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ラピス専用機【ポリュデウケース】。
四つの射撃専用サイ・パペットと一つの防御専用サイ・パペットからなる超遠距離専用機体。
四つのサイ・パペットはある程度まで自動で敵機を捉えることが出来る。
ラピスのすることはミリ単位の最終調整のみ。といっても、その最終調整が当たるか外れるかが決まる。
「これで二十二!」
距離九〇〇〇メートルという長距離射撃を90%の確率で成功させ、その上で五つの射撃武器を同時に操っている。
先ほど頭の中に進入してきた何かがこれほどのパフォーマンスを可能とさせているのだろう。
それを理解しつつラピスは拒絶ではなく許容する事を選ぶ。
今はこの能力が必要なのだと本能のような物で感じ取ったから。
次々と生み出される破壊の光りが『白銀騎士団』の機体を傷つけ、破壊し、撃墜する。
ラピス専用のワンオフ機と、特殊遠距離スキル【魔弾】がラピスクラスのスナイパーを五倍以上の数に増やし、一つの意識で統一している為にスナイパー同士のコンビネーションという離れ技を現実の物とすることが出来た。
ラピスに近づこうとする機体は一機残らず激しい射撃の雨にさらされ、ただ撃墜されていく。
近、中距離武器しか装備していない【コンダードゥ】では多少の数が動いても、近づく事さえ出来ない。
そして、ケイジロウが中心で暴れている限り、ラピスを狙う機体はどうしても数を増やす事が出来なかった。
ケイジロウ専用機【カストール】。
背に付いた四つの小型スラスターに両肩、両脚に付いた四つの小型スラスター。
合計八つのスラスターを使い分ける事で通常では考えれないほどのスピードとトリッキーな動きを可能とすることが出来た。
更に背に付いた二つの隠し腕は一部サイ・パペットと同じ機能が付いており、隠し腕の長さの範囲で自由自在に動かす事が出来る。
それにより四つの剣戟が異常なスピードとトリッキーな動きと合わさって暴風のような破壊を生み出す。
ただスピードを求めた機体には、コクピットに高純度クリスタルエンジンにより作られたエネルギーを使い小型化された重力フィールドを張り巡らせ、パイロットにかかるGを大幅に軽減する事に成功した。
近接特殊スキル【ヴィジョン】にケイジロウ専用ワンオフ機、そしてケイジロウの型破りな動きが噛み合い、相対したプレイヤーはまるで天災に見舞われた絶望感に襲われる。
『だっだめだ第七部隊、八部隊どちらも全滅!』
『こちら第十三部隊、もう俺しか残っていない援軍――』
『ちくしょう、なんだよこれ、話が違うじゃないかふざけんな!』
たった五分。
後方からケイジロウとラピスが奇襲を敢行してから過ぎた去った時間。
それだけで既に五十機もの機体が撃墜されている。
そして今もその勢いは止まらない、赤い悪魔が放つビームの束は確実に機体を捉え次々とダメージを蓄積させ撃墜数を増やしていく。
逆に白い悪魔は撃墜にこだわらなかった。
当たるを幸いと一撃、二撃と食らわし跳ねる様に次の獲物へと襲い掛る。
撃墜するかしないかは運次第、しかし確実に戦闘力を奪っていく。
戦争イベントの時と同じ状態に入っていると感じたケイジロウは、この状態には制限時間がある事を知っているからだ。
「おらああぁぁぁぁ!」
ラピスの援護射撃を受け、一本の閃光と化し戦場を駆け抜けていく。
その先にあるのは宇宙戦闘艦【エーギル】。狙う場所は艦橋!
『きっ来た! おっ落とせえええぇぇぇ!!』
カリスの引き攣った声が全周波数通信によってこのバトルを見るもの全てに響き渡る。
おざなりに配置しただけの護衛二PTの【コンダードゥ】が【カストール】を狙うが、逆に四本の牙に引き裂かれ撃墜されていく。
「っぁ……時間切れか……」
護衛を全て倒したところで【ヴィジョン】が切れる。
これ以上の脳の酷使をシステムが危険と判断し強制終了した。
しかし、周りには既に護衛をする機体は居らず、あとは【エーギル】から放たれる弾幕を避ければ艦橋まで一息で着く。
脳にたまった疲労がケイジロウの限界が直ぐそこまで来ているのを知らせる。
あと一息、そこでこのバトルに決着がつく。勝つにしろ負けるにしろ。
フットペダルを踏み込み、一気に船体の上部へと滑り込む。【エーギル】に備え付けられた対空砲火を全てかわしきり後はただ艦橋へと剣戟を叩き込むだけ。
『まぁそう慌てずに俺と遊んでくれないか?』
「ッ! 上!?」
素早く進路を右へと変え、咄嗟の攻撃を避けるが左肩に付けられたスラスターが何か鋭利な物に切り裂かれた。
「その声はたしか、ジェジか!」
『ハハハッ覚えていてくれたとは光栄だな』
全身を白と青の二色でカラーリングされた【コンダードゥ】カスタムに乗り、ケイジロウの行く手を遮る。
『さぁ行くぜ、ホワイトファントム!!』
ジェジの乗る機体がサッと両腕を左右に広げる。
何かが放たれた、そう感じたケイジロウは疲労を推して機体を素早く横へとずらす。
すると、先ほどまでケイジロウが居た空間に赤いレーザー光を放つ丸い金属が合計六つほど通り過ぎ、そしてジェジのそばへと戻っていく。
チャクラム。
そうとしか見えない金属のワッカがジェジを囲むように周回している。
『驚いたか? これが俺の奥の手、サイ・チャクラムだ』
ジェジは人より強くなり、レアアイテムを集め、他人から称賛される事が好きだったが、それはあくまで己の実力で勝ち取る事に意味があると思っている。
なので『白銀騎士団』のやり方事態にはまったく興味は無かったが今回のバトルウォーだけは別だった。
出来ればホワイトファントムと一対一になり真正面から勝つ。
その為に出鱈目な指示を出し、ホワイトファントムがここまでこれる様に味方の陣形がばらけるように誘導したのだから。
『F-6、B-8、D-3』
ジェジが何かの指示を出すと周囲を旋回していた六つのチャクラムがバラバラな軌道を取ってケイジロウへと襲い掛る。
「くっ」
チャクラムのトリッキーな軌道はケイジロウを惑わし旨く避ける事が出来ない。
鋭利な刃は致命傷こそ与える事は出来ないが、けっして小さくはない傷を量産していく。
「くそっうっとおしい、チャクラムって何処の武器だ? インドか? このインド禿げ!!」
『ハハハッ当たりだ、チャクラムはインドにある投擲武器だ。だがただの投擲武器だと思うなよ? サイ・ドールのパターン化することで自由自在に動かす事の出来る技術を応用させて貰っている!』
チャクラムが更に複雑な軌道を取り次々と装甲を削り取っていく。
無理矢理ジェジに突っ込もうにも、僅かの差だがチャクラムの方が速く回り込まれる。
「くそっ、このままじゃジリ貧だ」
ケイジロウのバトルスタイルとこのサイ・チャクラムは相性が最悪に悪い。
その上先ほどまでの無理が疲労となってケイジロウの動きを鈍らせる。
『ハハハッ止めだ!』
六枚のチャクラムが一斉に襲い掛る。
ケイジロウは無理矢理な動きで避けようとするが計算しつくされたチャクラムの檻を突破する事が出来ない。
左腕がちぎり飛ばされ、更に右腕もズタズタに裂かれる。
二枚は避ける事が出来た、しかしもう二枚はケイジロウの真後ろへと回り込みコクピットへと狙いを定める。
その時、五つの熱線が大きさ三メートルほどのサイ・チャクラムを吹き飛ばした。
『なっバカな! ッ! しまった!!』
ほんの一瞬、意識を逸らしてしまった。
その一瞬で三〇〇メートルの距離を詰める、二本の隠し腕から伸びるビームサーベルが【コンダードゥ】のコクピットに突き刺さる。
「悪いな、俺たちの勝ちだ」
『ちっ、ああ、お前たちの勝ちだ』
ジェジの乗る【コンダードゥ】が爆発する。
これで艦橋まで邪魔者は居ない。ジェジがそう指示していたからだ。
距離にして六〇〇メートル、備え付けられた対空砲ではケイジロウを捉える事が出来ない。
「くらいやがれええぇぇぇぇぇ!!」
二本の隠し腕が頭上で重なり合い一本の巨腕に変わる。
三十メートルほどもあるビームサーベルが作られ、邪魔する物のない戦闘艦の艦橋へと突き刺さった。
「まったく、世話が焼けるんだから……」
ラピスは激しい頭痛に襲われながらも宇宙戦闘艦が爆発しながら真っ二つに折れるのを見届ける事が出来た。
苦戦していたケイジロウに最後の援護射撃をした後、二十機ほどの敵機に囲まれ激しい攻撃にさらされていた。
リンの作ったシールド型サイ・パペットは優秀でその殆どを防ぐ事が出来たがそれでも限界はある。
五つ全てのパペットが破壊され、【ポリュデウケース】本体もズタボロになったがギリギリの所でバトルに決着がついた。
スフィアビューに映し出された文字は『Victory』の一文字。
百五十対十というギルドウォーは『トライデント』の勝利で幕を落とした。




