後悔する者
異界との繋がり強き場所、穴とも呼ばれそこを護る真名の欠片をホールガーディアンと呼ぶ
ホープワールドの最南端、ミラーナ大陸
「常人は踏み込まない極寒の大陸、ミラーナ。そこに異世界との繋がり強い場があるんだよね?」
トーウの言葉に、頷くコーサ。
「ああ、俺達一族の調査では、開発を行っている零細企業が、何度かこの世界には存在しない物を発見している」
そう言ってコーサが取り出したのは、ホープワールドには存在しない金属であった。
「確かに僕が今まで見た、どの金属とも異なるよ」
ナーンはそれを興味深げにチェックをした後、額に『南刃』の文字を浮かべて、それを鑑別する。
「これは、重力が発生しない状態で、複数の金属を合成させた特殊な合金だよ」
「金属作る為に、魔法で無重力状態を作り上げて合成させたって事か?」
ホークの質問に首を横に振るナーン。
「多分違う、この金属には魔法、世界を構成する、神と呼ばれる存在に反発する意思の痕跡が感じられないから、元の世界では重力が無い環境があるって事だと思う」
「そんな世界じゃ、こっちの世界の人間が住めないんじゃない?」
トーウのもっともな意見にコーサも困った顔をする。
「確かにそれは問題だ。しかし新しく探している時間があるかどうかだが?」
その時、一人の男が入ってくる。
一見して軽そうな男は、四つ子の傍に来ると馴れ馴れしい態度で言う。
「可愛い子がいっぱい居るね! おじちゃんと付き合わないかい?」
大きく溜息を吐いてからトーウが一言。
「セーイ、邪魔だから外に追い出しといて」
セーイが躊躇していると、肩に乗った子猫の姿をしたソウが言う。
『今は重大な話の途中だよ。邪魔する方が絶対悪いから、やって大丈夫だよ』
セーイは覚悟を決めて、その男の腹に手を当てて、常人を超越した筋力から生み出される、本気ならば大岩すら一撃で粉砕する、至近距離からの打撃が放つ。
しかし、男はそれを踏ん張って受けると、軽く後退したものの、平然と立っていた。
「いきなり、酷いな。俺は、海とギャンブルを司る、金海波様の代行者、南波だ、あんた等をミラーナ大陸まで連れて行くためにやって来た」
その一言に驚く一同。
「話しを聞いていないのか?」
南波の言葉に全員頷く。
「おかしいな? 金海波様が確かに、八百刃様に直接伝えに行くって言ってたぞ」
その一言に、四つ子が円陣を組む。
「どう思う?」
トーウの言葉にホークが答える。
「十中八九、金海波様が、目的を忘れてママに襲い掛かって、逆に撃退されて、それっきりって線よね」
「金海波様も懲りない人(神)ですよねー」
ナーンが呆れ混じりに呟いた。
話しを漏れ聞いた、コーサが南波に同情の視線を送るが、南波は、大して気にした様子も無く言う。
「とにかく、ミラーナ大陸までお前達を連れて行くのが俺の仕事だ。海の上の事は、金海波様の代行者である俺に任せておけば大丈夫だ!」
それに対してコーサが言う。
「それがちょっと困った事態になったんだよ。もしかしたら目的とする世界が人の住めない世界の可能性が出てきたんだ」
南波は、胸を叩き言う。
「それだったら大丈夫だ。問題の場所から異世界人としか思えない人間が現れたって記録は幾らもある。因みに俺はその子孫だったりする」
トーウが考えながら言う。
「それだったら大丈夫かも知れないね。別の最適な場所を探すのは、時間的に難しいんだよね?」
その言葉にコーサが頷く。
「ああ、異世界への移民に必要なのは、ほぼ等間隔のゲートの位置だ。その条件に合致する別の場所を探すって事は、他の場所も変更させる事になるからな」
「行きましょう、ミラーナ大陸に!」
ナーンの言葉にその場に居た全員が頷く。
南波が使う船は高スピードでかつ、安全に大海を突き進んでいた。
「さすがは金海波の代行者だけはあるね」
トーウの言葉に、セーイも頷く。
『節操が無いのも、主から引き継いでるけどな』
ソウが乗組員の女性を口説く南波を呆れた顔で見る。
「無理をなさっているだけです」
副船長の老人が言う。
「どう言う事ですか?」
ナーンの質問に副船長が悲しそうな顔をして話し始める。
「南波様は、この海域を守る海王国ムーツの海軍の少佐でした。慈悲深く、真面目で誠実でした」
ホークがへらへら笑う南波を指差して言う。
「あれが?」
副船長は大きく頷いた。
「はい。あまりもの真面目すぎた故に、妻子を十分に相手する事が出来ないほどに。それでも南波様の妻子は夫を大切にし、そして誕生日を喜ばせようと考えて、彼の部下に密かに船に乗せて貰う様に頼み込んだのです。それが全ての間違いの始まりでした」
激しい後悔を感じさせる顔つきになりながらも副船長は続ける。
「その部下は、あまり誠実な軍人ではありませんでした。しかし、全ての軍隊がそうではありません。彼が元居た場所では彼は十分認められていましたが、南波様は、彼の態度を許しませんでした。そして何度も処罰をしていた為、彼は南波様に深い恨みを持っていました。それで……」
「その奥さんが犯されたって訳だ」
無遠慮のホークをトーウが殴ってから言う。
「すいません、どうも教育がなっていなくて」
副船長は首を横に振る。
「いいえ、言い難い事を言ってくださって助かりました」
セーイが物凄く悲しそうな顔をする中、ナーンが尋ねる。
「それでどうなったんですか?」
副船長は大海を見ながら言う。
「奥様はその事実に絶えられず、南波様とのご子息、ミナト様と一緒に海に投身しました」
その答えにナーンが激しく反発する。
「どうして! そんなの奥さんの所為じゃない! それも子供と一緒なんておかしい!」
「俺がいけなかったんだよ」
傍にきて居た南波が自傷の笑みを浮かべて言う。
「全てが終わった後、何も出来なかった俺が、船の甲板で呆然として居た時に金海波様があいつの死体と一緒に意識が戻らないミナトを連れて現れて言ったよ。『貴方の真面目さ、余裕の無さが部下に不要な恨みを生み、そして奥さんから許される希望を与えなかった』って。愕然とした。結局はあいつを殺したのは俺の生き方だったんだからな」
ナーンがすぐに反論する。
「そんなのおかしいです! 誠実に生きるのが間違ってるなんて!」
南波は真っ直ぐナーンを見詰めながら答える。
「残念だが、ただ真面目なだけでは、誠実に生きる事じゃない。俺は、それに気付いていなかった。俺は自分の事で精一杯であいつの気持ちを考える事をしなかった。だからあいつに信用が無かったんだ。もっと話して、お互いの事を知っていれば乗り越えられたんだ」
決して覆せない過去に深い後悔を持つ南波の顔を見てナーンが必死に考えて言う。
「ママが言って居たよ。『後悔は、幾らでもしても良いけど、決して捕らわれるな。後悔に捕らわれて、未来を見れなくなったら、再び後悔する事になる』って。貴方は、未来を見れていますか?」
南波は、頷く。
「八百刃様の言葉はさすがに含蓄があるな。確かに未来は、必要だ。未来に、希望はある。金海波様が約束してくださった。死んだあいつに俺が本当の意味で相手の気持ちを考えられる人間になったと認めてくれる様になった時、ミナトの意識が戻ると。俺は、色んな人間とどんどん接して相手の気持ちが解る者になる。それが俺の目標だ」
「だからって節操無く女性を口説くのはどうかとおもうよ」
トーウの言葉に苦笑する南波。
「よくいうだろう数打てば当るって。今の俺にはそんな方法しか思いつかないんだよ」
そう答えた南波は、新たな相手を探して口説き始める。
そんな南波を悲しそうな顔で見てナーンが呟く。
「あれじゃ駄目だよ、ただ言葉で繋がろうとしても。人と人との繋がりは、そんなもんじゃないよ」
防寒着を着た四つ子達は、ミラーナ大陸に上陸した。
「ここまで来ると解るね」
トーウの言葉に、セーイも頷く。
「何が解るんだ?」
防寒着を着ながらのコーサの言葉に、防寒着のフードに入り込んだ、蒼い子猫の姿をした蒼牙が答える。
『真名の欠片が発する力の波動だ。かなり大きな力を溜め込んでいるぞ』
八進を船から降ろしてナーンが言う。
「南波さんも来てください」
その一言に驚いた顔をする一同。
「手伝うのは良いが、正直俺は、戦闘能力は高くないぞ」
南波の言葉に、ナーンがはっきりいう。
「それでも来て、そして見て欲しいんです。僕達とママとのつながりを」
南波が他のメンバーを見る。
「構わないよ。急ごう」
ホークの言葉に南波も頷き、防寒着を着込み始める。
吹雪の中から現れたそれは、巨大な鉄の塊だった。
「あれが真名の欠片から生まれた者、ホールガーディアンだね」
トーウの言葉に、ホークが大きく溜息を吐く。
「幾らなんでも大きすぎるよ。下手したらテンパパより大きいよ」
「それでも倒して、ここをゲートにするしかありません!」
ナーンがそう言って、八進に自分の力を注ぎこむ。
『我が声に応え、偉大なる八百刃の名の一部を受継ぎし存在よ、戦いの姿に、戦八進』
ナーンの額に『南刃』の文字が浮かび、八進が戦八進にパワーアップする。
「南波さんはここで待っててください」
ナーンの言葉に、南波が驚く。
「いくら戦闘力が低くても、俺も代行者だ、戦うぞ!」
ナーンは首を横に振る。
「貴方の力では足を引っ張るだけです。貴方には、僕達の戦いを見ていて欲しいんです」
そして、トーウがコーサに微笑みかける。
「貴方もよ。セーイはここで二人を護衛していて。あのデカ物のあいては、あちき達三人でやるよ」
ホークがキキの入った輝石に触れる。
『北刃の名の下に、輝石の力を神化させよ、輝石蛇』
ホークの胸に『北刃』の文字が浮かび、キキが現れる。
「初撃、貰うよ!」
空中に無数のダイヤモンドを投げるホーク。
『ダイヤモンドよ、共鳴し、全ての光を一つにし、万物を打ち砕け、光砲』
信じられない光が、山と見間違うほどの鉄の塊、真名の欠片、ホールガーディアンの巨体に無数の穴を穿つ。
トーウが、自分の前に控えていたクウに掌を向ける。
『東刃の名の下に、その力を解放せよ、空道竜』
トーウの右掌に『東刃』の文字が浮かび、クウが本来の姿に戻ったが、トーウが力を込めることで更に大きくなった。
『八百刃の神名の元に、代行者、東刃が求めん、空道竜が造りし道を通り、八百刃獣よ、御力を示し給え、九尾鳥』
クウが作る円の中心から、九つの尾を持つ鳥の上位八百刃獣、九尾鳥が召喚される。
『私を呼ぶ事態なのだな?』
トーウは頷くと金貨が入った袋を手渡す。
「キュウパパ手伝ってね」
九尾鳥が苦笑する。
『今更、それが必要なのか?』
トーウは強く頷く。
「いまだから必要なんだと思う。あちき達はもう借金を気にしていられない。でもママはきっとこの世界が終わる前に借金を返したいと思う。だってそのお金ってあちき達を育てる為に借りたお金なんだもん。それを借金のままにしておけるママじゃないから。だから受け取って」
トーウの言葉に九尾鳥は金貨の袋を受け取って答える。
『解ったよ。私の九つの尾、全ての能力を使う権限を認めよう』
頷き、トーウが唱える。
『東刃の名の下に、九尾鳥の赤き尾よ、その力を打ち出せ! レッドテールファイアー!』
九尾鳥の赤い尾から、凄まじい炎が噴出して、ホールガーディアンの体全体を溶かし始める。
「あちき達は、絶対に負けない。これは、この世界が好きだった者達の思いを断ち切る為の戦いなんだから!」
トーウの宣言に四つ子は頷く。
トーウ達の戦いぶりを驚きの瞳で見ていたコーサに蒼牙が言う。
『何を呆けている?』
コーサは戸惑った顔で言う。
「あいつらあんなに強かったのか? あれだけの力が有ったら前回、あんなに苦戦する必要なかっただろう?」
セーイが首を横に振り、ブカブカの防寒着の襟元から顔を出したソウが答える。
『八百刃の代行者は正しい戦いを助ける事が仕事なの。真九の時は、半ば個人的な理由だったから、上位八百刃獣の御方達を呼べなかった。でも今回は違うよ。世界の人々全員が生き残る為の戦い。それを助ける為に戦ってるから力が出せるんだよ』
そうしている間にも、九尾鳥の黄色の尾がホールガーディアンに向けられる。
『東刃の名の下に、九尾鳥の黄色き尾よ、その力を打ち出せ! イエローテールサンダー!』
強力な雷撃が、ホールガーディアンを打ち砕いていく。
そして、ナーンが南波を見て言う。
「僕達がどうして戦えるか解りますか?」
その言葉に南波があっとうされながらも答える。
「八百刃様の代行者だからですね」
ナーンは真っ直ぐ前を向いたまま答える。
「違うよ」
「どういう意味ですか?」
戸惑う南波。
ナーンは、戦八進の動力部に入っている火の羽根を持つ鳥の魔獣、ヒバに力を込める。
『南刃の名の下に、その力を我が刃の力とかせ、火羽鳥』
戦八進を発進させながらナーンが答える。
「ママが僕を信じてくれたからだよ」
加速してホールガーディアンに接近する戦八進だったが、ナーン達にも予想外のことが起こった。
ホールガーディアンが異界から、巨大な鉄の塊を召喚し、それと融合したのだ。
それは、無数の砲台を備えた、戦艦の様な物だったが、不思議な事にそれには、上下を判別する要素が無かった。
「何だよ、あれは?」
コーサがそう呟いた時、無数の砲台が同時に不可視な砲弾を放った。
「キュウパパ避けて!」
トーウは咄嗟に怒鳴ったが、九尾鳥はその翼を広げてその砲弾を全て受け止めてしまう。
『さすが上位の八百刃獣だ、通常兵器等物の数ではないな』
蒼牙の感嘆を裏切るように、九尾鳥に直撃した弾丸は、一斉に空間を歪ませて、九尾鳥の体に幾つかの穴を生み出す。
「キュウパパ!」
トーウが叫び、セーイも心配そうな顔をする中、九尾鳥が告げる。
『安心しろ、我が存在は八百刃様によって保たれて居る。八百刃様のお前達を護りたいと言う思いは、真名の欠片の力などには負けない。次だ!』
トーウは頷き唱える。
『東刃の名の下に、九尾鳥の金の尾よ、その力を打ち出せ! ゴールドテールアイアン!』
九尾鳥の金の尾から合成された金属の塊は、元のホールガーディアンの体を打ち砕いていく。
しかし、ホールガーディアンも崩壊する体を無視して増加したパーツの砲台にその力を集め、次弾を放とうとしていた。
「何度もやらせない!」
ホークが地面にオパールを投げ放つ。
『オパールよ、大地と共に昇る天を貫く槍と化して、我が敵を貫け、地槍』
地面が脈打ち、大地が盛り上がり、槍と化したそれは、ホールガーディアンの砲台を潰していく。
だが、ホールガーディアンは、砲台を潰されると同時に新たな砲台を生み出していく。
ホークはキキに力を注ぎ込んで地槍を継続させ、生み出される砲台を潰していくが、そのスピードはどんどん遅くなる。
そして、破壊を間逃れた一本の砲台が再び不可視の砲弾を放つ。
『東刃の名の下に、九尾鳥の銀の尾よ、その力を打ち出せ! シルバーテールミラー!』
トーウの力に答え九尾鳥の銀の尾から生み出された鏡の盾は、不可視の砲弾を弾き返し、ホールガーディアンに大穴を空ける。
その奥に穴の様な、空間の歪みがあった。
「あれが異世界との穴だ! あそこで界連鏡を発動させるんだ!」
コーサの声に、ナーンが目標を変更して、その穴に向って加速を開始する。
「信じてる!」
ナーンの言葉にトーウとホークが頷く。
ナーンが突っ込もうとするのは、ホールガーディアンの中心部、当然、ホークとトーウの激しい攻撃が放たれている中心部だが、ナーンは一切の躊躇はしなかった。
ホークとトーウもその思いに答える。
『東刃の名の下に、九尾鳥の青の尾よ、その力を打ち出せ! ブルーテールウォーター!』
ホークの生み出し続ける大地の槍は戦八進を避け、トーウが発動させる九尾鳥の青の尾から放たれる水弾は、戦八進を過ぎた後に周囲の冷気で氷弾に変化、面積を広げてホールガーディアンに命中していく。
そして、ナーンが操る、戦八進は、大穴の奥に入り込んだ。
「コーサ、界連鏡を!」
ナーンの声に応え、コーサは、頷き懐から界連鏡を一枚取り出して、界連鏡の力を発動させる。
『界連鏡よ、今こそその力を解放せよ!』
界連鏡は、輝きナーンに向って跳んだ。
『しまった、届かない!』
蒼牙が叫びと共に、途中で界連鏡が地面に落ちる。
「馬鹿な、どうして?」
コーサの言葉に蒼牙が忌々しげに答える。
『ホールガーディアンの時空干渉力で、界連鏡に送られるお前の力が遮断されたのだ。こうなったら直接、渡すしかない!』
コーサが舌打ちして、界連鏡に駆け寄り言う。
「仕方ない一度発動しちまったら、この世界に戻れなくなるが仕方ないな」
覚悟を決めたコーサだったが、界連鏡を拾い上げたのは南波だった。
「ここは俺が行こう」
コーサが驚く。
「どうしてだ?」
南波は、トーウとホークを指さして言う。
「君にはあの子達を導く義務がある。そして君以外にこの鏡に力を注げるのは俺だけだからな」
「だが、あんたはそれでいいのか? 部下も待っているんだろう?」
コーサの質問に南波が答える。
「ああ、しかし今の戦いでナーンが何を言いたいのか解った。俺に本当に必要なのは、他人を信用して任せられる事。自分独りでどんなにがんばっても意味が無い事を痛感させられた」
南波は微笑み、母親を、お互いを信用し続けられる四つ子に会えた事に感謝しながら言う。
「部下達の今後の事はお前達に任せる。ミナトの為にも、新しい世界への道を作る」
「後悔はしないのか?」
コーサの言葉に南波が言う。
「俺は部下を、そしてあの娘達を信じているからな」
南波は、界連鏡を掲げる。
『界連鏡よ、今こそその力を解放せよ!』
南波と一緒に界連鏡はナーンの傍に跳んで行った。
界連鏡と一緒に来た南波を見てナーンが驚いた顔をする。
「良いんですか?」
南波が言う。
「後悔は、無い。俺達には信用できる人間が居るからな」
その言葉に、ナーンが頷き、界連鏡に手を添える。
『界連鏡よ、我が魂に応え、真の力を解放し、異界との道を切り開け』
界連鏡から放たれた光は、ホールガーディアンを消滅させた。
『これでお別れです』
見えない空間の隔たりに手を添えてナーンが言う。
後ろでセーイが必死に涙を堪える中、ナーンの頬を涙が流れる。
『一抜けですけど、皆もがんばって』
ナーンの言葉にホークが後ろを向いたまま答える。
「あたしに任せておけば全て大丈夫よ!」
ホークの足元に落ちる水滴に溜息を吐くソウ。
『最後なのに良いの?』
ホークが頷き、小声で応える。
「ナーンには、強いあたしのまま覚えておいて欲しいからね」
苦笑するトーウの頬にも涙が流れる。
大泣きするセーイを背に、トーウは見えない隔たり越しにナーンと手を合わせて言う。
「あちき達にはどんなに世界の隔たりがあってもママを通じて何時も一緒だよ」
大きく頷くナーン。
そしてトーウ達はその場を離れた。
「辛い別れだな」
ナーンと一緒に異界との境目に居る南波が言うと、ナーンが困った顔をする。
「それでも、最後の希望の為だから。大切なママの思いを叶える為だからやり通します」
そんなナーンを優しく抱きしめる南波。
「いまは俺しか居ない。八百刃様が直ぐに沢山の人を連れてくるから、今のうちに泣いておけ」
ナーンは南波の腕の中で涙を流していくのであった。