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最強の輝石魔術士

輝石魔術、輝石(宝石等)の力を使って行う、メジャーだった魔術

 ローランス大陸のバールズ王国西部の工業都市パルプンが今回の舞台である。



「ないないない!」

 トーウが八進の中を探し周る。

『どうした?』

 セーイと一緒に来た子猫姿のソウが聞くと、トーウは慌てて居る表情で振りかえり言う。

「もしもの時の為に貯めておいたお金が消えてるの!」

 その言葉にセーイも驚く。

 するとソウが言い辛そうな顔をして言う。

『さっきホークが、洋服屋で高そうなドレスを買っていたぞ』

「ただいま! いい買い物した!」

 まるでソウの言葉に合わせる様に、ホークが両手に紙袋を持って帰って来た。

 トーウは射殺す様な視線でホークを見る。

「ホーク! それを買うお金何処に持ってたの!」

 ホークが朗らかに答える。

「ベッドの下にお金が隠してあるのを見つけたの。丁度新しい服が欲しかったから買ってきたんだ」

 トーウの渾身の一撃がホークに決まった。



「トーウもビャクパパに似て、細かいんだから。テンパパやダイパパは、内緒でプレゼントくれるいいパパだったなー」

 トーウに使った分のお金稼いで来るまで帰ってくるなと八進を追い出されたホークは、町をあても無く歩いていた。

「いっその事、銀行でも襲うか?」

 その言葉に反応して輝石から、魔獣の蛇、キキが現れて、力いっぱい体を左右に振る。

「冗談よ。それにここの銀行ってあまりお金入って無さそうだしね」

 物色しながら歩くホーク。

 そんな風に前をちゃんと見ないで歩くと当然、巨漢とぶつかる。

「ごめんなさい」

 ホークは大して気にせず進もうとしたが、巨漢はホークの腕を掴んで言う。

「嬢ちゃんよ、ぶつかっておいてそれは無いだろう?」

 ホークはルビーが嵌った指を突きつけて唱える。

『ルビーよ、炎を産出し、敵を斬り裂け、炎暫エンザン

 指輪から吹き出た炎が巨漢の髪を切断する。

「あちい!」

 髪に燃え移った炎を消そうと転げまわる巨漢。

 その巨漢の連れが半歩下がる。

「魔女がまだ生き残ってたのかよ?」

「この人工魔獣科学全盛期にか?」

 ホークの眉間に血管が浮かぶ。

「貴方達、死にたいみたいね!」

 ホークは胸のサファイアのペンダントを取り出す。

『サファイアよ、その力を解放し、氷の棺を生み出せ、氷棺ヒョウカン

 男達の仲間は一纏めに氷に閉じ込められる。

「悪は滅びた」

 周りのギャラリーが言葉を無くして居たが、一人の男性が拍手をする。

「まさかこの時代にこれだけの魔術士に会えると思いませんでしたよ」

 そういって、その男はホークの前に出る。

「でしょうね、ママも言ってたもん、輝石魔術は、人工魔獣と言う強力な力に駆逐された魔術だって。でも一緒に言ってたよ、100年前だったら何をするのにも使われたメジャーな魔術。だから応用性も広いって」

 男性が感心した表情で言う。

「随分博学な母親ですね。やはり輝石魔術の使い手だったのですか?」

 ホークは首を横に振る。

「ママは本当の意味の魔獣を使う存在だったよ」

 その言葉に男性が首を捻る。

「人工魔獣使いだったという事ですか?」

 ホークは再び首を横に振る。

「人工魔獣の知識も持ってたけど、違うよ」

 本格的に男が悩むが、諦めた様子で言う。

「ところで、ここで何をしているのですか?」

 それに対してホークは素直に答える。

「姉妹に金稼いで来いって追い出されたの」

 男性が納得した様に頷くと言う。

「だったらうちに来ませんか?」

 その一言に、ホークは男性を品定めする。

「顔はまあまあ、服は金がかかっている。無駄な肉がついている様子もない。とりあえず合格だね。でも勘違いしないでよ、はした金で体は売らないからね!」

 その一言に男性は爆笑する。

 しばらく笑った後、笑いすぎで出た涙を拭ってから言う。

「安心して下さい、私も幼女趣味はありませんから。貴女には輝石魔術士としてやってもらいたい仕事があるのです」

 ホークが不満気な顔をして言う。

「今は幼いと言うのは認めるけど、将来性がある優良物件だと思いますけど」

 その一言に男性は頷く。

「それは否定しません。5年後でしたら、愛人にしても良い位の器量ですよ」

 ホークが溜息を吐く。

「つまりフィアンセが居るって事ね?」

 頷く男性。

「はい。私の名前は、ルード=アル=フェレスト。この町を治める貴族の息子です」

 ホークは売約済みには興味が無いのかあっさり言う。

「ホーク=バー。街に偶々来ている旅人よ」



「中々良い紅茶ね。でも少し蒸らしすぎね」

 ホークの言葉に驚いた顔をするルード。

「この紅茶の味がわかりますか?」

 ホークは頷き言う。

「どっかの王宮で飲んだ事あるけど、その時は専門の給仕が居て、最高の状態で飲ませてもらいましたよ」

「流石に王宮の給仕相手では負けますね。しかし王宮に何の用があったんですか?」

 苦笑しながらルードが質問するとホークがいう。

「ママの仕事が大変だった時、少しの間だけ預けられた事があるの。小さかったから何処の王宮かまでは覚えてないけど」

 驚いた顔をするルード。

「王宮に子供を預けるなんて、貴女達の母親って何者ですか?」

 ホークは少し考えてから言う。

「戦争で家族を全て失ったあたし達を、自分を犠牲にして育ててくれた凄い人」

 その言葉にルードは更なる追求が出来なくなった。

「それであたしに仕事って何?」

 ホークの一言で気を取り直しルードが言う。

「暫くここで待機していてください。そして万が一の時にそのお力で、私が指定した人工魔獣を滅ぼして欲しいのです」

 その一言にホークが納得する。

「つまり、やばい人工魔獣の実験をしているから、暴走したら滅ぼして証拠隠滅したいのね」

 そのストレートな言葉にホークが苦笑する。

「端的に言えばそうです。期間は三日。そして暴走が無くても一日金貨5枚で、暴走を止めてもらえれば特別報酬で金貨20枚払いますがいかがですか? もちろんこの金額は口止め料も含んでいます」

 その言葉に、ホークが少し頭の中で計算してから言う。

「まー妥当な線でしょう。あたしとしては儲けたいから暴走してくれる事を祈るけどね」

 少し頬をひきつらせながらルードが言う。

「ありがとうございます」



 そして期日の三日目の夜。

「契約は今日までだけどどうする?」

 ホークの質問に対してルードが言う。

「明日に成れば軍の秘密部隊を用意出来ますので、お帰り頂いて問題ありません。報酬はその時、お支払いさせて貰います」

「あっそう」

 少し残念そうな顔をするホーク。

 その時、振動がルードの屋敷を襲う。

 そしてそれが月光に照らされて姿を現す。

「もしかして終末の獣のデッドコピー?」

 10メートル以上の蛸の様な魔獣を見たホークの呟きにルードが驚愕の表情を浮かべる。

「なぜ終末の獣の事を?」

 ホークが溜息を吐いて言う。

「エンパパが昔話の一つで話してくれた。でもどうやって作ったの?」

 ルードが答えに躊躇しているとホークが言う。

「あたしがこのまま帰っても良いの?」

 その言葉にルードは下で、終末の獣のデッドコピー相手に一方的に負けている兵士達見て決断する。

「九つの盾がくっついたような形をイメージするアクセサリーを付けた旅の男から、強力な魔獣が作れると、二つの魔獣の欠片を買いました。まさかこれほどの巨大化するなんて?」

「終末の獣は、無限に大きくなるんだよ、だからこそ終末の獣って呼ばれてる」

 ホークは、必死に終末の獣のデッドコピーと戦う兵士達を見て言う。

「あの人たちは、何で戦ってるの?」

 ホークの不可解な質問にルードが困惑する。

「仕事だからでしょう?」

 ホークは首を横に振る。

「あたしには解る。あいつを逃がしたら自分の大切な者の命が奪われると考えてるから。大切な者を護る為に命懸けで戦っている。それって正しい戦いだよ」

 その言葉にルードが言う。

「それがどうしたというのですか? 例えそれが合っていても、あれほどの化物を止める手段は……」

 ホークは、腰に下げた輝石入れから一つの大きなダイヤモンドを取り出し、デッドコピーに向ける。

『ダイヤモンドよ、光を取り込み、増幅し光の剣を放て、光剣コウケン

 ダイヤモンドから放たれた光は、デッドコピーに大きなダメージを与える。

「やったか?」

 ルードが希望を込めて呟くが、デッドコピーは、即座に傷を回復させていく。

「駄目なのか?」

 ルードが絶望の声を上げるが、ホークは空いて居る手で、キキが潜む輝石を胸に当てる。

『北刃の名の下に、輝石の力を神化シンカさせよ、輝石蛇』

 ホークの胸に『北刃』の文字が浮かび上がり、胸の輝石から、ホークを覆う様なサイズの蛇になった輝石蛇のキキが現れて、ホークの持つダイヤモンドに入っていく。

 それに反応して、光の剣が、爆発的に増幅し、デッドコピーを光で塗潰す。

 ホークが放つ光の剣が消えた時、デッドコピーの姿は無くなっていた。

「貴女様は何者ですか?」

 ルードの言葉にホークは胸の『北刃』の文字を見せて言う。

「八百刃様の代行者、北刃よ!」

 頭を床にこすり付けるルード。

「知らない事とはいえ失礼しました!」

 胸を張るホーク。

「特別許してあげる。ところでさっきの話しだと、魔獣の欠片は二つって事だけど、もう一つは?」

 ルードは頭を上げて言う。

「まだ、研究途中です。当然直ぐに研究は止めさせます!」

 ホークは、少し考えるポーズをとる。

「それが良いわね。それにしても終末の獣の欠片を持って来た旅人か。嫌な予感がする」



『八百刃の代行者に邪魔された?』

 一人の旅人の前の空中に映る男の質問に、その旅人は頭を地面に擦りつけながら言う。

「はい。しかしもう一つがまだ残っています。それはきっと我等『九盾クジュン』の力になる筈です」

 その言葉に、映像の男が言う。

『二度の失敗は許さん。八百刃が力を失った今こそ最後のチャンスなのだ。このチャンスを逃してこの世界を救う術は無い』

「解っております。必ずや、やりとげてみせます」

 そして、男の映像が消える。

「こんな遠く離れた場所に自分の姿を生み出すのだから恐ろしい御方だ」

 九つの盾をイメージしたアクセサリー、九盾印クジュンインを着けた旅人は、自分が売ったもう一つの魔獣の欠片の元に向かうのであった。



「それで、そのルードさんからはちゃんと報酬は貰ったんでしょうね?」

 八進に戻ってきたホークに対してトーウが聞くと、ホークは大きく頷き言う。

「うん、ママの名前に完全にひれ伏してたから、金貨50枚も貰ったわ」

 トーウが少し気に入らない顔をしたが、無理やり納得させた風に言う。

「とにかく、お金を返して」

「無いよ」

 ホークの答えに、トーウが固まる。

『無いってどう言う事?』

 ソウの言葉に、ホークが腰のポーチから大きな輝石を取り出す。

「帰りに寄った輝石屋で、良い出物があったの。報酬全額使ったけど、良い買い物だったわ!」

 次の瞬間、トーウの人生最強の蹴りがホークに決まった。

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