バトルマイスター
戦争には、武器が必要。そして、今時代は魔獣をエネルギー源とした武器がメインである
ローランス大陸のバールズ王国西部の工業都市パルプンが今回の舞台である。
ホークがヤクザの客人如くゴロゴロしていた頃、ナーンは、領主が経営する工房で、火炎系の人工魔獣を動力にした戦車のカスタマイズをしていた。
「ナーンちゃんお疲れ様、今日はここまでで良いよ」
そんなナーンに工房の女性が声を掛ける。
「もう少しなので、これだけ終わらせます」
ナーンはそう答えて、作業を続けた。
「ナーンちゃんさっき3台目を終わらせたばっかでしょ?」
心配になり、女性が降りてきた時には、ナーンが作業を終えて、工具を片付け初めて居た。
「まさかもう終わったの?」
きらりと光る汗を拭い、笑顔でナーンが言う。
「はい」
工房の更衣室。
女性の職人はそんなに居ない為、休憩室にカーテンで仕切られた一角だが、そこでナーンが着替えている横で、工房職人達が言う。
「ナーン、誰からそんな技術習ったんだ?」
ナーンは作業用のズボンを脱ぎながら答える。
「ママです」
職人達が驚く。
「お前の母親ってどっかの工房の職人だったのか?」
ナーンは自分がはいてきた、ズボンに足を通しながら答える。
「機械工学等は、兵器開発に関係していたので最先端技術をバレノンで習得したって言っていました」
その言葉に職人達から感嘆の声があがる。
「あの伝説の技術都市バレノンで勉強した職人だったら凄いのも当然だな」
そこにセーイが迎えに来た。
それを見て職人達が微笑む。
「よく来たなセーイちゃん。飴いるか?」
「煎餅の方が良いよな?」
「この外国産のチョコレートが良いに決まってる!」
何故か喋れないセーイが、この工房では控え目で良いと大人気になっていた。
他人の好意を断れないセーイが困惑しているとソウがナーンだけに聞こえるテレパシーでSOSを出す。
『ナーン急げ。 セーイがまた両手お菓子だらけにして困惑するぞ!』
「今いきます!」
急いでズボンをはこうとした時、ナーンは、バランスを崩し、慌ててカーテンを掴むがカーテンが取れて、そのまま倒れてしまう。
職人達の視線が、まだ半脱げ状態の為に見えるナーンの下着に集まる。
緊張の後、比較的冷静に立ち上がり、カーテンを戻すナーン。
職人達の大半が顔を赤くしてあさっての方向を向いている。
実際に娘が居る、職人長が溜息を吐く。
「ガキの下着姿に何興奮してるんだ? 赤くなってる奴、今夜でも色街にでも行って抜いて来い」
返事は来ないが、何人かの職人が内心行く事に決めていた。
「恥しかった」
八進への帰り道で顔を赤くするナーン。
『ヤオ似でドジなんだから気をつけろよ』
ソウの言葉にセーイが頷く。
「でも僕は、運動神経悪くない筈なのにどうしてだろう?」
ナーンの言葉にソウが言う。
『運動神経はあんまり関係ない。ヤオの運動神経は本当に人間レベルじゃないが、こける』
ナーンは二階から落ちてくる数百個の卵を平然とキャッチしたのに、その後の食事でご飯にかける生卵をお手玉して落とし涙する母親の事を思い出して言う。
「本当にどういう理屈で駄目なのですかね?」
翌日もナーンは工房で働いていると、一人の旅人がやって来た。
「例の物の成長を早める薬です。どうぞお使いください」
そう言って一つの薬の瓶を研究班の人間に渡す。
ナーンはそれに違和感を覚えた。
「どうしたんだナーン?」
職人の言葉にナーンが言う。
「今の人が渡した薬ですけど、普通だったらありえないのです」
「ありえないって、人工魔獣って成長を早める事出来るから大量生産出来るんじゃないのか?」
機械部分の職人達は頷くが、ナーンが首を横にふる。
「人工魔獣は成長しません。原料となる成分を取り込むことで大きくなるだけです。そのスピードを早くする研究はやられていますが、それは、元になる人工魔獣のコアに対してであり、普通は薬を使いません」
首を傾げる一同。
「どういうことだ?」
「成長するとしたら、本当の魔獣か、本当の魔獣の一部を使った人工魔獣です」
その言葉に、職人達がどよめく。
「ちょっと待てよ、人工でない魔獣を不許可で扱うって事は非合法じゃないのか?」
頷くナーン。
「魔獣は神の欠片、不用意に扱えばとんでもない事になります」
ナーンは研究室に向かって走った。
ナーンが研究室に着いた時、その中央で育成されていた物に問題の薬が投薬される寸前だった。
その存在の事をナーンは知っていた。
「駄目です。それは、終末の獣の欠片です! それを成長させたら大惨事になります!」
少しだけ遅かった。
薬は、ナーンの声に驚いた研究班の人間の手で投薬されてしまう。
次の瞬間、周囲の人間を取り込み、それは増殖を始めた。
「急いで逃げて下さい! それは周囲の物を吸収して無限に破壊を続けます!」
研究班の人間が慌てて逃げ出す。
ナーンも急いでその場を離れる。
しかし、逃げる途中で足を挫いた研究班の人間を見つける。
「大丈夫ですか?」
「もう死ぬんだ!」
錯乱しているその研究班の人間に当て身を食らわせて黙らせるナーン。
小さい体でその研究班の人間を担いで逃げ始めるが、基礎体力は常人と変らないので、かなり遅くなる。
「急いで逃げないといけません」
必死に歩くが、意思と反して疲労からどんどん遅くなる。
そして増殖し続ける終末の獣の欠片の触手がナーンを捕らえようとした。
『サファイアよ、その力を解放し、氷の棺を生み出せ、氷棺』
瞬間的に、触手が凍りつく。
ナーンが前を向くとホークが胸を張っていた。
「感謝しなさいよナーン」
そこにトーウのチョップが決まる。
「何言ってるの! ホークがもっと早くもう一つの魔獣の欠片の事を話していれば、こんな大事にならなかったでしょうが!」
頭を押さえながらホークが言う。
「力いっぱい蹴り飛ばしておいてそれは無いでしょ!」
喧嘩を始めそうな二人の間をセーイが走り出て、ナーンが担いでいた人を代わりに担ぎ後退する。
『馬鹿な喧嘩していないで逃げるよ。代行者の力無しではお前等でも勝てる相手じゃない』
セーイの肩に乗るソウの言葉に走り出す四つ子。
四つ子が外に出た時、工房の壁が崩壊して、終末の獣の欠片から増殖したそれが現れた。
「物凄いスピードで増殖しています」
ナーンの言葉にトーウが言う。
「あれはもう駄目だよ」
トーウの言葉にホークが言う。
「どういう事?」
「あちきが何の力を授かってるか知ってるよね?」
ホークが言う。
「何当然の事を言ってるの? ママの四種の力、俗に魔法と呼ばれる力の増幅は、あたし。神の戦闘術は、セーイ。そしてトーウは魔獣の知識と召喚でしょ?」
頷くトーウ。
「終末の獣も特殊だけど魔獣なんだよ、あの増殖力はオリジナルじゃないと無理だよ。欠片から急成長したデッドコピーでは元の組織がもたないよ」
その一言で肩を竦ませるホーク。
「ほっとけば自滅するって事ね。それじゃあ逃げましょうか」
その言葉にセーイが縋る様な視線でトーウを見るがトーウは首を横に振る。
「この町は滅びるかもしれないけど、あれに正しい戦いを挑める人間が居ない限り、あちき達にも何も出来ないよ」
その時、デッドコピーの体に砲撃が当たる。
「何時までも好きにさせてられっかよ!」
「俺達の工房の不始末は、俺達が治めて見せるさ!」
ナーンと一緒に働いて居た職人達が、工房にあった寄せ集めの人工魔獣兵器でデッドコピーと対抗する。
セーイが他の三人に訴えかける視線を向ける。
「やってやりますか?」
やる気満々のホークの言葉に対してトーウが頷く。
「当然だよ」
その時、ナーンが微笑み言う。
「ここは僕に任せて下さい」
その言葉に、ホークとトーウが目で語り合った後、トーウが、口笛を鳴らすと、真っ赤な小鳥、火羽鳥のヒバが、降りてきてナーンの肩に乗る。
「任せたよ」
ナーンは強く頷くと、工房の職人達の所に走り出す。
「しつこい野郎だぜ!」
職人は、必死に攻撃を続けるが、増殖し続けるデッドコピーには、効果が無かった。
「逃げるしか……」
職人の一人が弱気な言葉を発した時、残りの職人達が睨みつける。
「俺達は誇りを持って兵器を作ってる。兵器は所詮、人殺しの道具だ。しかしそれを使うのは人であり、その善悪は使う人間に委ねられる。俺達が口を挟める問題じゃない。しかし、あれは違う! 俺達の工房から、未完成のまま出たあれが犯した破壊は俺達の責任だ! これ以上破壊を広げる訳には行かないんだ!」
その言葉に弱気を吐いた職人も頷く、再び兵器を構えた時、ナーンがやって来た。
「その思いと兵器借ります!」
ナーンは職人達が使う兵器に手を向ける。
『我が声に応え、我が剣よ、集いて爆炎を生み出す砲と化せ、爆炎砲』
ナーンの額に『南刃』の文字が浮かぶと、職人達が使っていた兵器が集まり、巨大な砲台になる。
ヒバが砲台の動力部に入る。
『南刃の名の下に、その力を我が刃の力とかせ、火羽鳥』
爆炎砲は、唸りをあげて、次々に爆炎を発射させる。
「相変わらず、ナーンの破壊力は凄いね」
トーウが体を物凄いスピードで失っていくデッドコピーを見ながら呟く。
「ママから、兵器を生み出す力を授かってるんだから当然だよ。長時間自分が触れ合った物をしか兵器化出来ないのが弱点だけどそれさえクリアすれば、ヒバの力を使って最強の兵器を生み出せるんだから」
少し嫉妬が篭ったホークの言葉に、ソウが言う。
『終わりだ』
デッドコピーが完全に消滅したのをトーウ達は確認した。
『言い訳は無いな?』
目前に浮かぶ男の映像に向かって九盾印をつけた旅人は慌てて言う。
「お待ちください、今回は偶々代行者が居ただけです! 次こそは必ず!」
『我々に次は無い!』
次の瞬間、旅人は一瞬の内に老化し、ミイラとなった後、砂となって消えてしまった。
『代行者が我が計画を破る、偶然では無いな。世界が八百刃を必要としているのだろう。しかし世界に逆らってでも我は八百刃を滅ぼす。それこそが我々に出来る、残された生き残る術なのだから』
男の映像がその言葉を残し消えて行った。
「派手な事しちゃったし早くこの街出よう」
トーウの言葉に、ナーンが言う。
「それは無理ですよ」
「どうして!」
トーウが詰問すると、ナーンはヒバを見せる。
「あの時力使いすぎて、疲れているみたい」
何時も羽根から放出されている炎が今にも消えそうなのを見てトーウが怒鳴る。
「どうしてそこまで無理させるの!」
「八進動かすくらいだったら死力尽くさせれば大丈夫じゃない?」
ホークの鬼の一言にセーイが驚き、トーウが無視して言う。
「こうなったら、動力になる人工魔獣買ってくるしかないじゃない。折角の儲けが!」
「どじっちゃった」
舌を出すナーンであった。




