でモリビスを促す。
「ホークさんのご両親はバールズ王家にも深い親交を持つ御方で、そうそう口に出来る御方ではないのです」
王家の重鎮のモリビスの言葉に、ホールズの両親は息を呑む。
「大変な良縁の様で」
ホールズ側に好印象を与える見事な猫かぶりを見せるホークであった。
「本気ですか!」
アリアンスが怒鳴りながら、ホークの控え室に入るとそこには、清楚なドレスのスカートを大きく捲し上げて、下着を豪快に見せるかっこうで涼んでいるホークが居た。
「ドレスは動きづらい上に、暑くて堪らないね」
「もう少し恥を知りなさい!」
怒鳴るアリアンスをホークは大して気にした様子も無く言う。
「それで何を言いに来たの?」
ホークの質問にアリアンスが用事を思い出して言う。
「本気でホールズと結婚するつもりなのですか?」
ホークは大きく頷く。
「調べてみたけど、かなりの資産家みたいじゃない。うまく立ち回れば一生遊んで暮らせるわよ」
嬉しそうに言うホークの姿を見て、アリアンスが言う。
「失望しました。八百刃様の代行者の貴女がそんな最低な人間だったなんて!」
そう言うアリアンスに対して、ホークは何か小さな箱を投げ渡す。
「何ですか?」
ホークは笑顔で答える。
「それは、ナーンが特殊な人工魔獣を組み込んで作った遠くの声を拾う装置。受信機もセットで必要なんだけど、結構便利だよ」
アリアンスが困惑していると、その箱から、問題のホールズ達の声が聞こえてくる。
『まだ小さいが、結構美人だね。薬漬けにしてこっちのいう事を何でもきく様にして、相手の両親から搾り出せるだけ搾り出してやるよ、ママ』
『お前は本当に良い子ね! こうやって我が家は更なる繁栄を手にするのよ』
『全てはママから貰ったこの美貌のおかげだよ!』
アリアンスが箱を床に落とす。
「なんですかこれ?」
呆然と呟くアリアンスに対してホークは極々当然の表情で言う。
「あんな馬鹿な男の両親がそうそう金儲けの才能持ってる訳ないでしょ。こうやって、顔のいい事を売りに、良いとこのお嬢様をたぶらかして、自分の言う事を何でも聞く様にして金を絞りとってたの。最後は家の下働きの人間を殺して、そいつと一緒に夜逃げしたって偽っては奴隷商人に売っていたって訳よ。なかなか良い商売よね」
呆然を通り過ぎて愕然としているアリアンス。
「まーあたしは、薬なんてどうにでも出来るし、逆に事故死させて財産残らずぶん取るつもりだけど」
そう言って、ドレスを整えて相手が待つ庭の方に静々と歩いていく。
「本当ですか?」
「ええ、貴女の様な綺麗な女性はみた事ありません」
本気で歯が浮きそうな会話をしながら、庭園を歩いていた二人。
そこに一人の男が立塞がる。
「このペンダントをした女性から騙し取ったお金を返せ!」
男に琥珀が嵌ったペンダントを突きつけられ、ホールズは、苦々しい顔をするとすぐさま護衛を呼ぶ。
「だれかこの下賎な男を捕まえろ」
一斉に護衛の男達がその男を捕まえる。
しかし、男は必死に抵抗する。
「あのお金は、俺達の結婚資金なんだ。あれを取り戻して俺はあいつと幸せになる」
「あんな屑の事は下僕に任せて私達は屋敷に戻りましょう」
そういうホールズに対してホークが男に近づき言う。
「あんたは、浮気したあげく薬漬けになった女性相手に本気で結婚するつもり?」
その言葉に男ははっきり頷く。
「当然だ! 元に戻し、とられた金も取り戻して、二人で幸せな結婚生活を送るんだ! その為に俺は負けない!」
必死に足掻き、護衛の人間から殴られても少しも怯まない男にホールズが吐き捨てる。
「負け犬が煩いぞ!」
それに対してホークが言う。
「足掻き続けている以上まだ負けてないよ。そして必死に自分の幸せの為に戦うこれは正しい戦いだよ」
その一言に戸惑うホールズ。
そんなホールズにホークが笑顔で言う。
「あたしの母親が何者か知りたい?」
その言葉に迷わず頷くホールズ。
するとホークは、胸元を開き、輝石蛇が宿る、輝石を押し当てる。
『北刃の名の下に、輝石の力を神化させよ、輝石蛇』
ホークの胸元に『北刃』の文字が浮かび、輝石から、輝石蛇が出てきて、男が持つペンダントの琥珀に力を籠める、男を押さえていた護衛が弾き飛ばされる。
「あたしのママは、正しき戦いの護り手、神名者八百刃様だよ。そしてあたしは、その代行者、北刃。だから正しい戦いをするその男を助けるのよ」
そう言ってから男の方を向く。
「輝石蛇の力で、その琥珀はあんたの意思に反応してあんたの力を強くしてくれる。あんたの思いが試されるよ」
男は頷き、護衛達を弾き飛ばしていく。
一人先に屋敷に帰ってきたホークをアリアンスが迎える。
「最初からこのつもりだったのですか?」
ホークは首を横に振る。
「なんであたしが、自分から戦おうとしない、負け犬を助けないといけないの?」
その言葉に驚くアリアンス。
「でも外のは?」
ホークは肩を竦めて言う。
「仕方ないじゃん、希望を捨てず幸せになるために戦うのは間違いなく正しい戦いだよ。それを見捨てたらママに怒られちゃうもん。折角の玉の輿が勿体無かったな」
そう言ってドレスを脱ぐとアリアンスに渡す。
「こんなところで何するのですか?」
慌てるアリアンスを尻目に素早く自分の普段着に着替えるとホークは手を振って屋敷を出て行く。
「お父さんに言っておいて、また良い玉の輿の口があったら紹介してって」
そう言いながら、ぼこぼこにされるホールズの横を歩み去っていく。
あの後、結局気に入った仕事が見つからず、八進でゴロゴロしているホークの所にトーウが駆け込んでくる。
「これ何!」
そう言ってトーウが差し出した紙には、宿泊代としてかなりの金額が書き込まれていた。
差出人は、モリビス=バロドルスになっていた。
そして末尾には、『食事は奢ると言ったが、宿泊その他までタダとは言っていない』と書かれていた。
「ケチなおやじね」
「借金増やしてどうするの!」
トーウの渾身のアッパー式エルボーがホークの顎をとらえた。




