08
決闘当日、午後三時。
俺は最後の仕上げに入っていた。まだ最大速度を出して旨く機体をコントロールできない。
しかし、時速二百八十キロまでなら【高速機動】のサポートもあり、なんとか戦えるレベルまで持ってきた。
あと一時間半ほど実戦で最終調整だ。
巨木の間を時速二百キロですり抜けていく。少しでも気を抜いたらクラッシュして大破してしまう。
ピピッ、レーダーに赤いマーカーが映し出される、敵、おそらくパラサイト。
速度を落とすどころか俺はさらにフットペダルを踏み込み、時速二百八十キロを叩き出す。
いた、樹木でできた狼型のパラサイト【ウッドウルフ】。このスピードで俺の腕じゃ銃撃はあたらない。
ヒートロッドを掴み、すり抜けざまに一撃! スピードに乗った俺の攻撃は一撃でパラサイトを粉砕する。
後一匹、【高速機動】で百八十度回転。スピードを落とさず弧を描きそのまま突撃。
狼もこちらに体の向きを変え迎撃態勢を整えるが速さが違う。すれ違いざまヒートロッドを頭に叩き落す。こちらも一撃。
これだ、俺が目指すのは誰にも追いつけないスピードでの必殺の一撃。
さぁ、時間までどんどん狩るぞ!
つごう二十匹は倒したか。【変色したウッド材】が十二個、パラサイトクリスタルが二十個だ。
惑星の生命力を吸い取りエネルギーの塊としてクリスタルに変質した物質を、人類は新エネルギーとして変換する方法を見い出した。
今ある全てのBMのエンジンは全てクリスタルエンジンを使用している。
それだけではなく、クリスタルから直接エネルギーを取り出すことで高威力のビーム兵器や、いくつもの新技術が開発される事となった。
軍事国家【ダリス】ではエネルギーをレーザーに変換する事に成功。威力、射程、共に高い水準になっている。
自由共和制国家【アンディカ】では【変質した宝石】を使う事によって、クリスタルのエネルギーを薄い膜のようなバリアに変えることに成功。
それにより劇的な耐久力を得る事になった。
専制君主国家【フィンリス】ではスラスターのエンジンエネルギーに変換する事に使い、機動力が大幅にアップする事に成功。
また、【変質した樹木】を使う事によって軽量化や、サイ・エネルギーの浸透力を高めることに使っている。
巷では、赤は強い、青は硬い、白は速いが使いづらいとなっているみたいだ。
時間は四時四十分、シミュレーションルームに移動する。すでに少女は来ていた。
「よう、この前の借りはたっぷりとのしをつけて返すぜ」
「ふふん、また泣き面をかかせてあげる」
「「ふん」」
シミュレーターに入り、リストから対戦を選ぶ。時間は五時きっかりパスワードは00001。
『入力を確認しました、ただいま四時五十六分十一秒になります』
目を瞑り全神経を集中させる。勝つにしても負けるにしても、勝負は直ぐにつくだろう。
俺の機体は速いが脆い。
『時間になりました、対戦を始めます。市街地フィールド、時間は十分です』
目を開く、そこはこの前と同じビルが乱立する市街地。
おそらく前と同じ、ビルの上に陣取っているだろう。上等、あてれるものならあててみろ。
ビルとビルの間を時速二百五十キロほどのスピードを出し【高速機動】で渡っていく。
するとまだ二000メートル近くは距離が開いているはずなのに、俺が通った後にエネルギー弾の着弾跡が。
あっちも機体を変えて射程が大幅にアップしたか。
だったら、少し無茶をするだけだ。時速三百キロ。、ビルをこすりながらもギリギリすり抜けていく。
エネルギー弾が俺の通った跡を抉り取っていく。
横移動だけじゃ持たない。スラスターで上にジャンプ。素早く地面ギリギリに落ちる。
三次元移動で撹乱する。
残り一000メートル。銃撃が激しくなるが、俺のスピードに追いつけていない。
時速三百キロの【高速機動】だ、三百キロで走る物体がいきなり直角に曲がったりするのだ普通では目で追うことは難しい。
残り五00メートル、一気に決着をつける!
【高速飛行】
俺はスラスターエンジンを全開にして空を飛ぶ。数瞬で敵機【ビャーレン】を捉える。
急降下、迎撃してくるが狙いが甘い。
素早く後ろに回りこみ、道路を削りながら着地。
そして、スラスターでビルの上に飛び乗る。こちらに振り向くが遅い。
そのままの勢いで激突! ヒートロッドをコクピットに突き刺した。
時間が止まる。一瞬後【ビャーレン】の全体から激しいスパークが迸り、爆発四散する。
「俺の勝ちだ!」
俺はコクピットの中で吼えていた。
◆ ◆ ◆ ◆
Lapis-――
「うそ……」
機体を変えての勝負。こちらが遠距離重視で来ると向こうも重々承知しているとはわかっていた。
なにか対策を考えてくると思ったら……馬鹿みたいに速く動く事で対抗してきた。
「なによ、あの速さ」
ただ速いだけじゃない、いきなり直角に曲がったと思えば急制動に急加速。
一瞬で時速百キロも二百キロもでるなんて反則よ。
でもそれだけじゃなかった。何度かは捉えたはずなのに、ワンテンポほどのズレがあって、そのズレがあのスピードを追いきれない最後の原因になっている。
シュッとハッチの開く音が聞こえる、あっ外にでなきゃ……
外にでると少年がにやにやとした顔で出迎える。うぐぅぅぅ。
「くっくっくっくっくっ、ふぁーはっはっはっはっはっ」
歯が割れるのではないかと言うほど顎に力がこもる。
「んーーーたしかに気持ちいいなっこれは!」
うううぅぅムカつくムカつくムカつくぅぅぅぅぅ。
「もっもう一度よ、もう一度勝負しなさい!」
「いいぜ? くくくっ今の俺は負ける気がしない」
ぬぅあんてことをいいやがりますかぁぁぁ!
「時間は五時十五分パスは同じで!」
「OKだ」
シミュレーターに入り再戦。そして……
二度目の惨敗、ボーゼンと佇む。
今度は相手のスピードも飛ぶことも考えてやったのに。
「ふぅ……まぁなんだ、君もよくやったよ、うんうん……ぶふっくくくっ」
なっなにも言い返せない、二回も惨敗したんだから。でもっ、だけどっっっ!
「もっもう一度、次は武器を変えて勝負しなさいっ!」
にやりと笑うその顔は目の瞳孔が縦長なのも相まって、まるで獲物を狙う蛇。
「別に俺はやってもいいんだけどさ、なんだ、言い方ってあるよな?」
意趣返しかぁぁぁぁ! いいわよ、言ってあげるわよ!
「お願いしますぅぅぅ、武器をかえてぇぇぇ、私ともう一度勝負してくださいぃぃ」
「くっくっくっ、よかろう。俺も四日もらったしな、丁度三日後が日曜日だ、その日の五時に決着をつけようぜ」
「それでぇぇ、お願いしますぅぅぅ」
くっくっくっと含み笑いしながらシミュレータールームを出て行く。
むきぃぃぃぃぃ。
悔しさのあまりにシミュレーターを蹴り飛ばす。即座にペナルティが発動して蹴った場所に痛覚が。
痛さのあまりに目に涙を溜め十分ほど痛みが消えるまで蹲ってしまった。
先ずは武器を変えなきゃ。エネルギーライフルは威力こそ、そこそこ高いけど致命的な弱点がある。
直接クリスタルからエネルギー弾に変えるために発射するまで微妙に遅いのだ。
かといって火薬式だと威力も射程も低い。
基地の武器庫にいってなにか、威力射程が変わらずズレがない物を。
私は武器庫管理人NPCにリストを見せて貰うことにした。
「やぁLapis、君の階級で渡せる物はCランク(R)までだよ」
次々とリストを捲るが、これっといった物がない。
私の新機体【ビャーレン】は命中補正をあげるために機動力と耐久と武装を犠牲にしているタイプだ。
機体名【ビャーレン】
機動力E 命中補正B 耐久E 特殊C 武装E
細いシルエットに肩の部分だけが鳥の羽をいくつも重ねて作ったような、派手な作りになっている。
他の機体の約二倍ほどのカメラが仕込まれていて、命中補正が高く仕上がった特化型の機体だ。
ヘッドは角ばったフェイスに人の目と同じ位置に二つのアイ・カメラがついている。
機体の半分が【変質した樹木】フレームでサイ・ウェポンとも相性がいい。
……そう、サイ・ウェポンと相性がいいのだ。
「なにか使えるものがないかしら」
リストを捲っていくと一つのページにBMOの世界観を壊すような武器が載っていた。
サイ・ボウ。
ぶっちゃけ弓。
うーん……これも有りなんだろうか?
説明を読んでみると。
中距離、遠距離用サイ・ウェポン。SPを消費する事で威力、射程を調整する事ができる。
弓矢を引くイメージ持つことで、SPを消費しエネルギーの矢を作る事ができ、速射に優れているが、命中率が著しく低下してしまうのがネックだ。
「速射ってどんな意味なんだろう……とりあえずこれを使ってみようかな」
「何にするか決まったかい?」
「ええ、このサイ・ボウをお願い」
「残念だけど、重量オーバーだ、何か武器を取り外すかい?」
うそ……エネルギーライフルしか装備してないのに。
「じゃぁ、エネルギーライフルを外してみて」
「了解だエネルギーライフルを取り外してサイ・ボウを取り付けておくよ」
「お願いね」
さて、先ずは試し撃ちね。
戦闘フィールドにでて近くのパラサイトで試し撃ちをしてみる。
すでに九日が過ぎていて、最初の狩場には誰もいないので獲物はよりどりみどりだ。
射撃開始!
蜘蛛タイプのパラサイト【ストーンスパイダー】に狙いをつける。すると弓を引く【ビャーレン】のイメージが浮き上がってきた。
うわ~これは見た目が凄い事に……
とりあえず気にしないことにしよう。
「はっ!」
つい癖で弓を撃つときに声を出してしまう。
確かに威力も射程も変わらないみたい。それに今までワンテンポ遅れていたのが解消されたのは大きい。
今まではエネルギーを弾にするためのほんのわずかな遅れがあったけど、サイ・ボウは先に矢を作ってから撃つのでその分遅れがない。
でも……やっぱりほんの少しのズレが残っている。あいつ相手にこのズレは正直致命的だ。
そうこうしている間に時間が来る。もうっ、なんで九時までなのよ!
今日はここまで、あさってまでに何とかこの問題をクリアしないと……