07
「それで? その【スワーロゥ】て機体は手に入れたのかい?」
「なんとかなー、お使いクエストっていえばいいのか? なんどもあっちこっち行かされた挙句最後には鉱山にいって【ポーン】十体倒してこいときた」
「ゲームなんだからそんなものだよ、でもよくソロでいけたねー」
俺は今学園の屋上で昼食中。一緒に食べているのは唯一といっていい友人の長谷部琢磨だ。
父親同士が同じ会社の社員で付き合いがあり、家も隣同士の幼馴染ときた。慎重は低く百五十五センチ、ふわふわの髪をしていて見た目は小動物な感じだ。
だまってればそういう趣味のお姉さまにモテるんだが、かなりの女好きが祟ってまったくもてたためしがない残念な奴だ。
「タクは階級は何になったんだ?」
「僕は今少尉だよ」
「早いな」
「ケイが遅すぎるの。ケイも所属を青にしたらよかったのに」
「いやーつい白色に惹かれて」
琢磨ことタクもBMOのテスターだ、もちろんコネで。
「とりあえず機体は手に入れた、あとは乗りこなしてあの野朗をギッタギタにするだけだ」
「はぁ、ケイに狙われるなんてそいつも可哀想だな……しつこいからな~」
「なにかいったか?」
「もうお昼休みが終わるって言ったの」
その言葉を合図にチャイムが鳴る、「やば」「ほら急いで」そして今日も学園は平和に過ぎていく。
◆ ◆ ◆ ◆
「うっし、今日から三日間でこいつを乗りこなさないとな」
俺は今真っ白にカラーリングされた【スワーロゥ】に搭乗している。機体を手に入れるときに色も単色でなら選べたので勿論白にした。
見た目が細く骨っぽかったのにいろを真っ白にするとまるで骸骨のようだ。
いくら好きでもこの外見に白は不味かった。だが、後悔はしない、好きだから。
「さーて、先ずはAクラスの機動力を試してみますか」
基地の外、一般フィールドのプレイヤーもパラサイトもいない広い平地で、フットペダルを一気に押し込み最大速度を試してみた。
ほんの数秒で時速二百五十キロに達するその速度は【高速機動】が発動しているにも関わらず俺の認識を凌駕する。
「んな~~~~~!?」
ぶつかる! とおもった瞬間すでに大木にぶつかっていた。激しい衝撃と音が鼓膜を通過して脳に痛みを送り込んでくる。
「なっなんだこれ、速すぎる」
さらに数時間、機体速度に慣れるため動き回るが、最大速度を出す事すらできなかった。
理由は二つある。一つは速すぎてまだ感覚がつかめていない事。もう一つはどうもワンテンポ思ったより動きにズレがある事。
ぶつかりそうになった時曲がれっとイメージしても、ほんの少し遅れるんだ。いままでの機体ならそのズレは別段気にならなかったんだけど。
このスピードでそのズレは致命傷になりかねない。
「くそっ、考えてみたら最高時速三百六十キロってFⅠ並じゃないのか?」
もしかしたら何かのスキルでそこらもカバーされるのかもしれない。
しかし、決闘は三日後だそんな時間はない。
だったらやるしかない、もう一度負けてしまったら俺は血の涙を流してしまうだろう。
ピピピッ、タイマーが鳴り六時を知らせる。
どうしてこう必要な時にかぎって時間というやつは素早いのだろうか。
◆ ◆ ◆ ◆
「「「いただきます」」」
家族三人そろって晩御飯を食べる。今日は半熟の玉子焼きに真サバの塩焼き、豆腐の味噌汁、ほうれん草の御浸しだ。
半熟のトロトロとした玉子焼きを口に詰め込み、脂ののったサバが魚のくせにジューシーで豆腐の味噌汁とベストマッチしている。
御浸しに醤油をかけて熱々ご飯と一緒に口の中に掻き込むのが旨いのだ。
「それで、慶次郎BMOはどんな感じだ? 一応開発部門にどんな感じか聞いてくれといわれてな」
「どんな感じと言われてもなー、物凄くリアルだけどたまにどこかズレた感じがするかな? たとえばプレイヤーの動きとか表情とかさ」
「それはアバターでプレイしてる人たちだな」
「あっ、ズレといえばさ機体を動かしてる時にどうもワンテンポ動きがズレるんだ。あれってどうにかならないの?」
「ん? おかしいな、たしかに少しズレがあるはずだけどそれほど問題にはならないはずなんだが。慶次郎は何に乗っているんだ?」
「【スワーロゥ】」
「それはまたキワモノを……たしかにアレは少しずれたら大変な目に会うな。なら一度起動制御サポートAIをフルじゃなくハーフにしてみろ、それで無理なら機体を変えるしかないな」
「へー、分かった一度やってみる」
「貴方達、そろそろだまってご飯を食べてみない?」
「「ご馳走様でした」」
急いでかき込み逃げ出す男二匹。
「まったく……今日は戦国武将伝で漢祭りに参加しないといけないわね」
◆ ◆ ◆ ◆
「えっと、起動サポートAIをっとハーフにするにわ~このリストかな? おっとあったあった」
食事を終えBMOに再度ログイン、【スワーロゥ】に乗って起動サポートAIをハーフサポートに変える。
「これでよしっと、さて……これでなにが変わったんだろう」
とりあえず動かしてみる。頭の中に機体イメージが浮き出る、ここまでは一緒だ。
さらに歩かせてみる……が、動かない、あれ? もう一度動かしてみる。が、動かない、なんでだ?
起動サポートAIの設定をリストに出してみる。
ちゃんと説明は読まないとだめかー、どれどれ? えーとハーフサポートにした場合、イメージを細部までしっかりとイメージをしなければ動きません……か。
つまり、いつもより鮮明にイメージできないと駄目って事か。
目を閉じる。イメージ……歩くイメージ、機体と一体になったイメージ、右足を前に出す。
今までよりも滑らかに動くのが分かる。さらに左足を前に出す。
旨く動いてくれた。確かにハーフサポートにしたほうが動きにズレがない。
歩く、走る、手を振る、横に広げる。面白い、機体が俺の意のままに動いてくれる。
ヒートロッドを掴む、腕を振り上げ打ち下ろす、摺足で動いてみる。
素振りをしてみる。おっとバランスを崩してこけてしまった。起き上がろうとしてもなかなか起き上がれない、これはかなり難しい。
何度も何度も同じ事を繰り返す。気がつくと九時前になっていた。今日はここまであと二日で物にしなくちゃいけない。先ずは時間との勝負だ。
決闘まで後二日、昨日と同じで機体制御に専念する。
先ずは屈伸運動、イッチニッサンシッ、ゴッロクヒッチハチ。
調子に乗って次はラジオ体操までしてしまった。途中二度ほどこけたがスッと起き上がることができるようになった。
うっし、大分慣れてきたぞ。【スワーロゥ】の特徴でもある樹木フレームのしなりは、筋肉の伸縮と酷似している部分が多く見られる。
次はナンチャッテ格闘、先ずはパンチ、ワンツー、ワンツー、右左右左。
さらにローキック、ミドルキック、ハイキック「おっとと、どわっ」こけてしまった。くそっハイキックは難しいな。
六時になったが晩御飯は前もっていらないと言っている。
思いつく限りの動きを試してみる。幾ら人型といってもできる動きとできない動きがあって、股割りやフィギュア選手のような無茶な動きはできない。
あくまで稼動部分の限界でできる動きまでだ。逆に人ではできない事もできる。
スラスターを使った空中四段蹴りとか……
決闘まであと一日。今日は何処まで速度を出して機体制御ができるか。
目を瞑り送られてくる機体イメージと自分を重ねる。BMOが人型機動兵器をメインにしたのはなるべく人体に近づけイメージをしやすくしたからかもしれない。
ゆっくりと目を開く、いくぞ!
フットペダルを踏み込む。一瞬で時速百五十キロに到達、やはり速い。
人体には無い背中についている器官、スラスターエンジンを使いこなしてみせる!
【高速機動】を使い直角に曲がったり、スピードを落とさず左右に素早く蛇行する。
今の時速は約二百キロ、STバーが尽きる限界まで急制動や急発進を繰り返す。
時間ギリギリまで同じことの繰り返し。そして、【高速機動】の熟練度が100になって【高速飛行】のスキルを覚えた。
おおぉぉ【高速飛行】だと? これは早速試してみなければ!
スキルの内容を読んでみる。えーと、飛行中の機体の安定、制御のサポートスキル……?
ひこうちゅう……飛べるの?
試した事も無かった、上?
雲ひとつ無い晴天が見える……え? 飛べるの? このゲーム。
知らず知らずに唾を飲み込む。飛べるのか、なら飛ぶしかないよな!
速度はつけてからのほうがいいか、フットペダルを踏み込む、瞬時に時速百五十キロに到達。
まだだ、もう少し力を込め時速二百二十、ここっ!
操縦桿を胸元に引き起こしスラスターエンジンを斜め下に向ける。地面から脚が離れる感覚、浮いた!
そのまま最大までペダルを踏み込む、時速三百六十キロはあくまで地面を高速で移動する時のスピード。
摩擦がなく空気抵抗ノミの今の速度は約4百五十キロ!
「おおおおぉぉぉおおおぉお! 俺は今空を飛んでいる!」
【高速飛行】でバランスを崩す事も無く一直線に空を翔る。左右に機体を振ってみる。
大丈夫だ素人の俺でもキチンと空を飛べている。
空をとぶこと約三十秒ガリガリとSTバーが減っていることに気づいた。
「あ、STバーが切れた」
襲い掛かるGに俺はパイロットシートに体を押し付けられる。【高速飛行】もSTが無ければ使えない。
フラフラとする機体を制御する事もできず。
上空約六00メートルから一直線に落ちた。
「うわああぁぁぁぁ」
地面と衝突、吹き飛ぶ機体、吹き飛ぶ俺。痛みはないけど高所恐怖症になりかねない体験をして今日は終了。明日はとうとう決闘だ。
【高速飛行】は空を飛んだときに起こるGの肩代わりと機体の安定を保つスキル。